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179話レンの修行と始まりの場所

「はぁ……疲れたなぁ」


レンは王城から出て宿の方に向かいながら呟いていた。王に報告を行い帰ろうと思った所、王妃に捕まり長い時間おしゃべりに付き合わされていたのだ。


レンとおしゃべりして満足した王妃が帰してくれたため今帰ることが出来ている。どうでも良いような話や、貴族の令嬢でレンに興味を持っているものがいるという無視できない内容もあった。


「ルティアが言っていた通り、貴族に目を付けられはじめてるんだろうな……」


ちょっかいをかけられなければ良いのだが、何かされたらこちらもそれなりの対応をすることになるので遠慮してもらいたい。




「レン、遅かったわね。帰ってくるのが遅いから心配したわよ」


と宿の前で待っていたレミが行ってくる。なんだか元の世界でもありそうな会話なため新鮮だ。


「ちょっと王妃様ともお話があって。エリアス達は?」


「まだ帰ってきてないわよ。修行熱心ね」


と言っている。もう夕方だがみんな頑張っているようだ。


「みんな頑張ってるから俺も負けてられないな。ちょっと鍛えてくるかな」


と言いレンもどこか身体を動かせる場所に行こうと思う。


「なら、私が相手をしようか?大会は全力でやれなかったからね。場所も広い所にいきましょう」


とレミが言う。レンの修行相手になってくれるとのことだ。


「それは、助かるな。お願いします」


とレンが言うとレミがレンの肩に手を乗せて魔法を発動する。




「ここは……」


レン達が転移した場所には草原が広がっていた。近くには湖もあり、とても綺麗な景色だ。


「広いでしょ?修行にはピッタリな場所だと思うわ」


レミがニコニコしながら言ってくる。



「なら、早速始めるか」


と言いながらレンはストレッチする。


「さあ、お母さんに全力でかかってきなさい!」


「凄いやる気だな!」


とレンは剣を取り出しながら言う。


2人の修行が始まるのだった。






2人は、休憩に入り一息つく。


「疲れた……ここまで強いだなんて」


レミは正直、今まで戦ってきた人の中でもトップクラスの強さがあった。もしかするとハルカよりも強いのではないか?とすら思う。


「レンも強いわね。大会期待してるわよ」


と涼しい顔で言う。


もしかして、自分よりレミの方が強いのではないか?とすら思っている。レンは、切り札まで切って今回戦ったがそれに余裕でついて来られたのは予想外だった。


『そうですね、あまりの強さに私も驚きました。さすがはマスターのお母様です!それに切り札の良い練習にもなりましたし良しとしましょう』


母にそこまで効かなかったため切り札として大丈夫か?と思うが、レミからのアドバイスもあり今後更に上手く扱える様になると思った。


「決勝でアルファードさんと当たればこれは使う必要があるからな」


とレンが言う。


「ならもっと練習しないとよ。魔法なら結構アドバイス出来るから!」


お母さん物知り!と思いながらレンは再び修行を行うことにする。




日も沈み周囲が暗くなり始め、そろそろ宿に戻ろうと思った時レミが寄りたい所があると言われ再び転移で移動する。



「海が見える!」


レン達が立っている場所は、高い丘の上だ。そこから、近くの海が見えていた。いつかは見てみたいと思っていた海だが突然見ることになり驚く。


夕日が徐々に沈もうとしていることから先程の場所から時差があるため遠い場所なのだと感じた。


「綺麗な場所でしょ?私達が初めて降り立った場所は」


「なっ!ここがお母さん達の?」


レミと父の冒険が始まった場所、そこに連れてきてもらったのだ。


「それだけじゃないわ。ようやく一つの約束を果たせる」


と言いレミが目を向けた方向をレンも一緒に目を向ける。


そこには、岩で何かが建てられていた。レンの腰くらいの高さのもので、剣が挿してある。


「まさか!」


それはレミが見せたかったものに感づいた。


「そう、お父さんが眠ってるわ。声を掛けてあげて」


すでにこの世界において寿命により、命が尽きたレンの父親。彼が眠る場所にたどり着いたのだ。


レンは、少し離れた場所に花が咲いているのに気付いて取りに行き戻る。そして墓の前に花を置いた。


「お父さん……やっと会えたな。ここまで来るとなかなか言葉が出ないよ」


ゆっくりとレンは呟く。


一度交通事故で失い、異世界ではすでに父は死んでいた。会いたかったなという気持ちが出てくる。



「また会えて嬉しいよ、お父さん!これから何度も会いに来るからな!」


これからの出来事を伝えていけば良い、レンはそう思い言葉をかける。


「私だけ会えてごめんなさいね。そっちに行くにはもう少しかかりそう」


とレミが後ろで言っている。



その時、優しい風が2人に吹いた。


たまたま風が吹いただけであろうとわかるが、それが父からの気持ちなのだと思わずにはいられなかった。



丁度夕日も沈み、辺りも暗くなった時、レン達は帰路に着くのだった。





「あ!帰ってきた。どこ行ってたの?」


宿の前ではエリアス達が待っていた。


「ちょっと修行にな!みんなも頑張ってるから負けてられなくて」


と答える。


「なにか良いことがあったんだね。レン、とても良い顔してるよ」


とエリアスが言う。そんなにわかりやすい顔だろうか?とレンは思った。


「私は、普段のフツメンと変わらないと思うけどね〜。エリアスは、レンの顔をよく見てるなぁ」


とミラが雰囲気を壊しにかかる。


「おいっ、フツメンってなんだよ」


「そんなにいつも顔ばっかり見てないよぉ!」


とレンとエリアスがミラに言い


「お腹空いたわ!早くご飯食べましょう」


と言うルティアの発言に微笑みながら歩いていくのだった。




その姿をレミは見つめながら、嬉しそうに笑う。


「あなた、一緒に見守ってあげようね」


ああ……とレミの耳にはそう聞こえた気がした。

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