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Navagos Memorys -異世界の漂流者-  作者: 織田 伊央華
第1章「ビブリア王国」
5/13

第4話「人手不足とメイドギルド」

お待たせいたしました。第4話、約9900文字になります。

2017年6月26日修正:誤字脱字及び加筆修正

 屋敷の引っ越し作業は翌日にそつなく完了された。


と言っても、もともと住んでいた場所があるわけでもなく、新規に家具などを購入したにすぎない。その購入した家具を屋敷に運び入れたのだ。


 それも殆どミルゲスが用意した業者たちに頼っていたが配置場所などはミリア達二人が細かく指示を出し、リンクからもらっていた裁量権を存分に使用している。


 そしてリンクはというと、庭にいた。


「よし、ここら辺でいいだろう」


 そう言って視線を向ける先には不可視のマントを被ったエッグリースが鎮座していた。光学迷彩を起動させ、自然光を多少ではあるが歪めながらもその本体を隠匿している。


 場所としては屋敷の裏側であり、丁度正面からは隠れる位置だ。


 昨日寝るだけにとどまった屋敷にリンクは早速朝からエッグリースとMEMを呼び寄せていた。


 今までは光学迷彩を使用していたが、それは今も起動中である。これだけ大きな物がいきなり現れるとちょっとしたパニックになり兼ねないからだ。


「にしてもこれだけの大きなものが入るとは、流石の広さだな」


 裏庭にあたるこの位置は表の庭ほどではないがちょっとした広場になっている。その中に外壁に寄せた形でエッグリースが鎮座しているのだ。


「後はこいつを隠すようにしないとな」

「そうですね」


 合意するように傍に立つのはルシアだ。エッグリースが来たことによってサブ端末である人型の端末を使用することが出来るようになったのだ。


「それにしても、普通の人間にしか見えないなぁ」


 そう言って視線を向けるリンク。その先には一見人間と変わらないほど精巧に作られたルシアの体が存在した。


「人口皮膚と細かなプログラムによって精巧に再現することが出来ました」

「それで、その姿。なんでそれにしたんだ?」


 そう言って向ける視線の先にはリンクに似た顔のルシアがいる。


「これはあなたのデータから復元したからです。これはあなたの息子にあたる人物を予想して作成しました」


 日々進化する科学技術は人体の構造を殆ど解析することに成功している。それらを用いて遺伝子から様々なものを再現することが可能になっているのだ。


「ちなみに、その俺の相手は?」


 子供というのは一人ではできない。それを理解しているリンクは気になったのか掛け合わせた遺伝子の相手を聞く。


「データが不足気味でしたので、隊内のリリアーナ中尉のデータを拝借しました」


 通常遺伝子情報とは大事なものであり、軍内部での秘匿データとして扱われるものだ。


かくいうリンクの遺伝子情報も自分の持っているものとは他にルシアが保管しているものの二つだけである。


 しかし、いつの間にか同じ部隊内のリリアーナの遺伝子情報を得ていたようだ。


「おまえ、いつの間に中尉のデータを、まさかクラックしたのか?」


 クラッキングはルシアの得意とするものの一つだ。時々暇を持て余した隊員の一人が暇つぶしの余興として自作マシンを組み立て、防壁を作成。


それらをルシア達パートナーにクラックさせそのタイムを競うゲームを始めた。


 そしてその中でダントツのスピードを誇るのがルシアだったのだ。


 彼らが抱えているマシンは同型のものであり、使用するものも同じであるとすると、最終的には経験と技術がものを言う。


 それほどまでにルシアの経験は膨大なものだった。


「いえ、彼女のデータはアリスから好意でいただいたものです。一応理由としては万が一中尉が怪我をしてかつアリスが破壊されてしまった場合の対処の為です」


