第1話「異世界」
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2017年3月24日修正:本文の修正
2017年6月15日修正:誤字脱字および加筆修正
世界にイオスが現れた時、一番最初にそれ(・・)と会敵したのは俺の親父だったらしい。らしい、というのはすでに親父は死んでおり、また肉体と共にMEMの機体が帰ってこなかったため、直接確認が出来なかったからだ。
しかしながら公式の記録には交戦記録が残されており、太陽系軌道防衛軍の冥王星基地に監察官として派遣されていた親父は基地の職員を逃がすために奮闘したそうだ。
結果的に基地からの生還者はいなかったが記録という形で残っていたらしい。
父親を14歳で亡くし、5つ下の妹と二人を母は女で一人で育て上げた。まあ当然のことながら親父の保険金が軍から降り、その後の定期的な振り込みも確約されていたため生活に、金銭に困ることはなかった。
母の明るい性格もあり、ほとんど不自由なく育ち、18歳で士官学校を卒業するまで母には世話になりっぱなしだった。
軍に入隊後、各地の戦線を回るうちにどんどんとこの世界現状を嫌というほどに知ることが出来た。
まず第一に世界は平等ではない、と言える。それは当たり前のことだが、子供の頃はそれを信じて疑わなかった。発達した科学技術、そして両親の仕事の地位からも地球では上流階級と昔呼ばれていたような場所で暮らしていたのだ。
だから、というのは言い訳にしかすぎないがそのおかげでここまで育ったとも言える。
しかしながら現実に貧富の差として露骨に現れていたのだ。
西暦2575年のイオスとのファーストコンタクトの時、当時冥王星の軌道上には2つのコロニーがあった。その規模は50万人規模のものが二つであり、その中には冥王星の鉱山で働く労働者が大半を占めていた。
鉱物資源は有限である。その為地球外部からの資源調達は急務であり、資源豊かな冥王星とその周りにある資源衛星はその宝庫と言えた。コロニー開発当初に大量に送られた鉱山夫とその家族。最下級の労働者である彼らは非人道的まではないがギリギリの生活を送っていたのだ。
そんな時にそれは起きた。急なイオスの襲来だ。
襲撃から遅れ、ようやく本部から派遣された軌道防衛軍の艦隊が目にしたのは散々に破壊された二つのコロニーとその周りを無数に漂う凍り付いた死体の姿だった。
そんなイオスの襲来によって破壊されたコロニー都市は数えきれないほどあり、その死者の数を何時からか人々は数えないようになっていた。
さまざまな戦場を渡り、前線基地にて異動命令が来た時にはすでに24歳になっていた。
召集されたのは参謀本部直轄の特殊部隊、そしてその主な任務の内容は太陽系の外縁部に隠れているイオスの残党及び前線基地の破壊任務だった。
イオスの生態は十年近く戦っているのにも拘らずあまり解明されていない。その為彼らの前線基地を破壊するとともにイオスの行動なども調査する任務を内包していた。
長距離の移動と索敵、戦闘、など数々をこなしながら月日は流れ27歳。現在の階級は中佐である。
『・・・て・・・さ・・リ・ク!』
意識が反転し、今まで見ていたような夢のような空間から覚醒する。その直後に飛び込んでくるのは聴覚からの入力であり、どことなく懐かしさを感じる声だった。
『リンク!ようやく目を覚ましましたか』
まず最初に視界に飛び込んできたのは見慣れたMEMのコックピット。そしてそのモニターに表示されている機器の数値だ。
モニターには複数のエラー表示とそれらを回復中であることを示す数字の羅列が流れており、ざっと確認しただけでも数十に上っていることが分かる。
そして、続けて聴覚に入って来たのは聞きなれたルシアの声だ。
『2時間近くも気を失っていましたよ』
ルシアが言うには結構長い時間気を失っていたらしい。ここまでの長時間意識を失うなど久しい。
元々電脳に変えてからは脳震盪などの症状は起こることはまずない。だからこそ外的要因で意識がなくなるなど何かしらの理由があるとしか思えない。だが、まあ今はそんなことはどうでもいい。
