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探しているの、ずっと

前の話にて、挿絵を追加しておりまーす!合わせてご覧くださーお!

 どうして、どうしてお前が泣くの!?お前のせいではないのに、いつになったらそれをわかってくれる?


 ねえ、どうしてお前がそんな顔をするの……?


 ねえ、どうしてお前は――、










「エリーシア様!それ以上はお止め下さい!お体に触ります‼」


 思わず前に出そうになった私の身体をリアラが止める。


「――アザゼルッ!!答えなさいっ、どうして、どうして人間に余計な事を教えたの!?」


「エリーシア様!!」


 緑の瞳の男は、近衛兵に頭を押さえつけられながらも私を嘲笑った。無理やり剥いた目が、私を嘲り続ける。


「余計な事……?――人に自由を!人に争う術を!人に――我等と同じ麗しさを!何が悪いというのか!俺は人に心を教えたまで!」


「心……!?お前が主に教えたのは、戦じゃないの!お前のせいで!人は、争いを知ってしまった!」


「それがどうした!」


「――駄目に決まってるじゃないのッ!!人はまだ生み出されたばかり、まだこれから……時間をかけて育んでいくつもりだった!何故、どうしてわたしに従わない!?」


「エリーシア様!過剰な負素の吸収をおやめください!――アザゼルッ!口を慎んで!誰の御前と心得る!」


「陛下は人を何だと思っているのか!人形か、――意志の無い陛下に素直な土人形か!いいや違う。彼らもまた、我らと同じ!――王よ、貴方は矛盾している!争いをしてはならぬと言いながら、貴方は率先して争いを引き起こすではないか!陛下が人に武器を持たせぬのは、人が貴方に矛を向けるのを恐れているから、違うかッ!?」


 私の身体をリアラが抑え込む。おやめください、お静まり下さい、そんな声が耳を抜ける。


「その減らず口切り落としてやろうかアザゼルッ!!愚か者がッ、天上に居ながらわたしの意を汲めないの!?わたしが人に武器を与えない理由が本当にわからないとお前は言うの!?ああ、ならば!それならば!お前のその思いはただの欺瞞に過ぎない!」


 アザゼルはそれでも尚、と声を張り嗤った。


「――俺は人を愛している!俺は、人を愛した!王よ、王は人を愛していない!それを俺は愛とは言わないッ!!」


「―――――っ‼」


 私は激昂した。もしその時私の手にアンスがあるのなら、私は迷いなく引き抜き奴を切り裂こうとしただろう。しかし、幸か不幸かその時の私に剣はなかった。代わりに私に反応したのは、私の剣。


 シリウスだった。


「ぐ――あああああああああああッ!!」


 私の騒ぎを聞きつけて静かに入室したシリウスは、私が激昂する最中横をするりと通り過ぎ伏せるアザゼルの眼前に膝を付いた。そして、緩やかな動作でアザゼルを顔を上げると、その右目にナイフを突き立てた。


監視者グリゴリよ。王の命を忘れて、人の娘と交わった者。全てはその目が貴方を惑わせたから。全ては貴方が目に頼っていたから――違いますか?」


 血が床を汚す。膝を付いた際に床につけたシリウスの服さえもその血は穢していく。


「あまつさえ、王の御前にて何て言う目をしていたんですか」


 シリウスが突き立てたナイフを叩いた。奥へ、音を鳴らす。その度に悲鳴が強くなっていた。


 私は膝を付いた。心臓が痛い、喉が痛い、呼吸がし辛い……。差し出されたグラスを煽ると、肺に入りむせてしまう。その中に――、血が混じる。


「……王は、じきに死ぬのだろう……」


 私はアザゼルを見た。アザゼルの残された左目は私を見ていた。血を吐いた、私を見ていた。


「王は、不死ではなかったのか。王は、眠らないのではなかったのか。――先に我らを裏切ったのは王の方だ!」


「無礼が過ぎるわアザゼル――ッ!!」


「王よッ!!俺を殺し、自らの業にて殺される我が王よ!俺は、王の配下として最後の言葉を王へ送ろう!!」


 血を流す眼が、私を嗤う。その血に、何を湛えていたの。


「何故、と思っているな。どうして、と俺に問うているな。――答えは全て、御身の中に!王よ!その胸に手を当てて、罪を己に問え!」


「――エリーシア様、どうかお聞きになさらず」


 固まる私にシリウスは微笑んだ。首だけの合図で喚くアザゼルを下に向かせて、その首筋に――。


「待って」


 シリウスは振り上げた腕を止めた。


「……翼を、落として、アザゼルを……――堕して」


「――はい」


 悲鳴が、けたたましい笑い声が響く。


 私は膝を付いた。何かが瓦解した音がした。背中から血を流すアザゼルを、近衛兵が引きずり出す。その光景を塞ぐようにリアラとシリウスが私の目の前を塞いだ。


「……どうして……アザゼルも……どうして、私に歯向かうの……」


 リアラの髪が頬に当たる。


「私……お前たちと同じくらい……愛しているの……」


 頬にシリウスが触れる。


「どうして……わかってくれないの……」


 





 ――どうして?










