終わりの始まり2
『WORLD END』とは自分でロボットをカスタマイズして戦うアクションゲームで、その硬派な世界観と難易度に一部のゲーマーから熱狂的な支持を集めていたゲームで、特に『Ⅳ』のシリーズはそのストーリーの完成度から、『WORLD END』どころかゲームをやったことが無い人ですらストーリーを知っている、というよく分からない事態を引き起こした程の名作だ。
かくいう私も、そのストーリーに惹かれてプレイした一人であり、最高難易度の『NIGHTMARE』以外はクリアしている。
確かに、『ノーマル』やら『ホープ汚染』やら聞き覚えのある単語は散々聞いていたものの、肝心の『リンクス』について一切聞いたことが無かったので、別の世界だと思い込んでいた。
だけれど、そうではない。この世界が『WORLD END Ⅳ』の世界だという証拠が目の前にある。その事実に震える。それは、私のかつて愛したゲームの世界にいるという歓喜であり、この後に待ち構えているであろう終末に対する絶望であった。
「ということは、確か……」
私は前世読み込んだ設定資料集を思い出しつつ、足をよじ登ってコックピットの下のへこみに手を突っ込む。
「……あった」
意外と装甲の凹凸やら隙間やらで安定して登れた上に、堅いハンドルも危なげなく回せることに感謝する。ハンドルを一周させると、プシュ、と気の抜ける音がしてコックピットが開き、頭にぶつかった。
「っつー!」
痛さに悶えつつも落ちないよう装甲にしがみつき、痛さが引かないうちに装甲を登ってコックピットに入る。
「うげ」
そこには、腹に太い弾丸が刺さったパイロットスーツ姿のミイラがシートに鎮座していた。ミイラ姿なのは、『ホープ汚染』によってまともに細菌が活動出来ず、また乾燥しているせいだろう。まあ、スプラッターな光景とコンニチハするよりははるかにマシか。
「えっと……」
ミイラのパイロットスーツとヘルメットの間の固定具を外し、弾丸を引き抜き、シートベルトを外して、パイロットスーツ姿の死体と弾丸を地面に落とす。重要なのは、このヘルメットなのだ。
鉄の巨人とパイロットを直接繋ぐことで、多大な精神汚染と引き替えにパイロットの感覚に従って機体を操作出来るようにする。その『リンク・システム』こそが『リンクス』を地上最強の兵器と至らしめている。確か、設定資料集にそんなことが書かれていた。
「まあ、それも『企業間大戦』までの話だけれどねえ……」
そもそも年号が分からないので『企業間大戦』がいつ起こるのか分からないけれど、『ジャンク漁り』が狙う『ノーマル』の残骸はそのほとんどが『先の大戦』の遺物、と聞いたことがあるので、恐らく終わっているのだろう。とすると、今は『Ⅳ』の後の世界かな? 確かその次の作品の『Ⅳ TRUTH』のストーリー分岐によっては世界が滅びるので、そこまでは行っていないと思いたい。
「やるか」
ウキウキでシートに座り、シートベルトを締めてヘルメットを装着する。ヘルメットのくせにブカブカだけれど、顎の右下のスイッチを入れると、プシュッ、と音がして頭がヘルメットに固定されると共に、膨大な情報が流れ込んできた。
「うーん……」
常人なら発狂するであろう、情報の嵐。それが確かに流れ込んで来ているのだけれど、全く辛くない。しんどさも、苦痛も興奮すらも無い。いやまあ、原因は分かっているしこうなることは予想していた。
「『全状態異常無効』仕事しすぎ……」
そう、転生特典の『全状態異常無効』だ。『精神汚染』なら状態異常に入ると思っての行動だったのだけれど、その通りで良かった。
しばらく待つと、視界が開いたコックピットから見える砂の廃墟ではなく、白地にデフォルメされた黄色い「GF」の文字が浮かぶ。
「!?」
懐かしいロゴに感慨を抱いた瞬間、私は情報の海に浮かんでいた。
「機体、システム正常。胸部装甲損傷。兵装パージ済み。推進剤……」
ああ、確かにこれは、精神汚染だ。頭部の光学カメラに映る周囲の光景が見える。本来見えない筈の背後の様子がレーダーで分かる。私の肉体の調子と機体の調子が感覚と数値で重なり合うように理解出来る。いっそのこと発狂した方が楽な程の、情報量。
「ふう……」
精神的な苦痛を感じるも、慣れればどうにかなりそうな程度なことに安堵しつつ、リンクを切り、ヘルメットを外す。
「さて……」
これでどこかの企業まで乗っていけば、傭兵協会『ギルド』に登録出来るだろう。そうなれば、命の危機と引き替えに膨大な報酬を得ることが出来る。それは、とても魅力的だ。だけれど、残念なことにこの機体に残る推進剤は無く、動力源として必須のホープ粒子も残量が五パーセント程。企業やギルドの関係施設まで行ける気がしないしそもそも場所が分からない。
となると、やることは決まりだ。
「明日からは儲けるぞ!」
リンクスを重機代わりに、ノーマルの残骸を回収しまくるのだ。