何で役所は住民票を出すのに時間がかかるのか
「これ……どうしようかねぇ?」
「猪は臭みが無かったから、俺がカツにでもするよ。鹿と熊は扱ったことねーや」
「私も無いよ。だいぶ前に熊鍋を貰ったことはあったね」
家の台所で康成と棗は肉の調理方法に頭を悩ませていた。
ジビエ料理は野生感満載、一歩間違えると獣特有の臭みが出てしまう。
「あっちの人達からは、臭みは無いって言われたんだろ?」
「そうは言われたけどさ、念のため臭みとりは必要だろ?」
そういうと康成は携帯で「熊 料理 臭みとり」と検索をかけた。
「やっぱり熊は鍋が主流みたいだな。固いからした処理で叩くほうが良いってさ。臭みは醤油より味噌を使ったほうが気にならないらしい。そもそも臭みはちゃんと血抜きが出来てればある程度は大丈夫みたいだな。鹿肉はソテーがオススメだとさ」
「そうかい、猪はカツにするなら今日は鹿は使わないよ?さすがに多すぎる。夕食は猪カツと熊鍋にしよう」
「わかった、鹿は冷凍保存だな。カツ用のパン粉あったかなぁ?」
俺、カツの衣は細かいほうが好きなんだよなぁ……
ソースはトンカツソースより中濃ソースだな。
戸棚を探すとすぐにパン粉を見つけ肉の下処理を行う。
肉に小麦粉、卵、パン粉をつけ終わるとちょうど保育園の迎えの時間が近づいていた。
「あとは揚げるだけだな。俺、保育園に行ってくるから、カツは帰ってきたら揚げるわ」
「あいよ、私は鍋をでかしておくよ」
……………………
保育園に向かう途中、銀狐の神社の前を通ると上の方からコン、コンと何かを叩く音が聞こえる。
銀狐が何かやってんのか?まぁ後で飯食いに来るしな。その時で良いか。
保育園に着き先生に挨拶をする。
「彩愛ちゃんのお父さん、実は今日、彩愛ちゃんが他の子と喧嘩をしてしまって……」
「喧嘩?何かオモチャでも取り合いになりましたか?」
「いえいえ、口喧嘩みたいなもので彩愛ちゃんが今度家に鬼が遊びに来るんだよって言ったら男の子の友達が鬼なんていないと……」
あらー、彩ちゃん友達に話しちゃったのね……
まぁ、俺が口止めをしなかったのが悪いな。
「彩ちゃんに今度鬼みたいな大きな知り合いが来るって話したの勘違いしたかな?」
「そうでしたか、もう仲直りはしたので影響は無いと思いますが家に帰ったらよろしくお願いします」
とりあえず簡単に誤魔化したけど大丈夫だろ?
「わかりました。家に帰ったらもう一度話をします」
先生と話しているとちょうど迎え時間の鐘が鳴りリュックを背負った彩愛が出てきた。
「ぱぱ!お帰りなさい!」
「彩ちゃんただいま、今日はカツだよ。好きでしょ?」
「うん!カツ好きだよ!」
手を繋ぎ、家までの帰路を歩くと彩愛は康成の顔を伺っている。
「どうしたの?何かパパに言いたい事あるの?」
「今日ね友達と喧嘩しちゃったの……鬼さんがね、家に遊びに来るって友達に教えたら嘘だって言われてね……」
頷きながら彩愛の話を聞く。
「ねぇぱぱ?鬼さん本当に家に来る?」
「ちゃんと来るよ、来週だけどお家に泊まりに来て一緒に遊ぶんだよ」
「本当?」
「本当だよ、でもね彩ちゃん、周りのお友達には内緒だよ?」
「なんで?」
「鬼さんが来たら皆怖がっちゃうからだよ。でもね鬼さんは本当は優しいんだよ?」
「優しいのに怖いの?」
「彩ちゃんも家に鬼が来るってパパが話したら最初は怖かったでしょ?」
「うん」
「彩ちゃんは鬼さん見たことある?」
「保育園の豆まきで来たよ?皆ね鬼さんに追っかけられてね、泣いちゃうの」
「お話はした?」
「怖くてできなかった。彩ちゃんも泣いちゃったの」
「そっかぁ、鬼さんもねいっぱいいてね、今度お家に遊びに来る鬼さんはねとっても優しいんだよ?パパの友達だから彩ちゃんにも優しくしてくれるよ。でもね皆に怖がられちゃうと遊びに来れないんだよ。だからお友達には内緒にできるかな?」
「優しい鬼さんもいっぱいいるの?優しい鬼さんなら彩ちゃんも一緒に遊びたい!パパとお約束する!」
最近娘が何でも何で?って聞いてくるから、説明が難しいなぁ……
「それじゃあパパとお約束できる人」
「はーい!」
「あとね、今日の夜は狐さんがご飯を食べに来るよ」
「狐さん?一緒に食べれるの?」
「狐さんはね、人に変身できるんだよ?もし彩ちゃんがいい子にできたら尻尾と耳を触らせてくれるかもよ?」
「変身できるの!?プリティみたいだね!いっぱい触りたい!もふもふする!」
「それじゃあ急いで帰ろっか」
「うん!」
帰りも神社の前を通ると先程と同じようにコン、コンと上から音が聞こえる。
まだ何かやってんのか?
