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二人だけの屋敷冒険

「探検って言っても……泉はずっと此処にいるんだよね?今更じゃないかなあ…」

「そうなんだけどそうでもないんだよね。私、ほとんど自分の部屋とかにしかいなかったから」

「そうなの?」

「うん」


 結局私は実花とパーティを組んだ。一声かければ子犬の様に「行く!」と言ってくれたのだ。さながら子犬の様だ。可愛い可愛い。


「…まあ、お城とかもいったけど」

「お城?」

「そう。あんま良い思い出はないんだけどー…すっごい城だった。ヨーロッパのお城ってあんな感じだよね?いいなあ、住んでみたいなあ」

「ふふ、此処も結構お城っぽいけど……。泉が行ったそのお城って、ラティアにある奴?」

「……ラティア……?」


 私は首を傾げながら単語の繋がりを確認する。そんな言葉聞いたことあったっけ……。

 私が答えを求めて実花を見ると、実花は少し私を見つめたあとはっと息を呑んだ。


「ごめんね。えと、王都……だよね?」

「そうそう!あ、王様にも会っちゃった」

「――王様」


 私は鍵穴に合う鍵を差し込み替えながら話を続けた。


「とんでもない奴だったけどね。おかげで死にかけたし」


 かちゃり、と軽い音を立てて鍵が外れた。やった、とつい声が出る。


「アスティンさんの方が死にかけてたけど」


 くすくす、と笑うも実花からの反応が無い。扉を開く前に後ろを振り返ると、何やら物思いにふけっている様だった。


「……実花?」

「……、…あっ、え?」

「どうしたの?」

「な、なんでもないよ」


 うん?

 誤魔化すように笑う実花に疑問の声を投げて、私は扉を開けた。そこは――空中庭園だった。


「うっわあ……!なにこれすっご!」

「スワードらしいね……」


 庭の薔薇園も素晴らしいが、此方もまた一興だった。赤に留まらず全ての色が網羅してあると言ってもいい。見慣れた花から見慣れぬ花までが揃えられた花園はさながら先人たちが言っていた桃源郷。


「見て見て!この花から光の粒が出てる!」

「嗚呼、それは」

「なにこれきっも!」


 飽きさせない程の種類。私は軽く我を忘れてスワードのコレクションに浸っていた。後ろをついてくる実花の表情が、先程から晴れない事に気づきもせずに。


「ねえ、……泉」

「んー?」

「ちょっと……聞いてもいい……?」

「いいよ?」


 私は花の匂いを楽しむためしゃがんでいた姿勢を元に戻す。顔を向けて続きを促せば、言いづらそうな実花が口を開いた。


「あた、……。さっき泉さ、死にかけたって言ったよね」

「……嗚呼、言ったね。それが?」

「あたしが居ない間にあったこと……教えてほしいの」


 私は無意識に自分の首に手を当てていることに気付いた。茶化すように言ってみても、私の中に染みついた恐怖は未だ健在だ。


「えー、何?そんなに知りたいの?」

「うん……」


 何でだ?

 そんな疑問が私の喉に触れては消えていく。まさか仕返しにでも行くつもりなのだろうか?実花は可愛い顔をしていながら、昔からそういう気質がある。意外と侮れない女なのだ。


「じゃあ…そうだね。移動ついでに話そうかな」


 実花はか弱く笑った。




**


「ここにはさ、何かすっごい力を持つ王様がいるんだって。まあ、魔法がある位だし普通なのかな」


 私達は新たな冒険を求め再び屋敷を探索していた。


「で、私達みたいな違う世界…から来た人の事をナール…愚者と書いてナールって呼ぶらしいの」


 うん、うん……と実花は相槌を打っている。


「その愚者(ナール)はね、発見され次第王都へ送るのが普通なんだって。私はスワードが保護してくれたから大丈夫だったけど実花達はもしかしたら…って思ったんだ。私」

愚者(ナール)をラティアへ……」

「さっきから言ってるラティア…って王都の名前?」

「あ、う、うん。そうみたい」

「へえ…物知りだね、実花は」


 う、うん…と背後でぎこちない声が聞こえる。あれ、私強く言っちゃったのかな。

 

「うお…なんか厳かな扉だね。入ってみようか」

「そうだね…鍵探すの大変そうだけど」

「数撃ちゃあたる」

「泉……」


 私はまたガチャガチャと作業を再会した。


「あ、まあーその後色々あってね。お城に行ったんだ。すっごい豪奢なお城でね、本当すごかったなー…お城は」

「何かあったんだね」

「そう!王様!あんな横暴な王様が存在してるなんて何て世界だ!…これじゃないか」

「……王様の名前は?」


 うーん、と私は記憶を辿る。微かに脳裏に浮かんだのは別れ際の巫女達の言葉だった。


`シリウス殿には気を付けられよ。あの方は……'


「シリウス」


 返事はなかった。何処か強張った息遣いが止まる音がする。


「"絶対にして、万物の王――シリウス=ミストレス"って、スワードが言ってた……」


 ドアノブを回して扉を開けた。鼻を掠める独特なインクの香りと、大群の様に陳列された本の量に私は声を失った。

 書斎、いや、小さな図書館?

 華やかながらも優しい装飾は其処に確かに平穏を与えていた。


「すごい……」


 こんな場所があったんだ。ここには。

 学校の質素な図書室なんてもんじゃない。綺麗で、穏やかで――…どこか愛しい。そんな感覚。


「――ねえ!ここすっご」


 そして振り返れば、対照的な場面に出会う。

 実花は書斎に入ることなく、開け放たれた出口に呆然と立ち竦んでいた。書斎は静寂なのに、一人分の呼吸音がうるさい。

 実花は停止されたままの動画のようだった。


 僅かに実花が瞳を動かして私を見た。それに息を呑む。


「…ミストレス?」


 遅れて、発せられた震える声。


「……シリウス=ミストレス?」


 実花はまるでこの世の終わりの様に青ざめた顔と開いた目で、私に尋ねた。

実写剣心がかっこよすぎて過呼吸になりそうです。これが…鯉…

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