第10話「長と新しい仲間」
すいません、お待たせしました。第9話約10000文字です。
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2017年6月27日修正:サブタイトルの変更
第3階層に到達したリンク達はすぐにギルドへと戻って来ていた。その理由としては全員の疲労もそうであるが一番は化物祭のギルドへの報告である。
転送陣より姿を現し、帰還するとすぐにリンクはギルドの受け付けへと向かう。リアは換金所へ行っている。役割分担である。
リンクと共にギルドの受け付けへと向かったのはパーティーメンバーを全て失ったアイシャと奴隷メイドのエリナである。エリナは言わずもがな、アイシャはパーティーメンバーの死亡報告とその時の事情説明である。
リンクとしては代わりに自分が言ってもいい、とアイシャに提案したのだがすぐに断られた。彼女なりのプライドなど考えもあるのだろう。リンクは特に何も言うことなく了承したのだ。
そんな一行が向かうのはギルド受け付け。始めに冒険者登録へと向かったカウンターとは違う窓口である。
「こんにちは、本日はどの様な御用件でしょうか?」
受け付けで迎えてくれたのは登録カウンターの受付嬢よりも少し歳上の女性だった。お揃いの制服は同じだが、あの少女には無かった大人の色気というものが感じられる。
「迷宮内での事なんですけど」
受付嬢といえギルドではそれなりに下の職である。そんな彼女に最初から重要な話を振るのは躊躇われた。しかしながら上級職の者に取り次いでもらうにしろ話を通さないといけないのは事実である。アポイントも何もないのだ、だから受付嬢に言うしかない。
「実は報告しなければいけない事がありまして」
暗にここでは話せない、という様な雰囲気を出すリンク。すると鋭いのか、それとも慣れているのか、また両方なのかはわからないが受付嬢は直ぐに反応する。
「畏まりました。では奥の個室へとご案内致しますので」
そう言うと受付嬢は立ち上がり、カウンターから出て来た。受付は全ての窓口の横から外へと出られる様になっているのだ。
受付嬢が案内したのはカウンターから少し横のドアを入り、すぐの個室だった。リンク達の様な余り口外できない様な話や個人的な話などを行う際にこの個室を利用するのだ。
「どうぞ」
そう言い受付嬢は扉を開く。木製の扉は思った以上に厚く、声などが外に漏れない様になっている。
そんな入り口をくぐり、リンク達3人は中へと入った。
勧められるままに席に座った3人は目の前に座る受付嬢へと視線を向ける。
「それで、どの様な御用件なのでしょうか?」
リンク達の目の前のソファーに腰を下ろした受付嬢は開口一番そう言った。聴き取りも業務の一環なのだろうが早めに上級職の者と変わってほしいものだ。
しかしながらそう考えていてもそれは向こうの判断だ。こちらから言うのも憚られる。
「はい。先程も言ったように迷宮内での事になります」
そう告げ、リンクはアイシャへと視線を向けた。
「まずは彼女の事から話さないといけません」
そう振るとリンクは話し出した。
「私たちのパーティーは第2階層を攻略していました。今日の予定では第3階層まで攻略する予定で順調に攻略していました。ですが、その攻略途中で彼女と出会いました」
そう言って視線を向けるのはアイシャである。現在の彼女は視線を下げ、うつむいた状態である。これから話されるのは自分の事とは言え、ほとんど記憶がなくまた曖昧なのだ。だからこそその時の状況説明はリンクが行っている。
「彼女を発見した時はほとんど満身創痍で辛うじて意識がある状態でした。すぐに治療し、話を聞くと化物祭に遭遇したそうです」
その言葉を聞いた瞬間に受付嬢の表情が変わる。
「お待ち下さい。今しがた化物祭、と聞こえましたが、間違いありませんか?」
信じられない、とでも信じたくない、とでも聞こえる受付嬢の声。
「はい。彼女はそう言い、意識を失いました。その後彼女を介抱しようとするとモンスターと遭遇しました。それが通常の数ではなく、合計で300ほどの集団でした」
