異世界講座 4
や……やっと、スキルを磨く日々が終わった……。
スキルは一朝一夕には上達は見込めないからと、磨く為に取られた日数は1ヶ月だった。
私は最初の1週間は毎日朝から夕方まで、魔法をストックしては使う、をただ繰り返していたけれど、魔術師の男性が唐突に『ちょっと幾つか実験してみるか』と言い出してからの2日間は、地獄と化した。
まず、実験その1。
今現在、一体いくつまで魔法をストックできるのか。
それを知る為に、とりあえず使うのをやめ、ただひたすらストックする事にした。
これはすぐにわかった。
この時点では、3個の魔法をストックできた。
4個目はいくらスキルを使おうとしてもストックできず、私は何回か男性の魔法の餌食になった。
すぐに治癒魔法をかけて治して貰ったけど、あの痛みは忘れられない。
次に、実験その2。
今現在、どの程度の威力の魔法ならストックできるのか。
これもすぐにわかった。
攻撃・支援・治癒魔法それぞれで、初期に覚える、所謂初歩的な魔法のみストックできた。
一番初めにストックした"火炎・小"と同じランクの魔法だ。
それ以上のランクの魔法をストックしようとしてもできず、私はまた何回か男性の魔法の餌食になった。
すぐに治癒魔法で治して貰ったけど、あの痛みはやっぱり忘れられない。
最後に、実験その3。
ストックした魔法は使うまでストックされたままなのかどうか。
一定の時間が経過するとストーンが自然に消えないかどうかを、男性は知りたかったらしい。
なのでストックしたストーンをひとつだけ残し、他の2つのストーンでまたストックして使うを繰り返す事になった。
そのストーンは今だに消えず残っているから、少なくともそうすぐに消える事はないみたい。
けれどもうしばらくはストックしたまま、様子を見てみようと思う。
もしいつか消えてしまうなら、どれくらいの日数で消えるのか、把握しておいたほうがいいと思うから。
とにかく、そんなこんなで1ヶ月の訓練を終えた私のスキルは現在レベルがひとつ上がり、ストックできる数がひとつだけ増えた。
ストックできる威力のほうは、残念ながら変わりはなかったけれど。
……それを確認する為に、私がまた男性の魔法の餌食になった事は、言うまでもない。
★ ☆ ★ ☆ ★
「お久しぶりです、皆さん。お元気でしたか? スキルは無事上達なさったでしょうか。残念ながらレベルがひとつも上がらなかった方も、これからも諦めずにスキルを磨いて下さいね。継続して訓練する事が大切ですよ」
1ヶ月ぶりに会う文官さんは、やっぱり以前と変わらない様子で私達の前に立ち、穏やかにそう言った。
……ああ、1ヶ月間ずっとあの魔術師さんの俺様発言を聞いていたせいか、文官さんの穏やかな話し方がなんだか嬉しい……。
癒されるって、こういう事をいうのかな……。
「さて、今日は個別に面談をします。貴女方に教えるべき事は全てお教えしたので、明日からは実際に街へ出て職業体験をして戴きます。その為に、貴女方一人一人の能力やスキルを考慮して、それに沿った職業に絞って体験するよう、話し合いをしましょう。では廊下側の端の方から、隣室へ来て下さい」
文官さんはそう言うと、部屋の扉へ向かった。
廊下側の端の席に座っていた女性が立ち上がり、それに続いて部屋を出ていく。
……明日からは、職業体験かぁ。
私の能力やスキルに沿った職業って、何だろう?
……技術力と信仰心は"劣"だったから、とりあえず製作系や神官・巫女系はないね、うん。
"やや劣"だったのは運動と芸術性だったっけ。
運動は頑張れば多少はなんとかなるかもだけど……芸術関連の職業は、自分的にないかなぁ。
うん、ないない。
それ以外は"並"だったけど……う~ん?
何の職業にしたらいいんだろう……。
う~~~~~ん……?
