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し あわせ

12/18 ひゃああああああああああああ書き直しが反映されていませんでした!;;; アスティンいつからそこにいたんだよてめぇを修正しております;

 幸せを数えてみた。


 嗚呼、嬉しい。私には、両手では数えられないくらいの幸せがある。人が居て、想いがあって、景色があって、国が在って、世界があって――。


 美しい世界は、美しい人々が作り出すのだ。その為に私は、汚い負を取り除く一つの作用のようなものになろう。全ての悲しみを、全ての罪を、包み込んであげよう。今両手を罪で染め上げても、いつかその目は光で溢れる様に。今その口が哀を吐いても、いつか誰かに愛を囁けるように。


 私が統べる全てが、等しい瞬間で幸せであることは出来ない。


 それでは世界のバランスが取れない。悲しいけれど、私が持たない。


 だから、私はせめてもの私の慰めに、今見える幸せを数えてみよう。もう、数えることはないだろう幸せを。


 シリウス、リアラ、スワード。私の幸せの証明、私の愛の証明、私の道標。


「ねえ、お前達」


 ――世界は、混沌から始まった。その混沌の中で、わたし達は存在していた。リアラ、アルピリの手で自我を育み、後にシリウス、スワードが生まれた。その始まりを、わたしはまだ覚えている。


「……わたしね、幸せだったわ」


 そして私は世界の一環を担った。其れは、当たり前のことだった。何で?とか、意味は?というそんな幼子の問い掛けのような考えなんて浮かばなかった。――問われて初めて、気づいたほどに私は其れに染まっていた。……いや、染まっていた、なんて表現は適切ではない。私は、其れ、であるのだから。


 愛を、数えて。


 愛を、真似て。


 愛を、伝えて。


 愛を持って、世界を作り、愛を汲んで、彼らを生んで、愛を賭して人間を造った。後に人は、わたしを愛と呼んだけれど、きっとそれはわたしではなくシリウス。


 世界を愛したわ。同胞を、愛したわ。人を――愛したわ。愛には愛を以て応えるべき、そう教えたのに彼らはそのとおりには中々返してくれなかったけれど、わたしは確かに愛していたの。


 ――幸せだったわ。


 もう、十分だと思った。混沌から生まれてここまで美しくなった。交じり合った黒を、一つ一つ解いて形にした。だから、――永遠を造ろうと、したの。


 同胞は、眠りてわたしに還る。人間は、死して土に還り再び輪を廻る。その理は、わたしにも適応する。わたしは、世界に還ろうとしたの。


 それで、やっと、同胞は歓びのラッパを吹き鳴らす。救えなかった者たちも、救ってあげられる。この身体を捨てたら、及ばなかった世界の隅までも見えるでしょう。丸い世界。その世界でさえ、隅を作って泣いている子等を見つけることが出来るでしょう。


「もう、エリーシア様。何今際の言葉みたいなこと言っているのですか!……もう、お還りが近いとエリーシア様はすぐそういう事を言うのだから……ちょっと冷っとするのです」


 ――言えないわ。リアラ。お前には。


 心優しい竜に、こんなこと言えない。竜は、王位など望まない。手に取ればわかる、わたしという存在を、形よ在れと望むもの。

 傷を癒し、病を癒し、そして彼女らの巣で治せぬ私の眠りを看取る。おやすみなさいと、また会いましょう、すぐに逢いましょう――と、彼も彼女も失せるわたしの視界で何度も何度も囁く、記憶。


 それも、最後にしましょう。


「ふっ、センチメンタル?というのだろう?世界の王が何と情けない……」


「スワードあなた……!」


「怒るな怒るなリアラ」


 ――言えないわ、スワード。お前にも。


 わたしを守る盾。スワードは、己の存在理由をわたしを守るため、と簡単に答えてしまう。跪いて、口付けを落とす瞳が、持ち上げるその自信に満ちた顔――。

 ……それに、きっと怒るわ。剣を、与えた意味を、忘れたのかって。それに、わたし怖いの。スワードのその顔から、この笑顔を奪い去ってしまうことが。



「……」


「ほら、シリウスもその通りだと言っている」


「――えっ、ああ、ええ……」


 ――だから、お前にだけ言うわね。シリウス。


 ちょっと泣かせてしまったけれど。……大分かしら?うん、そこは反省してるの。きちんと。けれど、わたし信じてるわ。泣いてしまったお前の手を取った時、きちんと握り締めてくれたもの。わたしの約束、しっかりとした目で、見つめてくれたもの。


 あのね、だからわたし、今笑えるの。


 嗚呼、嗚呼――――幸せだわ!やっと、やっと、みんなのこと、見てあげられる。見守ってあげられる。声を、聞き漏らしたりなんかしない。過ちを、見過ごすなんてしない。


 








 ――そんな風に、思っていたかった。エリーシアは、幸せな時間を過ごしていたのだ、って伝えて欲しかった。なのに……、

痛い、痛い?つらい、悲しい。怒りよりも、込み上げてきたのは――――、




「ア………し、………!」


 動けない。感覚がない。見えてる?わたし、何を視ているの?暗い、昏い、寒い、寒い……!


 揺れる身体。ゆりかごのような心地よさはない。暴かれるような、激しさで、私の心を突いている。荒い呼吸が、閉ざした世界に響いていた。


 数えなきゃ、幸せを、わたしは、わたしは――彼らを救うために、ここまで耐えたのだ。そんなわたしが、染まってはいけない、黒に、闇に、染まってはいけない!


