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笑んだ瞳

この世界における"毒"とは、即ち二世界の負である。

負とは即ち、祓われるモノ。清められるモノ。

ヒトが生み出す毒は、苦しみそのもの。それは苦しみからの逃亡を図る為、母なる王へ手を伸ばす。

誰しもが穢れたくない。誰しもが清く生きていたい。

――……人々の願いの為に、王は手を取り抱きしめないと。それが、王の役目なのだから。




「ギィィィアア"ア"ア"ア"ア"―――――!!」


 何時の間にか私は激しいあつさを忘れていた。何故かと言うと、それは……そのことさえも忘れさせる光景が広がったから。

 酷い声で嘆く化け物。それを仰ぐ金の瞳。その瞳を持つナニカは、私を真っ直ぐに見据えると目尻に涙を浮かべて何かを訴えていた。……その声は、私の大好きな声を真似て私を誘っている。思考が、頭の中でぐるぐると回る。

 今は唯、スワードの腕の中で耐えるしかないの?


「実花!毒に触れさせるな!今の身体じゃ死ぬぞ!」

「泉……」

「早くシリウス様!」


 化け物が、下卑た笑みを浮かべながら金の瞳に手を伸ばそうとした。化け物の顔がほんの一瞬だけ、安らいだように見えた――……その時。


「……その力、無闇に使うものではないわね……実花」


 巫女装束の女性が、突き通すような声色で発した言葉に私を含めた全員が動きをぴたりと止めた。動いてはいけない、そう思った。目線さえも動かすことが躊躇われた。でも、私の視界に入るのは紅白の服だけ。


「アァアアアアアああああああアアアアアアアアァァア!!」


 それは、歓喜にも似た叫び声だった。スワードが私を強く抱きしめるのと、私がスワードに縋り付くタイミングが合わさる。

 咆哮と共に霧散した化け物は、変わりに面積を大きくし巫女服の女性の元へと駆け出した。薄く私が開いた目から、その光景が見えてしまったから……私はとっさにスワードの脇から手を伸ばして「危ない!」と叫んでしまった。だって、その巫女服の女性は――……黒目黒髪だったから。


「世界の穢れは、……おまえが祓うのよ――シリウス」


 巫女服の女性は右手を前に突き出した。そのまま空間を摘まむ様に指を僅かに曲げると、一気に右を線を引いた。その瞬間、化け物は声を反響させながら……消えた。


 静寂。唯、静かな間が訪れる。巫女服の女性は緩慢な動きで全員を見渡すと、小さく息を吐いたようだった。でも、一人だけが動く。私を掻き抱いた腕から繋がる指を僅かに震わせて、スワードは振り向いた。


「エリー……シア……」


 巫女は静かに瞳を細めて微笑む。私は、何故か猛烈に嫌な気分になってスワードの名を呼んだ。それにつられた瞳が、此方を向く。

 行かないでよ、スワード。


「泉……」


 その時、小さな鈴の様な声が私を呼んだ。私はすぐに反応して、そちらを向く。向いた先には、大きな瞳から溢れんばかりに涙を溜めて私を赤子の様に呼ぶ……実花の姿があった。黒い瞳は涙で光が反射し、きらきらと光っている。


「実花……?」


 名前を呼んだだけなのに。実花は弾かれた様に駆け出した。手を私に突き出して、泣きながら向かってくる。それに私も弾かれた。脱力した守りは安易に解かれて、私は実花を抱き留める為腰を浮かす。


「泉……!」

「実花……!よかった無事だったんだっうえ」


 窒息死しそうな位の強さで抱き着かれ私は肺の空気が出た。畜生、相変わらず強い。アンスが実花の胸の圧力で私に抉り込む。痛い痛い二重の意味で痛い!胸もでかいこの野郎!


「ふえええええええええええ泉ぃぃいいいい!!うわああああ」


 肩口は色んな液でもうびしょびしょだ。考えたくない……でも放り出すわけにはいかないから私はひたすらに宥めてやる。「はいはい、大丈夫大丈夫」と髪を撫で続けると、実花は大分落ち着いてくれるからいいんだけど……。

 でも私は忘れていた。こういう時に来るものを。それは……。


「泉ぃぃいいいい俺もおお――――!!」


 左から首元に抱き着かれ、私は見事に陥落した。……こういうのも、悪くないから、いいんだけど!




鈴虫が近くで鳴いてます。風流ですね…あ、トイレ行こう。

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