 一応理由としてはまっとうなものだ。しかしながらそこに当事者としてのリリアーナの意見が入っていないことはこの際気にしてはいけない。そう気にしてはいけないのだ。


「それで、俺と中尉の遺伝子を組み合わせ制作したのがこの顔ってか」


 そう言って改めてルシアの顔を見る。


「少し俺に似せすぎじゃないか?」


 そう言うのもリンクは黒髪だがリリアーナは違うのだ。それに顔の各パーツも違うため、ここまで自分に似たルシアの顔が不思議なのだ。


「まぁ、私も使用するのに少し罪悪感があったわけで彼女の遺伝子は10%ほどに使用率を下げています」


 なるほど、と納得したリンク。しかしながら根本的な解決にはなっていない。


「それで、どうすんだよ?」


 そう問いかける先はもちろんルシアである。


「説明としてはリンクの弟という事で通すつもりです」


 今後の問題としては新たに出現したルシアという存在そのものだ。いままで出て来ずにいきなり目の前に現れたのだ。これで驚かない者はいないだろう。


「それで大丈夫か?」

「それで通すしかないでしょう」


 最終的にその案で決定したルシアの紹介。いきなり現れたリンクに似た人物の説明は用意しておく必要がある。ルシアの表情も他になにか妙案でも?と問いかけている。


「・・・よし、じゃエッグリースはここで固定して・・」


 そう言った時だった。


「ご主人様っ」


背後からの声。そしてその声の主をリンクは知っている。


「どうしたエリナ?」


 声を掛けて来たのは白い綺麗な頭髪である戦狼種(エアウルフ)のエリナであった。


 彼女は昨日の普通の格好からメイド服に変わっている。黒を基調とした生地に随所から白いフリルが覗いている。そしてどういった構造をしているのか頭髪と同色の白いふさふさの尻尾が見え隠れしている。


それらはミルゲスの好意でくれた服であり、派手ではなくしかしながら裾が短めのメイド服である。


「屋敷の使用人の件で・・・・こちらの方は?」


 すぐに自分の要件を伝えようとしたエリナ。急いできたのか最初はリンクの顔しか視界に入っていなかったようだ。


 話の途中ですぐそばにもう一人いると分かったエリナは怪訝な表情を浮かべる。


基本的にエリナはこうだ。主人であるリンク以外に対しての態度が非常に冷たい。


同じ奴隷メイドのミリアに対しては昔馴染みとも言える存在である為そこまでない。しかしながら昨日も食事の際に店員に鋭い視線を向けていたのだ。


「ああ、まだ紹介してなかったな。俺の弟であるルシアだ」

「ルシアです、以後よろしくお願いします」


ルシアは丁寧に頭を下げると微かな笑顔を浮かべる。側から見たら好青年だろう。顔立ちもリンクの面影が残る程度なのでそうそうばれる事はないだろう。


「・・・ご主人様の弟様でしたか。メイドのエリナと申します」


 リンクの弟と分かると少しではあるが態度が軟化する。しかしながらリンクに対する時とは未だに差が存在した。恐らくは戦狼種(エアウルフ)の戦闘力に固執しているために認める事ができないのだろう。


「ところで、使用人の件って?」


 そんなエリナを観察しながら先ほどの言葉を思いだしたリンクはエリナに問いかけた。


「はい。誠に申し上げづらいのですが、このお屋敷を私とミリアの二人で維持することは非常に難しゅうございます。そこでご主人様に新たな使用人を雇っていただけないかと。奴隷の分際で差し出がましいお願いだと・・」


「いいよ」


 リンクの判断は早かった。それがリンクの良いところでもある。


「え?」


 ほとんど話の途中での返事。しかもそれはエリナが予想していたものと違うものだったらしい。


「まあ昨日の時点で二人じゃ無理だなって思ってたんだ。エリナから言い出してくれて助かったよ。君たちが居ながら勝手に使用人を増やすのもどうかと考えたんだ」


 実際のところ昨日の時点でこの屋敷の広さを痛感していた。未だに使用人と呼べるのは二人しかおらず、しかしながら通常この広さの屋敷を維持するには20人近くの使用人が必要になる。