「まずは現状を把握だ」
そう言うと所々が痛む体を無理やり動かす。元々改造している体で通常の人間よりも丈夫であり、体内にはナノマシンが循環している。だからこの打ち身も意識的に操作すればすぐに治るだろう。
『まずは私が覚えていることをお話します』
そう言うとルシアは記録映像を正面モニターに表示しながら話し出した。
『まずリンクが気を失った直後、私たちは母艦エッグリースごと時空嵐で生じた歪みに引き込まれました。その後数分間は何も見えない空間を彷徨い、私の意識も(・・・・・)ブラックアウトしました。そして気づいた時、私たちはこの星の大気圏に突入していました。私は急遽システムを再起動し、船体を安定させ着陸しました。そして現在に至るわけです』
端的だが最低限の情報を織り交ぜた説明。それをもう一度自分の頭の中で吟味させながら考えをまとめる。
「端的に言ったら、気づいたらここにいた、という事か」
「その通りです」
そう言ってリンクが見上げるのはモニター。そこにはいつの間にかその映像が映し出されている。見る限りどこかの草原のようであり、緑豊かな自然が見えた。
「見たところ地球なんだが」
リンクの記憶の中に保存されいてる(・・・・・・・)映像と一致するのは地球であり、それも自然豊かな幼い頃に数度尋ねた祖父母の家の裏山などに似ている。それほどに生息している植物が酷似していた。
元々緑色の植物は地球以外では確認されていない。それは太陽系内部に限った話ではあるが、イオスの襲来以降人類はその生存圏の拡大を中断せざるを得ない状況に陥っていたためだ。
それを知っている為自然とここが地球ではないか、という結論に至ったのだ。
『はい。私もそう思い大気分布を調べたところ驚くほどに地球と一致しました。ですが・・・』
そう言うとルシアはモニターの表示を変える。そこには星間図が表示されていた。
「これは・・・太陽系の星間図か?」
『はい。そしてこちらの図が先ほど地上から観測した現在の図になります』
そう言って表示されたのは太陽系と全く同じものであった。そしてご丁寧にも現在位置をも表示されている。
『残念ながら通信衛星を何も拾えませんでした。その点からいえば恐らく通信衛星などの通信機器自体が存在しない可能性があります』
「なんだそれ、20世紀よりも前に戻ったという事か?」
通信設備は20世紀後半に飛躍的に伸びた。これは人類史上最多の死者数を出した人類同士の戦争であり、第二次世界大戦という大きな戦争のおかげである。技術、それも科学技術に関していえば戦争程飛躍的に伸びるものはないだろう。
『いえ。残っていた時空嵐時のデータを解析したところ、わずかでしたが時間の流れを感知することが出来ました。これらを解析したところおよそ・・・』
「なんだ、お前らしくない。ハッキリ言ってくれ」
ルシアが言いよどむ、という事はそれなりに驚くことだろう。もしくは大事なことでもある。そう言う場合にのみこのような事があるのだ。
『はい。では率直に言います。現在のこの地球は私たちがいた西暦2588年から約1万年後、正確には9889年後という計算になります』
その言葉を聞いた瞬間、なぜかピースが嵌るように納得した。なぜか、と説明できないだろう。しかしながらそれほど驚くわけでもなく。また取り乱したりなどしない。
『意外と冷静ですね。私はてっきり取り乱すかと・・・』
「何年一緒にいるんだよ」
『そうでした。リンクの神経は図太いんでした』
リンクの口から僅かに笑いがこぼれる。
「じゃ、現状を改めて認識していこうか」
その後の調査で様々なことが分かった。
まずは俺たち側の機器についてだ。母船であるエッグリースは無傷、と言えるほどに完璧に作動していた。念のためすべてを点検させたが何も異常がなく、ついでに備蓄等の耐用年数を計算したが最低でも無補給で10年は持つというルシアの保証付きだ。
これは元々太陽系の外縁部を長期間調査及びイオスとの戦闘も織り交ぜた計画であり、その耐久性も高く設定されていたためだ。
