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ペルソナ

「離して」

「泉……?」

「離しなさい」


 些か乱暴に身体の拘束を解く。私は彼らを引き剥がすように前に歩み出た。後方で実花が制止を叫ぶが、アスティンが上手いように止めているようだ。

 私は、術式人形の前で倒れている浅い息の湊……の前に立つと、まず術式人形を見上げた。私と目が合うとソイツはにこりと微笑み、恭しく頭を下げた。――忌々しい。

 ソイツを無視して、膝を折り湊の頬へ手を添える。血塗れた身体が痛々しい。シリウスの剣は――幾ら効果を模倣しているとはいえ――傷の癒えを遅くさせる。


「よく頑張ったわね……、いつも有難う。この子が幼い時から、ずっと見てたわ」

「……嗚呼、あんたか……。別に、大したことじゃ……ねえよ……」

「もう、お眠り」

「……ごめん、ごめんな……泉……」


 震える手が私の頬を撫でた後、湊は意識を落とした。赤い付着物と青い顔。早々に休めた方が良い。


「はは、やっとお出でになられましたか……待ちわびていましたよこっちは」

「……アレウスね。まあ随分と……」


 狂っている。息を切らせた静かな狂人は、微かに笑いながら私へと近づいてきた。それに反応して、スワードの術式人形が私を守る様に前へ歩み出る。その仕草に、またアレウスが反応した。


「何と嘆かわしいことだ……何時まで経っても、貴方は、その方に囚われて……」


 黄金の瞳が、憎しみを孕んで私を射抜く。

 ――何故私をそんな目で見るの?私の慈悲を飲んで生きてきたお前たちは、私に感謝こそすれ私を憎むなんてお門違いも甚だしい……!

 

「助けてあげようかと思ったのに……馬鹿な子」

「――なんだと?」

「お前みたいな愚直な子は要らない――嗚呼、そういう所もシリウスに似たのね?」

「貴様――――――ッ!‼!がはっ……」


 緩やかに地面に伏せる騎士。それを冷ややかに見下ろすかつての騎士擬き。そして私は、己の手に愛剣(アンス)を呼んだ。ずっしりと手に乗る懐かしい質量感。何もかもが、過去ということだ。


「アレウス……っ!泉っ、何するの!泉ぃ!」

「別にその子を還したりしないわよ……うるさいわね。私が用があるのはこいつ」


 構えを解いた無防備な背後に、深々と剣を差し込む。術式人形は少し呻いた後、驚いた眼差しを私に投げた。


「すぐに本物(おまえ)を殺してあげる……そして返してもらうわよ、私の力を」

「エリーシア様……何故……」


 そして術式人形の身体は水の様に弾け蒸発した。剣を振り払い、鞘に納める。…後ろを向くと、実花が呆然と立ち竦んでいた。私はそれを一瞥して、笑顔を作った。


「…あれは人形よ?邪魔じゃない、偽物のお前なんて」

「……エリーシア様」

「あらあら、そんな怖い顔をしないで頂戴」


 湊の顔を膝に乗せ、頭を撫でてあげた。それと同時に、治癒を促す。あ、そういえばもう一人居たわね。


「そっちの子もきちんと看てあげるのよ」

「…治癒を掛けてあげないの…?」

「――あらどうしてェ?お前の連れなんだから、お前が面倒を看るべきだわ」

「エリーシア様、少しお言葉が過ぎます」

「ふふふっ…湊はね、私の竜だから私だけが護っていいの。可愛い湊…ずっと健気で、ずっと私の傍に居てくれる……あはは…」


 実花は戸惑いを隠そうともせず、私とアレウスを交互に見ていた。どちらに近寄るべきか、悩んでいるのだろう。


「今晩の記憶は私が貰ってあげる、スワードにまだ勘付かれるわけにはいかないものね。……嗚呼、良い風……実花?おいでなさい」


 素直に従う彼女は、あの頃の面影を色濃く残す。手を差し出せば、その手を重ねた。


祝福(フラン)(ベルジェ)は、お前自身の為に使いなさい」

「…?勿論、そのつもりだよ……?だってあたしは、エリーシア様の騎士だもん」

「違うわ。お前は、泉の親友よ」


 混乱した顔に微笑んだ。そして私は身体を手放した。前のめりに倒れていく泉の身体を実花たちが支える。

 戻った丘で、また一人過ごそう。身に棲む魔物をあやしながら、私は私の壊れざまを自嘲しよう。

 もうあの日には戻れないのだから。



授業中に小説の内容を考えてると授業の内容がさっぱり入ってきません。ヤバイ

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