 しかし奴隷であるミリアとエリナを買っていたことからも彼女たちに告げずに使用人を新たに雇い入れるという事を躊躇していたのだ。


 それに彼女たちにもプライドとかがあるだろうと思い、そこらへんでかち合う事を恐れていたのも事実である。


「あ、ありがとうございます!」


 そう言うとエリナはすごい勢いで頭を下げた。


使用人を雇う、と言うのはそれなりに金銭かかかるものなのだ。


「で、なんだけど。エリナはどこか使用人のあてはある?」


 使用人を雇う。相場から考えると人材は豊富にあると考えているリンク。


ルシアの調べによるとこの都市には少なくとも100万人近くの人々が住んでいるらしい。それに町の規模やこの貴族街から考えてもそれなりに人材はいる筈である。


「そうですね。メイドギルド、ではいかがでしょうか?」

「メイドギルド?」


 聞いたことが無い新たな組織の名前。この都市に来て様々新しい情報を吸収しているリンクだがこの言葉は初めて聞いた。


「はい。メイドなど使用人を専門に育成、そして就職の斡旋を行っているギルドです。そこであればそれなりに使え、そしてちゃんと身元などが判った使用人が雇えるかと。通常の募集などでは何と言うか、ハズレ(・・・)を引く可能性が・・・」


 当然のことながらこの世界にはハローワークならぬ職業斡旋所などはない。だからこその専門ギルドなのだ。


「そうだな。ならミルゲスさんに紹介状を頼むか」


 さすがに一見さんお断り、などという事はないだろう。しかしながらリンクの知名度というか身分についても怪しいのだ。


だからこそ大商会の会頭であるミルゲスさんの紹介状があればスムーズに進むだろうと考えたのだ。


「わかりました。ではメイドギルドへはいつ頃向かわれますか?」


 リンクとしては特にいつでもいいのだが、エリナ達はなるべく早くがいいのだろう。 彼女達にそこまで仕事を強要するつもりはないが、いかんせん屋敷が広すぎる。


「そうだな、なるべく早い方がいいだろう?」

「え、あっはい。そうしていただけるとありがたいです」


 ならば決まりである。


「よし、じゃ今からミルゲスさんとこに行ってメイドギルドへの紹介状を書いてもらうか」


 リンクは思い立ったら即行動をモットーにしている。だからこそ動きは非常に早かった。


 しかしながら流石に屋敷を空けるには抵抗があったのでミリアを屋敷に残す。当然ながらエッグリースとMEMはあるため、ルシアも屋敷に待機することになった。


 だがルシアとは電脳内で繋がっている。しかしそれは電波が飛び交う場所での限定で通信できるのだ。その為電脳内部にルシアのコピーと言える分身体を連れて行くことにした。


 そんなことを行い、あっという間にミルゲスから紹介状をしたためてもらう。



 そして現在、ある建物の前に止まっていた。


「ここがメイドギルドか」


 そう言って見上げるのは大きな建物だ。


 屋敷の様に豪華な造りではないがそれなりに外観は整えられている。


 そして驚くべきはその大きさである。


「この建物の大きさ、うちの屋敷くらいあるんじゃ?」


 そう言うのも仕方がない。


今現在リンクの目の前にある建物は全3階建てであり、ここら辺の建物の中では異様な大きさを誇っているのである。


「この大きさの建物はこのメイドギルドを除くと基本的に貴族街の屋敷以外にはないと思います」


 同意するように頷くのは傍に控えているエリナだ。


先ほどから通り越しに幾人もの人の視線にさらされているが彼女は何一つ気にしていないらしい。


彼女の格好がメイドの格好のままであるからである。この世界にはメイド、というのはそれなりに存在している。しかしながら彼女たちの職場貴族街にある屋敷であり、買い物等は下男が行うのだ。


