まさかの異世界トリップです
上を見上げれば、どこまでも広がる青空。
そこには電線の影も形もない。
下を見下ろせば、むき出しの土。
そこにはわりと大きな円形の紋様が描かれている。
周囲を見渡せば、いくつかの、同じような円形の紋様の上に立つ女性達。
皆一様に戸惑いと驚愕の表情を浮かべている。
そして、少し離れた場所にぐるりと私を含めた女性達を囲むように立つ、変わった服装の男性達。
何故か歓声を上げ、嬉々とした表情でこちらを見ている。
……これは……これは、まさか。
いや、信じたくないし、認めたくないけど……ついさっきまでいた筈の場所と、全く別の場所にいる、この状況は。
まさかまさかの、巷で噂の、異世界トリップですかぁ!?
自分の状況と周囲の様子から私がそう結論を出すと、周囲にいた男性達の中でも殊更きらびやかな服装をした数人の男性が、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
「お初にお目にかかる、異世界の乙女達よ。ようこそ、この世界、ラバーウェッジへ。歓迎致します」
「強引かつ身勝手な方法で貴女方をお招きした事は重々承知しておりますが、どうか、この世界の人々の為、貴女方のご協力を賜りたいのです」
「古来より、この世界には何故か男子ばかりが生まれ、女性が圧倒的に少なく、その少ない女性に度重なる出産を強いる訳にもいかず、どの国も、深刻な程の少子化に悩んでいるのです」
「故に我等この世界の王族は一致団結し、この問題を解決する為、百年に一度、異世界よりうら若き女性を召喚する事になっているのです」
「召喚はできても帰せぬ事から、かける迷惑を少しでも減らすべく、血縁者のいない天涯孤独な方で、かつ恋人もいない若い女性という条件をつけ召喚させて戴いております。貴女方にはこの世界でしかと生活できるよう我々一同、全力で支援させて戴きますので、どうか、どうか! ご協力下さいませ!」
「この世界で生活しながら、どうか貴女方の好みに合う男性を数人見つけ、その者らと結婚し、子を産んで戴きたい! 伏して、伏してお願い申し上げます!」
男性達は口々にこの世界の問題と私達を召喚した理由を話し、深々と頭を下げた。
……ふむふむ、なるほどね。
女性が少ないから生まれる子供も少ない、だから異世界から女性を召喚して、この世界の男性数人と結婚して子供を産んでもらう、と。
……………………。
……うん、つまりこの世界は、一妻多夫制なわけね?
一夫一妻制な世界で育った私としては、もの凄く難しいね、それ。
「……あのぅ……今のお話だと、数人と結婚ってことですけど、一人だけとでは……駄目、なんでしょうか?」
私はおずおずと遠慮がちに手を上げ、恐る恐る質問した。
すると男性達の視線が一気に集まる。
ひぃっ。
「一人だけと……という事は、貴女は一夫一妻制の世界からいらしたのですね? そういった世界が多々あること、歴史書にて存じ上げております。ですがどうか、この世界の有り様に馴染んで戴き、数人の伴侶を迎えては戴けませんでしょうか?」
「過去に召喚した、そういった世界の女性達も、皆無事に受け入れられ、数人と結婚したと記録にあります。ですからどうか、貴女も。できるだけ多くの男性の血を受け継いだ子供を産んで戴きたいのです」
「……もし、数年が経ってもどうしても無理、というのであれば無理にとは申しませんが、同じ男性の子のみで構いませんので、一人でも多くの子を産んで下さいませ。お願い申し上げます」
「う……わ、わかりました……。じゃあ、一応、複数の人とっていうのも、考えてみます……」
本当に、一応、だけど。
私は、まるで懇願するような男性達の言葉に、渋々ながらも頷いた。
はぁ……召喚された目的が、魔王を倒せとか、世界を救えとかじゃなく、ただ結婚して子供を産んでっていう、危険のない事なのは助かったけど……一妻多夫制、かぁ。
私にできるかなぁ?