そして次に俺が乗るMEMだ。こちらも何の問題もなく、しかしながら観測用に搭載していた装備は先の撤退時に放棄したためない。しかしながら戦闘に必要な物はすべてそろっており、また破損時用の修理部品も一通りそろっている。その為、余程の破損がない限り問題はないだろう。
万が一破損した場合でもエッグリースには小型の自動工房が搭載されている。これは中に金属等の材料を入れると自動で部品等を作成してくれるのだ。その為多少の部品交換等は問題がないと言える。
「設備関係は問題ないだろう。じゃ次はこっちの地球についてだ」
そういって改めて観測していたルシアの報告をリビングでくつろぎながら聞くことにした。ルシアはすでにサブ端末の人型に移し替え、モニターの前にまるで先生の様に立っている。
『では先ほど観測した報告をします』
そう言ってルシアはモニターに複数枚の画像を表示させる。
『これが現在の地球の周り、太陽系の星々の天体図になります』
そういい表示されたのは見慣れた太陽系のものだ。
『まず太陽ですがこれは何も変化はありません。強いて言うのであれば簡易観測の結果、星の寿命が約1万年短くなっているというところでしょうか。しかしながらまだ2億年ほどの活動は可能であると判断できます。また水星、金星も同じく変化は見られませんでした。そして地球ですが現在衛星がないためすべてを把握しておりませんので割愛します。次に地球の衛星の月ですが』
次に表示された画像にリンクは息を飲んだ。
『真っ二つになっています。端的に申し上げて綺麗に二つになっています。なにがおこってこうなったのかはわかりませんが』
そこに表示されていたのは綺麗に二等分された月の姿だった。
『高精度スキャンで三次元観測を行いましたがこれはおそらく高出力のレザーのようなもので切断されたようです。月の断面が綺麗なものですので』
「おいおい、月の直径ってそんな簡単に切れるものだったか?」
『約3474キロメートルです』
「そんなもんぶった切った奴がいるってのかよ」
驚き通り越してあきれてものが言えない、とはこの事だろう。
『しかしながら星の被害はこれだけではありません。火星は何も変わりありませんが木星は直径数百キロのクレーターを複数確認しており、また土星はリングの7割を消失しています。また冥王星は星の3分の1を損失しているようです』
「どこの阿呆がそんなことしたんだか」
その答えとしてはなんとなくではあるがリンクには予想がついた。
『これらの被害によってどこまで生態系が変化したかは解りませんが、おそらくは現在の地球にも少なからず影響を放っている可能性があります』
「まあそればかりは調査しない事にはわからないだろうが」
『同感です』
「よしっ、とりあえず当面の目標を決めたぞ」
そう言うとリンクは勢いよく立ち上がった。狭いとは言えコックピット内部は窮屈ではないのだ。
『と、言いますと?』
「まずは周辺の調査を兼ねて人などの知生体の検索。もし人がいるのであれば彼らと接触し、この1万年の歴史を探る。そしてまあこれは望み薄だが元に戻る方法を探すんだよ」
何とも大雑把だが希望的観測、とまではいかない。もちろんこの地球に知生体がいる可能性は否定できない。見た限り以前の地球とほとんど変わらない世界に見える。これだけ自然が豊かであれば動物は何かしら存在しているはずだ。
『了解しました。では手始めに周辺の知生体の検索に入ります。範囲はどれほどにしますか?』
「とりあえずは人がいる、という希望を持って周辺に知生体が固まっている町みたいな場所を探してくれ」
もし人間の様に知性を持った生命体が今でも存在しているのならば何らかの集落を形成している可能性がある。
これは人類が一人では生きていけない、というその弱さを補う為であり、生存の原則とも言えるものだ。
『分かりました。あと観測機を上げますか?』
偵察用の無人機は常にMEMと母船に装備されている。戦場ではイオスが反応するのが機械と人間の二つであり、偵察だけではなく囮などにも使えるからだ。
