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新天地、にて? ※挿絵

挿絵を追加しておりまーす!どうぞご覧くださーい!4/6


 愛とは欺瞞だ。

 少なくとも、あたしはそう理解した。


 愛とは傲慢だ。

 その名の下に、残酷行為そのおこないさえも許されてしまった。


 誰も疑わず、誰も彼もが嘘を吐く。それを真実だと信じて。それを、当然だと塗り替えて。


 昨日の友は今日の敵となる。


 切り落とされた髪房は闇夜に紛れ、ただ煌々と焔の煌きの外に溶けていく。


 そしてまた――我々も、溶けていく。


 愛とは――――欺瞞だ。













「一つ、乙女は隣人の物を盗んだ。一つ、乙女は力なき老婆を足蹴にした。一つ、乙女は村の男悉くを誘惑した。そして乙女の大いなる罪は――……他の魔女との共謀である」



「ねえ、カミサマ……」



「以上が罪状である。許し難き罪である!神より愛されし隣人達を貶めるだけでは事足りず、村に死をもたらす魔女を今こそ神の裁きに掛けよう!さあ、諸君!――業火を以て、魔女に審判を!」



「お願い……」



「ああ、主よ。我らをお守りください――アーメン」



「助けて……」
















**



「……と、あんた……?ねえ、……」


 ――深い海の底で、ゆりかごに抱かれているような微睡みだ。


「……ティア?……!あた……」


「……だ。……いは……」


 ――何かを失ったようだ。何を失った?頭が回らない……身体も動かせない……。


「……かえろう……と同じ……愚者ナールだ」


 僅かに持ち上げた瞳に、木々の新緑がきらきらと瞬いた。粒の様な光は、私の視界を飲み込んで――闇を、誘った。


 心地よい。


 闇は、黒は、穏やかだ。










 ――?


 あれ?なんか、あれ?


 これ、駄目なやつだ。だって、息吸うと鼻から何か入って来てはいけないものが侵入してきたよ。よくわかんないけど、本能?本能!本能が覚えてた!……う、苦しい気がする。そう考えてたら苦しい気がする。あとあれだ。私、横になってると思ってたけどこれ、ベッドの感覚じゃないな……勿論布団の感覚でもない。私、今……どんな姿勢で寝ているの……?あ、あ、あ、!わかった、これ、これ――!



 水だ。



「――がぼがぼがぼがぼがぼばぁ!?」


 目を開ければ映ったのはふにゃふにゃに歪んだ自分だった。衝動で吐き出した息が見えた。色はないのに、周りに色があるせいで白に見える球体がそれぞれに上にあがっていく。そこは、紛れもない円柱の水槽の中で――私は、そこにいた。


「ごぼごばごごごごごごごおっ――!」


 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬって!出して出して出してよ――ッ!!


 例えば、ゴキブリが死ぬほど嫌いな人がいるとしよう。その人が、仕事終わりに愛しの我が家に帰りつき、玄関を開けたとしよう。そうだね……金曜だ。金曜にして、その人はへとへとになり、家に付いたら好きな夕食をとって、美味しいお酒でも飲もうかな(はぁと)なんて考えてたとしよう。扉に手を掛ければ、もう疲れ何て吹っ飛んでるのでは?と思うくらいの頼もしさで開けた先に出迎えた――ゴキブリを。


 ゴキブリを見つけた時の湧き上がる衝動を、想像して欲しい。


 そのくらいに、私は切羽詰まっていた。叩きに叩きに叩きまくった。がぼがぼがばぁ!と今になって思えば逆に死期を早める行為をそれは必死に行った。


 叩き割ることに夢中だった。吐き続けるせいで、だんだんと息は切れていく。いや、そもそも供給することが出来なかったのだから、切れていた。硝子に反射して見えていたはずの他の事にも視野が広がらず、ただひたすらにガラスを殴っていたけれど、開かなかった。


 まあ、そこで諦める程生に無頓着な女ではなかったようなので……、私は無意識に身体を逸らせていた。そして思い切り――、頭をガラスに放った。


 額が裂けたような音がした。いや、勘違いかもしれない。だって、そんな音よりもガラスが割れて床に叩きつけられる音の方が大きかったし。何よりも――、


「何だ何だ何だ――っ!?あ、ああ!?あんた、ちょっと、ああ、なんてことしてくれたのよー!やんちゃか!?やんちゃなのか!」


「ぎゃ―――!?私なんで裸なの―――!?」


 自分の状態に頭が追い付かなかった。はい!


「あ、ああ、あああ!あたしの研究材料が!ああっ、レポート!ああ、これも、あれも!濡れる!無理、無理無理!ユースティ!ユースティティア!ねえ、拭き物!ねえってばぁー!」


「――はっ、ちょちょ!待って!待ってください!」


 水浸しの床に、散らばったガラスの破片。それに驚愕した女の人は、目を丸く剥くなり高速で部屋を出て行った。その音に我に返った私は、自分が布一つ無い裸体であることを思い出し、何とかその人物を引き留めようと声をあげた……が、それも空しくその人は駆け足で出て行ってしまった!駄目だ、これは非情に駄目だ!私は急いで腰をあげ、部屋を飛び出した。


「ってやばいでしょこれは!」


 そして部屋に引っ込んだ。流石にすっぽんぽんで外へ飛び出せない。うう、と唸りながらも遠ざかる背を見逃せない。何とか、何とか顔だけを出してその女の人へ声を届かせようとした。


