企業選び3
「ひとつは、グリーンオーシャンね」
始めに挙げられた企業名は、なぜその名前が出てくるのか理解出来ないものだった。
「……あの落ち目の企業が、何でだ?」
レイモンドも首を傾げている。するとサラは、淡々と、でも何かを押さえたように言った。
「ひとつは、単にリンクス乗りが欲しいから。今じゃあそこに所属してる傭兵は少数のノーマル乗りだけだからね」
これは納得行く理由だった。
「次は、他の企業に対抗するため。最近グリーンオーシャンはトーテムポールとヘロデ・サイエンスからの集中放火を受けててね」
「「あー」」
それは、設定資料集にも書かれていたことだった。企業間大戦の後、敗北した企業は他の企業の傀儡になるか吸収されるかする。グリーンオーシャンは、D&Cと共に敗北した陣営の中核となった企業なので、大戦の間に抑止力になる兵力を徹底的に破壊され。トーテムもヘロデも、グリーンがもう二度と立ち上がることの無いよう徹底的に破壊し尽くすつもりなのだろう。
「でもまあ、今更だろうけどねえ」
「だなあ」
「ですねえ」
これも、納得出来た。でも、次の理由が理解出来なかった。
「最後に、彼らがいた、という証を残すため」
「? どういうこと?」
サラもレイモンドも、怒っていた。だけれど、その理由が分からなかった。
「グリーンオーシャンの得意とする機体は、強力なパンドラボックスから供給される膨大なエネルギーを元に成り立っているけど、今の技術的にそれは周囲をホープ汚染することになる。それは、『保護液』で包まれるリンクス乗りも一緒」
『保護液』というのは、リンクスの高機動による慣性や動力炉であるパンドラボックスからのホープ汚染からパイロットを守るための液体である。ただ、それも完璧でないのはリンクス乗りの常識だそうだ。
「だから、あなたという、ホープ汚染に耐えられるリンクス乗りを使うことで、彼らお得意の高エネルギー型リンクス、いや超高エネルギー型リンクスを作りたいのよ」
そこまで言われて、ようやく二人が何で怒っているのか理解出来た。
(心配、してくれているんだ)
まだ、会ってからそんなに経っていないのに。二人とも優しいなあ、と思う。恵まれているなあ、とも思う。だから、二人を裏切ることはしないようにしよう。私はそう決めて、言う。
「なら、グリーンオーシャンは無しですね」
ほっとした様子の二人に、さらに伝える。
「そんな、私を機械みたいに捉えている企業には行きたくないです。私を、ちゃんと評価してくれる企業がいいです。二人みたいに」
すると二人は、きょとん、とした後、微笑を浮かべて頭を撫でてくれた。とても、暖かい手だった。
「……で、他にも私を欲しがっている企業ってどこですか?」
気分を切り替えるよう尋ねると、サラは息を軽く吐いた後話し出した。
「それは『ミール』ね」
「ミール? 意外な所が出てきたな」
レイモンドは少しだけ大げさに驚いていた。私も意外に思った。なにせ、ミールはロケット兵器と電子部品の製造を主体とする企業。リンクス乗りが欲しければダークホースかヘロデから借りれば良いし、これ以上リンクス乗りを支援出来るほどの経済力が無かった筈だ。
「ほら? こないだ蓮重工が医療系の子会社独立させたでしょ?」
「そういえばそんなんもあったな」
それは、ゲーム中では描かれなかったことだ。驚いている自分と、現実だからそんなこともあるよね、と冷静な自分がいる。
「で、それが成功してるから、真似して医療分野に進出しよう、としてるみたいよ? あこれほぼ確定情報と思ってもらっていいから」
そんな情報も集められるなんて、オペレーターって凄いなあ、と思っていると、レイモンドが鼻で笑った。
「はっ。蓮重工は事前に研究済ませてたから成功した、ってのに、それが分からんのか」
しきりに頷いている二人を見るに、どうやらそうらしい。
「えーっと、ミールは下準備も出来てないのに私をダシに儲けようとしてる、ってことで合ってる?」
尋ねると、二人して頷いた。
「じゃあ、そこも嫌です。で、何で蓮重工をお勧めしたのですか?」
「それは俺も気になってた」
サラに尋ねると、彼女は指を折りながら答えた。
「まず、蓮重工に所属すると全てのGF系列の武器もパーツも割引される。次に、医療系の子会社を持ってるからシーナの身体についての研究も続けれる。そして、塗装だけでも蓮重工製のものを使うと機体の防御力が上がる。その上、リンクス初心者に扱いやすい重量タンク脚の本家。他には……」
「分かった、もういい。じゅうぶ……。続けてください」
話し足りない様子のサラと全部聞きたい私に睨まれて、レイモンドは黙った。
「行くよ。他には……」
製造しているグレネードが安価な割に強力。会長がリンクス乗りのためリンクス乗りに対して企業一親身。福利厚生がしっかりしている。最近中量機の研究中であり、上手く行けばそのテストパイロットになれる。褒め殺しと言うほどの理由の中で、一番最後の理由が一番好きだった。
「意外に思うだろうけど、ここが出す依頼って殆どが報酬が少ない代わりに安全なのよね」
「爆弾馬鹿にしては意外だな」
「私、蓮重工に所属の申し込みします」
そして、それが決め手となった。
「お、おう……」
「手続きってどうしたらいいのですか?」
困惑するレイモンドを無視してサラに尋ねると、待ってました、とばかりに笑みを浮かべた。
「手続きはこれから私がするわ。でも、シーナがしないといけないのもあるから、それを明日しに行きましょうか」
「行く……?」
役場にでも行くのか、と首を傾げると、サラは吹き出す。
「違う! 面接よ」
「うげ」
その言葉に嫌な思い出が浮かぶ。前世、就活何度も面接で落とされたんだよなあ。
「そんな汚い声出したらだめ。せめて「えー」位にしなさい」
「はーい。ごめんなさい」
何故か怒られたので謝る。
「分かればよろしい。で、面接、と言っても簡単なものよ? ちゃんと受け答え出来れば問題ないし、子供だからそこまで難しく無いよ」
「そっか」
良かった子供で。そう安堵すると、話は終わり、とばかりにサラは手を叩いた。
「じゃ、シーナは歯磨きして寝よっか。ついでにレイもすること」
「げ、俺もかよ」
サラの言葉にレイモンドは嫌そうな顔をする。
「大人は子供の見本にならないと、ね?」
が、この言葉に「仕方ない」と頭をかいて立ち上がった。
「シーナ、洗面所はこっちだ」
「はーい」
私は、レイモンドの案内に従って部屋を出た。
本当、いい人達だなあ。