初仕事5
シーナにはああは言ったものの、リンクス同士の戦闘が五分以上続くのは稀だ。たいてい三分以内で決着が着く。さらに、アサルトライフルを撃ってみて分かったことだが、敵機のシールドと装甲はかなり上等なものを使っているらしく、塗装を剥がす程度のダメージしか与えられていない。ミサイルも何発か撃ったが、全て撃ち落とされている。正直、手詰まりだった。
そんな敵機はというと、何度か牽制する程度にガトリングを撃ってきた程度で、あとは悠々とシーナの元へと歩みを進めている。明らかに、速度を落として。
舐められている。俺はとうにそのことに気付いている。だが、その分時間が稼げる。なら、それは幸運なことなのだ。不思議とそう思えた。
今までは、舐められているなんぞと思った時には怒りを押さえる羽目になっていたが、それすら無い。むしろ、その舐められていることに感謝すら抱けるような余裕があった。状況は圧倒的不利で、あと三分二十六秒は稼がなければいけないというのに、不思議と笑みがこぼれた。
不謹慎だ。そう自分の思考が叱る。だが、心は嵐の後の空のように澄み渡っていて、敵機の動きがこれまでに無い程見えていた。撃って来られているガトリングの一発一発の軌道が見え、それらがシールドに当たらないようにするにはどう動けば良いのか解る。これなら、ガトリングの射程に入ってもやって行けそうだ。
後ろ向きにかけていたブーストを緩めると、ワンテンポ遅れてガトリングの雨がやって来た。だが、小刻みにブーストをかければまともに当たらずに躱せる。
「ぐううううううう!?」
慣性で内臓が揺られる。視界が黒く染まっているのに、敵機と鉄の雨が良く見える。
『レイ! 『リンク深度』が深すぎるわ!?』
サラの悲鳴が聞こえる。言われなくても、と答えたかったが、舌を噛みそうだったので黙殺した。
リンクスとパイロットを直結させる『リンク・システム』は、パイロットがリンクスを直感的に操作出来るようにするだけでなく、リンクス側のセンサーの情報を脳にぶち込む代わりに、機体側の超高性能なコンピュータと脳を直結されることが出来る。この、脳にぶち込まれる情報量と機体側コンピュータとの繋がり具合は比例関係にあり、この繋がりの深さのことを『リンク深度』と言う。このリンク深度が深いほど演算能力は高まり、極めれば一年先の未来すら見通せるようになると言われている。だが、リンク深度が深ければ深いほどパイロットの脳と精神にダメージを与え、最後は死んでしまう。そんなことは良く知っている。
俺の潜っても何ともない『リンク深度』は、リンク適正が低いだけあって非常に浅い。こうやってガトリングの軌跡が解る程深くは潜れない。そう、ドクターからも警告を受けている。
だが、今下がればシーナが死ぬのだ。あの、ようやく自然に笑えるようになった程度しか人生を味わっていないシーナの人生が終わるのだ。それは嫌だった。
どうしても避けられない弾丸の集団を左のプラズマブレードで切り払い、アサルトライフルを撃ち続ける。斬弾三十八パーセント。予備弾倉はひとつ。取り替えている間も回避を続けるとすると、演算能力が足りない。なら、リンク深度をさらに深くすれば良い。
何故、死ぬようなことを出来るのだろうか。僅かに空いた演算領域で思考する。今まで、誰かの為に死ぬなんて御免だった。こんな、頭が割れそうな程潜るなんて考えたことも無かった。なのに何故、俺はシーナのために戦っているのだろうか? 守りたいから?
「そうか」
フフフ、と笑う。喉から血の味がする。耳がグワングワン鳴って通信が聞こえない。そうだ、俺は、シーナを守りたいのだ。きっと、シーナは俺が死んでも悲しんで、覚えていてくれる。だから、守りたいのだ。そう確信した。
《力を貸そう》
次の瞬間、頭痛が消えた。音が聞こえるようになった。
『レイ! 戻って来て!!』
サラが泣いていた。その向こうで、ストークのアリが『馬鹿野郎!』と怒鳴るのが聞こえた。
入ってくる情報は増えている。だと言うのに、それが自然であるかのごとく、当たり前であるかのように、何の問題も無く処理出来る。
「ああ、もう大丈夫だ」
それはサラに向けた言葉だったが、すとんと胸に落ちた。もう大丈夫だ。こいつは、この水色の土偶野郎は、俺の敵になり得ない。
『レイ……!?』
サラの驚いた声がする。
「こいつは、俺が倒す」
宣言して、敵機へと距離を詰める。こんなに簡単に、銃弾は避けることが出来たのか。こんなに滑らかに、この機体は加速出来たのか。アサルトライフルは、こんなにも狙った通りに当たるものだったのか。驚くでもなく、事実として受け入れられる。土偶野郎はガトリングを撃たれて破壊され、ムスペル・レーザーを蜂の巣にされ、丸腰になって慌てて距離を取ろうとするも、所詮重量機。速度で中量機に勝てる筈が無い。あっという間に距離を詰め、俺はプラズマブレードを一閃した。
「浅い!」
それは、シールドと重装甲に阻まれ、コックピットを切り裂けなかった。
「だが!」
装甲は半ば程まで裂けている。次で、とどめを刺せる。勝利を確信した瞬間、悪寒を感じて後退し。
敵機の周囲の空間が爆ぜ、巻き込まれて吹き飛んだ。




