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高校三年生

 回りだした歯車が異常だ、と誰が唱える?


 絡みだした意図が複雑だ、と誰か嗤える?


 再び目覚めるこの世界で、あの子はどう見るだろう。どう捉えるだろう。


 関節の外れた、この世界を。

















「おねえーちゃーん!おねえちゃーんっ!……お姉ちゃん!?」


 眠い。


「もう!早く起きなよ!今日から学校だって言ってんじゃん!!」


 ったく…うるさ……。


「おきろ―――――っ!!」


 ぱちり。と目を開けた。視界たっぷりに妹の顔が見えた。あらら、何だか胸がじんわりする。ぽろぽろと何かが抜け落ちる感覚がして、妹へ手を伸ばした。


「…おねえちゃ――!?」


 渾身の力を込めて抱きしめた。家族に会えたことが嬉しくて、怒鳴り散らす妹さへも愛しくて。すると下の階でチャイムの音が響いた。ママだ、ママが私を呼んでいる。


「おねえっちゃん!実花さん来たんじゃないの!?」

「…実花?」


 私はすぐに部屋を飛び出た。階段を一段飛ばしで駆けおりていく。焦る気持ちが大きくなって、手には汗が滲んで、そのせいで廊下を滑って。勢いよくドアノブを掴むと、ドアを引いた。


「……おは、よう…泉……?」

「実…花…?」

「ふふっ、どうしたの?まだパジャマだよ?泉」


 くすくすと花の様に笑う仕草も本人で、髪がふわふわと揺れるのも本人。でも、でも、これって、この人って―――。だ、れ。


 頭痛。


 脈打つように痛み出した。「あ、」痛い。痛い、頭が、痛い……っ!


 思わず頭を押さえてずるずると膝を折った私にその人は駆け寄った。


「だ、だいじょう」

「―――触らないで!」


 私は手を跳ねのけた。その人は大きな目を見開いて私を見た。


「お姉ちゃん!?」


 妹が出てきて私の肩に触れた。そして私と誰かを交互に見やる。


「…真理まりちゃん。泉、体調悪いの……?」

「……実花、さん。ごめんなさい、この馬鹿姉ねえまだ寝ぼけてるんです。…でも、昨日から顔色悪かったし、ちょっと今日は無理かも……」


 妹がしっかりと私の肩を抱いて言った。


「そっかあ……それなら仕方ないね。泉、夜更かししちゃ駄目だよ……?じゃあ、あたし行くね。また放課後来るから!それじゃあ」

「はい。お待ちしています」


 その人が去っていく。妹はその背を隠す様に前に回った。


「お姉ちゃん、なんかおかしいよ!」


私は妹の訴えを聞けなかった。閉じられていくドアの隙間に、湊を見た気がしたからだ。私は妹を押しのけて外へ出た。


すると、どうだ?


なんだ、この光景は。


空が、空気が、くすんで見える。くすみが、見える。穢れているとわかってしまう----。


「……泉?」


見知らぬ男の人が、見知らぬ女の人の隣で振り返った。


…誰?

という言葉が出ない。


「駄目だよ泉!外に出ちゃ!」

「んだよそんなに元気なら--あ、この俺に会いたくなっちゃったやつ?」

「もう!湊くんやめてよ!」


み、湊だって?


「……やっぱり何かおかしいな。ほんとに大丈夫かよ?泉……」


こちらへ歩み出された足を見てしまう。


「行きなよ」


考えるより先に言葉が出た。妹が怒鳴りながら家から出てくる。私は半ば笑みを無意識に作りながら言った。


「はやく、学校に行って」


空気が肌を撫でる。肩にのしかかる重圧と、目の前を暗幕が通り過ぎる感覚を味わう。

 私は彼らを顧みずに振り返った。その時の妹の顔と言ったらどうだろう。困惑、そしていつもの――怒り顔。







 ――夜。深く眠ったら夜になっていた。重い頭と体を引きずる様に一階へ降りても物音ひとつ無い。…当たり前か。時計を見たら一時じゃないか。


 妙に冴えた思考に誘われてふらりと外へ出た。


 赤くない月に始りの日々を重ねられなかった。鮮明に思い出せた日々が夢だとは思えなかった。あんなに思っていたことが思えない。ただ、残してきた人達に想いを馳せると寒気が襲い来ることが怖かった。