そこまで聞いた受付嬢は顔色を変え、立ち上がる。
「すいません、私では対応できませんので上の者を呼んで参ります」
そう告げると足早に部屋を出ていった。
「やっぱり、結構重要な事?」
そんな受付嬢を見てリンクは不思議そうにエリナへと顔を向ける。リンクがいた軌道防衛軍では例外が起こるなど当たり前の事だった。
事前に調査した内容とも違う事も多く、現場ではその様な事はいちいち上に伺いを立てる暇もなく、またその多さに押しつぶされているような状態でもあった。
要するにイオスと迷宮という常識が通用しない相手と事を構える時はその様な事は当たり前である、という事なのだろう。
「確かに第2階層で化物祭が発生した事例はありません。ですので即座に対応する為に上の者が出てくる事は仕方がないことかと」
リンクとしてはすでに化物祭は排除しているのだ。今後も起こらない、という確証はないが、すでに第2階層と第3階層の入り口までは安全は確認しているのだ。
なのでそこまで急を要する案件ではないと思っていた。しかしながらギルドはそう受け取らなかったらしい。
「お待たせ致しました」
そう言って部屋に入ってきたのは初老の男だった。頭には半分ほど白が入り、顔には多くの皺が刻まれている。
「私が冒険者ギルドルグルス王都ギルド長のアルガス・メイグルと申します」
部屋に入って来たのはここルグルス王都のギルド最高責任者である男だった。受付嬢は上の者、という事で最高責任者であるこの初老アルガスを連れてきたのだ。
「これは丁寧に、私はリンクと言います」
アルガスの自己紹介とは相反してリンクは短く自己紹介をした。冒険者であること以外はあまり知られたくない、というのがリンクの本音である。
「お噂はかねがね。登録してから数日で第3階層に到達なされたとか」
先ほどの短い時間ですでにリンクの情報を調べて来ていた。それについては予想していたためそう驚かなかったが次に続く言葉でリンクは目を見開くことになる。
「それに大商会のリナーグル商会の会頭と仲良くされているとか」
ギルドの長ともなればそれなりに情報が集まるのだろう。大商会ともなるミルゲスとの関係が多少漏れてはいるだろうと予想はしていたのだ。
「まあ、ええ、ミルゲスさんとは旅の道中でお会いしまして多少腕に自信がありますので少しお手伝いしたまでです」
リンクとしても現段階では嘘をついていない。つく必要はそこまで感じないが情報をあまり与えるのもどうかと考えている。
「そうですか。ああ、そう言えばリナーグル商会はつい最近古代竜を討伐されたとか、中々にうらやましいものです。なに私も後20ほど若かったら参加していたのですが」
そう言い笑いを飛ばすアルガス。しかしながらその瞳は笑っておらず、鋭い視線をリンクへと向けている。
「それは、確かに古代竜の討伐については耳に挟んでいますよ。私もぜひ参加したかったですがね」
あくまでもリンクは古代竜討伐には参加していない、と言うのが話の前提である。ミルゲスにも硬く約束してもらってはいるが人の口に戸は建てられない、とは言ったものだ。
しかしながらその前提を先に言っておかないといけない。しかしそこまで言った時にふと横から声がかかる。
「ギルド長、世間話もそこら辺にしてください。問題は化物祭です」
口を挟んだのは先程の受付嬢だ。どうやら受付嬢の中でも意外と役職的位置は高いらしい。
「おう、そうであった」
受付嬢からたしなめられまるで思いだしたようにアルガスは呟くと改めて顔をリンクへと向けた。
「お話は確かリンク殿が大量のモンスターに遭遇したところまで、と聞いております。そこまでの話を総合的に判断しギルドは第2階層において化物祭が発生したと受け取りました。そこでリンク殿にはなるべくその時の状況を報告していただきたいと思います。その情報により討伐隊の構成に大きく影響しますので」
そう言うとアルガスは視線で受付嬢に紙を用意させる。メモを取らせるのだろう。しかしながら化物祭はすでにリンクの手によって討伐されている。そのまま第3階層まで到達していることからも後続がいるとは考えにくいのだ。