 嗚呼、なんて……胸糞悪い夢。









***


「――え?学校、行かなくていいの?」


「ああ。上山泉も、安倍鏡子も、俺も!早めの夏休み、みたいな……」


「でも、せめて学校に行かなくちゃ親も心配するし」


「いらねいらね。お前はまだ家で寝てるんじゃねぇの……?」


「――ハァ?」


 私はハムを噛みちぎった。私が叫び起きたことで始まった朝の活動の場所に、アスティン先生と鏡子ちゃんの姿は無い。四人掛けのテーブルには二人分の食事と、給仕をするスーツの人達だけが移動する。


「あー、ねみぃ!何でお前、こんな朝早いわけ……お前の起床時間はまだ先のはずだろ……もうヤダ……」


 友禅さんは立ち上がる。欠伸を殺そうともせずに大いに吸い込んで、涙を溜めた瞳で私を見た。


「寝るわ」


「え!?もう7時だよ!?」


「寝る!寝るったら寝るッ!起こすなよ、ぜ――ったいに!起こすな!以上!」


「……不健康だなあ……」


 私はそう呟くと、残りのご飯を口の中に放り込んだ。うん、美味しい。家で食べるのと少し味付けは違うけれど、これはこれで美味しい。まあ……、このような人達が作るんだ。そりゃ、美味しいよね。


 朝起きて、一番に私は自分を確認した。異常は無かった。在るはずが無かったかの様な普段の自分だった。寝癖のついた髪も、どこか寝不足を思わせる隈も。私は、私だった。


 そのことに安堵すれば身体は日常を再開した。時間が頭をよぎり勝手に制服に着替えて勝手に昨日の部屋に駆け込んだ。誰もいなかったから、取り敢えず友禅さんを見つけて叩き起こした。


「朝!!朝!!!学校っ!!」


「―――――あ?」


 鏡子ちゃんを揺さぶったけれど全然起きなくて、私は諦めた。先生は――わからない。流石に入れないし。で、いつの間にか起きて来たスーツの人達から朝食を進められ、かつ学校には車で送るからと言い包められ、なんやかんや今に至るのである。


「あのう……」


「何でしょうか」


 横に控えているスーツの女の人に、控えめに声を掛けた。見下ろされる感情の無い目が怖い……っていうか不気味だ。もうちょっと友好的なふるまいを希望したい。


「ほんとに……学校、行かなくていいんでしょうか……」


「問題ありません」


 時計の針は既に8時を指している。胸がドキドキしている。そうだ、私は無断宿泊もしているのだ――。


「上山泉様は、既に登校なされています」


「――何で!?」


「友禅様より、今朝そういう指示があったと伺っております」


「いやいやいやいや!おかしい、おかしいよ!いやいやいやいや。まず私、何かナーナーになってたけど、此処に無断で泊まってるんだよ!?ご飯も御馳走になっちゃったし……親に一言も言ってないし。あ、しかも昨日はあなた達が無理やり連れて来た感あるよね!?行方不明じゃないの!?私達!」


「上山泉様は、昨晩無事にお帰りになられました。勿論、安倍様も」


「―――いやいやいや……!」


 半ば笑いながら否定する。私は自分を指して、こう言った。


「私はここにいますよ。鏡子ちゃんも爆睡なうだし!」


女の人は困った様に眉尻を下げると、少しの間の後逆に私に聞いてきた。


「上山泉様が望んだことではないのですか?」


「えっ。何を?」


「……?」


「―――?」


 お互いに首を傾げる。お互いにお互いの思考が読めず当惑し始めた。


「ちょ、ちょっと待ってください。取り敢えず、家には何も伝えてないんですよね?」


「はい」


「――はいじゃないっしょ!!それヤバイ!!それヤバイよ!!今頃誘拐騒ぎだよ!!」


 この教会たちまちお取り潰しだ――!?


「……?あの、上山泉さまがご命令なさったことではないですか」


「――誘拐を!?」


「いえ……上山様、上山様はこういう茶番がお好みでございますか?ならばわたくしめも誠心誠意、御付き合い致します」


「ハッ!?ちょっと待ってください!こちらとらふざけてるんじゃないんですが!」


 対峙する人は不可解そうに顔を顰める。こちらは冷や汗をたらたら流している気分だ。


 電話……。


 ――そうだ電話だ!馬鹿野郎!電話があった!メール!メールするんだ!無事です大丈夫今から帰りますって……!


「私の――私の鞄は、どこにありますか?」


「鞄……ですか?鞄は……あるとするならば部屋ではありませんか?」


 部 屋 !


 くるりと軸を変え走り出そうとした私を尻目に、ああですが……と声を掛ける。


「あると思いますか?上山様、あなたは……鞄を持って此方にいらしたのでしょうか?」


 何ですと。

 私は止まって、うーんと過去を巡った。……あれ?そういえば、私はどうやってここに来たんだっけ……?


