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番外編 教会でのバリー

完結してからなんですが…攻略された三人のその後とか、色々思いついたので番外編を作りました。

 教会の朝は早い。

 まずは掃除、それから朝の祈り、その後にやっと朝食になる。が、朝食は――というか、教会の食事には、肉が出されることがない。月に一、二度、魚が出る事があるが、それ以外は野菜がメインだ。

 正直、若者――特に、男性にとっては足りないだろう。

 そう思うのが、ここに一人。


「また野菜ばかりか……」


 掃除と朝の祈りを終え、空腹の状態で席に座り、机に並べられた料理を見て溜め息をついた。

「いつもの事ですよ」と、同僚が声をかける。

 それに対し、愚痴をこぼした男性――バリーは不満たらたらの表情をした。


「パンと野菜くずのスープ。せめて卵でも欲しいもんだぜ。質素じゃねぇ粗末ってんだ」

「ここは教会ですから。そのような食材があるのなら、孤児に回すべきです」

「……」


 敬虔な同僚はバリーの不満を一言で終わらせた。

 バリーは反論しても無駄だと思い、仕方なくパンを手に取った。パンは固く、力を入れてちぎって、スープに浸して食べる。スープは肉が入っていないため、味があっさり――と言えば聞こえはいいが、ほぼ塩味の深みのないスープで、腹持ちが悪い。

 バリーの体は、最初の一ヶ月で筋肉が落ち、がっしりとした体形から、かなり細身になった。しかも、頬はこけて、より暗い顔に見える。


(前は朝から豪華な食事を食べられたのに……)


 自分で選んだ道なのに、目の前の不満にうっかりすると愚痴を零してしまう。

 問題を起こした男爵令嬢レイラ・キーナンに恋をして、彼女の死を悼み、教会に身を寄せたのは、まだ数か月前の話だ。

 だが、バリーは今になって、教会に入らなければ、父の跡を継ぎ近衛騎士団長とまでいかなくても、いずれ近衛騎士になり栄誉ある立場に立っていたはずだ――と、思うことが出てきた。


(いや、俺はレイラを愛したんだ。自分の立場より、彼女の事を……)


 あり得た未来を思い描いた後、レイラへの想いを思い出して、バリーは頭を振った。


 王太子の側近で近衛騎士――最終目的は近衛騎士団長――と栄光ある未来より、レイラへの想いのほうが勝っていたのに、今は時折、あり得た未来を思い出して、悔やむことが出てきた。


(レイラを()()()()()? いや、俺はレイラを()()()()()()()のに、何故、この道を後悔している?)


 もともと、ここは乙女ゲームの世界。レイラに惹かれたのは強制力なのか、また、ゲームが終わって強制力が薄れてきたのか――どちらにしろ、ゲームの知識を持たないバリーには分からない事であり、時が経つにつれ、後悔が出てきたのかもしれない――と、思い悩んだ。

 自分がゲームの駒だという認識がないため、バリーはレイラへの想いと、あり得た未来との間で悩むことになる。


「なぁ、リック、お前の言い分を分かるけどさ。俺たちだって肉が必要な若者だぜ。そう思わないか?」

「……別に。僕はこれも修行の一つだと思いますから」

「いや、お前、俺に答える前に、少し間があったぞ」

「バリーの言いたいことも分かるため、少し迷いました。ですが、僕は教会に入った時点で、清貧を心がけるのも修行の一つだと認識しています」


 リックと呼ばれた青年は、丁寧な口調で自分の意見を口にした。

 彼はバリーと同じ頃に教会に身を寄せた青年だ。どのような経緯があって教会に来たのか、バリーは知らないが、リックはバリーが教会に来た経緯を知っている。というか、教会でもバリーの事は噂話になっているため、知らず耳にしていたからだ。


「バリー、あなたは今、何を思ってここに居るのですか?」


 いきなり問われて、バリーは答えに詰まった。

 自分の裡の迷いを見透かされた気がしたからだ。


「それは……」

「ある女性への想いから……彼女を想うためにここに居るのではないのですか?」

「……それは、そうだがよ。飯くらいはもっといいものを食いたいって思うのは、別にレイラへの想いが消えたからじゃねぇ」

「そうですか。ですが、貧しい村では、あなたが言った粗末な食事さえ、満足に食べられない家も多いのですよ」


 実際、土地が痩せていて作物が満足に育たない所もある。そういった所は常に貧しく、生きていくのも一苦労だという。善良な領主ならいいが、金にうるさい領主なら税金と称して少ない作物をほとんど取られてしまう事もある。


「さすがに、僕の村はもう少しましでしたが。それでも、不作の時はここの食事より質素でした」

「……」


 バリーは、リックの話に自分の発言を悔いた。

 食べることに困ったことのないバリーは、ここの食事より粗末で、しかも食べられない時がある――という事を、初めて知ったのだ。


「この国の中でも、そんなに差があるのか……」

「僕も全部を知っているわけではないですけどね」


 そういえば、学院でウィリアムとディアナが良く、孤児が――とか、浮浪者が――とか話をしていた。あれは、そういった貧富の差を無くすために、政策の一環として意見を出し合っていたのか――と、遅まきながらに気付く。

 そして、卒業パーティでの、ウィリアムの言葉。


『君たちは、自分の抱えている問題に気づいて声を掛けたレイラ嬢を優しいと言ったけど、本当の優しさなのかな?』


『そうかな? 私にとって本当の優しさは、ディーのように孤児や浮浪者であっても、嫌な顔をせずに目線を合わせて相手に向かい合う事だと思うけどね』


『少なくとも、身分を笠に着てレイラ嬢へ虐めをだなんて、ディーがするわけがないんだよ。そんな事をするような性格なら、孤児たちに対してそのような接し方をしない。君たちが優しいというレイラ嬢はそれが出来るのかな?』


 ウィリアムの言葉が正しいのなら、ディアナは孤児や浮浪者にも親切に接していた事になる。

 逆に、レイラはどうだ? 彼女は『家がお金を出してくれないから』と言って、バリー達はレイラを気の毒に思い、小物からドレスまで買い与えていた。それを喜んで全て自分のものにしていた。


 リックの言葉が引き金になり、学院での出来事を思い出すと、レイラは与えてもらうのが当たり前だという顔で、けど、要らなくなった物を換金して、寄付を施したりはしなかった。ドレスは数回送っている。それはヘンリーやクライヴも同様に。それなら、不要になったドレスを売り払い、慈善活動はできるはずだ。だが、レイラが慈善活動をしている様子は見かけなかった。


(俺は、レイラの何を見ていた? これじゃあ、殿下の言葉通り……)


 バリーの中のレイラに対する想いが揺らいでいく。

 けれど、家と決別し、教会に身を寄せた時点で、バリーにとって教会以外に頼る所はない。

 もう、元に戻ることは出来ないのだ。


(俺が、浅はかだった……)


 学院で、もう少し周囲に目を向けていれば、見えるものも見えて結果も違っていたのかもしれない。

 それでも、バリーはもう何処へも行くことが出来ない。

 それに、レイラへの想いだけではなく、婚約者に対するけじめとしても、実家に戻ることは出来ない。教会で生活するしかないのだった。


「後悔して謝罪しようとしても、何もかも、遅すぎたんだ……。絶対に許されない……」


 バリーは拳を握り締め、悲痛な面持ちで周囲には聞こえないほど小さな声で呟いた。

 その後、バリーはレイラへの愛と、あり得た輝かしい未来との狭間で思い悩み、また、教会での貧しい生活で疲れ果てていくのだった。

出来れば、ヘンリー、クライヴの2人の話を入れたいと思います。

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