「言葉を濁すようで申し訳ないがすでに化物祭の集団はすべて討伐しました」
そう告げるリンク。当たり前の様に告げられたリンクの言葉に、しかしながらアルガスは驚きを見せなかった。
「第3階層から帰還されている、という報告を聞いたときにはもしやとは思っておりましたが、やはりすでに討伐済でしたか」
アルガスとしても半場予想できていたのだろう。転送陣には冒険者の情報が登録されている。そこから情報をすでに得ていたのであろう。だからこそ驚きが少なかった。
「彼女を見つけた時にはすでに集団の先頭に発見されていました。当初は撤退をしようとも考えましたがそれでは追撃を受けかねない、と判断し私単独で対処しました」
そう言ったリンクの言葉にアルガスの眉がピクリと反応する。
「いま、単独でと仰いましたか?」
アルガスが反応したのはリンク一人で対処した、という言葉である。
「はい、そう言いましたが?」
リンクとしても今の言葉はまずかった、と思ったが後の祭りである。だからこそそのまま話を合わせるように言葉を続ける。だが話を聞いたギルド長のアルガスは目を丸くしたままである。
「確か化物祭の規模は300ほどであったと、そう聞いておりますが・・・」
モンスター一匹の戦闘力は上層にあたる第10階層ほどまでならばそう高くはない。しかしながら上層のモンスターは基本的に群れで行動する。だからこそ連携やその数が厄介であり、中でも化物祭と呼ばれる異常事態は格段に警戒されるものなのだ。
「ゴブリンが300ほどで中には数十匹のハウンドウルフも混じってましたね」
正式な数は数えきれていないがリアたちが回収した魔石や部位からもそれほどの数であると推測は立つだろう。だからこそ嘘はつかずに正直に報告した。ハウンドウルフは第2階層よりもさらに下の階層のモンスターである。それらの報告も忘れないリンク。
「それほどの数をお一人で、ですか?」
次に驚きの声を上げたのは受付嬢である。彼女にしてみても何時も受け付けをやっている為、冒険者のランク別での力量は大体把握しているつもりである。
「確かに数は厄介ですが冷静に対処すればそこまで脅威のある相手ではありませんよ?」
実際に戦うまでは分からなかったが、ゴブリン一匹にしてもそこまで脅威ではない。リンクにしてみれば子供の相手をしている様なものなのだ。
「いやいや、化物祭ですよ?」
リンクは知らないが化物祭では毎回の様に大量の死者が出ているのだ。発生するプロセスも不明であり、またその集団は一つの階層だけではなくなぜか上層を目指し進軍する。なので毎回数階層に渡り蹂躙を許し、多数の冒険者が襲われるのだ。
それを知っている受付嬢とギルド長であるアルガスは驚きを隠せない。
「リンク殿、貴方の力量がどれほどなのか、申し訳ないが我々は知らないのです。通常化物祭というのは上位ランクの冒険者を数十名雇い対処する者です。いくらランクが高い冒険者でも一人で対応できるものではありませんよ」
半分呆れたような口調でいうアルガス。
「まあ、しかしながら倒せてしまったのは事実でして」
リンクは仕方がないとばかりに腰の武装に手を回す。そこには愛用している武装デバイスである銃がホルスターに収まっている。
「私は少し特殊な武装を使います。その特殊性に関連してあまり口外しないようにお願いできますか?」
まだ武装を出さない。その説明も口外しない、という約束の上で成り立つものだ。それほどにリンクはこの世界に銃が入り込むことを恐れている。
「・・・わかりました。ギルドとしてもあなたの強さの秘密を知りたい、お約束しましょう」
渋々、とまではいかないが納得したリンクは腰から一丁のみ抜き出し、目の前のテーブルへと置いた。
「これは銃という武器です。簡単に説明すると内部で魔法が発動し、矢よりも高速で飛び出し、標的にあたるものです」
そう説明するリンク。すでにリンク以外のメンバーすべての視線がその銃に注がれていた。
「普通の魔法具とは違うようですね」
