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私の手を取れ

 雨音は止むことなく、更に強さを増した。窓を叩く風が更に強く強く叩いて、その音が眠る私の微睡みを攫って行ってしまった。

 ベッドの使用者が私へと変わったこの部屋のあちらこちらに実花が居た証があった。私はベッドから降りると、閉じられた三面鏡の前に置かれていた櫛へ手を伸ばした。椅子に座り、三面鏡を開いて髪を梳こうと思った。


「知りたいのでしょう」


 唐突に響いた声と、背後で笑う私が鏡に映った。確かにそれは私の声で、私の顔で、そう言った。

 私の顔をつけた女は私の肩に手を置くと、唇を耳元に近づけて醜く笑う。


「何故、狙われるのか。何故、…――この世界へ、来たのか」

「っ!やめて!」


 手を振り払った。振り払う反動で立ち上がるも、女は私の左腹に手を割り込ませるとドンッという物音を鳴らして私をドレッサーへと縫い付けた。瞳に、私が映る。私の瞳に私が、それぞれ異なった色を浮かべて映る。


「我慢しなくていいの。心に忠実でいい、いやむしろこの世界がお前に忠実なのだから」

「は、は――――?」


 女は急にアンスを掴んだ。鎖を引かれるので私の顎が上がる。力を入れられた鎖が(うなじ)に食い込んだ。


「な、何を」


 引きちぎられるのは予想できた。でも、鎖が砕ける何て誰が想像し得よう?分離した鎖はそれが当然と云う様に地面に落下した。床に衝突した鎖たちは小さな光を浮かべ散っていく。その色は、スワードが用いる色で間違いは無かった。

 女はアンスを上下で摘まむと、私を見て憐れんだように眉を下げた。


「…手遅れね。アンスに掛かっていた術は既にもう……」


 そう言うと、女はアンスを彼方後方へ投げ捨てた。壁に当たって跳ね返ったアンスは声も無く私の視界外へ消えた。


「全てを終わらす為に、お前にお――」

「ふざけるなあああっ!」


 私は女の首元に手を掛けベッドへと引き倒した。床に引き倒すことは理性が拒んだ。


「あんたの!あんたのせいでッ!!実、実花が連れて行かれた!あんた、助けるって、助けるって言ったじゃんか!」


 激昂した瞳に、生理的な涙が覆う。


「なのにあんたは!思ったんでしょ!?実花がつれていか、れる方が良いって!わかってるんだから、わかってるんだからこの馬鹿ッ!!……うっ、どう、して!どうして!力があるのに実花を助けないの!知ってるでしょう、あの子は強くない――強くないって!殺されたらどうするの、私の代わりに実花が死んじゃったらどうするのよエリス!」


 涙は零れ落ちる。


「……泉」

「あの戦い方を覚えてるあんたなら、助けられた!あんなに血を流して、意識もなく、て、――殺してやる!実花が死んだら、お前を殺してやるからな!!」


 私の涙を頬に受けた女は、その言葉に笑った。


「……笑い事じゃないのよ!?」

「…知ってるわ。あの子が弱くて、泣き虫なことくらい。当たり前でしょう、自惚れるんじゃないわよわたし。あの子を愛していたのは――わたしなのだから」

「……!?」


 女が見開いた時、姿が変容していった。黒から金へ、私が変わる。



 あまりの悪寒に、私は手を離した。尻餅をついて、後ずさる。何故こんなにも、この微笑みは恐ろしいのか。


「あはは...見てよ泉。わたしはもうお前と言う肉の器から出てしまえるようになってしまった。意識だけが魂を離れるなんて出来ない、段々、お前がわたしに成ってしまう」


 女は立ち上がると、私を見下ろした。


「……ふふ、わたしが、まだわからない?」


 女は続ける。


「…あれ程乞われて、恋われて、まだ自覚しない。何故かしら、…私の姿が私に反映されないのも何故?……けれど今日はこの話をする為に出て来たんじゃないの」


 女はしゃがみ込んで私の顔を覗くと、頬を拭った。


「……わたしはね、実花を見捨てたんじゃないの。助けようと思った……助けるつもりだった――あの時までは。湊、あの子が飛び込んでくるまでは」

「……は…?」


 光景が脳裏に蘇る。


「あの子は一つの力を得ている。理解しなさい、わたしの言葉を。今のお前にならわかるから。……湊は一つの力を得ている。みなとが、違う、力を、得ている」


 すとん、すとんすとん。


「…完璧な一個体の力、名を正義ユースティティア。あの力はそうそう円卓の騎士に押し負けるものではない」

「……ゆ、ユースティティア……あ、ユースティ……」

 

 声が響いた。豪快に笑う声、笑うと瞳が消える顔、紫に染まった――彼女だけの、目。

 ユースティ。それは、ある女の名。


「実花をシリウス側へ渡したのは湊。湊は――湊は危ないわ。気を付けなさい、実花の死を容認したのは湊。――あいつは、芝居を打ったのよ……!」

「…う、うるさいうるさい!だまれ!」

「だって考えてみなさいよ、私が黙っていたあの間……湊は私が泉だと言わなかったわ。この意味がまだ分からないの?」


「……ユースティティアの力を最大限使わず、実花を見逃した。ほらやっぱり!そういうことなんじゃないの!」

「うるさい消えろ!!!」


 滲む視界と湧き上がった感情のまま、近くにあった花瓶をエリスに投げつけた。エリスの身体を突き抜けて花瓶はベッドの柱に当たり、その破片を散らした。

 エリスはその破片を一瞥すると、私を再び見下ろした。


「……もう一度、考えてみることね。――どちらの手を、取るのか。私と共にくるなら、全てを教えてあげる」


 そう言って、姿を消した。

 開かれた三面鏡に映るのは、頬を濡らして息を切らせた醜い私の姿だけだった。


**


 暗い廊下を涙を拭って渡る。目的など無かった。強いて言えば此処に吹き込む冷たい風に頭を冷やして欲しかった。けれど、拭えども拭えども涙は止まらなかった。

 誰にも会わずに外に出られるはずなのだ。だって、今私が廊下にいるのを知るのはこの月のみなのに――。


「泉……!?おい、どうしたんだよ…!?」

「……みなと……」


 神様、どうして貴女はここまで残酷なの。




**



 ありがとう、スワード。お前の暗示、よく効くわね――悪い子。



 ――――金髪の泉の姿をした女は、ポケットから淡く光る鎖を取り出すと、それを握りつぶした。

 

 浮かべた笑みを隠そうともせずに、ただ黒い眼に月の黄金が反射する。


先週は誠に申し訳ないです……ごめんなさごめんなさい………!そそそそそれより、とあるアプリでぼくの地球を守ってという漫画を読んでいるのですが輪くん良いキャラしていますね。あの年齢であそこまで狡猾に物事を進める何て……恐ろしい子……!!!

全巻買ってきます。

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