表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

出会い1

 ミッションの概要を説明しましょう。


 依頼主はヘロデ・サイエンス。

 目的は、ダビデ・工業コロニーを護衛する、不明リンクスの排除です。


 ダビデ・工業コロニーは企業連に抵抗する組織『シナイ同盟』の有力な武器供給源であり、ここを制圧することは彼らの抵抗力を削ぐことに繫がります。

 既に依頼主は『フォートレス』の派遣を決定しておりましたが、二週間前唐突に現れたリンクスの反応に、万全を期したいとのことです。

 我々としては、『企業間大戦』時のリンクスの残骸の反応の可能性が高いと踏んでいますが、油断はなさらない方が賢明かと。


 ヘロデ・サイエンスの評価を高くする機会です。そちらにとっても、悪い話ではないかと思いますが?




   * * *




「はあ……」

 レイモンド・ダッチェスは、輸送用のヘリに積まれたリンクス『ホーネット』の中で深いため息をついた。

『レイ、何が不満なの?』

 オペレーターのサラ・ヴィオラの通信に、さらに深いため息をつきながら返す。

「いやなあ、今回の依頼だがなあ……」

 そう、今更な愚痴を言い、サラに怒られる。

『「依頼をより好みする余裕はねえ!」って言ったのあなたじゃない。何今更気弱になってんの』

「その通りだがなあ……」

 そう、そんな余裕は無い。ここのところ立て続けに依頼を失敗したせいで、違約金と機体の修理費で首が回らなくなっているのだ。

「何であんな依頼受けちまったんだ……」

 後悔するのは、ここ最近受けた依頼だ。『リンクス乗り』になってはや二年。ノーマル相手の実績は積んできたし、そろそろ稼ぎの良い仕事をしたくて、リンクスやフォートレス相手の依頼ばかり受けた。結果は今の通り。情けなさに涙が出てくる。

 いや、本当は稼ぎの良さからそれらの依頼を受けたのではない。それらの難易度の高い依頼をクリアして、チヤホヤされたかったのだ。そんな不純な動機で依頼を受けて、生き残っているだけ幸運だろう。そういうことにしておこう。

「これで相手が『ヒュドラ』なんかだったらお前らとの仕事も終わりだなあ……」

 ヒュドラ、というリンクスは、先の大戦にて大活躍したリンクス乗りで、傭兵の実力の指標である『ギルドランク』も、本来なら一位の筈が政治的思惑により九位になっている、シナイ同盟と協力している奴だ。そんな奴に出てこられたら、ランク外の俺など一瞬で鉄屑になってしまう。

『いや、ヒュドラは依頼主が仕事押し付けてる最中だから無い、ってさ』

「仕事? シナイ同盟と協力してるリンクス乗りに?」

 そう首を傾げると、『政治には色々あるのよ』と言われた。さもありなん。

「でもさ、それってその仕事の稼ぎがシナイ同盟に流れることにならねえ?」

 なんとなく閃いたことを尋ねる。

『そうやってシナイ同盟に首輪付けるつもりなんでしょ』

 その言葉に、嫌な想像がよぎり口を開く。

「それってさ……」

『この話は終わり。いいね?』

「あっはい」

 サラの有無を言わせぬ様子に、嫌な想像が的中している可能性が高いことを悟り、それ以上は言わなかった。

『……話は変わるけど、』

 気まずい沈黙を破るように、サラが口を開く。

『目標のリンクスって、どんな相手だと思う?』

 その言葉に、様々な噂や同僚の話を元に想像を巡らせる。シナイ同盟の中心となっている勢力は、『カリオテ・コロニー』の残党と『GFE』の研究者らしい。GFEは実弾武装の研究開発を得意とするGF社の中でも、ホープ粒子の反応炉である『パンドラボックス』の研究開発を担っていた企業であり、カリオテ・コロニーはリンク・システムの生みの親だ。そこから考えて、レーザーなどのエネルギー武装を中心に、強力な『シールド』で身を守り、高速戦闘を行う中量か軽量の二脚かレーダーを強化し、遠距離攻撃を主体とする四脚の可能性が高い。

 いや、シナイ同盟に首輪を付けているのがヘロデ・サイエンスなら、全ての性能をバランス良く備えた機体だろう。だとすると、重量か中量の二脚か。どのみち、ピーキーな逆足やタンク脚の可能性は無いと見ていい。そう考えて口を開く。

「そうだな……」

『目標のリンクス、ってまた物騒な……』

 瞬間、通信に割り込みが入る。

「!?」

『なっ!?』

 どういうことだ。確かに暗号化は甘いだろうが、普通なら使われないような通信帯での通信だ。それに割り込んでくる腕前。ただ者では無い。恐らく、こいつが……。

「お前が敵か」

 意識を切り替え、言う。この通信に割り込めるのは、リンクスかそれのオペレーターだけだ。冷や汗をかき、どんな相手か見極めるつもりで放った言葉に、返ってきたのは予想外の言葉だった。

『え!? もしかして通信繫がってる!? 回線……、げ』

 その幼く、混乱した様子に毒気を抜かれるも、気は抜かない。

『他人の通信に割り込むのはマナー違反よ? ギルドナンバーとコールサインを言いなさい』

 サラの脅すような言葉に、敵は何故か涙声で謝ってきた。

『割り込むつもりはなかったんです。ごめんなさい。あとギルド未登録です』

 ……いや、ギルドに登録してないであろうことは想像していた。だが、この反応は。何かがおかしい。

『『全てのリンクス乗りはギルドに登録しなければならない』企業間協定で決まってる常識よね? モグリってことは、遠慮……』

「サラ、ちょっと待て」

 明らかに泣きそうになっている敵の声に、俺はサラを制止する。

『何よ? 戦いは接敵する前から始まっ……』

「それはいい。ええと、……君の名前は?」

『シーナ、シーナ・アキノです』

 半泣きであろう声は、どう考えても子供のものだった。リンクスの通信において、音声を加工出来ないのは欠点として知られているが、それが今回は逆に都合が良かった。

「そうか。ではシーナ。君はリンクス乗りか?」

『え、ええと……、多分?』

 多分って何だ。リンクスを持ち、それに乗る人物が『リンクス乗り』だ。そんな簡単なこともはっきり答えられないとは。やはり、おかしい。ようやくそのことに気がついたのか、サラの困惑した通信が入る。

『ねえ、もしかして……』

「……では質問を変えよう。今通信をしているのは、リンクスの中か? それとも……」

 サラを無視した質問に、相手は『リンクスの中です』と答えた。なるほど、なら相手はリンクス乗りに違いない。だが、それにしては声が幼すぎる。となると、無理矢理乗せられたか? 嫌な想像が頭をよぎる。確かに、『リンク適性』を持つ人間は希少だ。だが、だからと言って子供を乗せるとは。

「そうか。では、そのリンクスはどうやって手に入れた?」

『えっと……』

 考え込むようなうなり声が聞こえる。目的のエリアまであと十分という情報が脳内に浮かぶも、無視し、根気よく待っていると、相手から返事があった。

『拾いました』

『「拾った?」』

 ただし、それは想像していたものとは違っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