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WORLD END Ⅳ Another Route  作者: ネムノキ


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初仕事2

 窓の外に広がるシベリアの空は気持ちの良いくらいに澄み渡っていて、星が瞬きもせずに輝いていた。

「はあ……」

 これで、サラかレイモンドが一緒にいてくれれば、言うことは無いのに。二人は私が今受けている依頼の護衛をしているのだけれど、何か情報が入ったとかで呼び出されて三十分は前にこの展望台を出て行った。展望台、と言っても、今泊まっているヘロデ・サイエンスが保有しているホテルが企業間大戦時の要塞の一部だった頃の名残の対空機銃が端にあって、なかなか物騒なのだけれど。

「おう、シーナちゃん」

「おやっさん?」

 沢山の流れ星を眺めていると、背後からおやっさんの声がしたので振り返ると、展望台の入り口の所におやっさんが立っていた。

「まーだこんな所にいたのか。もう八時だぞ? 子供は寝ないとな」

「あー」

 もうそんな時間なのか、帰って寝よう、と思うけれど、もう少しここに居たかった。

「あと五分だけここにいさせて?」

「ん? 何か珍しいものでもあったか?」

 「うん」と私は頷く。

「こんな一杯の星を見たのは初めてなの」

「あー。シーナちゃんコロニー育ちだからなあ」

「うん」

 そう、私は昼間こそはジャンク品を漁るために荒野を彷徨っていたけれど、基本的に地下にある『コロニー』で生活していたので、この人生で星空を見るのは初めてのことなのだ。

「それに、流れ星。こんなに一杯流れてるなら、願い事のひとつくらいは叶いそうじゃない?」

 そう言うと、「また古い風習知ってるなあ」とおやっさんに笑われた。

「心配しなくても毎日降っているから、明日も見ればいいさ」

「毎日?」

「ああ。なにせ、流れ星ってのは……おっといけねえ。子供の夢を壊しちまう所だった」

 流れ星は彗星の破片が大気との摩擦とかで出来ることは前世の知識で知っているけれど、無粋なのでそのことは口にしなかった。

「それより、明日のアントはプログラムいじってるからな。話したと思うが、慣らしの時間もいるから早起きになる。だから、もうおやすみ、だ」

「……分かった」

 私は名残惜しかったけれど、我慢しておやっさんの方へ向かい、自分に与えられた部屋までおやっさんに連れられて歩いていく。私一人だと、ただの子供と見られてスタッフのお世話になるのだ。あの時は恥ずかしかった。

「で、SEの……」

 名前の出てこない私に、おやっさんは「イカルか? ドイルか?」と教えてくれた。

「背の高い方だから……ドイルだ。で、ドイルは新しく組んでいるアントのプログラムだと、どんな感じになる、って言ってた?」

「確か、機体からのフィードバックがコンマ一秒以下で遅れるようになるから、機体を鈍く感じるか、動きにくく感じるようになる筈だとは言っていたな」

 おやっさんは何故ドイルの方の意見なのかと尋ねずに答えた。イカルは頭はいいんだけど理論に寄りすぎて感覚的な判断が出来ないのに対して、ドイルはそこそこの能力があるのに感覚的な判断を大切にするのだ。なので、この二人のやりとりは専門用語が分からないという欠点を除けば見ていて凄く面白い。

 ともかく、リンクスを感覚で操縦している私としてはドイルの意見がかなり参考になるのだ。後でイカルの意見も聞いておいた方が、リンクスを降りた後のことを考えるといいかもしれないけれど、色々なことをそもそもの基礎から勉強中の今では参考にならないし覚えられないので仕方ない。

「うーん。なら、確かに軽く慣らす時間がいるかあ……」

 リンクスはブーストのかけ方によっては静止状態から音速の五倍までコンマ一秒以下で加速することが出来るのが売りであり、戦闘機動の基本だ。そんな機体なので、フィードバックが遅れるのは致命的だ。戦闘行動が無いとは予測されているけれど、万が一を考えると不安になる。

「だろう? だから、早く寝ないとな」

「ですね。わがまま言ってすみません」

 頭を下げると、おやっさんに頭をゴリゴリと撫でられた。首が痛い。

「なーに、シーナちゃんの子供らしいところが見れて満足さ」

 そう言われて恥ずかしく感じたも、続いた言葉にぞくっとして立ち止まってしまう。

「それに、困るのはシーナちゃんであって俺じゃあないからな」

 それもそうだ。おやっさんは困らない。困るのは睡眠時間が必要な私だけ。それを言ってくれたのはおやっさんの優しさかもしれないけれど、同時に今はそれほど大切に思われていないように感じられた。

「ちょ、シーナちゃん冗談だからな! ジョークジョーク! だからそんな顔しないで、な?」

 慌てた様子のおやっさんになだめられ、私は感情に蓋をして言う。

「分かってます。過剰反応しちゃってすみません」

「い、いや。俺が悪かったから。すまん」

 歪んだ表情をしておやっさんは頭を下げた。私は「気にしていませんから」と言って歩き出す。

 ギクシャクした空気のまま、私は部屋に帰りおやっさんと別れた。

 サラが帰ってくるまで、なかなか寝られなかった。

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