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振われぬ剣

「ねえ、アンス」

「何用か」

「うん…あのさ……」


 街の宿に案内されて、部屋を貸してもらった。あの家のベッドとは違う固さに少し顔を顰めながら私は腰を降ろす。数回跳ねてから私はアスティンさんの事を心配した。違う部屋に通されたアスティンさんに面会が出来ないのだ。何度か部屋を訪ねてみたが、女の人が入ったきり入室を許されない。だから私は、もう一つのことを解消しようと思い、赤い石に話しかけた。


「アンスって、何なの?」


 いや、石じゃん。と言われたらそうだねと頷くしかないが、いやいや流されてはいけないこれは唯の石ではないのだ。


「スワード……」


 石が人だったら、しかめっ面をして溜息を深く吐いただろう声でスワードの名前を吐いた。

 私はただ、首を傾げる。石はふわりと自身を持ち上げると仄かに赤い光を放つ。「なに急に」と私が云うと同時にそれは先程の剣に変化した。細身の剣は、もう汚れていない。

 慌てて柄を掴みそれを引き寄せると、剣は笑った。「何笑ってるの」「いやあ、変わらぬと思い」「はあ?」「ははは」ぶん投げようと思ったのは内緒だ。


「では――泉が求めに応じよう」

「あ、はい」


 嫌に堅苦しい剣の言葉に今更ながら背筋が自然に――……固く身構えてしまう。それを知ってか知らずか、剣は一つ間をおいてから語り始めた。


 

 我はアンス。唯一無二を使い手とし、主と為す至高の剣である。遥か昔からそれは変わることを知らず。我は汝を守る為自ら己を振う。故に汝は我に身を委ねるだけで良い。


「あ、うんそのことはとっても驚いた。勝手に身体が動いたから…あれってアンスの仕業だったの?」

「仕業とは人聞きの悪い。それが我が能力,主の身を守る為、肉体のない我は主が肉体を我が肉体とし、主を守る。故に我は傷を負うことを避け、敵の殲滅を一に考える」

「ふうん……?」


故に、泉に願うはただ一つ。我が泉に憑依せし間、泉は動くことを考えるな。一つの肉体を二つの意思が動かす事は、唯の身である泉には酷というもの。生き残りたくば、この意に従え。


「うん、まあ、わかった。でもさあ…なんでアンスって……その、石、なの?」

「ふむ、それは我が依り代がこの石に移されたからだ」

「依り代?」

「如何にも。我は唯の剣にあらず、主が存在に寄り添うことによって初めて存在せし剣」

「…つまりは?」

「…泉を依り代とするならば我は剣の形で具現できる」

「だからつまりは?」

「今の泉は依り代にもなり得ぬ」

「わーお」

そりゃあ、ただの女子高校生ですからね!何てふざけて見たら、無言が返ってきてしまった。でも、よく考えてみて欲しい。こんな平凡な……身なり……の私が剣なんてぶら下げて街に入ろうとしたら一発獄行きあ~れ~…じゃない?なら、アクセサリーとして敵を油断させて背後を付いていきつつぶすり、と。


「あれ……?」

「如何した」

「…いや、えと……敵?」


 何を考えているんだろう、前提が可笑しい。私は数回頭を振れば右手で頭をぽんぽん、と叩いた。そして立ち上がり伸びをすると、目の端に夜空が映る。


「アンス、ちょっと外出よう?」

「了解した、と言ってほしい流れであろうが我は如何せん泉の首にぶら下がってる身でな、心赴くまま行け。我はもう離れはしない」

「遠まわしすぎて何言ってるかわかんないけど、有難う?」


 アンスに国語の勉強させるよう、アスティンさんに頼んで貰おうかな……。

 

「――やはり待たれよ」

「どうしたの?」

「我は(いにしえ)より共にある故ある程度は把握していたつもりであった。嗚呼、そうだともこれは我の把握漏れではなくそう泉、汝が呆けているのだ!」

「だから何!」

「その格好で夜町を彷徨(ある)こうなど笑止!」


はあ!?と声を出しながら私は姿見に視線を動かした。そう、アンスの言ったことは大体あっていたのだ、だから驚いた。あれほどのことがあった後だと言うのに--たった数時間前だと言うのに--血濡れた自分を忘れていたなんて。


僅かに顔を顰めて「有難うアンス」と述べ服に手を掛けた。今更になって、他人(ひと)の体液が気持ち悪くなった。


アンスは持ち主に自分を振わせません(泉が弱いから)

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