「やっぱり嘘つき……誰なのあいつら……!何が、俺も実花も傍にいる、だよ……っ!」


 桜街道が見下ろせたあの場所で私は怨んだ。人々が寝静まった街はやけに視界が開けて、やけに空気が綺麗で。感情が抑えられない。ガードレールに喰いこませた掌が、痛い。


「エリスも……何処に行っちゃったの……」


 居ない。アンスもない。怖かった。故郷であるこの世界に、あれ程罪悪感を感じたこの世界に、三人で戻るはずだったこの世界がまるで異世界に感じる。見えるものが、感じるモノが、色彩を反転させたように感じる。両親の顔もロクに見れなかった。見知らぬあの二人の言動には――怒りさえも感じて。


 夜桜にあの世界へ置き去りにした彼らの顔が浮かんでは消えていく――……。


「……あれは……?」


 光の柱が視線を引き寄せた。見下ろす桜街道へ一人立つ人間が見える。目を凝らしても良く見えない。だから、目を閉じた。するとどうだ、エリスが行った行為が、今一致する。


 駆け出した。坂道をぐるりぐるりと回って――嗚呼、ここから飛び降りれたらすぐに着くのに。なんて思っていたら身体が勝手に反応した。え、?と頭の片端で思っても十分すぎるスピードに浮力を加速させて、ガードレールをやすやすと飛び越えて桃色の海へ落ちる。驚く声も上げずに綺麗に着地して――顔を上げれば、同じ高校の制服を着た女生徒が腕を組んで此方を振り向いた。


「あーあーあー!待ち草臥れましたわ鏡子きょうこの足が特に!」


 釣り上げた眉と、ぱっつんと切りそろえられた前髪が揺れる。


「本日の―――あら失礼。昨日、かしら?今何時だっけ……嗚呼よしよし昨日であってますね。――この鬼が‼昨日の早朝よりこの街を包む陰気が強くなりました。ただでさえ最近日本が陰るこの時世に……なんったる横暴さか!太古よりこの国をお守りする安倍家の堪忍袋の緒も切れるというもの――仏の顔も三度迄、鏡子の顔は、一度まで!今日と言う今日は絶対許すまじっ!!」


「……ねえ」


「何を喋るつもりか鬼めが!暗雲たる素をべったりと纏わせて、妖でも呼ぶつもりでしょうか!ええどうぞどうぞかかってこい!安倍家が長女、大いなる祖父清明に代わり十二神将を我が手中に――」


「うるさいんだけど」


「うふっあはははは!流石一日でこの街の加護を揺らした張本人……!溢れ出る妖気、何処の国のものでしょう…!感じた事のない…さあ!名を明かしなさい!…おっとその前には鏡子が名乗らなければ。私は名家安倍家が長女、安倍鏡子あべきょうこ!彼の有名な陰陽師である安倍晴明の実の子孫であり、次期当主の座にすわる最強になる予定の陰陽師――」


「…で、三崎高校の生徒なんだ」


「ひぅあっ!?な、なぜその名を」


「制服」


「な、何ですって…!昨日の早朝に転がり込んだ余所者のくせにして、制服で高校を見分ける!?貴様、そうとう名のある鬼と見受けましたわ……!」


「いやいや、私もそこの高校の生徒だし」


「――嘘をおっしゃい!今日、鏡子が行ったときに貴様のような悪しき気配は感じられませんでした!」


「悪しき気配って……。嗚呼、そういうことね。私今日学校休んだの。体調不良で」


「……体調不良ゥゥゥ??新学期の、クラス替えの時期にぃぃ?あははは!嘘をおっしゃいますな!鏡子、これでも俗世には疎くありません、ですから真実を述べます――普通の学生と言う者は、たとえ熱が在ろうと死にそうだろうと?新学期という人間環境がガラリと変わるこの時期だけはまるでゾンビの様に学校へ足を運ぶという!したがって!!貴様のその弁論は全くの……嘘、ですわね」


