26話 悪い奴と噂の速さ
そこまで高くは上がれないが浮いたまま移動ができるようになっていた。
これだけでも地球にいた頃と比べたらとてつもない成果だ。地球だったら絶対に出来なかった。いずれ空を自由に飛ぶ日も近いだろう。
人気のない場所から街中に戻ってきた。どこの店もとても賑わっていて、声が聞こえてくる。時々喧嘩のような声も聞こえるため治安は微妙だ。
もの珍しそうに見て回っているとレンの前に男が3人立ちふさがる。
「ようボウズ!こんな時間に出歩いて悪い奴に絡まれるぞ」
と真ん中の男が薄ら笑いを浮かべながら話しかけてくる。若者に対しての忠告とは全く思えなかった。
「確かに今、見るからに悪い奴に絡まれてるな」
とレンは言った。誰が見ても悪い奴にしか見えない見た目をしている。キョロキョロしていたからカモに見えたのかもしれない。
「わかってんじゃねぇか!ほら金目のもの全部置いてけ」
ここに来てこの展開か……とレンは思った。そしてニヤリと笑う。
「ナビゲーターさん勝てそう?」
ぼそっとナビゲーターさんに聞いてみる。
『余裕ですよ、マスター。100%勝てます』
負ける要素がないようだ。まぁそうだよな、聞かなくてもわかってはいた。
「おい!さっさと置いてけよ!」
とかなりキレてるようだ。なんて自分勝手な奴らだと思う。
周りを見てもみんな目を逸らす。
これは助けを求めても助けてもらえない状況なのか…異世界は厳しいなと思った。まぁ夜に外出しているということが自己責任と言うわけだ。
まぁ助けなど必要ないがと思いながらレンは朗らかに言った。
「断る!」
「じゃあ死ねー!」
男達が武器を手に取り攻撃してくる。短いナイフのようだ。殺して金目のものを奪うつもりだろう。
「武器を出したか、なら俺も戦うぞ」
身体能力が上がったためか、身体が余裕で反応できる。
3人とも真っ直ぐ突っ込んで来たため、右の奴に蹴りを入れたところ、3人まとめてぶっ飛んでいった。
「あちゃ〜!蹴っただけでこんな威力出るのかよ」
『マスターの攻撃力は今戦った敵の10倍ほどの力があります。正直相手になりません』
敵がそんなに強くなかったようだ。周りの人達もぽかんとしている。
「さすがに死にはしないさ」
3人組は壁にぶつかって気絶してるようだ。
「ここにいてもめんどくさそうだし帰るか…」
兵士を呼ばれたら面倒になると思いレンは人混みに紛れて逃げる。
そんなレンを遠くから良く見ていた視線に本人は気がつかなかった。
騒ぎがあった場所からそれなりに離れたため大丈夫だろうとレンは一息ついていた。
そんなレンに声をかけるものがいた。
「おい坊主、夜に出歩いたら悪い奴が寄ってくるぞ」
またか……と思いつつ声のした方を向いたら知っている顔だった。
「ガルドさん!驚かさないでくださいよ」
ギルドで会ったガルドだったのだ。
「何かあってからじゃ遅いしよ!若いんだから気をつけろよ!」
もう何かはあったが、心配してくれたようだ。やはり見た目以外は優しい人だ。
次にガルドさんが言った言葉でレンは驚く。
「さっき聞いたんだが…若い男が3人組の悪い奴らをまとめて吹っ飛ばしたらしいんだ。そしてその3人組がなかなか悪い奴らで手配されてたみたいだぜ」
「えっ!そうなんですか?」
内心汗をかきながら答える。正直ポーカーフェイスがなければ危なかった。
「相当強いんだろうな…この街の冒険者なのか…」
と、ガルドは言っている。
さすがに、俺です。とは言えない。まさかこんなに話が広がるのが速いとは…
「そろそろ俺は、宿に帰りますね!」
もう帰ろうと思うレンだった。
「そうか、またな坊主!気をつけて帰れよ」
ガルドさんと別れて宿に戻っていく。
真剣に目立たない方法を考えなきゃと思うレンだった。
「ナビゲーターさん、この街の冒険者のレベルってどれくらい?」
と質問してみた。
『だいたい20レベル位です。30レベルはいることはいますが珍しいです。ギルド長フィレン・アーミラは別ですが…』
と答えた。
どおりで負けないわけだ。
ただでさえギルド長に目をつけられてて厄介だと思っているのにと思いつつ宿の部屋に入る。
それから少し経ちレンは眠るのだった。




