迷える羊、アラン
プロローグ
100年前、4大陸で作られた世界、シエルブに突如人間という種族が出現する。
が、魔族の力に及ばない人間は魔族の奴隷として飼われていた。
時が経ち、人間が現れてから80年、年々増える人間の数がついに魔族の数を上回ると
魔王は人間に恐怖を抱き、人口減少のためにさらに過酷な労働を敷く。
圧政に80年間の溜め込んだ人間の怒りは各地で蜂起。
人間が反乱を起こし大義名分を得た魔王は魔王城から幹部8人を各地に派遣。
派遣直後から順調な戦果を上げ、魔族が有利に見えた。
派遣してから5年、膠着状態の戦争は幹部の一人が魔王城への報告を途絶し、戦況はついに人間が押し返た。
ほかの7人の幹部の力で要所は落とされず、時はさらに15年を過ぎる。
要所への兵派遣で力を失った魔王城に勇者カーラン率いる大軍勢が押し寄せた。
魔王は息子を逃がすため転移魔法を使用。
魔王は一人残り、激闘の末光の柱に包まれ倒された。
緑の草原が橙色に染まりつつ影を落としていく中にひっそりと教会が建っていた。
「おおー神よ今日も迷える子羊を救ってくださいませ」
大きな像の下に一人、座り込んだ黒いローブ。
この教会で働くただ一人の修道士、彼女の名前はシスターミンス、23歳。
町の人間の相談役。
左右に柱が連立し、真ん中には赤色の大きい絨毯とその上に幅の小さい黄色の絨毯が折り重なる。
ミンスは立ち上がり、いつものように慈しむことを胸に誓った。
そんなミンスの背後で重い扉が内側の壁に叩きつけられる衝突音が響く。
身の毛を立てながらローブ振り向くと小さな子供が教会の中へと入り、ミンスの近くまで寄る。
「あ、あらようこそ。私の名前はシスターミンス、ミンスとお呼びください。あなたのお名前は?」
ミンスは白い髪を片手でたくし上げて子供の目線まで腰を下ろした。
少年はミンスの問いに耳を貸すこともせず、周囲を見渡す。
額の汗を土などで汚れた上着でふき取ると目を前に向けた。
「そこの女! おれ様をここに止めさせろ」
のぶしつけな物言いにミンスはむすっと顔を膨らませた。
口に含んだ空気をいきおいよく一息で吐き出す。
ゆっくりと腰を上げ、ミンスは圧をかけて声を発した。
「あなた! お願いを言うより名前を言うのが先じゃなくて」
拳骨が頭にぶつかり、両手で抱えこんだ少年に対してミンスは目を細くした。
少年は手を丸め込み拳を作ろうとするが何かを思いだしたように手を緩める。
ミンスを睨みながら床を三回ほど足で叩く。
少年は声を抑えて名前を答えた。
「おれ様は世界を震撼させた魔・・・・・・いやアランだ今のは忘れてくれ」
アランは何か言い間違え、えばった顔と裏腹に背中からびしょびしょの汗が溢れ服に染み込む。
ミンスは腕を腰に置き顔を笑顔に変えて二回ほど頷いた。
ミンスはアランの体を下から上へと目をやり、再び目を腰まで下ろした。
「アランさん。その剣は勇者さんだから持っているんですか?」
武器は勇者などの職種でしか所持してはいけない法律が人間側の法律に定められていた。
その事を屋敷の本で読んだのを思い出したアランは動転しきった脳で知恵を振り絞ると
「そ、そーだよ勇者様さ、だから泊めさせてもらうぞ」
そう言いながらアランは木製の長いすに腰をかけた。
アランは垂れる足を腕で抱えいすの上であぐらを組む。
アランが深呼吸をして目を瞑った直後まぶた越しにもわかるまぶしい黒い光が部屋を照らした。
椅子の上に立ちアランは鞘から黒い剣を抜く。
光源のミンスの首から垂れるペンダントを凝視した。
「お、おい女、まさかおれ様に攻撃するきか?」
「いえ、別に攻撃するきじゃないですよ。 昨日占い師さんにもらった物です」
ミンスは慌てふためき、ペンダントを胸の谷間にしまった。
アランも動揺しつつ攻撃の意思がないことを確認し、剣を鞘に戻した。
「いいですよここは教会ですから。誰のものでもありません」
数日前
