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シリウスくん!!シリウスくんがいます!!!!先生!!

「…何?愚者(ナール)を使わずにそのまま手元に置いている?スワードが?」

「そのようです。…加えて、男一人女一人…」

「――男?彼奴の人形遊びに何故、うっ……」

「陛下!」


 大きな天蓋付きのベッド。その色合いは男が顔に浮かべる焦燥感を増す様に重苦しい。そんなベッドの中で男は胸を押さえて一時の苦痛から逃れようとしていた。今の己の姿が、過去の彼女の姿と重なって笑みが落ちる。同時に落ちた冷や汗は随分と冷たい。


挿絵(By みてみん)

 先日、男はあまりの唐突な負の流入に床に崩れ落ちた。身体に一瞬にして返ってきた強大な反動。それは、一日に渡って緩やかに行われるはずの浄化が異常に行われた合図。……大量の負をシリウスが浄化していたという事実を指した。

 王の異変を察した王付の女中――リアラが空間を裂いて現れる。靴の固い音を二度響かせると僅かな間、王を見下ろした。しかしすぐに王の片腕を取ると隙間に身を割り込ませ、支えとして立たせる。


「何があったの」


 抑揚の無い問い掛けに王は答えることが出来ない。呼吸をするために力を緩めることさえ苦痛だった。

 シリウスは息を整える為か、身体に力が入りすぎている。


「……取り敢えず、一旦移動致します」

「ま、てリアラ……」


 リアラは訝しんでシリウスを見た。浄化の反動の余韻に首を絞められているくせに、この男は何を言っているのだろうか。

 リアラは思った。私が今、この人の首を絞めれば殺せるかもしれない。シリウスは何の警戒も無く私に身を預けているのだから。過去に誇った力の大半を出すことが苦しい彼を、あの日彼があの方にしたように……。


「水鏡の…間に、移動しろ」


 ――…そんなことしたって何の意味も為さないか。


「仰せの儘に、陛下」


 リアラの心は、もうあの頃の様に揺らぐことは無い。立ち竦んだ頬に吹く風はずっと寂しく凪いだまま。あの日、彼女と共に自分の一部を失った時にリアラは完全な竜ではなくなったのだ。





「陛下……陛下?薬剤師をお呼び致しましょうか」

「……いや、いい。報告の続きを……っ」

「ですが――」

「早くしろッ!!」


 シリウスが声を荒げ、事の報告に来た一人を鋭く睨みつけた。金が怯え、(あか)が牙を見せる。金の瞳を持った青年は震える声で「も、申し訳…ありません…」と述べた後、書類を落とさない様気を付けながら読み直す。


「今回、スワード様の…領地に居ると思われる愚者(ナール)は三人。男、女、女です。一人は……陛下は既にご存知…だそうですが…」

「……嗚呼。それで」

「は、はい。通常スワード様が回収なさる愚者(ナール)は直ぐに反応が消えるのですが…今回は些か長すぎる、と」


 シリウスは一杯水を仰ぐと深く溜息を吐いた。スワードの普段からの奇行は周知の事実だったが、今回のイレギュラーは初めてだった。対処の仕様がない。…しかし、スワード本人にその意志が無くとも、血気盛んな彼の門地の者共が何かをしようとしている可能性もあった。グリームニルは魔術を専門としている。あの愚者(ナール)を使ってまさか何か……。


 嗚呼、頭が痛い。

 ここ数百年の内でスワードの手綱を放れた軍勢がしきりに城を襲う。王位の取り方も知らない連中が、得意の魔法式の奇妙な組み合わせで蜘蛛の巣を張る。城の雑魚なら数人還()れるだろうが王である俺を手にかけるなど、この世界が許さない。


――嗚呼、やはり頭が痛い。


「スワードを呼べ」

「は、……は?」

「直接問いただす」

「畏まりました」

「失礼致します」


 リアラだ。手に服を持っている。シリウスはいつも通りベッドから出て上着に手を掛けた。連絡をしに来た男は「それでは失礼します」と一礼をして出て行った。


 リアラは無言で作業に取り掛かる。シリウスも無言で服を脱いでいく。外に晒すことの無くなった身体は、随分白い。


「……スワードが王都へ入りました」

「早いな」

「早い?」

「此方の話だ」


 そうして王としての服を瞬時に身に纏う。鏡越しに見える自分が、酷く滑稽に見えた。

更新が遅れたでござる……。

藤原竜也が凄いでござるよ……。

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