花火師ドラン
護送まで残り四日
リュウ達はアランを救出する作戦を企てた。
その作戦の中には花火が必要だった。
そこでリュウ、ミンス、ナフは花火師ドランを訪ねた。
暖かく湿った空気が肌にこびりつく曇りの昼時。
リュウ、ミンス、ナフは職人街に足を踏み入れていた。
連なる家からは様々な臭いが漂っていた。
「なんて言ったっけ作戦」
ナフにリュウが尋ねた。
「臨機応変作戦だよりゅう君、次忘れたらあの服着せるからね?」
リュウは肩を浮かせた。
リュウが顔を両手で隠すと
「リュウさん安心してください、男だと誰もわかりませんよあのかわいさ」
ミンスがフォローすると
「かわいくねえ、おれは男だぞ」
「リュウさんそんなことよりさっきそこで買ったんですけど見てくださいこの人形」
ミンスが口を開けたシメン鳥の人形を指の間に挟むみこむと
「チュピッピー」
甲高い音が人形から発した。
「かわいいですよねこれ」
「どこがだよ、白目向いてんじゃねええかその人形、気持ち悪い」
「そうですか? かわいいと思うんですけどねう~ん」
「チュッピーチュッピー」
ミンスは少し落ち込んで音を鳴らしながら歩いた。
木や薬などの臭いがする建物がある道をしばらく進むと強烈な火薬の臭いがするボロ小屋がリュウ達の前に現れた。
リュウ達はそこで一呼吸すると煙を吸い込んだように激しくむせた。
リュウが扉を開けるとほこりが吹き込み、目にごみがこびり付く、
「ドランさん居ますか? 頼み事があるんですが」
「ひっく、ぼくちんは今お酒飲むのに忙しいの、悪いけど帰ってくれ」
ドランは玄関より1m段差のある畳の上でぐったりと仰向けに倒れ、小さなコップの中にある酒を
口から上に垂直にしてじょろじょろと酒を垂らし、口に運んでいた。ドランのまわりには花火に使う大筒がいくつも散らばっていた。
その畳の奥にある木製の机には紙の上に火薬の黒い粉と金属の鉄粉がばら撒かれていた。
「ちょっと、大丈夫ですか? 酔いすぎですよ」
ミンスが倒れていたドランを重そうにしながら座り立たせると
座るのを維持できず、手で押されてる背中にもたれ掛かった。
「重いです、ドランさんお願いします、話だけでも聞いてください。花火大会したくないんですか?」
ミンスの言葉に反応したのかミンスの抑える力に反発する背中はじょじょに倒れる力を抜き、
自立した。
「やりたいよ、ぼくちんだって。でも鉄粉が足りないんだよ!」
怒鳴り散らして立ち上がると、ドンドンと足音を立てて机の引き出しから紙を取り出し、
リュウ達に見せ付けた。
花火は金属の炎色反応で様々な色を生み出す。
紙には5個の金属の名前が書かれ、5つの名前の内4つだけに赤い丸が付いていた。
「いいじゃないですか4つでも」
ナフが言うと
「花火に何万掛かると思ってんだてめえは! 金掛けて手抜きなんて男が廃るだろうがバカタレ!」
「で、ですよね~」
ナフはドランの一喝に怯え、話から口を引っ込めた。
「チュッピーチュピー」
ミンスは大きな声におもわず挟んでいた人形を鳴らした。
「おめーそれ、キクちゃんの商品じゃねえか」
ドランは鼻息を荒くして人形を挟んだ手を両手で掴み上げた。
「きゃっ!」
ミンスが怒鳴られるのを覚悟すると
「それ、くれねえか」
ドランは赤い顔をしてミンスに問いかけると
「いいですけど、なんで欲しいんですか?」
ミンスが質問を返すとドランは恥ずかしそうにミンスの耳元に近づく。
酒の臭いがする口にミンスはつーんと顔をしかめ付けた。
ドランは小声で
「キクちゃんが好きなんだよ」
ミンスはしかめ面を変えて目を光らせた。
「好きいいいい!」
ミンスは大声を発すると
「あああもうむさいやつらに聞かれたくなかったのになーぼくちん恥ずかしいなー」
ドランは指と指でつんつんとしながらしょげこんだ。
「なんだっ」
リュウは握りこぶしを上げようとするとその手をミンスは包み込みドランと話始めた。
「ねえドランさん好きになった理由はなんですか?」
ミンスはわくわくとしゃべると
「バ、一回だけだぞお」
「はい」
「花びっ!」
ナフが遮ろうとするとミンスは落ちていた布をナフの口に詰め込んだ。
「あれは花火大会の日、筒の最終調整を終え、一汗掻いていたら」
ドランは首に巻きつけたタオルで顔を拭っていると背後から
「大変でしたねえ、これお礼です。花火楽しみにしてます」
足をもじもじとさせた女性がドランに話しかけた。
「あ、ありがとうね」
「はい。では」
ニコニコと笑顔を見せたその女性はゆっくりとドランから離れていった。
「有名なぼくちんに媚を売るような笑顔じゃなく、本当に花火をしてくれるぼくちんにうれしいって思ってくれる笑顔をキクちゃんはしてくれたんだ。その時からぼくちんはキクちゃんが・・・・・・ってもう恥ずかしいいい」