その為町をメイド服のままで歩くというのは滅多にない。そしてエリナというとどこか誇らしげなのだ。その為注目を集めていると言ってもいい。


 ちなみにリンクの服装はスーツの上からこちらの世界の一般的な服装であるズボンと上着を着ている。


「じゃ、行くか」


 そう言ってようやくメイドギルドの中へと足を踏み入れた。重厚な扉をいとも簡単にエリナが開け、リンクは建物の中に入る。


 そこは一見の屋敷の様に広々としたエントランスが広がり、正面には受付のようなカウンターが存在していた。


 入り口から入って来たリンク達に気づくとすぐにメイドが傍によって来る。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 なかなかに洗練された動きを見せるメイド。しかしながらその歳は高くなく、見た目だと20代後半に入るだろう。


「えっと、使用人を雇いたいんだけど」


 とりあえずは要件を伝える。するとメイドは笑顔のまま畏まりました、と答える。


「では何か紹介状などは御座いますでしょうか」


 メイドギルドでは貴族など階級が高いところへの使用人の供給を主としている。その為雇主となる人物の身分などの調査も必要なのだ。


 一見さんをお断り、をしているわけではない。そうすると顧客が増えないからだ。しかしながら紹介状があるに越したことはない。


「おっと、ミルゲスさんとこからのがあるよ」


 そう言って先ほど書いてもらった書状をメイドへと手渡す。


「お預かりいたします」


 メイドは手紙を受け取ると後ろに下がった。そしてその代わりとして後ろから新たなメイドが進み出る。


「ではお部屋へご案内いたします」


 そう言い、先導を始める。そのメイドの後ろをリンクとエリナは二人そろってついていった。


 案内されたのは広めの部屋であった。


 家具は中央に低めのテーブルとそれを挟むようにソファーが二組。その他には特に家具は置いていない。


 調度品も華美ではなく、どちらかというと質素に見えるものばかりだ。


 リンクは勧められるままソファーに腰を降ろし、その横に椅子には座らずエリナが立つ。


リンクが座るのを確認するとすぐに他のメイドが部屋に入ってきて紅茶と茶菓子を置いて下がる。


出されたものに手を出さないのは失礼に当たる。そう思いリンクは紅茶のカップを持ち上げると口に運ぶ。


「おっ、なかなか上手に淹れられているな」


 リンクの感想を聞くとメイドはにこりと笑顔を溢す。その様子を少し離れた位置で不機嫌そうに睨んでいるエリナ。しかしそれにリンクは意図的に気づかないふりをした。


 そんなところに部屋のドアがノックされ、二人の人物が入室してくる。


「お待たせ致しました」


 そう言うのは先頭に立ち、ふくよかな体系をしている女性であった。


 着ている服はゆったりとした質素なドレスであり、街中で見かけてもそこまで目立たないものでもある。


「初めまして、わたくしはメイドギルド会長のメリアン・デウスメールと申します」


 リンクの前まで来るとその女性はそう挨拶をした。どうやら彼女がこのメイドギルドで一番偉い人物らしい。


「リンク・クドウです。本日はよろしくお願いします」


 差しさわりのない程度の自己紹介。それらが済むとすぐにメリアンは身を乗り出すように話を始めた。


「本日はミルゲス様のご紹介という事で、使用人をお探しだとか」


 おそらくは書いてもらった書状に何かしらの情報が書かれていたのだろう。それほどに早い切り出しだった。


「そうですね最近屋敷を購入しまして、流石に維持する者がいないといけませんので」


 あれだけの屋敷を購入したのにも関わらず、現在の使用人と呼べるのは2人だけである。彼女たちの体の事を考えても早急に用意するべきだろう。


「わかりました。お屋敷の大きさ等はすでにミルゲス様よりの書状にて把握しております。早速ですがこちらで選びました使用人候補をお呼びしてもよろしいでしょうか?」