 



「――上山さん!?」


 見えた。視界の端に、手が見えた。これか、これだ!わたしを裏切る手はお前か!


 掴み上げて、空いた手で抜き取った白刃の剣。一撃で仕留める。許さない、許さない――、


「許さない……!」


「貴様――っ」


 わたしの髪を優しく撫でた手で、きつく首を絞めるのか。わたしへと捧げたその唇で呪いを捧げるのか。その金色の瞳で、わたしを……射抜くのか!


 わたし自身が生んだ悲しみの波の大きさに、自分でも圧倒された。血染めの視界は赤くて、まるでわたしの瞳の様。世界の端が急に生まれて、深淵に突き落とされたかの様。伸ばした手は――、最愛おまえに弾かれた!



 どうして!どうして!ああ、何故、何故お前が裏切るのか!

 わたしから、それを奪わないで、お願い、世界を――!


「抵抗するな!今更、今更お前に弁解の余地があるものか!」


 呑まれていく。自分が起こした波に呑まれていく。感情が渦巻いて、わたしの身体を蝕んでいく。


 ――わたしから逃れようとする相手かれの手を解かれては掴み、組み伏せようとした。同じ手段で報復したい。同じ思いを味わえと思うもの。同じ深淵に落としてやれと思うの。だから、この機会を無駄になんてしない。


「痛い……っ!上山泉!鏡子です!ちょっと!」


「黙るがいい――」


『……泉』


 息が止まった。耳元で囁かれた鈴の音が、私の呼吸を止めた。剣を落して、手を離して、私は周りを見た。どこ、どこにいるの。どこで、どこから……!?


「…………ってさっきから何なのですかこの無礼者ッ!!」


「ひうっ――!?」


 首元を揺さぶられた。揺れた視界が消えて、目の前に人が居たのだと認識する――恐怖。背筋を這った。しまった、と思った。だから脳が一気に覚醒して、


「……?……あっ、鏡子、ちゃん……?」


 目の前の人物を初めて認識した。手の力が抜けて、身体の力が抜けた。ぐらりと傾いた私の上半身を鏡子ちゃんは受け止めてくれた。


「上山さん……!?もう、さっきから何なのですか……!」


「び、びっくりした……よかった、鏡子ちゃんで……よかった……」


「はあ……?」


 どうしよう。まだ、冷たい。孤独、暗闇、絶望――?知りもしない感情と感覚が、私のお腹を這っている。どうしよう、どうしよう……。私、何してたの。私、鏡子ちゃんに何してたの……何を、しようとした……?



 ただ縋る様に身体を寄せた私の腕を、鏡子ちゃんは払い除けることはしなかった。なぜなら……無意識に、私の身体が震えていたから、だろう。


「――――!」


 床が黄金に照らされて浮き出される。その事に理解不能の恐怖を感じた。ぞくりとした悪寒が這い上がって、私の身体が震えだす。


「――どうしたんだい!?泉さん!?安倍さん!?」

 

「……アスティン様」


 心が冷たい。競りあがってくる感情を必死に押しとどめていた。そんな私を見たアスティン先生は、一瞬の間絶句した。掌を強く握って、鏡子ちゃんと立場を入れ替わった。


 私の顔を肩から揺さぶってあげさせたアスティン先生へと開こうとした口を、私はなんとか閉じる。自分が何を言い出すかわからない。何をするかわからない。

 

 自分でわかっていた。不安定だ、わたしが不安定すぎた。色彩が迷子になる。引き剥された反動で歪んだ心が、月明かりに狙われたように錯覚した。


 ――ピアノの音色。再び脳裏で廻りだした思いに震える身体を抱きしめるほかには無かった。


 怖いと、目の前の彼に吐いていいだろうか? ――吐いてどうなるの?


 気持ち悪いと、胸を掻き抱いていいだろうか? ――何をそう思うの?


 わた、しは――、


「……月、が」


 泳いだ瞳が捉えた黄金の月。否、月が私を捉えていたのだ。


 それが理解できたとき、先程まで割れんばかりに膨れ上がっていた憎しみが影を潜めた。代わりに持ち上がったのは――、身もよだつ程の恐怖、? これが、恐怖なの? 確かに、この感情は恐怖だ。恐怖以外の何物でもないのに……!なんで、私が感じている情は、あのフードの男に見つけられた時と同じ色をしているのだろう?


 私は、何に、見つかったの?


「――安倍さん。カーテンを閉めてもらえるかな」


 不意に、視界が覆われた。布の摩擦が、頬を擽る。


「喋らなくて大丈夫さ。わかってるからね、わたしは。君の姿はとてもわかりやすい……だから……大丈夫だよ。ええ、此処なら見つかることはありません。なぜならば、今はわたしが貴女を隠しているのだから」


 胸元が熱い。優しい温もりを感じる。懐かしい、……安心する。


「貴女はお休みください。貴女はまだ、疲れているのでしょうから……」



「――どこ?」


「……はい?」


「実花は――どこにいるの?」


「……泉さん……」


 肩をゆっくりと抱かれて、背中をあやされた。

 


 嗚呼、恐ろしい。これは、彼女の思いだ。わかる、今、私は彼女に近いのだ。ああ、ああ、――、




 憎い。

エリーシアは神様のトップだから、人間的な死を迎えようとしたわけじゃないけど、幸せな最期で笑って眠りたかったんです。けど……シリウスくんが……。


そして唐突に更新する我ッ!

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