もちろん偵察の機能としても十分な性能を持っている。
「そうだな、発見されたり、鹵獲されるとまずい。まあそんなことはないとは思うが、今は控えてくれ」
知的生命体がいて、かつ彼らが無人偵察機に興味を示す可能性がある。万が一にも鹵獲されると技術の流失や情報の漏洩の可能性など様々な問題があるからだ。
『了解しました』
「頼んだ。じゃ、俺はとりあえず寝るわ」
いくら電脳に換装しているとはいえ、やはり人間には睡眠が必要なのだ。これを取らないと効率が落ちるのである。ちなみに軍でも睡眠は重要視され、強制睡眠薬の導入もされているほどだ。
『夜が明けたら起こせばよろしいですか?』
尋ねてくるのは起床時間だ。
夜が明けるというのは大まかに調査が終了するであろう概算時間が経過した時刻でもある。
「そうだな、そうしてくれ」
そう言い残しMEMを降りたリンクは格納庫内へと出る。
格納庫内部は空調や気圧等が完全に制御されており、また疑似重力も生成することが出来る。その為重力は宇宙空間では常に0.9Gほどに設定されている為、地球の重力である1Gにもさほど負荷を感じることはない。
自室へと消えるリンク。布団に潜り込むとすぐに眠気が襲ってきた。思っていた以上に疲労が蓄積していたらしい。
翌日、すがすがしく起きたリンクは素早く簡易的な朝食を胃に叩き込むとMEMに乗り込む。
「さて、検索結果を表示してくれ」
リンクの一言に反応して表示されたのは大規模なマップだった。これは昨日のうちにルシアが検索し、制作したものだ。
『検索範囲はエッグリースの索敵可能範囲の最大である半径1000キロに限定し、その結果ここから350キロほどの時点に大規模な街を発見しました。規模はおそらく100万人規模であり、知生体が人間かどうかまでは解りませんが、何かしらの知生体がいると思われます。その他にも少し距離をおいて数万人規模の集落を複数確認しました』
高精度スキャンの結果を淡々と報告するルシア。その声はどことなく誇らしげに聞こえるのは気のせいだろうか。
「そうか、まあ取り合えず知生体にヒットしてよかった。最悪野生動物との取っ組み合いになると思ってたからな」
『では、やはりこの集落に向かうのですか?』
「まあなんでもやはり情報というのが命の次に大事だ。時には命以上にな。だからこそ動かないといけない」
そう言うとてきぱきと準備を始めるリンク。
まずは自身の装備だ。
通常のMEMのパイロットスーツ、STRT2MBは薄いスパッツの様に体に張り付いている。これが防刃防弾対衝撃など様々な機能を持っているというので驚きだ。それに加え、多少のパワーアシスト機能を有しており、これだけでも通常の人間の数倍の筋力が発揮できる。
そして次にその上には対イオス格闘装備、STRT-AT-Bを装着する。体に張り付くスーツの上から密着した鎧を着るような装備である。
シートに座りながら自動で装着されるのは地上での戦闘を考慮して作られた装備だった。一見すると武骨なものに見えるがそれほど重いものでもない。
そして最適化を行い少し厚めの服を着ているような状態になる。これが強化外骨格と言われるパワードスーツだ。通常の20倍以上の力を引き出すことが出来る代物である。
最後に腰の後ろにあるホルスターに2丁の銃をなおす。これは対イオス用に作られた銃であり、使用するのはMEMが使用するのと同じくエネルギー弾である。小型のイオンリフレクターを内蔵した銃であり、火薬銃などと比べて弾倉の交換などの手間がいらない。電脳と直接リンクさせることで威力調整も出来るすぐれものだ。
そしてこの銃GRT-340にはもう一つの機能がついている。それがブレードモードだ。
グリップ部が稼働し、銃身と一直線になる。その後銃身から直線状にエネルギーブレードが形成されるのだ。ブレードの温度は約7900度で青白い光を放出している。もちろん触れば溶けるどころか蒸発するほどの高熱だ。そしてその刀身の長さは自在に調節できる。エネルギーも光が閉ざされた状態でも半年近く持つ構造になっている。
それを装備して完了だ。