 先ほどの短時間ですでに準備を終えていたらしい。さすがだと感心しながらリンクは了解の意を示す。


「では失礼いたします。・・・入りなさい」


 メリアンの声に反応する形で再度部屋の扉が開かれた。そしてそこから現れたのは男女合わせて15名の子供だった。


 そのあまりにも年端も行かない子供たちの姿にリンクは眉をひそめる。


「失礼ながら彼らの年齢をお聞きしても?」


 さすがに年端も行かない子供を雇うのは少し抵抗がある。その確認のためにリンクはメリアンに問うた。


「はい、この中では一番下が13歳で、一番上は16歳になります」


 さも当たり前の様に答えるメリアン。しかしその答えで少し戸惑いを見せるリンク。


「彼らは幼くともこのメイドギルドの卒業試験をクリアした者達です。ですので技能など使用人としてのスキルはメイドギルドが保証します」


 メイドギルドとは使用人の育成機関の名前である。


 幼い子供は10歳になる前からこの学校に通い、使用人としてのあれこれを学び、数年で卒業する。そしてその後は雇われた主人に一生使えて終わるのだ。


「中でも彼らは今期卒業生の上位15名です。リンク様の為にご用意させていただきました」


 なんと目の前にいる少年少女ら、数としては少女が多いが彼女たちは今期卒業生の中でも上位らしい。


 聞いたところこの世界にはリンクがいた地球と同じ12の月に分かれている。そしてそれらに付随ずる日にちも360日と短くなっているが基本的には変わらずひと月30日となる。


 毎年100人近く卒業する中で奇跡的につい先日卒業したばかりの新米たちばかりだったのだ。


「毎年15位以下の子たちには貴族さまがたからすでに指名が入っている場合がございます。しかしながらわが校では15位以上の子たちには自分たちで主人様を決めてもらっているのです」


 それは雇主は自分で決める権利が彼らにはあるという事になる。


 それもそのはず、彼らの中には下級ではあるが貴族の次男や次女等がいるのだ。彼らは家を継ぐことが出来ない者達であり、それならば、となるべく格式の高い所の使用人になるべくこの学校へと入れられたのだ。


「どうでしょうか、最終的には彼ら次第にはなりますがまずは選ばれてみては」


 どうやら最初に絞るのは此方の要望を聞いてもらえるらしい。そう知ったリンクは素早く思考を始める。


 すでにメイドとしてリンクの元にいるエリナとの短いながらの協議の元、最終的に残ったのは3人の少女だった。


 彼女たちを選んだ基準としてはまずはこの国の貴族の子供たちを除外した。理由としてはすでにリンクの元には奴隷が二人いる。その為多少のいざこざを起こしてしまわないようにだ。


 どこにでもわだかまりや差別などと言ったものが存在している。それはどの世界にもある物だ。だからこそそう言った火種を少しでも作りたくなかったからだ。


 そしてもう一つの理由がリンクの持つ特殊な事情だ。


 万が一にもこの世界の過去、それも約1万年前からやって来たなどと知られると不味いからだ。


 奴隷や身分の低い者達の言葉などは比較的あてにされない。だが下級とはゆえ貴族の子息たちを手元に置くことはどうしても憚られたのだ。だからこそ貴族を最小に弾いた。


そして次にエリナの希望で男の子を外し、最終的に残ったのがこの3名になる。


「では彼女たちとは直接お話しください。そして最終的に彼女たちが判断いたします。もし残念ながら契約に至れない場合は此方で15位以下にはなりますがご用意させていただきますのでご了承ください」


 それなりに権力を有しているのであろうメイドギルドの会長はそう言い部屋から出ていく。そしてその背中に続くように他のメイド達もぞろぞろと退室していった。


そして残ったのは少女3人とリンク、エリナの5人となった。


「じゃ、とりあえずは自己紹介から行こうか」

 

 彼女たちの目の前に座っているのは童顔とはゆえ30手前の男と少女が一人。

 

