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娘の好みはパパの味



「せんせいさようならみなさんさようならー」


「はい、彩愛ちゃんさようなら、また明日ねー」



夕方


保育園の迎えに行くとちょうど娘が出てきた。


「彩愛ちゃんのパパさんお疲れ様です。今日は保育園で来月の父の日参観の踊りの練習を始めたんですよ。来月楽しみにしていてくださいね。」


「おー!そっかそっかぁ、どんな踊りを練習したの?」



「パパでもないしょだよ。おたのしみー」


「父の日参観絶対行くからね!それまでパパ楽しみにしてるよ!」


「うんっ!」





「ん?」

手を繋ぎ歩いて家に向かうと康成はいつもの帰り道に違和感を感じた。



家まではゆっくり歩いても10分程で着く


しかし今日はやけに時間がかかるような気がした。


時計を確認してもいつも通りだが、何かが違う。


気持ちが悪いような気がする。

絶対こうだともいえないがいつもの帰り道がいつもの帰り道じゃない。



何だこの感じは?



「パパどうしたの?お腹痛いの?」



娘の声ではっとした康成はもう一度周りを見渡すが違和感は消えていた。



気のせいだったことにしよう…

自分に気のせいだと言い聞かせ2人と何かは帰路についた。






家に着くとすぐに夕食の準備に取りかかった。



「さてさて…やりますか」



康成は冷蔵庫からひき肉を出し卵、パン粉、牛乳、雪花菜、香辛料にハーブを入れると一気に混ぜこんだ。



「パパ?なんではっぱいれるの?」


「これはね、良い匂いのする葉っぱなんだよ。これを入れるとねハンバーグがもっと美味しくなるんだよ」


「へー、ほんとだ!においするね!パパはなんでもしってるね!」


「なんでもは解んないかなぁ。彩ちゃんの好きなことだけ知ってるよ」



家庭では、ハンバーグをアレンジできるようになれば一人前だと自負している。




その後オムライスも作りつつ、冷凍保存してある自家製デミグラスソースを出し、解凍する。




子供用のプレート皿を出しオムライスとハンバーグを乗せ仕上げに温め直したデミグラスソースをかける。



「ほいっと、完成だ。できたぞー!」



「はーい!うわぁ!すごいね!いいにおいするね!」


娘用の椅子に座るとフォークとスプーンを出し、挨拶をする。


「いただきまーす!」



パクパクと食べ始めた娘を見ていると棗が康成に声をかけてきた。




「お疲れ、今日はどうだった?」



康成はあの世の話をするのもなぁ…と悩んだが土産話にでもなればと思い今日のことを話し出した。



最初は可哀想な目で見ていた棗も作り話や妄想にしては細かい設定に段々興味を引かれ、結局最後まで聞いていた。


「なかなか面白い話だね。死後の世界について考えたこともあるけど地獄も天国も無いなら気楽なもんだよ。ふぅ…」


話を肴にビールを飲む棗



「まぁな。今度一緒に行ってみるか?」



「バカ言うな、あんたもあたしもあっちに行ったら彩愛はどうするんだよ。携帯の電波も入らないんだろ?日中何かあって保育園から連絡来たらどうするんだよ?」


「だったら皆で行ってみようぜ」



「まだ安全かもわからない所に連れて行けるかい!あんたが1人でまずは安全を確認してからにしな!」



それもそうだ

もしも安全なら皆で旅行にでも行ってみようかな…



「パパ、なつババ?おはなしおわった?」


ちょうど娘も夕食を食べ終わったようだ。


「よし!お風呂入っちゃおうか?」



「はーい!」



娘とお風呂も入り寝かしつけをすると娘はすぐに眠くなったのか夢の中へと落ちていった。





「明日はまた夜勤だからなぁ…今日は少しゆっくりするかな。」



康成は家の縁側に座りながら座敷のテレビで報道番組を見ながら缶ビールを飲み一服しているとテレビに突然ノイズが走った。


「なんだ?アンテナか?」



田舎は台風や猿の悪戯でテレビが急に映らなくなることなんかよくあることだ。


しかし今日はノイズも何か変だ。

いつもなら横に線が入るが縦に歪むようにはいっている。




ブチンッ!




急に画面が暗くなり座敷に静寂が訪れた。



無音の状態が続き、部屋の雰囲気が変わる。


いつもの部屋なのにいつもの部屋ではない。


まるでホラー映画のように電気がついていても薄暗く、薄気味悪い。




なんだよこれ…




トン…



天井からトンッと物音がした。


上を向いても普段通りの天井だ。

普段しっかり天井を見ることも無いためか天井の染みが顔に見える気がする。




カタンッ



今度は縁側の扉から物音が聞こえた


「………ろ」



「………お………ちろ」



まるで耳元から囁かれるようにしゃがれた人の声のような音が聞こえた。



すぐさま後ろを振り向くと誰もいない。




ガタガタ



コン


キシッ


ギリギリ…



部屋の至るところから音なりや柱が軋む音が聞こえた。







音なりの頻度も上がり、囁くような声も段々はっきりと聞こえてきた。


「お前が………ちろ…」



「お前が………落ちろ…」






音なりが今までで最大になった瞬間




音が止まった。




康成の呼吸音のみが部屋に響いている。


後ろを向くが誰もいない


急いで前を向くが誰もいない




コトン…



静寂な部屋に足元から何かの音が聞こえる。




康成は反射的に下を見てしまった。





「お前が変わりに地獄へ堕ちろ」





精気の無い眼、冷たい手、お爺さんのような物が康成の足を掴み縁側の外に引っ張りだす。



「お前が堕ちろ!お前が堕ちろ!お前が堕ちろ!お前が堕ちろ!お前が堕ちろ!お前が堕ちろ!お前が堕ちろ!お前が堕ちろ!お前が堕ちろ!お前が堕ちろ!お前が堕ちろ!お前が堕ちろ!」



どんどん外に引っ張られる。




「お前が地獄に………」



「うるせー!!」




ゴヅッ!



康成は拳を振りかぶり思いっきり拳骨を振り下ろした。




「しつこいんじゃ!もう少し溜めて、溜めて、もう少し工夫してから来いや!」



拳骨を叩き込まれた幽霊?はその場に何も残すことなく消滅した。



死んだ先に待っているのはムキムキ、ゴリゴリの鬼である。

地獄は存在しない。



「怖がらせたいなら90年代後半のホラー映画を見て勉強してからこいや!」




康成の声が家の中に響くと薄暗く気持ちの悪かった空気も元に戻り消えていたテレビも元通りつくと康成は横になり報道番組の続きを見はじめた。




「夜に大声出すんじゃないよ!」




康成のお陰で天童家への脅威は去り、いわば平穏を護ったにも関わらず大声を棗に叱られ釈然としない気持ちになりながら、康成はぬるくなった缶ビールを一気に煽った。


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