 妙に艶のある声を出す。


「貴女、知らないの?」


「何がですか」


「うちの学校……三年生はクラス替えないんだよ」


「ひええっ!?」


 面白いな。

 黙っていてもペラペラと喋ってくれる。一を差し出せば十をくれる。……楽だ。


「さては貴女……転校生、だよね」


「ふ、ふふふふ……よくぞお分かりに成りました。天晴」


「―――ぶっふふふふふふっ!面白い、面白い!あっ、あっぱれとか、いう、日本人まだ居たんだ!」


「え、え、え、!?な、何故笑うんですか!?鬼めっ!何を企んで―――」


 風が吹く。少し心が晴れた気がした。


「――初めまして。私、三年一組の上山泉っていいます」


 名を名乗った時、目の前の少女は手を打った。


「覚えております。今日、体調不良で……休んだ……あ"!?」


「そーうーいーうーこーと」


「まさか同じクラスッ……!?これは断じて容赦出来ません、今すぐここで成敗させて頂きます」


「まだそんな事言うのね。――古の陰陽師の子」


 自然と笑みが零れる。知識が溢れてくる。


「安倍清明……ふむ、聞いたこと無い名前。陰陽師自体は知ってるわ、シャーマンはこちら側に近いもの。私もよく彼らと言を交えたものよ―――」


 嗚呼、風が気持ちいい。


「ええ、感じるわ。貴女の中に眠る力。とても強大で――でもまだ未熟」


「ついに本性を現しましたね、この鬼がッ……!この地におわします神々に代わり、貴様を断罪致します」


「神々?この街に、すでに神はいない」


 神と呼ばれた彼らは、はるか昔にこの世界を捨てた―――。


「――その言葉、許すまじ。己が騙る言葉の初めから終わりまで終始後悔しつつ、地獄の釜戸で精々嘆くことですね。……朱雀・玄武・白虎・勾陣・帝久・文王・三台・玉女・青龍――――良い事を思いつきました。貴様、余程名のある鬼と見受けますので……鏡子の式神にしてあげましょう」


 手を十字に斬りながら、その子は笑う。その笑みに私も微笑み返した。


「…式神?よくわかんないけど、何するの?」


「地獄の釜戸より、ずうっと…辛いことです」


 ぴりぴりと大気が弾けていく。先程まで私がいたガードレール付近を見上げても風は吹いていなかった。成程成程、及ぼしているのはほんとにここだけなのか。


「……あ、もう二時半か」


「散るなら散れ諸共に、我が終は汝らと共に、血肉須らく仇桜――」


 へえ、陰陽師ってひたすら五芒星作るわけじゃないんだ。嗚呼、でも今日も学校だしなあ……。ううん。


「ねえ、」


「青龍。応えよ、血の繋がりに従い、清明の血に応えよ」


「ねえ鏡子ちゃん」


「鏡子ちゃん!?」


 あ、あらら……。目の前で崩れていく術式が見えた。それに鏡子ちゃんも気づいたのか結構焦っている。


「あああああわわわわなんてことなんてこと!かなり綺麗に決まってましたのに!!この鬼!!」


「もう二時半だから帰ろう。…なんだかなあ、今日は貴女に会うためにここに来たのかなあ……。まあいいや。今日の学校には絶対行くから続きはその時にでも」


 くるりと身を翻した。後ろでキャンキャン喚く彼女。


「お、お待ちしなさい!逃がすとお思いですか!思いあがらないで下さいこの妖!蛇!鬼!畜生!」


「ふあ……ねむ。あー、鏡子ちゃん何組って言ってたっけ?」


「同じく一組ですっ!!」


「そっか、なら――よろしくね」


「はい!どうぞよしなに……って待て――――っ!」


 桜舞う季節。私を見張るような大きな月に背を向けた。


 私は……絶対に、あの世界へ戻ってやろう。そして湊を一発泣かせて、実花を助けてこの世界へ戻る。忘れてる等、元通りなど……どうやってそう思いこめと言うんだろう。


 あーあ。



先日、模造刀を頂いたのですがただ飾っておくのは勿体ないので剣道部時代の知識をフル活用して抜刀納刀の練習をしてみました。…剣心になれそうです。

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