ラジェンは倒れ行く狭間で魂だけをアランの紋章に宿すと静かに地面に突っ伏した。
かつて人間を恐怖に陥れた魔王の城は光の柱が映えると瞬く間に消滅。
勇者は魔王ラジェンを倒した。
「よくやったわ勇者カーラン」
ぼよぼよと弾力のある白いボールの上で大王は落ちないようにバランスを取る。
大王の周りには大王が落ちないようにボールを支える男たちがいた。
「はっ、ですが大王様、魔王を倒してもまだ魔族たちは世界にはびこっています。それに魔王の子がいるとかいないとか」
金一色の部屋でカーランはひざをつく。
「なんやて、魔王に子がいるなんて聞いたことないわ、ホンマにそなら脅威やわ~もっかい魔族を束ね、世界を恐怖にいてこまされてまう」
大王はボールの上で上下に激しく体を動かした。
その瞬間片腕を支えからはずした大臣の方に大王の体が傾く。
「あ、だだ、大王お、お許しを」
倒れた大王は王冠を被り直して立ちあがった。
「あかんあかん、あかん事したら罰受けなあかんよなあ!」
大王はボールを持ち上げて大臣に何度もたたきつけた。
その大臣から離れたほかの大臣達はほっと肩を落とした。
「ああん! お前ら安心したやろいまあ。弾力なめたらあかんで」
そう言うと腕を高くあげボールを振り落とした。
「ふぐっ!」
叩きつけられた大臣の体はボールに覆われ周りに衝撃波がふく。
ボールが大臣から転げ落ちる。
大臣の体は綺麗にボール型にへこんでいた。
「これ壊れたから運んどいてな」
ほかの大臣達はあまりの事に声を発せず放心していたが大王の声に身の毛が立つ。
「か、かしこまりましああ」
大臣達は声を裏返し死んだ大臣を運ぶ。
「すまんなあ勇者騒がしくて」
「大丈夫です。 それより魔族は私達勇者が倒さなければいけないほど強くありませんそこで・・・ ・・・」
次の日
「号外だ! 号外だ! ギルドが立ち上がるぞ。魔族を討伐するんだとよ」
王様は勇者カーランをギルドマスターに置いたギルド、デーモンキルを創設。
「アランぼっちゃん、ここは私目が食い止めます」
アランのと繋いでいた大きなガドンの手はほどける。
そのまま背中のこん棒にその手をかける。
「へへ、あれ子供の魔族か?人間に見えるがまあいいか。それとヘボヘボのオークかよ笑、安いんだよなーこういうの」
人間が二人、オークとアランに襲いるとオークのガドンが二人の勇者に大きなこん棒で立ち向かう。
「さあ、ぼっちゃんはやく、私もすぐ行きますから」
ふりかざしたこん棒の攻撃は二人を相手でもゆうゆうとした姿を保つ。
「はやく! 屋敷の外はたくさんの人間がいます。ですがどうがご無事で未来の魔王様」
アランはその場から逃走している間、
かすかに聞こえるこん棒の音を頼りにガドンの安全を確認する。
「はあ、はあ、中なかやるじゃねーか、豚が!」
こん棒の音が止まる。
アランは汗と共にこぼれそうになったしずくをふき取る。
走りを止め歩きながら進み始めると茂みを抜け平原の中に一つ、建物が建っていた。アランは入り口を探す。
もみくしゃに汚れた顔を入って怪しまれないよう服の裏地でふき、アランは教会に訪れた。
「あ、あのーアランさん?」
「なあ女、ここに誰か来たらおれのこと言わないでくれ」
ミンスはアランの不安な表情を醸し出してからしばらく沈黙する。
その面からとてつもなく疲弊してるのを感じ取ったミンスは問い詰めるのを止めた。
「いいですよ、あと次に女って呼び方しましたらまた殴りますからね」
アランは不安な顔を変化させてじょじょに気落ちしていく。
足は重く、木のきしむ音と共に階段を上った。
アランは二階に上り、
きれいとは言えない少しほこりをかぶったベッドに腰をかけると自分でも気づかないうちにすやすやと寝にふけた。
ミンスはパンを一個と野菜のスープをトレーの上に乗せ片手で持って、もう片方でろうそくに火を灯してアランの寝室に訪れた。
ミンスはそっとベッドの横の小さな木椅子に座る。