『なかなかの重装備ですね』
準備を眺めていたルシアが一声かける。この装備は操縦者用に改良されているが通常の歩兵用の重装備である。値段もそれなりに張り、通常のMEMの半分ほどだ。
「まあ準備しとくにこしたことはないってね。何かあってからでは遅いからな」
念には念を入れて。いつもの大雑把な雰囲気は消え、軍人としてのオーラを放出させているリンクからルシアは事の重大さを感じる。
「まあそんな緊張しなさんな。何とかなる。俺に任せとけ」
そう軽く言うとリンクは白い歯を見せながら笑みを浮かべたのだった。
移動を開始したリンク。もちろん使用しているのはMEMだ。大きさからして目立つ機体だが現在は光学迷彩を展開しているため近づかない限りすぐにばれるものではない。
なぜエッグリースで移動しないか、というと。あれほど巨大な船体を移動させるのもどうかと考えたのだ。まず戦闘では邪魔になるのが目に見えている。エッグリースには武装が存在しない。
デブリ破壊用の短距離パルスレーザーを除けば武装と呼べるものは無いのだ。
だから置いてきた。
移動速度も時速500キロほどでゆっくりとしたペースである。というのも周りの状況を観察しながらの移動だからだ。
本気で移動すれば大気を揺るがし、地上に深刻な損害を起こす可能性があるからだ。
そんな移動を開始してから10分ほど、突如それは起きた。
『前方5キロに動体反応。人型35、そして巨大生物1』
突如声を上げたのはルシア。まるで戦場の様に淡々と状況を報告してくる。そしてそれは戦闘状況に入ったことを暗に示していた。
「望遠映像」
短く言葉を紡ぐと瞬間的に表示された映像を見る。そこには甲冑を着た中世ヨーロッパの騎士のような集団とそれらに守られるように中心にいる馬車4台。
そして一際存在感を出しているのは
「あれ、ドラゴン?」
小さい頃に好き好んで読んでいた昔のマンガやアニメ。リンクはそれらが好きだったためよく覚えていた。
『検索、過去の作品にヒット。恐らくはドラゴンで間違いないかと。私たちの認識としては、ですが』
「幻じゃないよな?」
『生命反応を検知。各種センサー正常。間違いありません』
そう話しているうちにまた一人ドラゴンにやられていく。どうやら見ている限りドラゴンは遊んでいるように見える。そうでない限りちまちまと倒す理由が見当たらないのだ。
『どうしますか?』
「そりゃ決まってるでしょう。軍人たるもの困っている人は見捨てられない」
そう言うとスラスターを吹かした。
ぐんと加速するMEMは地上から5メートルほどの上空を目にもとまらぬ速さで駆け抜ける。
たちまち音速を越えたMEMはすぐにドラゴンに接敵した。直後リンクはドラゴンを殴りつけた。それと同時に光学迷彩を解除する。戦闘機動では光学迷彩は長く維持できないのだ。
「GAaaaaaaaAAAA!!!!!!」
突然殴りつけられたことに怒りを覚えたのが、ドラゴンは咆哮で威嚇する。どうやら先ほどのパンチは今一つ効いていないようだ。
『馬鹿ですか?こんな原始的な攻撃手段など・・』
「まあそう言うなや。とりあえず敵の硬さはなんとなくわかった」
そう言うと素早く後ろに後退したリンクは右腕を伸ばす。するとそこに青白い剣が出現した。
『エネルギーブレードですか』
とりあえずリンクは今回データを取る事に徹するようだ。一合かち合ってあらかた相手の力量は見抜いたらしい。
気合一閃踏み込む。当然のことながら重量40トンを超す機体がそれほど素早く動けるはずがない。しかしながらMEMは地面に接していない。1メートルほどの高さで固定しているのだ。それはさながらスケートをする様に滑る移動。
そして各種の関節にはリニア式の駆動関節が盛り込まれている。それらの反応速度とトルクは現MEMで最高のものを使用している。
そして50メートルほどあった間合いは一瞬で詰められた。
ドラゴンの体長は優に100メートル近くある。しかしながら
「首落とせば死ぬだろう」
生物とはそんなものだ。イオスたちでさえ頭を破壊すれば活動が停止するのだ。