すぐに判断できたのかアルガスが問いかける。恐らく以前に魔法具と呼ばれる魔法で動作する武器を使用したことがあるのだろう。
「魔法具、と言うのは私は知りませんがこの銃のいいところは誰でも使えます」
実際にはセーフティとして使用者制限があり、登録されている者のみが使用できるようになっている。高性能であるからこそ敵に使用されては元も子のないからだ。
「ほう、誰でもですか」
すぐに視線を鋭くするアルガス。その眼には使ってみたい、という意思が見える。先程出した魔法具と言うものは魔法が使える者しか扱えない。しかしながら魔力に関しては魔法具の中に蓄積されているので問題ないのだが。
「もちろん使用するにも細かな制限はあります。しかし通常であれば特殊な能力は必要ないのです」
もともと火薬銃であった時代では誰もが使用できた。
確かにそれなりに訓練しなければ的に当たらず、また仲間に当たるという不祥事を起こしかねない。21世紀ではその銃の所持者は軍属だけではなく、民間人が保有する量の方が多かった時代もあったのだ。
「それは、すごいものですね。それで威力はどれほどのものなのでしょうか?」
銃そのものの説明はすでに必要ないのだろう、次に知りたくなるのはその効果だ。
「そうですね、一番低い威力のもので対人、少なくとも人間を一撃で絶命させることが出来る威力を秘めています。もちろん当たり所によってはそうとも限りませんが」
事実この武装の対人モードでは四肢に当たると吹き飛ばすほどの威力を秘めてはいる。しかしながらそれが致命傷と言うわけではないのだ。即死を狙うのであれば急所である胴体か頭部に集約されるだろう。
「衝撃を与える面積が極めて狭く、しかし貫通力は高いので扱いは剣などに比べると難しいですね」
実際に剣を使うリンクとしても電脳の補助があるからこそあれだけ使用できるのだ。もちろんなくても使用できるように訓練はしているがそもそもが電脳とリンクすることを前提に作られた武装なのだ。だからこそそれらにそこまでの意味はないと言える。
「ほう、一番低い威力でそれほどですか」
そう呟く、アルガスはではと続ける。
「最大の威力と言うのはどれほどのものでしょうか」
次の質問はリンクが予想していたものだった。最低限の力と最大限の力を知るのは必要なことだ。しかしながらすべてを開示するつもりもないリンク。そのまま言うのは躊躇われる。
「そうですね、正確に表現できませんが、まあ奥の手みたいなものなのでそれはご勘弁を」
濁すことでやんわりと断るリンク。アルガスは残念そうに表情を浮かべると、仕方ないとばかりに話を変える。
「わかりました。まあそれほどの武装をお持ちであるならば御強いのも納得できます。これは近々ランクを上げなければいけませんな」
ギルドとしてもなるべく力量にあったランクに上がってほしいと思っているのだ。それによって受けるクエストも増え、結果的には良い結果になるためだ。
「今回の化物祭を退けたリンク殿のランクは少なくとも黒以上であることが証明されたも同然、特別措置を取る必要もあるかもしれません」
リンクのような事例が過去になかった訳ではない。田舎から出てきたぽっと出の若者が元々地元で培った技術ですでに赤ランクに到達していた、などという話もあるにはあるのだ。
そんな現在の力量に合わないランクに長い間居座るとギルドとしても損失になりかねない。だからこそ特別措置を提案したのだ。
「特別措置とは?」
聞きなれない言葉にいち早くリンクが反応する。
「通常ランクは一つづつ上げていく必要があります。しかしながらすでに高い力量をお持ちの冒険者の為に飛び級制度と言うものが存在します。それが特別措置、という事です」
飛び級制度、それはランクを一つづつではなく、一度にまとめて飛び越すことのできる制度である。
この制度は特別措置と言われるように通常の規約には表示されていない、いわば裏規約なのだ。
当然の事ながらこれを行うにはギルド長の承認が必要である。
「確か普通にランクを上げるためにはギルド指定のクエストをこなす必要があったはずですが」
