旅は道連れ Ⅰ
振り払われた腕 のページにて挿絵を追加しております!是非ご覧下さい!
私は萌え爆死しました。
「泉ー、実花ー起きてるかーい?」
陽気な声掛けが扉の外から投げかけられる。私は汗を軽く拭うと「私だけー」と返した。戸を開けて顔を覗かせた湊が不思議そうな表情で私に視線を落とす。
「顔色が悪いな、何かあったのか?」
「え、いやー…ちょっと悪い夢見ちゃって」
「夢か、どんな?」
「んー…とね、…えっと……ははは」
「ははは」
二人同時に繕った笑い声のまま首を傾げた。そのままの姿勢で数秒止まると、耐え切れずにナイスタイミングで吹き出す私達。そしてまた、笑う。何処か懐かしい雰囲気に私は自然と笑えた。
一折笑うと、湊は涙を拭いながら実花の元へ向かった。すやすやと心地よい寝息を立てる実花の顔を覗き込む様にしゃがみ込むと肩を優しく揺らした。
「起こすの?」
「おう。此処に長居は出来ないからな。それに、どうせちゃんとした休憩を取るなら、スワードの屋敷で取ろうって話になったんだ。…おい実花、起きろ」
「んん~……」
中々起きないぞ、実花は。
私はその場から立ち上がり伸びをする。気持ちよく息を肺から吐き出して、新鮮な空気を入れる。一瞬途切れた視界と音声が、徐々に戻ってくる感覚は何とも言い難いものだ。
「…よかったね、泉さん」
「うわ!?」
「え!?」
びびびび吃驚した!お互い驚きながら口を開けていた。何時の間にか忍び寄っていたアスティンさんはもうくすくすと笑っている。私は暴れる心臓を抑えながら「やめて下さいそういうの!」と小声で叫んだ。
「脅かしたつもりはなかったんだよ?」
「顔にしてやったぜって書いてありますよ」
「酷いなあ、もう」
「してやったぜ」
「湊は早く実花を起こす!」
はぁー、と息を吐くとまだ懲りないのか、アスティンさんが言葉を続ける。
「アンスの事、気に入ってくれたんだね」
握り締めていたアンスを掌に置いて、見つめた。数秒して私は頷く。
「はい。何だかアンスって、ペットみたいで落ち着きます」
「泉……」
「事実だよアンス」
「それはそれは」
アスティンさんに続いて湊も笑っていた。私も何だか可笑しくって一緒に笑っていると、「――どこに笑う要素があると言うのか!」だって。――はあ、かわいい!
***
実花を引きずりながら皆でスワード達が待っているという部屋へ行った。この屋敷は広いけれど薄暗い。けれど温かい。ここはまるで、幼い頃に感じたお母さんの腕の中の様だ。
「スワード~お待たせー!」
アンスをいじり倒して上機嫌な私は勢いよく扉を開けて中に入った。スワードはそんな私を見て数秒目を丸くして、すぐに微笑んだ。
「ちょ!相変わらず乱暴だよな泉!」
「ねむい……」
「重い重い重いってえっ……!」
「眠い……寝るぅ……」
「みがぁぁあああ!」
あららら。
私も湊を手伝おうと踵を返した途端、スワードに名を呼ばれる。何だろうと振り向くと、スワードは私に歩み寄って言った。
「…そろそろここを発とうと思っているんですが…、よろしいですか?」
ちらりと実花を見る。嗚呼、なるほど。私は頭を掻きながら笑いつつ「大丈夫」と返した。それに小さく頷いたスワードは巫女さんに向き直る。そして彼女に一礼し、「僕は先に外に出ていますね」と言った。
私も軽くお礼を言って追いかけよう。此処に長居する理由はないし。
そう思って、私も巫女さんに一礼した。当然巫女さんも一礼するだろう――…そう思っていたが、巫女さんは何か悩んでいる様に顔に影を落としている。ただ黒い目で、私を見つめるだけ。
あ、そうだ。私聞きたいことがあったんだ。
「あの……」
「如何された」
「あなたも愚者、ですよね?その…此処に居て、大丈夫なんですか?」
「……失礼ながら、大丈夫、とは?」
「えっ?このせか、国では愚者は王様に捕まえられるんですよね?」
「……――嗚呼、成程……」
巫女さんは何か考えるそぶりを見せた後、ふっと笑った。
「実にも私は泉様と同様な者……であった」
「あった?」
小さく頷いた巫女さんに私は目で続きを促す。
「単刀直入に申し上げる。私達は当に1000年は生きている」
「え!?せ、1000年!?」
私はぎょっとして巫女さんをまじまじと見つめてしまった。せ、千年……?お、御婆ちゃん所じゃない騒ぎ!?
「僕らは死んで後、この世界に召し上げられましたからね!」
「異例なのじゃ。我等だけは」
「しん……でる……」
駄目だ、まったく理解できない。生きているのか死んでいるのか……わかんない。
そんな私の心情とは裏腹に、巫女さんと少年は僅かに見つめ合い微笑み合っていた。そして同時に此方を向くと、少年が首を傾げながら尋ねた。
「所で……泉様はスワード殿と行ってしまわれるんですか?」
「あっ、うん。そのつもり、です」
「巫、無駄な事はよせ」
「でも巫女様……やっぱり泉様には此処に居て頂く方が安全じゃ」
「いや、そうとも限らないだろう」
突然入り込んできたのは実花を守っていたと湊が言っていた男の人。私がつい睨むような視線を送ってしまうと、その人は口角を僅かに上げて恭しそうに見える動きで頭を下げた。
ふははは今週はストックが出来ましたので投稿してやりますぞ!!