だからこそ狙うのは頭。しかしながらそこが弱点であるというのは敵も理解しているようだ。
反撃するように首を上げ、のどを震わせる。そして来るのは
『高熱源反応!』
ルシアの声が早いか、直後にドラゴンの口から赤色の火炎が吐き出される。確か以前読んだ書物にドラゴンは喉にある袋の中に可燃性の体液を貯め、それを放出することで火炎に変えるとあった。恐らく今の初動を見る限りそのようだ。
電脳によって加速された時間の中でそう思考するリンク。今にも到達しそうな火炎を捉えながら、しかし冷静に判断する。
「その程度の温度、ぬるま湯だ」
MEMは基本的に全天対応を基本コンセプトにしている。それは開発途中であった水星や金星での試験運転や。太陽に近づく実験などである。それらをクリアしたMEMであるRT-300シリーズ、しいてRT-320Cの対応温度は最大13000度まで耐えることが出来る。もちろん長時間は耐えることが出来ないが。通常はエネルギーシールドを表面に展開しているのだ。
だからこそ瞬時に測定され、最高温度が6000度ほどの火炎など問題ないと判断できた。
正面から受け、そして無傷で佇むMEM。それを見たドラゴンはすぐさま別の攻撃に入る。しかしながらその行動は
「遅すぎる」
一声の元、それは切断された。
大量の砂埃を発生させながら地面へと落ちたドラゴンの頭部。その重量は相当なものだったのだろう。MEM越しに地面到達時の音が聞こえてくる。
あっけなく終わったドラゴンとの戦闘。それはリンクにとって何とも簡単なものだった。
「こんなものなのか?」
物語に出てくるドラゴンと言ったら天変地異を言われるほどの存在なのだ。それこそ世界の破滅をもたらすほどの力を持っていることが多い。しかしながら先ほど戦ったドラゴンはそれほどまで強いとも思えなかった。
『我々の科学技術もすごいものですよ?』
何か納得できないようなリンクに声を掛ける。その言葉はこんなもんでは、と暗に示しているのだ。
「まあ、こんなもんかな」
そう言うと機体を地面に着地させた。
『おや、どうやら彼らから代表が近づいてくるようですよ?』
その言葉は先程ドラゴンが襲っていた商隊のメンバーであり、その護衛隊から選抜された数名の騎士と、おそらくは商人であろう中年の男が後ろをついて来ている。そんな彼らの容姿は遠巻きにでも人間であると判断できた。
未だに100メートルほど距離があるとはゆえ、これほどの巨大な機体では怖いだろう。
そう思いリンクはおもむろにスコープグラスを掛けるとハッチを開けた。スコープグラスは様々な機能を持つサングラスのようなもので電脳とリンクし暗視からMEMの操作まで一通りの操作をアシストする。また視覚部を保護する目的もある。
そして今回は素性を隠す、という意味合いも込めていた。
機体胸部のハッチが開き、その動きにびくりとこちらに向かってきている人々が反応している。
『未知の存在でしょうから怖いのは仕方がありません』
いつの間にかグラスに移動したデフォルメルシアが肩をすくめている。
そんな姿を見ながらリンクは慣れた手つきで降りてゆく。手と足を引っかけワイヤーによって地上へと降り立った。
そんなリンクを遠巻きに除いていた3人の騎士と一人の商人。彼らはようやくリンクが人だと理解し、それでも恐る恐ると言った感じで近づいて来た。そして僅か1メートルほどの距離を残して対面する。
3人の騎士は未だに緊張した面持ちで武器を構えたままだ。多少の無礼はこの際仕方がないだろう。なんせ未知との遭遇に他ならないのだから。
「さて、ファーストコンタクトはどうでしょうかね」
自分だけにしか聞こえないほどの声量でそう言ったリンクはにこやかな笑顔を彼らに向ける。そしてようやく彼らから紡ぎだされた言葉は
「,@/23o9go,v:.voakv,bmlbm;b?」
「すいません、理解できません」
ものの数秒で敗れたのだった。
さて、明日は更新しませんが二日置きの更新でこれからも頑張っていきたいと思います。また旧作の方についてはプロット等の修正が出来次第ご報告しますのでお待ちください。