新生活準備 4
旅に必要な物を全て買い揃えてお城に帰ると、私はその足で文官さんを訪ねる事にした。
いつもの会議室に行けば会えるかなと思って扉を開けると、そこに文官さんはいた。
慈しむような眼差しを1人の女性へと向けながら、向かい合って座っている。
そして……その女性の髪を一房手に取り、口付けていた。
「……え、あ、え……?」
すぐには状況が飲み込めず、私が間抜けな声を出すと、文官さんはハッとしたような顔をして、女性から離れた。
そして部屋の入り口にいる私へと視線を向けた。
「シ、シズル・ホウジョウさん……!! わ、私に何か、ご用ですかっ?」
私と目が合うと、文官さんは僅かに顔を赤らめて、しどろもどろになりながらそう問いかけ、こちらへ向かって歩いてきた。
「……あ……え……と……魔動宮が、造魔師で、魔石とくじを見つけに……」
「え……? ……造魔師? 魔石……魔動宮?」
今見た光景の衝撃から立ち直っていない私は、意味不明な言葉を紡いでしまった。
しかしそれを聞いた文官さんは直ぐ様表情を引き締めて真顔になり、単語を拾って繰り返した。
「それに、くじですか……。……シズル・ホウジョウさん。貴女の用件は"造魔師になりたいから魔動宮に魔石を探しに行きたい。だから付き添い兼護衛を決める為にくじを引きたい"でよろしいでしょうか?」
「はっ、はいっ」
続いた文官さんの問いに、私は大きく頷いて肯定の返事を返した。
あの意味不明な台詞から単語だけを拾って的確な意図を読むとか、文官さんは頭の回転が良いらしい。
さすがだ。
「そうですか……わかりました。貴女方がしかと生活できるように支援するのが今の私の仕事です。急ぎ上と交渉して、適した人材を派遣して戴けるよう頑張るとしましょう。シズル・ホウジョウさん。明日の朝、またおいで下さい」
「え……?」
上と交渉?
適した人材の派遣?
え、何それ……ど、どういう事?
「えっと……文官さん? 私は、魔動宮に魔石を見つけに行くだけですよ?」
「え? ……ああ……かの腹黒騎士殿は、造魔師について詳しい説明をしなかったのですね?」
「く、詳しい説明? 造魔師は、魔石を使って人工生命体を造るって……。エサは主人の魔力だから、エサ代がかからないって教えてくれましたけど……?」
「はい。……けれどその魔石は、見つけるのが大変難しいのです。それ故に造魔師は不人気の職で、この国でも造魔師は数える程しかおりません。苦労して魔石を探して生命体を造る造魔師になるくらいなら、頻繁に出会う魔物を仲間にする従魔師になるほうが遥かに楽ですから」
「えっ……!? そ、そうなんですか……ええと、じゃあ……ああ、でも、エサ代が……えっと。……ぞ、造魔師は……駄目ですか……?」
文官さんの話を聞いて、途端に不安になった私は一瞬それなら従魔師にと考え、けれどエサ代の問題を思い出し、恐る恐る文官さんに問いかけた。
「いえ、決して駄目という事は。けれど、シズル・ホウジョウさん。確認しますが、本当に造魔師が良いのですか? 今も申し上げたように、従魔師のほうが楽ですが」
「あ……えっと、あの。従魔師だと、仲間にした魔物のエサ代が必要になるでしょう? もしたくさん仲間にすれば、たくさん必要になりますから……そういう点で、造魔師のほうがいいかなと、思うんですけど……」
「……エサ代……? …………。……な、なるほど、わかりました。ではやはり、上と交渉して参ります。この城に出入りしている造魔師の方に協力して戴けるように。彼らなら、魔石を見つける事にも幾分か長けておられるでしょうから」
「あ……! お願いします!」
「はい」
文官さんはひとつ頷くと、次いで、後ろを振り返った。
「すみません、仕事が入りました。話の続きは、またの機会に。近いうちに必ず時間を作りますから」
申し訳なさそうに眉を下げ、どこか残念そうに文官さんがそう言うと、中にいた女性は少し寂しそうに笑ってこくりと頷いた。
私は露骨にならないように注意して女性を見るも、それは全く知らない女性だった。
もしかしたら私のように召喚された女性ではなく、元からこの世界に生を受けた女性なのかもしれない。
「ではシズル・ホウジョウさん、また明日の朝、お会いしましょう」
「あ、はい。……あの、文官さん。お邪魔をして、ごめんなさい」
「……ふ、構いませんよ。彼女との時間はまた作りますから、お気になさらずに。それでは失礼します」
文官さんは謝る私に笑顔で首を振り、去って行った。
私はもう一度部屋の中に視線を移して、女性に向かってペコリと頭を下げると、自分の部屋へと、帰って行った。
そして、翌日。
私が引いた最後のくじには、"特上"と書かれていた。
今日は魔石入手まで書くつもりだったのにここで力尽きてしいました……さすがGW、恐るべし。