在りし日の影を見る
息を潜めて屋敷を抜け出す。その目的を達成することはきっとスワードへの恩を仇で返すことになるだろう。
私は胸元の石を握りしめた。微かな光に反射する赤色が私の心を落ち着かせる。
息を吸い、私は二人で屋敷を飛び出した。
薔薇園は迷路のように入り組んでいる。何処に出口が?本当にこの道が?――そんな疑問を抱く余裕などなく、私はひたすらにアスティンさんの背中を追っていた。アスティンさんは迷うことなく進んでいく。もしかして、こういう事もアスティンさんは知り尽くしているんだろうか?少し興味が湧いてきた、後で聞いてみようかな。
――なんてことを考えていれば、アスティンさんが私を振り返る。「もうすぐだよ」そう言われ私は頷いた。もう道は一つ。そこの曲がり角を……右へ!
「おはようございます、良い朝ですね」
喉が冷えた。そして頭を殴られたかのような意識的な衝撃。しかし私の視界はアスティンさんによって遮られた。私はただ、罪悪感に侵されていく。
一瞬見えたスワードは微笑んでいた。いつものように、朝の挨拶を告げて。
……嗚呼、やっぱりスワードは知っているんだ。
私は胸を抑えた。スワードに協力を求めることで導き出すこの事態への言い訳を必死に抑え込むため。私は、黙っていないといけない。
「おはよう、スワード」
「泉と何方へお出かけですか?」
「少しこの街の外れまでかなあ」
そうですか、とスワードは答えた。
「残念ですが泉は僕の元に残して一人で行ってください」
「いやいや、何で?」
「僕がそう、望むからです」
私は息を飲んだ。私が危険だから、私が無知だから……そんな理由じゃなく。スワードは、何と言った?"僕が望むから"?
「すわー、どっ!?」
「駄目だよ泉さん」
前に出ようとした私の腕を掴み戻し、アスティンさんは私を捕えた。「目的を忘れないで。スワードの甘言に騙されちゃ駄目だ」私はこくこくと頷く。しかし、私を捉えて離さないその瞳から目を逸らせなかった。
「ごめ…ごめんなさい、スワード」
一つ、一つ告げて行かなくては。
「私――……行く、ねっ!」
全てを言い終わらないで私は駆けだされた。ぐい、と引っ張られる上半身を立て直そうと前のめりに成りつつ、ついていく。スワードの横を通り過ぎる時、ちらりと見たけれどスワードは此方を見てなかった。唯、僅かに俯いて薔薇を見ていたような気がする。
「…何時でも彼らは僕の邪魔をする」
彼は泉が去った後、ぽつりと呟いた。薔薇を手で包みながらぽつり、ぽつりと……まるで雫が氷柱から落ちる様に。
彼は横切る泉を引き留めることなど容易に出来た筈だった。なぜなら、何の力も分からない泉の腕を引くなど赤子の手をひねるようなものだったからだ。しかし、彼が其れが出来なかった。手元に置いておきたいと望んでいると言いながら彼の身体は望みを得ようと動かなかった。
彼は泉が去った方向をようやく振り返った。惚けた様にその先を見つめて、彼は傍に控える女中に声を掛ける。
「いい、――良い。行かなくて良いです。アスティンがきちんと守ってくれる」
――いや、と彼は続けて唇に小さく弧を描きながら付け足した。
「彼奴が、意地でも守るだろうから」
そう言うと彼は空を見上げた。鉛雲の空。嗚呼――……もうすぐ、一雨くるかな。
スワードは静かに、目を閉じた。何時でも思い出せる情景。昨夜感じた彼女の気配が、色あせた思いを蘇らせる。
「わあっ……!見て見てっ!花が沢山咲いてる!此処、一杯咲いてるわ!」
少女は丘でくるくる回る。輝く金粉が舞う中を。彼は近くの花を摘み、少女に差し出した。少女は手の中の其れをしばし見つけた後。花の名を問うた。彼がその名を応えると、少女は嬉しそうに笑った。
「アザレア……っていうのね?さまざまな色があって綺麗ね……お前にしては良い花を選んだんじゃない?」
赤いアザレアを瞳に映して、少女は笑った。
彼は確かに思っていた。この笑顔を守りたいと。この少女を守りたいと。この丘の在り方を変えないで置くことを、強く強く思っていた。
嗚呼、そうだ。今だって変わらない。やはり、泉を連れ戻すべきだ。二度と同じ過ちを繰り返す物かとあの日、死ぬほど悔やんだんじゃないか。紅い色はあんな風に彼女を彩るものじゃない。
王都になど……――。
「バレン……バレン。聞こえますか?」
「なあに、スワード?」
金髪に紅の瞳を持つ少女がふわりとスワードの首元に抱き着き現れた。少女を抱き留めると彼は笑う。
「僕のお願い、聞いてくれますか――?」
ええ、勿論…愛しい、わたしだけのお父様。少女はあの日の様に笑顔で応えた。
遅くなりました、すみません。
いやあ、ちょっと政府から過去に飛んで悪い人たちを刀と一緒に倒してこいって言われまして……気づいたらこんなに日がたってました吃驚ンゴ。
いやあ、太郎太刀めっちゃかわいい。どっかいかんでまじで。