「シズル・ホウジョウさん、シズル・ホウジョウさん。面談、次は貴女の番よ」
「……えっ? わ、わわ! ご、ごめんなさい! ありがとうございます!」
考えに没頭していると、かなりの時間が経っていたのか、気づけば私の隣に座っていた女性が面談を終えたらしく、私に声をかけてくれていた。
私は慌てて席を立ち、隣の部屋へ向かった。
★ ☆ ★ ☆ ★
「お待たせしました、シズル・ホウジョウさん。さあどうぞ、お座り下さい」
初めて入った隣の部屋は、当然ながら、今までいた会議室のような部屋と同じ大きさだった。
違うのは、こちらには机と椅子が、部屋の中央にぽつんと2つずつ並んで置かれているだけ、という点だろうか。
まあ、これは単に今日の面談の為にそうしてあるだけかもしれないけど。
2つある椅子のうち、空いているほうに私が座ると、文官さんと向かい合う形になった。
「では、面談を始めましょう。シズル・ホウジョウさん、まずは貴女のステータスを表示して下さい」
「あ、はい。ステータス!」
文官さんに促され、私は目の前に自分のステータスを表示させた。
能力などに書かれている文字は……うん、何も変わっていない。
「ふむ……なるほど。能力は、一般的なものですね」
私のステータスを一瞥して、文官さんは表情を変えずにそう呟いた。
……いいんですよ、文官さん。
"一般的"だなんて気を使った言い方なんてしなくても。
どうぞはっきりと"平凡"だと言って下さいませ。
「……貴女のステータスで目を引くのは、やはり、スキルでしょうか。貴女のスキルは私が初めて聞くものですし、別の女性達を教えている者達もそれは同じでした。希少なスキルであれば、その有用性は大いにあります。なので、貴女の職業体験はスキルを活かせるものをと思うのですが、いかがでしょうか?」
私がちょっといじけた事を考えていると、文官さんは真剣な表情でそう切り出してきた。
その態度で、真面目に私の職業の事を考えて話してくれているのがわかる。
……どうにもならない事でいじけてる場合じゃないや、私もちゃんと真面目に考えなきゃ、文官さんに失礼だ。
「スキルを、活かせる職業? たとえば、どんなものですか?」
「そうですね……貴女のスキルは、魔法をストックするものですから、どこかの領主様に仕え、天災などによる田畑の干ばつや雪崩れ、落盤事故などの解決の為、水魔法をストックして運んだり、火魔法や雷魔法や治癒魔法をストックして運び使用する役を担う、という方法がありますね」
「えっ……りょ、領主様に仕える、ですか?」
「はい。あとは……冒険者ギルドか教会に属しても、同じ方法が使えます。依頼として舞い込む事が多々ありましょうから。……ああ、冒険者ギルドなら、魔術師がいないパーティーに入って、受ける依頼に必要そうな魔法をストックして赴く、という方法もありますね」
「教会に……冒険者ギルド、ですか」
う~ん……天災や雪崩れや落盤事故なんてそう頻繁には起こらないだろうし……というか頻繁に起こらないで欲しいし、冒険者ギルドに属して文官さんが言うような方法を取るのが、一番いいのかなぁ?
「……じゃあ、文官さん。私の職業体験、冒険者ギルドに行ってみます」
「……そう、ですか。わかりました。では、ひとまず冒険者見習いとして街のギルドの依頼を受けれるよう、手配しておきます」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「……ですが、シズル・ホウジョウさん。貴女方女性は貴重な存在です。くれぐれも、大きな危険が伴うような依頼はお受けにならないよう、お願い申し上げます」
「え……あ、は、はい。わかりました」
「本当ですか? お約束下さいますね?」
「は、はい。約束します」
文官さんの真剣な表情と声色に、私はこくこくと頷いた。
……けど、文官さん。
ひとつ、質問してもいいですか?
"貴重な存在だから危険な事はしないで"って言うなら、あの俺様魔術師さんが私に味合わせてくれたあの危険な地獄体験は、何だったんですか?
彼はすぐに治癒魔法を使って治せるから、"危険"の範疇には入らなかったんでしょうか?
教えて下さい……。