「す……すみませーーーーんっ!タオル、何か、バスタオルとか、お願いできますか――っ!?」


「わかってるつぅーの!あんたは部屋に引っ込んで為さい!」


「は、はいっ!」


 思わず敬礼しそうになってしまった。ま、まあ……とりあえずは、タオル持ってきてくれるそうだ。安心……とはいかない。


「……取り敢えず、ここ、どこだっけ……」


 一つの不安が消えれば、新しい不安がこんにちは。


 必要以上に風とおりの良い身体を堂々とさらして立ってることも出来ず、私は床に両肘を内向きにくっつけて座った。うう、でも恥ずかしい……。


 濡れる髪が頬に張り付く。その感触を手で撫でながら、私は頭を抱えていた。


「私、こんな所に来てた……?思い出せ、落ち着いて……落ち着いて……」


 深呼吸。そして、目を閉じる。


 自分の鼓動に意識を落とせば、自ずと記憶を巡る海に潜れるはずだ。そこで一つ一つ、足を前に出せばいい。一つ、一つ……。


 ――協会で、湊に会った?いや、違う。この人は湊じゃない……そして、鏡子ちゃんと……ああ、そうか。怪奇。それを止める為に、皆で学校に行って、そして、え……っと。


『 ――あいしてる 』


「――っ!」


 どくん、と心臓が鳴った気がした。胸元を握り締める手が滑る。呼吸が浅くて、し辛い。やだ、水の感覚が気持ち悪い。やだ、私……っ!


 自然と目に入った、自分の身体。周りの器具なんて、目に入らなかった。ただ、映し出された私の身体が――、


 私のものじゃなかったから。


 その衝撃が良い方向に働いたのか、先程までの悪寒が一気に波を引く。ただ代わりに襲ってきたのは、


「はーあ、ほら!バスタオル、持って来たぞ!」


 スワードから背を向けたあの日に出会ったあのバレンが、私の脳裏に鮮烈にフラッシュバックした。


「なん……」


 服を一つも纏わないこの裸体は、その端々に至るまで――あの少女とそっくりで。あの少女が私の感情とリンクしているように目を大きく開いた姿を、割れ硝子に反射させていた。


「なん……」


 大雑把にバスタオルが掛けられた。それにつられるように私は女の人を見た。外の明かりの助けを借りて、この暗い部屋にも光が差す。


挿絵(By みてみん)


 お陰で顔が認識できた。みるみる内に私の腹部から胸部へと鼓動が脈打つ。震えた唇を、その人が訝し気に目を細めた。そして――、



「なんじゃこりゃああああ―――――!?」


 私の元の顔そっくりのその人は、驚きに目を丸めた。


 私に、そっくりな顔で。








「うっっっるさいぞ‼折角助けてやったんだからもうちょっと大人しく寝てなさいよ!」


 ずい、と鼻の先に向けられた人差し指にぐい、と顎を引いた。


「姿は変わったくらいで狼狽えんな!女でしょ、しっかりしなさい!」


 私は何か言いたくとも声に出せなかった。パクパクと人魚の様に口を動かす事しかできない。――頭がついていけていないのだ。目の前の情報が、私の思考力を全て奪っている。


「――大人しくするのはお前だろう、リベカ……」


「ユースティ……何あんた居たの?」


「居てはいけないのか?」


 また違う意味で私の口は開いたまま固定された。女性にしては低い声色で、相手をなだめるように発せられた声にリベカと呼ばれた私の顔がふてくされながら腰を上げた。

 その女性は、美しい銀色の髪を光に靡かせて、紫の瞳で――、私を見つけた。


「っ……」


 氷のようかと見まごう程の美貌だ。素直に美しい、と思う。でも、凍て付く様な瞳が美しいのに恐ろしさを滲ませる。触ると火傷をしてしまう、氷の華の様な。


「君は……愚者ナールだろう。……怪我はないかい?痛い所は?――大丈夫なのか?」


「――――ユースティ?」


 美しい人が跪いてそんなことを言う何て在り得ねえ、と勝手に処理した脳のせいで判断が遅れた私は無様に口をぽかーんと開けていたが、ふと名前に思い当たるところがあった。


「……ああ、如何にも。私はユースティ……基、ユースティティアというよ」


「へえ、あんたもしかして西洋人?」


「ユースティティア……」


 何か……聞いたことがある……ような……。


「はっ、思い出せないんじゃないの?あんた」


「……はい」


 私の顔が豪快にゲラゲラと笑った。そこまで笑わなくてもいんじゃないか?と私は口をむっとさせる。

ごめんごめん、とお腹をさすりながら言った私の顔は美しい顔の人を見て頷いた。


「ようこそ、おっちょこちょい。ここはイカれた世界だけれど、あたし達だけはあんたを歓迎してあげる!」


「……リベカは物の言い方が上手ではなくてね、すまない。さあ、君の服を持ってきたから着替えるといい。君は……、身体を忘れて来たみたいだからね。不安だろうが、まずは着替えようか」


 差し出された手を取らざるを得なかった。握った手に暖かさが伝わる。


 深く息を吐いて、深く息を吸った。立ち上がると、身を包んでいたタオルが床に落ちていく。纏う物が一つもないただの私を晒しながら私は顔をあげた。


 ――少し落ち着くと、僅かながら状況が見えてくる。


「お手数をおかけします」


 一つ一つ、新しい物を身に纏いながら私の頭の中で一人の私が繰り返し言う。


 置かれた状況の理解を、

 身に起きた変化の理解を、

 そして――、


 必ず生き残るのだ、と。

お久しぶりです、うへ()

また新しいキャラが爆誕してしまった……自己紹介ページ知らぬ間に更新されてるかもです、がんばります!(主に絵師が)

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