寝ているアランの頭上にあるベッドと同じ高さのタンス。
その上にミンスは火を置いた。
「色々聞きたいことがありますが今日はゆっくりお休みなさい」
ミンスがアランの頬を撫でた。
「ああぁ!」
アランは魔族狩りによる絶え間ない恐怖がうめき声へとでる。
ミンスは人々の悩みを聞いてきたが
これほど涙を流し、苦しんだ顔をする少年を見たことがなかった。
頬から手をすぐに離し、その場を去る。
刺激しないよう、ミンスはろうそくの火を小さなカップでふたして消火した。
ミンスも自分の寝室に入り静かに就寝する。
その晩、ミンスは自分の使命を神から授けられたかのような夢を見た。
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太陽が昇りはじめて草原の草花が明るい緑へと変化していく。
平原を二人の男達の影が教会の扉へと近づいていき
到達すると三回ほど扉に付いている小さな鐘から垂れたひもを引いた。
「シスターミンス、いますか」
アランはミンスの部屋に行きミンスの体を揺らした。
「ふーんみゃうみゃう」
「ミンス起きろ、誰か来てるぞおい起きろ」
アランがミンスの部屋に入るとミンスは頭に丸いポンポンをつけた帽子をかぶりながらぶかぶかの寝巻きをはだけて寝ていた。
「ひっくしょん! はい、今すぐ行きます待っててください」
ミンスは突然起き上がり、くしゃみと共にアランの顔につばを吐き出して
アランが隣にいることにまったく気づかずアランを吹っ飛ばして部屋を出た。
腰をポンポン叩きながら起き上がると寝室の窓から声が聞こえる。
ドアを叩いた者とミンスが会話してるのだろうとアランは思い、
窓から外を覗くと昨日追ってきた二人組みの勇者がミンスと話していた。
「ええ、どうぞ中へ」
その会話を聞いた直後、驚きの余り生唾を飲んだ。
罠に嵌められた。
アランは急いで支度をし、二階にある食べ物と日常品をベットの布にくるみ背中に乗せた。
そして、寝室の窓から外の壁を落ちないようゆっくり降りる。
降りるのが思いの外うまくいき安心した瞬間
壁の脆いひずみに足をかけ
「ガコン」
包んだ物が散らばりその上にアランは背中から落下。
「おい、なんの音だ」
二人の男は教会を出ると、白い布を被った小さな人のような形をしたものが奔走していた。
「おい! 止まれ。そこで何をしている」
勇者の一人の荒々しい声が背後から聞こえても布を頭からかぶったアランは一直進に足を踏み出す。
平原に大きな風が吹き、アランの被っていた布はひらひらと宙に舞う。
「てめー、森にいた魔族のクソガキ」
騒ぎながら、二人の男はミンスの手から食料袋を強引に受け取った。
「コール、お前は町に先回りしろ」
頭がボサボサして鞘に入れずむき出しになって太陽の光も反射しない錆びれた大剣を背中に持つ男が
仲間に方角を指で示した。
そうすると銀色のピアスを鼻に付けたハゲ男は嫌々そうにマーダの指示に賛同した。
「ああ、わかったマーダ」
二人組の一人が追いかけるのを止め、走る方向を変える。
息が切れ、背後に二人組みの影が見えなくなり足を止めた。
巻いたか?そう確信し、集中が途切れると
耳にじわじわと雑音が伝わる。
アランは人の町に入ってしまっていた。
大きなマーチ上のレッテルと書かれた看板ゲートを抜けると、どこまでも続くような様々な出店があり、
出店の上には白いコンクリートの高低差がたいしてない同じような家が林立していた。
奥には何本もの柱のような塔が束になった、白の屋根に赤い壁の城があった。
アランは人混みを服で顔を隠しながらどこか休める場所を探索する。
町に先回りしていたコールはアランらしき人影を人混みの中を掻き分けて追いかけた。
目の前の杖を持った老人を荒々しくどかす。
「ちっどこ行った」
アランは道路の脇道を歩いていると
壁と壁の間の小さな道から腕をつかまれ、そのまま大通りから姿を消した。
