田舎にパチンコ屋以外の娯楽を
康成が帰宅すると時間はすでに3時を回っていた。
季節的に後1時間もすると空が明るくなる。
「あーぁ、結局こんな時間になっちまったなぁ」
あの後、片付けを済ませたり、みんなに挨拶をしたりしていると、こんな時間になってしまった。
華凛なんて、いないと思ったらすでに寝てたわ、集会所で大の字でぐーすかぴーだったわ。
甚平さんもため息ついてたし。
……………
康成が家に入ると机に書き置きがあった。
娘は預かった。おとなしく1人で寝るが良い。
嫌な予感がし、康成は急いで部屋に入ると布団に娘が居なかった。
「やられた……」
1階に戻り棗の部屋を覗くと彩愛と棗が寝息をたてていた。
部屋に静かに戻り、康成は1人寂しくすっかり冷たくなった、娘の布団を頭側にし、せめて娘の香りに包まれて寝ようと布団に潜り込んだ。
……………
康成が目を覚ますと、すでに10時を回っていた。
「あー、寝たわぁ、彩ちゃんはもう保育園に行ったかな?」
時刻を確認し、下に降りると誰もいない。
「今日は何すっかなぁ……連チャンであっちに行くのも迷惑だろうしな」
華夜に次はいつ来れるか聞かれた際に4日後位と答えてしまった。
休みに夜勤明けを含めると康成は1ヶ月の半分程は日中が空き時間だが、暇だから遊びに行くというのは相手の都合を考えなければならない。
学生時代なら友人の智之が独り暮らしをしていた為、何人かで集まり連チャンで徹マンをしていたが、さすがに大人になった康成は自重を覚えた。
「よし!パチンコでも行くか!」
田舎には娯楽が少ない。
人口が少ない為、娯楽施設が少ないのは当然だが何故かパチンコ屋は多い。
じいさんや婆さん、里帰りしている暇な学生の溜まり場になっているのだ。
康成も常連とまでは行かないが、月に何度か訪れる。
「平日でもけっこういるな、時間潰しだし1パチで良いかな」
顔見知りや常連に軽く挨拶を済ませ、台探しをしていると
「ん?何でここ空いてるんだ?」
新台というわけではないが角台で普段から人気であまり空いてることの少ない台が朝から一度も回されずに空いていた。
周りを見ても他の台は埋まっているのに何故かその台だけ空いてる。
良く見てみると台の席にモヤが見える。
「こういう所にもいるのかよ……」
周りには見えないが何かを感じ取り無意識に避けてるのか?
店内を回りながらその台の観察をしていると、モヤが移動し始めた。
モヤが他の空いてる台に座る?と先程までの台には今しがた来店した若い客が「空いてるじゃんラッキー」と着席した。
「たまに昼過ぎに来て、人気台が空いてるのはこういうことか……」
長年の謎が溶け、他の台を探し店内を探していると、他にも何体かのモヤを見つけた。
「もしかしてモヤ台は良い台なのか?」
康成はモヤが移動するのを待ち、移動した瞬間に着席し打ち始めた。
無茶苦茶負けた。
「二度と信用しねーぞ!」
1パチで諭吉を失い、遅めの昼食で牛丼を買い、康成は帰路についた。
「一万円の牛丼か……卵つけよ……」
とぼとぼと歩いていると後ろから声をかけられた。
「康成か?」
「なんだよ、智之かよ。どうしたんだ?何か痩せてね?」
「まぁな……」
柳沢智之小学校からの親友で学生時代は手がつけられない程の暴れ者だった。
どのように頑張れば保育士になり、社長令嬢と結婚できるのだろうか?
今では双子の子供に囲まれ人生を謳歌している。
「今、暇か?少し話を聞いてくれないか?」
智之は鼻の上を掻きながら、康成を近くの公園に誘った。
「でっ?お前が俺に相談ってことは、中々面倒なことなんだろ?今回はなんだ?女関係か?金はねーぞ、先程1人の諭吉が御臨終したばかりだ。解決できるかわかんねーが話だけは聞いてやんよ」
「ハハッ……相変わらずだな、実はな……誰に話しても馬鹿にされるだけでな、困ってるんだ。笑うなよ?」
困り顔で、少し悩みながら智之は話し出した。
「最近夜にな、家で寝ようとすると、声が聴こえるような気がするんだ。家なりのような音も聞こえるし」
あー、そっちかぁ……全然解決できそうだ。
むしろ、最近専門家になりかけてるわ。
康成は、牛丼を食べ終わると
「智之?あのな?」
「やっぱりおかしいよな……嫁に言ってもな……全然聞こえないって言われてな……最近中々寝れないし、声は聴こえるけど、どこから聴こえるかわからないんだ。俺……変なのかな?」
「はぁ……それが痩せてきた原因か?」
「多分な……康成、俺どうしたら良いんだろ?やっぱり病院に通ってカウンセリングとか受けたら良いのかな?」
「まぁ待て智之、俺が解決できるかもしれない。確実じゃないけどな、一度試してみて良いか?」
智之は康成の予想外の返答に驚いた。
「笑わないんだな……」
「馬鹿、笑うかよ……すぐに行くぞ!」
馬鹿にする笑いではなく、2人は笑みを浮かべ智之の家に向かった。
………………
智之の家は実家からはそこまで離れておらず、康成の家からも近い場所にたっていた。
去年、新築祝いで訪れた際は真っ白な庭付きの綺麗な外見をしていた。
「あー、やべーなこりゃ……」
「やっぱり何か変なのか?」
家に入る前から康成は家に異変を感じていた。
嫁さんの趣味なのか洋風に造られた家は綺麗な外見なのだが、以前と同じはずなのに、全然違う。
全てが淀んで見えた。
「なぁ智之、いつから声が聴こえる?」
「もう1ヶ月になるかな?」
「1ヶ月前とその前に何か変わったことはあったか?」
「いやっ?特にはわからないな」
「今、家には?」
「誰もいないはずだ。嫁も仕事だし、子供も保育園だ」
「玄関から順繰りと見ていくか、問題ないか?」
「下手に触ったりしなきゃ問題ないよ」
やれるだけやってみるか……
俺の力が本当に効くのかまだ実感がないけどな、親友の為だ。
「よし!行きますか!」
康成は気合いを入れると智之宅へのドアを開けた。