「私もドキドキしちゃいました。告白はしたんですか?」
「いや、してないよ」
ミンスはバンっと音を鳴らすと
「しましょうよ今、したらきっと仕事も良くなりますよ」
「そうかなあ」
「ええ!」
ミンスはドランをキクの店まで引っ張り出した。
状況を理解できずにいるリュウとナフがたどたどしく追いかけた。
リュウは舌打ちをしながら歩いていると
「リュウ君、今はミンスちゃんに任せて置きましょう、彼女なりの考えがあるんです・・・・・・たぶん」
「ただああいう話が好きなだけだと思うけどなおれは」
リュウはイライラしながら答えた。
「そうかもしれなくもなくもない」
ナフが苦笑しながら言った。
「どっちだよ」
ミンスとドランは一つの建物の前で足を止めた。
ドランが戸を開けるのに躊躇しているとミンスは人形をドランに渡した。
「それで勇気をつけて下さい。だいじょうぶです、うまくいきますよ」
ドランは鳥の人形を握り締め、声を発した。
「キクちゃん居る?」
「はいはい、居ますよ。よっこいしょあ~痛たたた。腰が弱くってね」
・・・・・・
リュウとナフは息を呑んだ。
「まさかあのババアに惚れてんのかこのおっさん」
リュウはナフに話しかけたつもりだったが
「お前今、キクちゃんのことなんて言った? 返答次第じゃただじゃ済まさねーぞ」
ドランはリュウの顔を睨みつけた。
リュウは冷や汗を額に垂らすと
「か、かわいい人だな~ひゅーひゅー」
リュウは苦し紛れに言うと
ドランはリュウの頭を大きな手で掴み、
「そうかそうか、違いのわかる男はモテるぞ坊主」
「へ、へえ~」
「痛たた、なんだい・・・・・・ああドランじゃないか、どうしたんだい?」
紫の髪をした老婆はリュウとナフの目には魔女のように映っていた。
だがミンスの目には乙女フィルターが装着されていた。
「あ、あのキクちゃんぼくちん、キクちゃんのこと好きなんだ」
ドランはキクの前に手を差し出し頭を下げた。
ミンスは鼓動を早めた。
・・・・・・
頭を下げたまま沈黙が続いた。
するとリュウが
「立ったまま寝てるぞそのばば、その人」
ドランが頭を上げると鼻ちょうちんをぶら下げたキクが目を閉じていた。
「ええちょっとキクちゃん起きて」
ドランが肩を揺すると
「ぶはっごめんねえドラン、眠くってね~最近、それでゴハンいつ食べたって話だっけえ?」
「違うよ、ぼくちんがキクちゃんのこと好きって言ったの!」
「ええ? すき焼き?」
「違う! 好き! キクちゃんぼくちんと付き合ってくれ」
「へええ!? ドランあなた・・・・・・」
突然キクはかすれ声から若々しい声に変化し、頬を染め始めた。
「どうなんだ? 答えは」
キクはドランの体をちょこんと突きはねた。
「そんな急に、やだ化粧してないじゃない私」
キクは戸から部屋に戻ろうとするとドランはキクの腕を掴んだ。
「そのままでいいぜキクちゃん」
「ドラン、あなた」
ドランとキクは腕を組んだ。
「ありがとう、シスターさんぼくちん勇気出せたよ。ぼくちん達の愛があれば何でも乗り越えられる気がしてきた」
「おめでとうございます、お似合いです」
ミンスは二人の前で拍手をした。
リュウとナフはその光景に吐き気を催した。
「恋に歳の差なんて関係ないんですね! リュウさん」
「そ、そうだなうっぷ、おれちょっと今しゃべれねえからよ花火の件言っといてくれようっぷ」
「おれもちょっと気分が優れないんで頼みますミンスちゃん」
「もうなんですかお二人さん、せっかくカップルが誕生してめでたい空気なのに。
そうだ花火、ドランさんやる気でましたか?」
ミンスが問いかけるとドランは自信満々に
「もっちろん、今ならなんでもできそうだよ」
「そうですか、ありがとうございます、その花火大会の日にちを護送する日にしてくれませんか?」
「護送? ああ魔族のかなんで?」
「パ、パレードみたいにしたいなあって」
「よくわからんがお前さんのおかげで実った恋だ、頼みは聞くぜ」
「やった、ありがとうございます」
ドランは調子よく答えたあとすぐに顔をしかめた。
「あ、でも鉄粉が足りないんだよさっきも言ったけど、今更手に入らねえしどっすかなあ」
ミンスは喜びから笑顔を無くした。
「それなら私の商品使いなさい」
ドランの腕に抱きついていたキクが話しかけた。
「いいんですか?」
ミンスが質問すると手を振りながら
「いいのいいの、若いもんががんばりたいってんなら老婆はその踏み台にならにゃね、それに私は今恋
に忙しんだから」
「いいのかよキクちゃん」
「いいのよあ・な・た」
「キクちゃん! もうこいつ~」
ドランはキクのしわしわの頬を指で何度か突っついた。
「よしじゃあ、二日で作ってやっからよ待ってな」
「はい!」
リュウ達はナフの家に戻った。
護送まで残り4日