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初仕事4

遅くなりました。

 高速で近付いてきていた敵は射程手前で『ブースター』を解除した。

「チッ!」

 俺はそれに舌打ちする。

 このまま接近してきていたのなら、ミサイルで撃ち落とせていた可能性が高く、俺にとっては嬉しくない状況だ。だが、万分の一程度の可能性ではあるが、もしそのミサイルを全弾回避されていれば、護衛対象であるシーナやドラゴンズネストの面々は壊滅していただろう。そう考えると、幸運だったのかもしれない。ただ、おかしいのは敵が俺と戦うという選択をしたことだろう。単に残骸の回収作業を妨害するのなら、俺を無視して高高度を通過していくのが最適解だ。なのに、敵はそうしなかった。

 湧き上がる疑問を抑え、高度を上げてきた敵機を『歓迎』すべく右手のアサルトライフルも使えるようエネルギーを回すと同時に、ミサイルの射程に入ってきた敵に向かって時間差をつけて二発のミサイルを放つ。白い煙を出しながらミサイルは進む。

「やはり、か……」

 『ブースター』を解除した距離から予想はしていたものの、二発のミサイルは敵機にそこそこの距離まで近付いたものの、敵機の右手側が赤く光ったかと思うと爆発した。撃ち落とされたのだ。

 ミサイルを撃ち落とすのは、迫ってくるミサイルの数が少ない場合は『リンクス乗り』として定番の対応だ。ただ、それは一般的に中堅以上の実力が必要とされている。敵にそれだけの技量があるのは、間違いが無かった。又、あの特徴的な赤い光はヒューマン・ライブラリ製対ミサイル防衛火器『ムスペル・レーザー』だろう。これは、両肩部に装備する武器で、エネルギーを多く使うレーザー兵器の中でも対ミサイルに用途を限定しているため消費エネルギー量が少なく、ヒューマン・ライブラリから支援を受けているリンクス乗りがGF系列のミサイルに対抗する場合に良く使われている。

 ミサイルが撃ち落とされるのは予測していた。敵がこちらの武装の対策をしているという、俺達の情報が漏れていることもあり得るとは思っていた。だが、同時にこんな高度を下げれば機体にダメージが入るような危険な地に安定を重視する中堅以上のリンクス乗りが来るのは、あまり想定していなかった。

「糞っ!」

 自分の見通しの甘さに嫌気がさす。そんな楽観的でシーナを守れる訳が無いだろ!

『レイ、落ち着いて』

 自己嫌悪に陥りつつあった瞬間、サラから通信が入る。

『敵の両肩部の武装は『ムスペル・レーザーⅢ』。ミサイル及び核物質の反応は無し。接近速度と光学レーダーの映像から考えて敵は重量二脚タイプ。長期戦になるわ。注意して』

 そうだ、余計なことを考える暇は無い。今は、敵を倒すことだけ考えろ!

「サラ、ありがとな」

『オペレーターですから』

 微妙にかみ合っていない会話に思わず微笑する。流石サラだ。気が楽になった。

 接近してくる敵機に集中する。両腕にガトリングを持ち、両腰にはその予備弾倉らしきものが見える。ブースター・ユニットの上に横に置かれている円筒はムスペル・レーザーだろう。カラーリングは水色で曲線を多用している割に重量機独特なずんぐりむっくり感のある機体と合っていない。左肩のエンブレムはまだ見えない。

 対するこちらの武装は、右手にアサルトライフル、左手にプラズマブレード、左肩にミサイルランチャー、右肩に普段はミサイルランチャーのところを『ホープ汚染』で通信障害が出るのを防ぐために通信装置を増設している。機体は中量機に分類されている『ホーネット』だが、GF製ということもあり装甲は中量機の中では分厚い方だ。反面、GF系列の宿命でもあるのだが、ブースト速度は少し遅い。

 相手のメインウェポンは、特殊な改造でもしていない限りガトリングだろう。一般に、リンクスの武装においてガトリングはアサルトライフルよりも有効射程距離が短いと言われている。こちらのミサイルは撃ち落とされるであろうことを考えると、こちらが取るべき戦術は、アサルトライフルの射程で敵機を撃ち、決してガトリングの間合いに入らないことだ。万が一にでも敵のガトリングの間合いに入れば、こちらが中量機であり、アサルトライフル一挺なのに対し重量機な上にガトリング二挺を使う敵機に撃ち負けるのは間違いない。

 幸い、重量機な敵機よりも中量機なこちらの方が速度を出せる。距離を取り続けるのは簡単だろう。そこまで考えて、視界の端にノーマルの残骸が映った。

「!?」

 そうだ、これは警戒任務だ。守る対象がいる。シーナがいる。単純に『引き撃ち』は出来ない。護衛対象に背を向けた状態で戦わなけれならない。牽制兼時間稼ぎにミサイルを四発同時に発射し、サラに怒鳴る。

「サラ! 護衛対象の避難完了まであと何分だ!?」

『ノーマル部隊は二分! シーナは!?』

『済みません。タイミングが悪くて、あと五分かかります』

 心底申し訳なさそうな、泣き出しそうなシーナの通信に、俺は絶望と共に腹をくくった。

「シーナ、安心しろ」

 ミサイルが赤い光に撃ち落とされる。

「五分程度楽な仕事だ。落ち着いて、冷静にやれ。いいな?」

 通信の向こうで、シーナが息を飲んだ。

『……はい! お願いします!』

「任せろ!」

 俺は、アサルトライフルの射程に敵機を捉えるべくブーストして距離を縮めた。

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