捕まった! 絶望仕掛けると澄んだ高い声がアランのすぐ目の前に聞こえる。
腕をつかまれ前のめりに倒れたアランは少し沈黙した。
「おい、お前も食いもん盗む気か?」
子供の声? 確信を得るためアランは顔を上げる。
そこには三人のアランと同い歳ぐらいの子供達がいた。
アランは立ち上がり、膝についた泥を手で払い、上着で手を拭う。
ほっと溜息を混じらせ
少し怒ったような口調で答えると
「ああ? 汚いガキと一緒にすんな、あっちいってろシッシ」
3人のうち、髪を二つに束ねた、茶色の髪の子供と頭をきれいに刈り上げた坊主の子供が頬を膨らませてこちらに近づいてくる。、
下僕にしようと画策したアランは力でねじ伏せるためドヤりながら腰に手を置く。
が、ドヤ顏はすぐさま不安な顔に変化した。
剣が付いていなかった。
仕方なくアランは二人の子供と戦う構えをする。
「待て! 子分をバカにされておれが戦わないでどうする。お前は下がれ」
二人の奥から蓋のついたゴミ箱の上に座っていた黒い髪の体が細い子供が前に出た。
それと同時に前の二人は何度か頭を下げて黒髪の子供の背後に戻る。
「おいおい、こんなチビがお前らの頭か? おれ様は構わねーけどよハハ」
「ああ、リュウさんにその言葉は禁止でやんす。リュウさん落ち着いてでやんす」
子分が後ろからリュウの肩をなでると
深呼吸を一回するとオーランの手をどかす。
「チビじゃ・・・・・・おれはチビじゃねええええええええ」
リュウが顔を上げしかめ面をするとアランに急に走りこみむ。
脇に体を入れ、そのまま腕を掴み背後のゴミ箱にアランを投げ飛ばした。
アランは背中に衝撃が走り、ゴミ箱から崩れ落ちた。
手についたほこりを両手で叩きながらアランを凝視。
「殺す殺す殺す、チビじゃねえおれはチビじゃねえ」
リュウは背後の子分を掻き分け、アランに追撃を加えようと壁に立てかけてある木の棒を持ち、
アランに突きを入れようとした。
咄嗟にアランは頭にかぶった蓋を盾がわりに使いリュウの突きを防いぐ。
防がれた反動でリュウは体を少し揺らした。
リュウが突きを防がれて足をすくみ片足が後ろに踏み込んだその動作の間に
アランは盾をリュウの腹に向かって思い切り突き上げる
片足を地面につけた時すでにアランはリュウの懐に潜り込んでいた。
リュウはその瞬間我に返った。
棒を捨て、アランの顔に向けて頭突きをする。
子分が心配した声でリュウを呼ぶと同時にアランの額は一瞬にして痛みが染み込み、膝の力が抜け、
仰向けに倒れた。
リュウも腹に丸い蓋の突きを受け、腹を抱えながらくず折れた。
倒れたアランは意識をかすかに残し、その間心で悔しさが溢れる。
力の差が僅差であったからだ。
リュウは倒したのを確認しないとと壁をつたい腹を抱えながらリュウはなんとか立ち上がった。
「リュウさん大丈夫ですか」
「触るなおれは大丈夫だ。」
リュウと子分はアランに近づいた。
「こいつ伸びてますよ。リュウさんの勝ちですね」
リュウは澄ました顔で坊主頭を軽く殴った。
「痛いですよリュウさん。なにするんですか」
「ふん」
リュウは顔を背けた。すると少女はため息をつく。
オーランがリュウに疑問げに問いかけようとすると
茶髪の女の子、カオンがオーランの口を手で塞ぐ。
オーランはカオンの手を解くと
「なにするんだよ」
「それはこっちのセリフよ、リュウさんは今勝てると行き舞えて相打ちで倒れちゃって
落ち込んでるのよ」
カオンの言葉でやっと理解したのかオーランは手を合わせて目配りをしてリュウに反省の色を伝えた。
カオンがオーランに小言を何度か言うたびにリュウは心に矢を射られたような反応を示した。
それに要約気づいたのかカオン達は申し訳なく
「なんでもないですよーリュウさーん」
と。オーランとカオンはヘラヘラと笑った。
「で、どーしますリュウさんこいつ」
リュウはアランに目をやった。
「よし、アジトまで連れてけ」
「わかりました、ほらオーラン足持ってこいつの」
続く