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簒奪の刃

彼は彼女に跨がり何度も刃を穿つ。


救いを求める腕もひしゃげ、抵抗する足も既に感覚はない。唯長すぎる己の身体の耐久力の持続に耐えるだけ。その事が彼女にとって最大の苦痛だった。


凍てつくような冷たさを背中越しに感じていた。


当たり前だ。彼女の背がついている床はどこまでも赤い血が広がり続けている。血潮はただただ冷たかった。


どくん、どくん。


( 私の心臓は、まだ動いているのね )


彼女は動くことが唯一許されている頭でそんなことを思っていた。視界だってもう直ぐ失せてしまうのに。彼女の心臓を一心不乱に穿つ彼を少しでも脳裏に焼き付けたかったのに。




一柱の裏切りの行為を彼女は跳ね返すことが出来なかった。何も無抵抗にやられ続けた訳ではない。彼女は一世界の主にして王、万物の頂きに君臨する至高の存在であるのだ。もし彼女が万全の状態でなら殺されなどしなかった--そう、彼女の寵臣はこの時期を狙っていたのだ。ずっと、ずっと……彼女が世界の毒に冒され弱り果てるを傍で見ながら。そして機が満ち、彼女より授けられた剣を抜き彼女を背後から襲った。

殺気を感じ取った彼女は避けようと玉座から離れたが、その背を押したのは一筋の煌く刃の衝撃--仰け反った身体は下る階段に踊り出され重力の法則に従った。しかし、その身体は床に叩きつけられることはない。彼女は自力で体制を立て直し、足からふわりと着地し彼を見上げた。


 他の者達が悲鳴を上げ逃げ行く間、近衛兵はまるで金縛りにでもあったかのように動けずにいた。彼らには理解出来なかったのだ。王が襲われたことが。まずこれがあり得ないことであったから。そして次に何故王の側近でありまた騎士団団長であり、エリーシア皇帝の恋人でもあったシリウスが剣を抜いているのかわからなかった。

理解出来ないことに身体はついていけない。その二人以外、周りはまるで絵画の様で。


 シリウスは間を置くことなくエリーシアに向かって飛び降り剣を振りかざす。剣身が(のこぎり)の刃の様に反り返ったそれは躊躇なくエリーシアの肉を裂く。

 エリーシアは僅かに悲鳴を上げた。しかし、彼女の理性が声を殺す。彼女は生まれながらの王、その魂の続く限り永遠に彼女はこの世界を抱く。


「何をしている!」


 エリーシアは紅い瞳を細めながら叫んだ。それを合図に絵画達が動き出す。だが、シリウスは言わば王の軍事力。シリウスを殺せるのは(ただ)一人だけであった。

 





 床は(にお)いと色で塗られた絵の具絵のようで。

 静かになったこの空間で二人は見つめ合った。――相手を愛おしそうに想い目を細めたあの動きではなく。

 

 シリウスは床を蹴った。血で滑る等しない。唯真っ直ぐ彼女の元へ。


 エリーシアは後ずさった――が、その足は死体に絡められバランスを奪われる――――。


好機。シリウスは瞬時にエリーシアの胸元に飛び込んだ。そして、深々の剣を心臓があるだろう位置へ食い込ませる。倒れていくエリーシアの腕を掴むと此方へ抱き寄せた。そして更に深く突き刺していく。ごぷ、と口元から血を吐くエリーシア。しかし、彼女はそっと己を貫く剣の柄を持つ手の甲を撫でた。その行為に瞳を揺らしたシリウスだったが、ぎり、と歯を食いしばると剣を抜こうとする。エリーシアは其れに自らの力を加え一気に引き抜いた。更なる追撃から逃れるためである。


「……シリウス、」

「――お命頂戴申し上げる」



 この世界において、長すぎる生と比例する様に身体は丈夫さを増している。エリーシアを完全に殺すならば、その鮮血(フラン)(ベルジェ)復で何度も何度も心臓を穿てばいい。

 

 ――何度も、何度も。






 二章入りました~お腹もすきました

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