確認のためにリンクが問いかける。思い出すのはエリナから教わった知識である。
「はい、確かにギルド指定のクエストを完了させることによって一定の力量があると判断され、上のランクに上がれるのです」
「では私も同じようにクエストをクリアすればよいのですか?」
ランクアップ用の試験項目であギルド指定のクエストは各ランクに決められてある。それらをこなすことでランクアップできるのだが、その内容はリンクは知らない。
「そうですね、今回は緊急措置としてこちらが用意した召喚獣と戦っていただきます」
そう告げた瞬間一番に反応した人物がいた。
「ギルド長!!」
受付嬢だ。彼女はアルガスの言葉に激しく反応していた。
「それはっ!」
何やらその内容を知っているようだが、すぐさまアルガスによって制される。
「ミリンダ、黙りなさい」
ギルド長である初老の言葉は意外にも重く、受付嬢でしかないミリンダと呼ばれた女性はすぐに口を閉じた。
「あの、一体どのような試験内容になるのでしょうか?」
気になったリンクはすぐに問いかける。自分に直結するもの事については知りたくなるのはしょうがない事だろう。
「簡単に言うとこちらで用意した召喚獣と戦闘を行ってもらいます。その結果によってどのランクを差し上げるかを判断する、と言うものです」
「召喚獣、ですか」
召喚獣、それは迷宮の中でふとリアが溢した言葉だ。それ以外にそれに関する知識がリンクには存在しない。
「万が一のために高位の治癒魔法使いを傍に待機させますので遠慮なく戦ってください」
「召喚獣が相手、と言うのであればこちらも全力で構いませんか?」
リンクとしてはあまり自分の力を知られたくない、というのもあるが冒険者をやっていく上ではある程度ランクがないと不自然であるし、また些か面倒事もある。その為結果としてリンクはその試験を受けようと判断したのだ。
「それは遠慮なく、その試験の結果でリンク殿の力が分かりますので。まああくまで戦闘力という限定的な力ではありますが」
しかしながら冒険者というのはほとんどの場合において戦闘能力が優先される。いくら頭がよく、作戦があろうとそれを実行できる者がいなければ作戦自体が成り立たないのだから。
「わかりました、ではその試験受けましょう」
「ありがとうございます」
最終的に日時の調整をしてリンク達は個室を後にする。
結局の所アイシャのパーティメンバーの話しは短くなってしまったが、彼等の遺族には手厚くギルドから報酬がでるとの事だった。
その理由としては化物祭を早期に発見し、それを報告したという事だった。実際にはアイシャ一人生き残ったが、それによってギルドに情報がもたらされた、と言う事になったらしい。
そんなアイシャを連れギルドホールに戻って来た時だった。
「・・・リンク、さん」
辛うじて聞こえてくる程の声量が聞こえて来た。その声の主の方向に視線を向けたリンクは驚きの声をあげた。
「リア!?」
なぜ疑問系なのか、という理由はすぐにわかる。
「大丈夫ですか?」
さっとフォローに入るのはエリナだ。
辛うじて持てているのであろう袋をその小柄な体で、必死に持ち抱えていたのだ。
エリナが代わりに持った事で軽くなった荷物を恨めしげに睨みながら、リアが報告してくる。
「アイテムの換金が終わりました」
どうやらリアが必死に抱えていたのは換金した報酬だった様だ。
「それにしても大量だな」
この世界の貨幣は基本的に金属を使っている。その為どうしても多くのなるとかさばり、重くなるのだ。
そうならない為にも主要施設には両替屋がいるのだが、あまりに重かった為そこまでも行けないでいたらしい。
「はい。全部で、えっと・・・」
流石にすぐには計算出来ないのだろう。両手の指を折りながら数えるリア。その仕草がとでも可愛らしく、リンクは自然と笑みをこぼす。
「金貨9枚と銀貨80枚になりました」
バラバラに入っている銀貨や銅貨を合計したのだろう、明らかに報告してきた金額の貨幣よりも多い袋を手にしている。
「ありがとうリア、両替に行かないとな」
そう言うとリンクは袋を持っているエリナやリアを引き連れ両替商へと足を運ぶ。そして文字通り金貨9枚と銀貨80枚に変えてきた。
