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私の家は街を少し見下ろせるほどの高台にある。今は春だし、風も気持ちいいから見下ろせば桜の傘道、頬を撫でるのは優しい風……ああ、私って文学少女……。
----そんな風に悠長に構えてたから、私は目の前を横切った"モノ"をしっかりと見ることが出来なかった。
「え?」
「ん?」
「あ、いや…なん、だろうね?」
「寝ぼけてるのね」
「ママ……」
そうだよね、だめですよね。私はさっきの光景など特に気にもとめず、目の端で捉えた桜に意識を奪われれば、そのことをすっかり忘れていたのだった。
光景と言ってはみたけど、私自身何だったのかわからないの。
「これと、これ。はい、持ってって」
「うぇーい」
げんなりと肩を降ろした。重過ぎ……わけわかんない……。裏若き乙女にこんな重労働させるなんてこの鬼ィ!……なんてこと言えるわけもなく、私は大人しく我が家の門を開けた。足で。きぃーっ!と若干激しく開いた門に冷や汗をかきつつ門の隅々をちらちら観察する。よし、大丈夫、壊れてない、OK。
ドアの前に立ち荷物を床に置いて鍵を差し込む。うちも指紋式に成れば楽なのに……それか、執事とかいてぇ、私のために「お帰りなさいませお嬢様。ほら、玄関を開けろ!」とかぁ、「お疲れでしょう?お荷物をお預かり致します」とかぁ、「お嬢様……」とか言いながら私のほっぺをあああ-----ひ-----やばいィ!
がちゃん。
妄想で盛り上がった力の勢いで鍵を回し、顔をだらしなく緩ながら靴をパタパタと脱ぎ捨てる。遅れて入ってきたママが何かを言うのはいつものこと。
台所の床に荷物を置けば私は自室がある2階へと駆け上がった。