こんなに呆気なく
キャラクター紹介のページが・・・おやおや?
上空へ上がる真白の翼、人はそれを斯く言うのだろう。天使、と。
呆然と見上げた私を見下ろすその光景に――ある感情が湧いた。被る、目が、私を――。
「させる、かあああああああっ!!」
駆け出して、駆けて、瓦礫を飛び上り、一番高い所で飛んだ。慣性を味方につけ風の補助を受けた私の身体は空を大いに浮遊する。私の意志を汲み取るように風は私を舞い上がらせた。
手に握る剣。振り返る金色の瞳。
笑う瞳に振り下ろされた白刃は、化け物によって押し返された。
ぬるりと顔を出した化け物は私の剣を跳ね返すとそのまま私の腹部へ蹴りを入れた。唸った声と、強すぎる引力に剣を手放した。落ちていく最中、必死に伸ばした手は――…太陽を透かし、実花を溶かした。
「実、花……」
行かないで。
「――泉!」
落下する速度を速めた身体を滑りながら受け止めた湊は、私が湊へ瞳を向けるとその目を吊り上らせた。
「っっ何してんだこの馬鹿ッ!!」
「まあまあ、湊くん……!」
湊が怒っている。そして…嗚呼、口元が血で汚れていた。
「湊……」
その頬へ手を這わせた。一瞬震えた瞳が何かを堪える様に細められた。
「実花が……」
目に映る青空には雲ひとつなく、
「アスティンさん……」
見渡した人々は傷ついて、
「……ごめ……」んね。
思わずそう呟いた私を、湊は抱きしめてくれた。
別に、慰めの行為が欲しかったわけでもない。ただ、この事態を引き起こしたのは間違いなく私だと確信したわけで――……でも、何故私なのかがわからなくて。
どうしようもなく、やるせなかった。
*
「はーん……騎士ヨハネかァ……」
西の諸侯の一人であるアルピリさんは煙草を加えながら髪を掻いていた。治療を施された私達はもう外傷は無く、アルピリさんの私室に乗り込んでこの全てを吐いた…主に湊が。
私は窓に近い椅子に座り、その光景を傍観していた。
「実花が、泉として囚われた。……とてつもなく、嫌な予感がする」
「同感だ。ヨハネは泉さんだけを狙っていた…恐ろしいよ、スワードは一体何をしているんだろう」
外は雨だった。後々から急に振り出した雨は、まるで血の穢れを厭う様に全てを流していく勢いだ。
「今上陛下の腹心共……アー、頭いてェなア。…なァ、アスティンよ。お前さんに尋ねたいことがあるんだが――」
「……なんでしょう、アルピリ殿」
「知識を開示せよ。……陛下の目的は?」
「…………、……申し訳ありません」
「だよなァ、……王っつーもんは何て卑怯なんだろうなァ」
これは、能力の規制というものらしい。アスティンさんがたびたびわからない、や知り得ない、としる情報はその言葉自体は偽りのもの。但し、アスティンさんはそうとしか言えない――らしい。知っているはずなのに言葉に出せない、わかってるはずなのにわからない。アスティンさんより上位に位置する存在の情報は知らぬ内に鍵が掛けられ見えなくなる――というものらしい。
知識として名を馳せる意味がない、とアスティンさんは苦笑していた。
「……泉」
嗚呼、月が隠れてしまっている。
「泉!」
「えっ、あ、ごめん。何?」
「……。何で、今日あんな無茶をした…?それに、どうやってアレを纏った…!?」
「あれ?」
「風の加護、意図的に風を起こしたり……名の通り風が護ってくれる」
「……嗚呼……」
ゆったりと視線を湊に向けた。
「力を…貸してもらったの」
「…貸して……?」
「そう。…誰だっけ……え、……エリ……」
「まさか」
「エリス――…エリス」
「エリス……?」
湊は顔を顰めたり呆けたりした後、くるりと踵を返した。私との会話は終わったのだ、それでいい。今日はもう、疲れた。頭で整理しなきゃいけないことが沢山ありすぎる――……。
「はあ……エリーシア。…もういいだろう」
斜陽が邪魔して姿が白く滲む彼の声色は呆れを含むものだった。金髪の少女――と言えど、15くらいだろうか。少女は木製の剣を地に立てた。
「はあ?まだよ、まーだ!最近剣の稽古してないのよ、腕が鈍ってたら緊急時に頼りにならないでしょ!」
「緊急時に頼りになられたらそれこそ困るのだが」
「……もしかしたらもしかするかもしれないわ」
「――ぬかせ」
少女は反論した。目に見える形で。
いつの光景だろう、だれの日常だろう―――なぜこんなにも暖かいのだろう?
「もう、うるさい!護られるだけ何て癪だわ、偶にはわたしがお前達を守ってあげるから!さっさと稽古相手に成りなさいよ――!」
風が凪いだ。嗚呼、そうだ。身に刀身が触れる前に軌道を風がずらす……片足を軸に身体を回転させるときは、風が勢いを助長させる。
木陰で微笑むメイド服の女。
その横に座る男。
……そうだ。こうやって、戦ってたんだっけ……私。
「――……ことだ。手伝ってもらうぜアルピリ」
「アあ、勿論どうぞ?俺っちは構わない」
「と、いうことだ――泉、わかったか?……泉!」
「……え?」
ピントが合う。あ、湊だ。
「わかった?」
「え、うん……わかった」
心臓がドキドキする。アンス、ねえ、アンス……私、わかったよ。
ストック・・・・が・・・・・