114話大切なものとイージス
宿の屋上、そこに光明の魔女ことレミ・サトウが座って空を眺めていた。
「はぁ……」
口からはため息が溢れる。
「どうしたの?ため息を出して」
エリアスがレミの近くに登ってきていた。
「エリアス…ちょっと悩み事でね」
「レンのこと?まさか私もあなたの子供だなんて思わなかった」
自分を助けてくれた人、そして自分の呪いを解いてくれた人…2人が家族だったのだ。驚いてしまうのは当然なのだろう。
「私もよ。最後に見たのは本当に小さかった頃だし、でも夫にそっくりだったからもしかしたらって…王都であなた達を見た時から思ってた」
「もしかして、レンを鑑定した?あの時、レンが誰かに鑑定されたけど、嫌な気がしなかったって」
「やっぱり、バレてたのね。つい気になっちゃって。でも見れなくて逃げちゃった」
と会話が続く。
「それでね。レンに会って、私を助けるために色々と試してくれて……ボロボロになりながらも黒龍に挑んで、そして私を助けてくれた。それだけじゃない、レンはいつだって私を助けてくれる」
エリアスは、レミと別れてからの話をしていた。
「本当にあなたが無事に生きていけて良かった。まさか助けたのがレンだったのは驚きだけどね」
と本当に良かったとレミは、喜んだ。
「レンは、大丈夫だよ。優しい人だから、きっといつかレミさんともしっかり話してくれるよ」
エリアスは、レミを励ます。かつてレミが励ましてくれた時のお返しのようだ。
「そうだね。私もしっかりしなきゃね!私もみんなの力になれるんだから」
と言いながら握り拳を作る。
「お姉ちゃん……待っててね。絶対にどうにかしてみせるから!」
街を歩きながら、アイリが呟く。
それぞれが、大切な思いを持ちながら夜は更けていく。
「これより、我ら真紅の宝剣は50階層ボス部屋に挑戦する!いくぞ!」
「「「おぉぉぉーーーーーー!」」」
クランメンバー達が大声で叫びながら迷宮に入って行った。
エリアス、ルティア、ミラ、アイリとレミはその様子を見守っていた。
「行ったわね…どんな感じで失敗して戻ってくるのかしら?」
とルティアが呟く。失敗は、確定しているが原因が分からなければ自分達もそれを食らう可能性があるのだ。
「それは、戻ってこないと分からないわ、ルティアちゃん」
「そうだね。レンのお母さん」
みんな、すでにレンの母親と打ち解けている。
「ところでレンさんはいらっしゃらないのですか?」
アイリが気になった質問をする。
「レンは、やりたいことがあるって部屋で何かしてるよ。今日の迷宮攻略に役立つことだと思う」
とエリアスが答える。朝、レンの部屋に行ったのだが宿に残ると言っていたのだ。
「なんか、部屋でブツブツ呟いてたけど大丈夫かしら?」
「ナビゲーターさんと話してるんじゃないかな?」
ルティアは、1人で喋ってるレンを心配したようだ。
「そうそう、ナビゲーターってスキルだよね!お話とかしたいんだけどレンしか喋れないからね」
とミラは残念そうにしている。羨ましいという思いもある。
「どうだった?ナビゲーターさん…」
レンがナビゲーターに声をかける。
『かなり使えるようになりましたね。ここまで出来れば50階層も安心して臨めそうですが、何が待ち受けているかわかりません』
「そうだね。今までもあったことだし、気を付けよう」
『はい、マスター!頑張りましょう』
ナビゲーターが答える。
「へへっ!この扉の向こう側がボス部屋。これでユニークスキルは俺達のものだな」
クラン、真紅の宝剣のメンバーは怪しい笑みを浮かべて進んでいた。
「さて、我らがリーダーに頑張って貰いましょうか」
扉を開けて中に入ると、そこは変わらず綺麗な花が大量に咲いた場所だった。
急に声がかかる。
『ようこそ、我が迷宮に!私の名はイージス。この迷宮の支配者です』
巨人とも思えるサイズの男が宙に浮かんでいる。男からは、神々しいオーラが放たれており人間ではないことがはっきりとわかる。
『うーん?あまり、いい匂いがしないなぁ…まあ、力が欲しければ掴み取れってことだからね。善も悪も関係ない。勝ち取って見せてよ』
突然の迷宮支配者の登場に驚いたが、ユニークスキルをくれるというくらいだから支配者がわざわざ渡しに来てもおかしくないのだろうと判断する。
「我々が、ボスに勝てばユニークスキルが貰えるのだろう?」
副リーダーの男が声を出す。
『そうそう、1番活躍した人にあげるよ。だから頑張ってくれよ?人任せでは攻略出来ないからね』
とイージスが言う。
「どういうことだ?」
副リーダーの問いにイージスは、答えず続ける。
『さぁ、この50階層のボスの登場だ。今までのボスとは比べ物にならないくらい強いからね。みんなで協力して戦ってくれよ?』
クランの正面からは、鎧で完全に武装した巨人が現れる。
巨大な盾と剣を持ち、これまでのボスが遊びのように感じる見た目だ。
「なんて強そうな!おい!アンナ、さっさと前に出ろ」
と言いながら前の方にアンナ・フェロルを突き出す。剣神の加護を持つ彼女ならば大丈夫だろうと判断したのだ。
『これは、わざわざ僕が力を込めて作ったボスだからね。そう簡単には倒せないよ?それに、人任せでは、クリア出来ないと言ったよね?』
とイージスが言った途端にアンナに鎖が巻きつく。
「どういうことだ!何が起きてる」
「突然、鎖が!」
クランに焦りが生まれてくる。
『ユニークスキルが賞品なんだ。そう易々とクリアさせるわけないだろう?これは、1番力を持つ者を縛る鎖だ。彼女は戦闘に参加出来ないよ』
と言い、イージスは笑うのだった。