「さて、じゃお待ちかねの報酬分けと行きますか」
冒険者たちの一番の関心事と言えば報酬であろう。リンクもお金には困っていないが実際に自分で働いて手にしたお金と言うものは一味違うのだ。
しかしながらその中でも一人浮いている人物がいた。もちろんアイシャである。
彼女はギルドへの仲間の死亡報告を済ませ、成り行きとはいえ未だにリンク達と行動を共にしていた。
「おっと、その前に」
アイシャの存在に気づいていたリンクは両手を上げ皆を制す。別段お金にがめついわけでもないエリナとすでにお金に執着していないリアはすぐさまリンクの意図に気づく。
「アイシャ、一ついいかい?」
リンクからしたらここにいるメンバーがすべて年下である。リンク自身も外見だけならば18歳の時の手術以降あまり変わっていないので実際の歳よりも若く見えるだろう。
そんなリンクはアイシャへと問いかけた。
「君はこれからどうするんだ?」
今まで一緒に潜っていたメンバーはすべて死亡している。それを知っていてなお今後を尋ねるのは心苦しい。しかしながらそれを確認しなければいけなかった。
「そう、ですね。私は魔法使いです、ですので一人で潜ることはできません。なので新しいパーティーメンバーを探します」
アイシャの判断は妥当なものだ。火力はあれど汎用性や即応性に欠ける魔法使いは基本的に刀剣などを持った前衛が必要になる。たまに例外もいるが殆どの場合が遠距離型なのだ。
だからこそ迷宮に一人で潜るなんてことは出来ない。しようと思えばできるのだが殆ど自殺ものだろう。
「そうか。そう言えば一つ心当たりがあるんだが」
アイシャの言葉を聞いて、ふとリンクが口を開く。
そのリンクの言葉に横にいたエリナとリアの視線がリンクへと刺さる。どうやら二人も心当たりがあるようだ。しかしながら当の本人であるアイシャがそれを知っているわけがない。
「え?どこでしょうか、出来れば是非紹介していただけないでしょうか」
冒険者と言うものは基本的に安定した給金と言うものが存在さいない。
クエストをこなすか、迷宮に潜るかしないと生きていくことも出来ないのだ。
「そうだな、そのパーティーの条件が一つあってな」
未だに気づいていないアイシャに向けてリンクは意地悪そうに表情を変える。まるで悪戯をしている少年のような表情だ。
「そのパーティーに入るためには同じ食卓で飯を食べる、ってのが条件なんだが」
そう言ってリンクは視線をエリナへと向ける。すると無言のアイコンタクトでエリナは頷きを返す。
「どうだろう、この後家で夕食でもいかがかな?」
その言葉を伝えてようやくアイシャは理解できたらしい。
「え、もっもしかしてそのパーティーっていうのはリンクさんのパーティーですか?」
現在リンクのパーティーにはメンバーが3人。前衛から戦闘まですべてをこなすリンク。冒険者としての多くの知識を持つ奴隷のエリナ。そして荷物運びがメインの補助者リアである。
そんなパーティーの為回復役が存在しない。
戦闘において怪我と言うものはついて回る。その為回復はおのずと必要になってくるのだが回復薬と言うものは基本的に高価である。
理由としては希少な薬草と専門の魔法使いが居てようやく生成できるのだ。それも効果としては数段階に分かれ、一番下の切り傷程度をすぐに治してしまう回復薬でも銀貨10枚と高いのだ。
「見ての通りうちのパーティーには魔法使いが居ない。回復もそうだが俺以外に遠距離攻撃できるメンバーがいないのは少し心配していてな」
そう言ってリンクは視線をアイシャへと向ける。
「どうだ?良ければうちのパーティーに入ってくれないか?」
アイシャに3人からの視線が向けられる。しかしながらすでにその時点でアイシャの心は決まっていた。
「私などでよければ、是非っ!」
そうしてアイシャのパーティー加入が正式に決まったのだった。
やっと更新することが出来ました。次の話もすでに書き始めてはいますが、おそらく更新は20日になるかと・・・・
では更新までしばらくお待ちください。