「……私、此処に歩いて来たような気がしません……」


 青ざめた私に、スーツの人は頷いた。


わたくし共がお連れしたので、手ぶらで御座います」


 その言葉に一気にフラッシュバックした。「そう……ですか」と言って私は部屋を出た。


 


**



 協会の外へ出る。朗らかな朝日と一緒に、近隣住民の声が聞こえる。一見森が広がる様に見えるけど、どうやら地域密着型のようだった。


 少しくらい……外を歩いてもいいよね。


 ここが何処なのかまず把握したいし。そもそも友禅さんがここから学校に通っていたのなら家からそんなに遠くないはずだ。黙って帰るのではない。家に伝言を残しに一旦寄るだけだ。昼ちょっと過ぎくらいに帰りつけたら大丈夫だろう。

 

 よし、と手を握って私は住民の声に誘われるように森へ足を踏み入れた。――と待った。鏡子ちゃんは……別に大丈夫だよね。まだ朝だもん。安全……さ。景色もこんなに澄んでるのだし、ね。



「あ、あれ……?こっちで合ってるんだよね……?」


 あれから数十分は経つ。なのに、まだ森が明けない。流石に長い、深い、在り得ない。後ろを振り返ると変わらない距離に佇む協会があった。いやいや、そんなはずない。頭に浮かんだ一つの事象を否定して、私はまた足を踏み出した。


「いーつまで、歩き続ける心算つもりなのだ」


「びっ、吃驚した……!」


 肩を揺らせた私を見てくすりと笑みを浮かべた人物は手を頭の後ろで組んで宙に浮いていた。そのおかげで私の目線が合う。


「玄武……さん。居るなら居るって言ってくださいよ」


「敬称は不要だ。娘、まずは此方の質問に答えるのが筋と云う物だ」


「ぐ……アンスみたいな事言うんですね……」


「――ほお。其れとの記憶は、あるのだな」


 細められた目に私は少しの警戒心が滲んだ。


「ま、まあ……。今は、話してくれませんけど……アンスは私の御守りみたいなものだし……」


 無意識に握った石に、温もりはない。


「――で?いつまでそうやって歩き続ける心算だ?」


「……答えるまでもないですっ」


 むす、として私は背を向けて歩きを再開した。ずんずかずんずか進む私の後ろを笑い声と共に追いかけてくる。


「もーっ、付いてこないでくださいよ!鏡子ちゃんに怒られても知らないんだから!」


「鏡子は爆睡中故に、中々起きん。この光景が鏡子に知られぬ限り我には関係なーい」


「ちくってやる!」


「勝手にせよ」


 こーの餓鬼むかつく!




「……なあ、娘よ」


「……何ですか」


「――いや、歩きながらで構わぬ」


 ふぅん?と眉を顰めると、空中で胡坐を掻く玄武は少年の様に笑う。私はそれを一瞥してまた声の方へ歩き始めた。


「こちらに来てからの記憶はどれほどある?」


「記憶……?」


「鏡子と初めて会った日のことや、怪奇の出来事。そして近くで言うのなら、安藤実花の――」


「もーう、心配しなくても覚えてますっ!実花のこと、忘れるわけないじゃないですか!親友なんですよ!」


 ――嗚呼、森が長い。


「安藤実花の愛してる、の言葉の意味は?」


「――は?なに、それ?」


 ついくるりと振り返り私はしかめっ面を晒してしまった。


「娘に向けて言ったそうだが?」


「……私に?ふふっ、嘘が下手ですねー。実花ね、私には『泉ぃ、あたし泉の事だーい好き!』って言うんですよお」


「――……あな、こりゃ一本取られたな」


 お互いにくすくすと笑い合った。うん、玄武さんとも何やかんやいい関係が築けそうな気がする!


「にしても……どうして森の向こう側へ行けないんですか」


「何故だろうな」


「むー……」


 肩を竦めて玄武さんは森の向こうへ視線を投げた。少々息の上がってきた私は疲れた足を癒すために木の根に腰を掛ける。


「別にここでぐるぐるするのも一興よ。良い運動だ」


「おじいちゃんみたいなこと言わないで下さいよ」


「はっはっはっ!」


 はぁー、と息を吐く私。恨めし気に見上げると、すとんと玄武さんは地に足をつけた。


如何どうするんだ?娘」


 口角をにぃと上げる玄武さん。


「――知ってるんでしょ?出口……」


「如何にも」


「お、教えて下さい……」


 す、と立ち上がった背の低い少年は、私に背を向けて僅かに振り返った。


「良いだろう。娘、汝が選んだことだその意見、尊重しようではないか」


 少し重くなった腰を上げる。僅かな気が引けて協会をふと振り返った。まあ、すぐ戻るし。大丈夫でしょ。ふと浮かんだ先生は、きっとまだ夢の中だろうから――。



なあ……ヤンデレ要素、無くね?この物語……(戦慄)

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