帰宅し、時間的に夕食にはまだ早いため先に風呂を済ませる。
「なぁ康成、稲荷さんは何時ごろ来るんだい?」
「もしかして夜ってしか伝えてなかったか?そろそろ時間だし迎えに行ってやるか。すぐに揚げられるように油温めておいてくれ、ちょっと行ってくる」
「あいよ、早く行っておいで」
神社に着くと相変わらず社の方から何かを叩く音が聞こえる。
崩れかけの階段を登ると巫女服を脱ぎ、上はサラシのみで下はぶかぶかのズボンを履いた銀狐が社の修理をしていた。
「おーい銀狐!そろそろ飯だぞー?」
「あれま、もうそんな時間かの?すまんすまん修理に夢中での」
「まったくなんちゅう格好で修理してんだよ?」
「一張羅は汚れたら大変じゃ、でも眼福じゃろ?ほれほれ」
銀狐は康成を挑発するように胸を強調する。
康成は銀狐をガン見する。
「なんじゃい熱視線で、そんなに見たいのかいの?」
康成は少し近づき銀狐をガン見する。
「…………」
「…………」
「すまん……我の負けじゃ……服を着ても良いかの?だんだん恥ずかしくなってきたわい」
根負けし、銀狐が先に目を反らす。
「仕方ねーな、しっかり見たから着て良し!」
「何で許可制じゃ?」
絶景なり、絶景なり。
「もしかして1日修理してたのか?」
社を見ると、もともとかなりボロボロだった社が有り合わせの木材を使用し修理したのか少しはましに見えた。
「昼過ぎからじゃの。全然参拝も来る気配がない、社を見渡すとボロボロじゃしの有り合わせでできる範囲を直しておった」
「さすがだな、少しはまともになったな」
「でもまだまだじゃよ。材料も足りんし、細かい装飾は我には直せん」
「私有地だろうから、山からは切れないしな。買うしかないんじゃないか?」
「なぁお主」
「金は貸さんぞ、いや貸せんぞ。この間パチンコですったばかりだ」
「違うわい!我の社じゃがこのままでは材料も買えんし綺麗に直せん、だから働き口を探そうと思ってのどこか良いところないかの?今のところ日中は暇じゃよ」
「神様が金欠でバイト募集かよ!」
「何とかならんかの?」
「住民票も何にもないだろ?履歴書に何て書くんだよ?仕方ないから知り合いが募集してないか母ちゃんに聞いてみるよ」
「神に住民票が必要な時代になったとはの……トホホ……」
「まぁ話は後でだな。まずは飯にするぞ」
「そうじゃった、そうじゃった。さすがに1日動くと腹は減るのぉ……」
「今日は熊鍋に猪カツだぞ!揚げたて食わせるから早く来いよ!まず服を着ろ!」
「揚げたてとな!?待つのじゃ!すぐに行くのじゃ!」
銀狐は急いで巫女服に着替えをすると康成の後を追う。
「お前も来るか?うちの飯は旨いぞ?」
見送りに来た使いの狐に声をかけると頷き康成の肩に乗った。
「何か襟巻きみたいでセーレブーな感じだ」
ジャージ姿に狐の襟巻きの男、後ろを追う狐耳の巫女さん。
人目が無いので気にはならないが、はたから見れば田舎でも都会でもなんとも不思議な二人組は揚げたてカツを目指し帰路についた。