気まずい雰囲気になる前に踏み出したのはリンクだ。


ここでは主人としての貫禄を見せておかなければならない。そう感じていたリンクはまずは自分から自己紹介を始める。


「俺の名前はリンク・クドウ。職業は、そうだな、元軍人かな。得意なことは料理と戦闘かな」


 地球にいるときは休みの度に貴重な材料を手に入れ部下へと手料理を振舞っていたのだ。その為以外にも料理が上手かったりする。


 そして次に自己紹介をするのはリンクの隣にいるエリナである。


「名前はエリナと言います。ご主人様の奴隷でございます」


 彼女の場合は短い。特に奴隷と言うところのみ何か誇らしげに見えたが、気のせいだろうか。


 エリナの紹介が終わり、次はメイド達の番になる。


「では僭越ながら私から」


 そう言って前に進み出たのは一番小さなメイドだった。


「私の名前はイリア・ルベールと申します」


 身長は140センチほどであり、童顔。どう見ても12、3歳ほどの少女である。

 そのまま自己紹介にはいる、と思いきやそこで終了するイリア。


「あれ・・・」


 予想とは違う方向になっていることで戸惑いを覚えるリンク。しかし、すぐに傍から助け船が出された。


「ご主人様。こういう時は此方から質問なさる方が良いかと」


 なるほど、こういう時は雇主側が質問をするらしい。それらを改めて踏まえたうえでリンクは質問をすることにした。


「じゃ、イリアは何か得意な事ある?」


 当たり障りのない質問。我ながら単純でなんと代わり映えのしない無難な質問だと思うが、ここはしょうがないだろう。


「はい。私が得意とするのは家事全般は当たり前ですが、中でも料理を得意としております」


 料理自体は全員が出来るようにギルドで学んでいる。しかしその中でも得意不得意は存在するのだろう。


「おっ、それなら俺と一緒だな。こちらの料理はあまり詳しくないから早く覚えておかないと」


 その後出身などの話をして一人目が終了する。


「ジュリー・ミルガネスと申します」


 次に前に出てきたのは150センチほどの少女。茶髪で短く整えられたくせっ毛のメイドだ。


 特徴的なのは尖った耳であり、森精族(エルフ)特有のものだ。


 しかしながらそれらを問う事はない。地球でも根強く残っていた人種差別的な考えがこの世界にもないとは限らないのだ。


「ジュリーも何か得意な事ある?」


 先ほどと変わらない質問だが、初対面の相手に問いかけるものとしてはしょうがないだろう。


「はい。私は掃除を得意としております。どのように効率よく掃除できるかを考え、このギルドで学びました」


 どうやら掃除が好きな子らしい。確かに他の二人の子に比べるとまるでクリーニングし立てのようにメイド服が綺麗である。


 その後掃除の事についてマシンガンの様に話し、ある程度のところでイリアにたしなめられ終了した。


 どうやら好きな話になると相当に話すらしい。今後要注意だと心に書き留めながら次の少女に視線を向ける。


「では最後に」


 そう言い進みでたのがこの世界では珍しく、黒髪の人族の少女だった。


 身長は高く160センチほどあり、この3人の中では一番年上に見える美人だ。顔も整ており、青い瞳と発育のいいからだが際立っている。


「私はイサナ・アガルクスと申します」


 黒い長髪を後ろでポニーテイルにまとめた少女は軽く会釈をすると元の体勢に戻る。


「じゃあイサナも何か得意とすることはある?」 


「はい。家事全般は得意としております。あとは武術に少し覚えがありますので同僚に護身術程度を教えておりました」


 この世界ではメイドも多少ではあるが武術を嗜むという。


 それはご主人が不在の時、屋敷などは基本的に護衛の兵士などを雇わない限り無防備になるからだ。


 屋敷には多種多様な財産があるのだ。それらを狙う輩がいないとも限らない。その為最低限自身の体を守るためにもメイドは武術を嗜むらしい。


「ほう。それは心強い」


 その後3人と世間話程度の談笑を行い、時間まで潰した。





「では改めて伺いましょう。あなた方3人の中で契約しないと言う者はこの部屋を去りなさい」


 メイドギルド会長のメリアンはそう告げる。


