新生活準備 3
「それじゃまずは、武器・防具屋に行くとしましょうか。旅に適した丈夫な服や防寒具も、そこで買えますから」
ハロさんにそう言われ、私は今、武器・防具屋を訪れている。
買い物の為の資金は、あの後文官さんに貰った。
この資金は"これからの生活の為に使うお金"という事で、最初の日に話された"5年間暮らしていけるお金"の中の一部から出されているらしい。
だから無駄遣いはできない。
このお金は私だけでなく、ユーイン君とルーイン君の生活費でもあるんだから。
本当に必要な物だけを買わなくちゃ。
それも、できるだけ安く。
「ハロさん、ハロさん! 私の武器、このナイフなんてどうでしょう? 剣より軽いし、お値段も手頃ですし!」
「うん、ねぇ、お嬢さん」
「はい」
「馬鹿ですか?」
「…………えっ?」
剣が並ぶ棚を横目で眺めながら通り過ぎ、ナイフの棚で足を止めて、手に取って見始めた私が意見を聞くと、ハロさんは開口一番、笑顔で言い放った。
その内容に私はピシリと固まる。
「"えっ?"じゃないでしょう。ナイフを選ぶなんて、お嬢さん、前に出て戦うつもりですか? 死にますよ?」
「え……あっ!?」
そっ、そっか、ナイフって、接近戦用の武器だよね……!
うん、そんなの無理!
「えっと、えっと、じゃあ……あっ、投げナイフとかなら……!」
私は慌てて持っていたナイフを棚に戻し、投げナイフを探してキョロキョロと視線をさまよせた。
「……うん、まあ、投げナイフなら悪くはないですけど。でも、お嬢さん? お嬢さんは戦闘職、何につくつもりなんです? まずはそこから考えるべきじゃあないですか?」
「え、戦闘職……ですか?」
「そう。まあお嬢さんはどう見ても戦闘は苦手そうだから、後衛職でしょうね。となると、従魔師なんかどうです? 魔物を捕まえて調教して戦わせる職。昔から、冒険者ギルドに属する女性には人気の職らしいですよ?」
「従魔師……ですか。う~ん……それは、ちょっと……」
「え、どうしてです?」
「……だって、魔物を仲間にするんでしょう? そうなると当然、魔物のエサ代が食費として増えますよね? 仲間にしたら仲間にしただけかかる食費が増えるって……。たくさん依頼を受けて必死で稼がなきゃいけなくなります」
「……は……? ……ぶっ! はは、はははっ……!」
「なっ!? わ、笑い事じゃないですよハロさん! 私は真剣に……!」
「いや……ははっ、失礼。……けどそれなら、エサ代がかからなければいいんですよね? なら、造魔師になったらどうです?」
「え? 造魔師……?」
「はい。この世界には魔石と呼ばれる石があることは知っていますか?」
「あ、はい。文官さんに教わりました。確か、宝石みたいな綺麗な石、なんですよね? ただ、魔力を帯びてるという点で、宝石とは違うって事で、魔石と呼ぶんですよね?」
「そうです。造魔師は、その魔石を使って自分に従う生命を造り出すんです。核となる魔石が壊れない限り消えませんし、エサは主人の魔力ですからエサ代はかかりませんよ」
「へぇ……! それはいいかもですね!」
つまり、魔石を使って造る人工生命体だと思えばいいんだよね?
エサが魔力ならお財布にも優しいし、うん、いいかも。
「あっ、でも、魔石ってどこで手に入るんですか?」
「ギルドか魔道具屋で売っていますよ。お金をかけたくないなら、魔動宮に行けば時々見つかるでしょう」
「魔動宮に……。……なるほど」
「造魔師になるなら、武器は杖がオススメです。……というか、お嬢さんが杖以外を買うのは俺が全力で阻止するつもりですから、大人しく杖を選んで下さいね?」
「えっ? な、何でですか?」
「いや、何でって……お嬢さんに投げナイフや弓や鞭持たせたらユーとルーの身が危なさそうですし。どこに着地するかわからないでしょう?」
「………………」
く……悔しい、否定できない……。
「と、いうわけで。さぁ、杖はあっちの棚ですよ、お嬢さん」
意地の悪い笑みを浮かべたハロさんに背中を軽く押され、私は憮然とした表情を浮かべながらも、杖が置かれた棚に向かった。
杖の形は、様々だった。
太陽の形を模した真っ赤な杖から、花の形を模した緑の杖まで、たくさんの杖が並んでいて、私はその中で一番目を引かれた、月と星を模した青い杖を手に取った。
青白色の三日月から、透明な糸が青い柄の中ほどまでくるりと囲むように伸びていて、そこに一定の間隔をあけて淡い黄色の星が添えられているその杖は、"月と星の杖"というらしい。
見た感じそのままの名前で、とてもわかりやすいと思う。
「その杖にするんですか、お嬢さん?」
「はい。これが気に入りました」
「そうですか。では買って次に行きましょう。次は防具です。まあ、お嬢さんは鎧より魔法衣のほうが重くなくていいでしょうから、そっちにしましょうね」
「あ、は、はい」
「では支払いカウンターに行きますよ」
「はい」
ハロさんは私を促すと、さっさとカウンターに向かってしまう。
なんだか、すっかりハロさんのペースだ。
……まあ、正直、武器や防具の事なんて全然わからないから、そのほうが助かるんだけど。
それよりも、武器と職が決まった今気になるのは、魔石だ。
ハロさんのオススメ通り造魔師になるとしても、魔石がなければ何もできない。
できるだけお金は使いたくないから、魔動宮に行って見つけたいけれど……ハロさん、一緒に行ってくれない……かなぁ?
駄目ならまた、あの恐怖のくじを引かなきゃならないんだろうか……。
「……何お嬢さん? もしかして、魔石見つけに行きたいから魔動宮につき合って欲しい、とか言いたいんですか?」
「えっ!?」
「顔に書いてありますよ。けど残念ながら、お断りします。前に言ったでしょう? 俺は、お嬢さんと親しく交流するつもりはないって。また、くじを引くんですね」
「う……やっぱりですか。わかりました……」
次がきっと、最後のくじ。
どうか、いいくじが引けますように!




