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「…申し遅れました。俺の名はアレウス。今は主に変わり、宮廷騎士団団長を務めさせて頂いております……ご息女。先日は御無礼を再びお詫び申し上げます」

「……かみ、……泉です。大体の理由はわかっているつもりです…ので、すみません」

「いえいえ、初対面であれ程の事をしたのは俺ですからそのままで構いません」


 愛想笑い。隠そうともしない笑みに私は視線を逸らしてしまう。


「アレウス殿、如何いうことじゃ」

「ふざけた理由だったら容赦しないからな!」

「ふふっ…まあまあ落ち着いてくれないか。泉様が此方に留まる事は先程の会議で話し合われたが……」

「え、どうしてですか?」

「……結果は否。まあ、スワード様のご息女を態々此方へ留めておく必要性を感じない。嗚呼――…まだ髪色を元に戻していないようで?」

「……その、私……」

「失礼、既に知っています。……巫あまり睨まないでくれないかね」

「貴様……っ」


 アレウスさんは肩を竦めると、薄ら笑いを浮かべながら話し続ける。


「陛下の元へは送り届けない。これが…俺が実花様に付いて行く条件だからな。約束は守るさ」

「はぁ!?アレウスさんついてくるんですか!?」

「…何か問題でも?」

「……話が逸れている」

「あっ、ご、ごめんなさい巫女さん……」


問いただしたい私の理不尽を押し込める。正直、この人がスワードの家に来るのは嫌だ。……嫌だなあ。


「其れで、先程のアレウス殿の発言は如何様な?」

「嗚呼、すまない。泉様が此処に居るのは安全とは言い難い――……と俺は言ったんだったか」

「だから早く続きを言え‼」

「……、此処まで来ると哀れだな。目先の者に盲目すぎる。……此処は元々()の転生を守る場所。エリーシアとかいう先王を守る場所ではなく、王を守る場所で…間違いは?」


 巫女さんは何も言わず、少年だけが声を上げた。


「間違いはない様だな。ならば話は簡単だろう。……精々その神力とやらを持って我が主をお守りしてくれないか、古の巫女。……いや、女王と言おうか鬼道の術師よ」

「口を慎め簒奪者の犬―――ッ」


 口を巫女さんによって塞がれた少年は、目を吊り上げながらアレウスさんを睨みつけていた。アレウスさんは鼻で笑い飛ばすと、そのままスワードが出て行った扉へと向かってしまった。彼が消えた後、解放された少年が一気に巫女さんに食って掛かった。


「巫女様‼なぜ黙ってたんですか!僕らはあんな裏切り者を守る為に――」


 ぱしん、と乾いた音が響いた。何が起こったのか、という様に大きく目を開いた少年は静かに自らの頬に手を添える。「ねえ、さん……」と静かに漏れた声は誰にも拾われずに転がり落ちた。


「……口を慎め巫よ。……主の御前であるのだ」


 息を呑む音が聞こえた。何故か巫と言う少年は私を見た後、悲しみを全面出した悲痛な面を俯かせた。そして、小さな声で「すみません……」と謝った。


「…確かにアレウス殿の言う通りじゃ。私達は目先の欲に走りすぎた様……。此方にシリウス殿が訪れるという可能性を消し去っていたのじゃ……意図的に」

「え……」

「シリウス殿には気を付けられよ。あの方は、もう手遅れであるように思える……話を聞く限りは」

「巫女様、そんな奴なんてもう如何でもいいじゃないですか。…ねえ泉様、…また来てくれますよね?」

「そうですね……機会があれば」

「そうか。是非お立ち寄りになられよ、いつでもお待ちしております故」



 そんな目を向けられても、私は何も答えられない。言葉の裏に見えた、行くなという文字にどういう意図があるのか。

 …それとも、同じ愚者として心配してくれているのかな。


「嗚呼――…くれぐれも、泉様が現れた地より先にはお進みになるな。奥に御座います神殿は、シリウス殿の術が仕掛けられている」


 無言で頷いた。無音の悲しみが満たすこの空間からはやく逃げろと頭の奥で誰かが言う。


「さあ、お行き為さいませ。スワード殿がお待ちになっておられるだろう」

「はい……――さようなら!実花と湊がお世話になりました!」


 私は素早く頭を下げるとすぐに駆け出した。外に灯る炎の光が、朧げに揺れる。私は徐々に駆ける速度を落としていった。……立ち止まってしまうと、背後を振り返った。

 不思議と、残してきた二人が胸につっかえる。言葉に出せない異様な感情が私に不快感をもたらした。

 知り得ない感情は、私じゃない。私は……。


「泉」


 声の方へ目をやると、一人実花が立っていた。行こう、と差し出された手を取ることもせずに黙って見つめる。僅かな静寂の後、私が口を開いた。


「…実花」

「なあに?」

「…此処は何か、あったかいね」


 すぐに返答はなかった。少しの静寂の後、ゆっくりと実花が言う。


「――……そうだね」


柔らかく言われた言葉に息を呑むと、実花は私の手を取り静かに歩き出した。「でも……」と続けられた言葉に私は頭を上げる。


「泉が帰る場所はここじゃないよ」

「え?」

「んーん!さ、いこ!」

「うわ、ちょっと!」


 駆け出した先で、湊が遅いと笑った。






***

「巫、久方ぶりの祈りを主に捧げよう」


 巫女は、泉が去った後を名残惜しそうに見つめながら唐突に呟いた。同じように見つめていた巫は、小さく頷く。音もせずに立ち上がると右手で、軽く自分の髪を梳いた。


「私が祝詞を読み上げる。……舞を、主が為に舞を捧げよう……」


 まだ彼女が存命だった頃。彼女が還る直前の苦痛を和らげるために何度も捧げた舞だった。巫女たちがは発す祝詞、巫が捧げる舞は彼女にとって麻酔の様なものだった。…僅かな間なら苦痛を和らげられる。


 しかし、今は違う王へ麻酔を打つことに成るだろう。だがこの舞は彼女に捧げるのだ。それは人であった時と何ら変わりのないこと。

 神に仕え国を治めた彼らにとって、彼女の先を祈るのはごく自然なことであるから。


 願わくば、主に痛みがあらんことを。

 願わくば、主の望みが今度こそ果たされることを。


 どんな形に転んでもいい。どんな結末を迎えてもいい。

 それが、主の望みならば。


 

「……巫女、巫」


 彼らは舞を、祝詞を止めた。薄暗い部屋の一角から女の声がする。

 二人は別段驚くこともなく同時に頭を深く垂れた。ただ深く、慣れた様に――……当然のように。


 影に立つ女は何かを言おうと口を開いた。しかし、二人の姿を見て口を閉じる。もう時間がない、まだ長くはこの世界に()ることが出来ないのだ。

 女は静かに姿を朧げに消した。

 二人は、頭を下げたまま。


体育祭で、友人が「剣道部の旗ってシリウスの国旗的なのに合いそうだよね!」と言って確かに…と思いました。剣道部のは黒を基調としてるので出来ませんが、イメージ的にはピッタリだったのでシリウスが御旗の元恰好づけて座ってるシーンまで受信しました!ピピピ

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