 部屋に戻ってくると3人を並ばせ、リンクの方を向かせた後そう告げたのだ。なかなかに心を折に来るやり方だ。


 その問いかけでもし三人とも出て行ってしまった場合はリンクの精神衛生上非常にまずいことになりかねない。


「・・・・結構」


 しかし、結局のところ部屋から出ていく者はいなかった。


 そのことで一番安堵したのは言うまでもなくリンクだった。初対面とはゆえ、自分よりも10近く年下の少女に嫌われるのは精神的によくはないだろう。


「では改めてメイドギルド会長メリアン・デウスメールの名に置いて契約を行います」


 そう言うとメリアンは部屋の外に待機していたのであろうメイドを呼び寄せると書類を運ばせた。


「こちらが彼女たちの契約書類になります。この契約はリンク様が破棄なされるか、死亡された際に無効となります。また、彼女たちのその後については遺言で何か書かれていない限りメイドギルドが責任を持って引き取らせていただきます」


 ブラック企業もビックリなもので、アフターケアも万全である。


「ではこちらにサインをお願いいたします。彼女たちの勤務は明日からとなります。また彼女たちの居住の確認のために明日はギルドの者がご一緒しますのでご了承ください」


 メイドである彼女たちを徹底的に守ることでこのギルドは成り立っているのだろう。それほどに分厚いケアと言える。


「給料については彼女達と直接お決め下さい。それらに関しては基本的にこちらは関知致しませんので」


人を雇うのだ。エリナ達奴隷と違って給料の支払いが出てくるのは当たり前である。


「わかりました。ところでサインなんですが・・・」


そう言って繰り出すのはサインの話し。


リンクは契約書と聞いた瞬間に以前ミルゲスとした時の話を思いだしたのだ。その時は自分の母国の言語でよいと言われたが、今回もそうとは限らない。


「サインがどうかされましたか?」


問い返すメリアン。


ここは書いた方がいいだろう、と言う事でリンクはサインを書き込む。


「この様に私の文字はこちらの国の文字ではないのですが、大丈夫でしょうか?」


書き込んだのはリンク自身の名前。しかしながら文字はアルファベットであり、書類に使われている文字とは根本的に違う言語なのだ。


「そうですね、一応問題はありません。たまに国外の方が契約なされる時があるのですが、その時もその方の国の言語でサインを行ってもらいます。しかし・・・いえ、申し訳ありません。そのままで結構です」


説明したメリアンはまじまじとリンクが書いた文字に視線を落としている。


「これはアルファベットと言う文字ですね。私の母国ではこの文字が通常使用されています」


それ以上の説明は混乱を招く恐れがある。メリアンは聞きたそうにしていたが、リンクはそこで話を切った。彼女もこの後の仕事が重なっているのだろう、追及はしなかった。


「では明日の朝に彼女達にはお屋敷の方へ直接向かわせますので、宜しくお願い致します」


メリアンはリンクに向かって深々と頭を下げる。


 どうやらこの後からは彼女たちの引っ越し等の為に時間が設けられているのだ。彼女たちも今までともに過ごしてきた仲間たちとの別れもあるだろう。


「これで彼女達はここメイドギルドを卒業となります。貴方達、しっかりと働きご主人様に尽くしなさい」


最後の言葉は契約し、卒業となった3人の使用人に向けてだ。


彼女達は実質的な卒業は就職である。また一生の嫁ぎ先ともなり兼ねないのである。だからこそメイドギルドはここまでしっかりとサポートするのだ。


人一人の人生が左右される大事な卒業試験。それが自身の目で見て主人を決める、というものだったのだ。


「「「はいっ」」」


新たに社会に進出する3人の少女。


彼女達の門出はメイドギルド会長から直々に言葉を贈られることで始まったのだった。


 



さて、ようやく屋敷らしい使用人がそろってきました。使用人についてはいずれもっと増やすつもりです。それほどに大きい屋敷となると20人ほど必要なのが当たり前なので(どこ情報だよ)


では次の更新まで今しばらくお待ちください。

次の更新は3月4日の18時予定です。

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