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学生

上山泉は学生である。

その事実はたとえ世界がひっくり返っても変わらないだろう。私が学生という身分を捨てるか、次の身分に上がることを除いては。そして――この世界においても、私は学生だったのだ。


「すみません……もう一度お願いします」

「畏まりました」


 この世界は現実世界とは大きな点で異なる事が多数ある。最大の違いを言うと社会の成り立ち……というか、世界の在り方?が大いに違う。何故そうなのか、というのは私にはまだ理解しがたいがざっとまとめてみようと思う。

 今現在、この世界は三柱(みはしら)と呼ばれる三人の人間によって成立しているらしい。一人は絶対にして万物の王シリウス=ミストレス。もう一人は、王専属侍女――侍女と言っても王のみの侍女であるらしく、この世界の権力者の一人である――リアラ=サルース。そして最後の一人。宮廷魔導士団団長の……、


「泉、此処の漢字間違っていますよ」


この人、スワード=グリームニル。


「あっ、うう恥ずかしい」


 宮廷魔導士団団長って何。物凄く言いにくいんですが。フライアさんによると、きゅ…魔導士団は騎士団と対に成る戦闘要員軍隊で総戦力は騎士団と同レベルらしい。私はイメージ的に魔導士=ひ弱だった。それを告げると少し離れた所で聞いていたスワードが此方へ戻ってきたから少し戦慄してしまった。

 そして……これ。世界地図。大きな正方形の角を荒げ擦りした様な地形だった。どうせならバグダードみたいに綺麗な真ん丸にすればよかったのに…と思った所、王都市部は案外丸っぽい。

 この土地は王様一人が全統しているわけではない。王都、東部、西部、南部と四つの地域をそれぞれの諸侯が統治している。まあ、諸侯はあの三人だ。東はスワード、西はリアラと言う人、そして南と王都が現王――。


「――ん?どうして、王様は南部にも土地があるんですか?王様は王都専門じゃないの?」

「嗚呼……元々シリウス陛下は一柱、南の諸侯だったんですよ。陛下は別にいらっしゃいました」

「四柱だったという事ですか?」

「簡単に言えば」


 ということは前王は死んで、今の王様になった?


「今の王様は前の王様の息子か何かですか?」

「まさか。赤の他人ですよ」


 ……討ち取られた、で間違いない。こういう王権は大体世襲制と決まっているからだ。んん、それにしてもこの話はあまりしない方が良さそうだ。スワードの眉間に若干皺が寄っている。わかんないな、こういう世界の王と諸侯の絆的なもの。やっぱり今の王様はスワードにとっては不服何だろうか?仮にも自分の王様を殺された事になるんだし。……でも現王様から殺されるって事はそれほどの暴君だったってことも有り得る。逆にあんな王様思い出したくありませんまじ不愉快。…って事かもしれない。

 いやまだ殺されたという確証はないんですけども。


「泉、今からいう事をよく覚えていてほしいんです」


 はい、と私は言うと居住まいを正した。


「僕とフライア、アスティンの関係が主従関係というのは一目瞭然ですね。僕は主人(ロード)と呼ばれますが主人は三人だけ。これはわかりますね」

「スワードと、王様と、リアラさん。……あれ?ちょっと待って」


 スワードは静かに私を見やった。


「王様が昔スワード達と同じ地位にいたことはわかりました。でも今は違いますよね?なのに、ロードって呼んじゃっていいの?ロードって所詮、貴族とか其処らの意味でしたよね?」

「嗚呼……。陛下は諸侯兼皇帝って感じですね」

「な、なにそれ」

「この世界が誕生してから、主人となる存在はこの三人だけって決まりなんだよ」

「きまり?憲法か何かですか?」

「まあ、そうとも言うけれど…遠からずも近からず、って感じだね。泉さんの国の憲法に例えて言うのなら……変えることの出来ない憲法かな?泉さんの国の今の憲法も未だ変えられてないみたいだけど、何時か変えられちゃうかもしれないでしょう?でもね、この国の、この世界の基礎となるソレは変えられない、いや変えてはいけないんだ。わたし達の勝手でね」

「ですから、陛下は兼任なんですよ」

「でも、王様がこの三人の中では一番上なんですね?」

「勿論です。……――話を戻しますね」


「この世界で、政や戦、学問等に精通したいのなら僕ら三人のうちの一人の傘下に下らなければいけません。一般市民は保護されているっていうだけですから、関係ありませんが」

「ちなみにわたしは学術を極めたかったんだ。だから魔術の長であるスワードと契約したんだよ」

「私はもう覚えておりません」


 フライアさんの言葉に私は目を瞬かせた。それを一瞥したフライアさんは視線を逸らし「昔の事なんです」と目を閉じた。


「あ、あの……戦って、戦争ですか……?」

「勿論です。僕は別にしなくていいと思っているんですが、下の連中が僕の意を汲み取ってくれないんですよ」

「そうそう、あの子達みーんなスワードに喜んでほしくて他領土に侵攻を繰り返してるんだよ。お陰で大司教が泣きついてきちゃったんだよね、"負担が大きすぎる"って」


 アスティンさんはけらけらと笑みながら紅茶に口を付けた。スワードはやや困った様に息を吐いた。


「何で戦うんですか?」


 アスティンさんが噴いた。


「ぶぶううっ、ふ、ふふっ、それ聞いちゃうんだ。結構聞きにくい事だとおも、思うんだけど」


 え、何。それなら何か意味ありげな空気を作っていただきたい。


「アスティン。……構いませんよ。簡単なことです、大方僕を皇帝の位に押し上げたいんでしょうね」

「そうだよ、それしかありえないでしょう?だって、今上陛下は王位を簒奪し、即位しちゃったんだから」


 アスティンさんは、愉快そうに口角を上げた。私は息を飲む。動く気配がしてスワードを伺い見ると、此方に背を向け窓から向う側を見ていた。


「もう一度、話を戻します。はあ、もう簡潔に話しますね、これ以上この調子で行けば泉が寝れなくなってしまいますから」

「お嬢様、夜更かしは美容の天敵で御座います」

「そうだね、わたしもお肌がボロボロの泉さんは見たくないなあ」

 み、皆して急に何なの!




 そのあとのスワードの話を要約すると、こういうことだった。

 傘下に入った者は主人との契約の印に自分の色を差し出すらしい。此れだけじゃよくわからないから言うと、目の色を主人と同じものにするんだって。っていうか、成るんだって同じものに。だから、あの三人の目の色が同じだったというわけだ。ちょっとわけわかんないけど。


 色を主人から授けられると主人の力の恩恵を得られる。スワードの場合は魔法?魔術?法術?そういう、魔法使いが使いそうなものの類の恩恵なんだそうだ。

 そして、最後にスワードに言われた。


「もし、……まあ無い様に万全を期しますが、万が一泉が窮地に立った時――いや、困った時で構いません。そんな時は直ぐにこの色を頼ってください」

 

 そう言って私を見下ろすスワードの瞳の色は、橙色。



先週は……(静かに土下座)


すみません、リアルが忙しいので更新が不定期になります――が‼頑張って一週間に一度はあげようと思っています!

頑張って!一週間に一度は!!!あげたいィ!!

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