異 共闘Ⅰ
「――本当に、本物の佐倉湊なのですか!」
佐倉湊と安倍鏡子。すれ違うことの無かった二人が共に同じ場所を目指す。鏡子は友禅から湊を見てはいたけれども。
その最中に敵は幾度となく立ち塞がり、それを切り伏せ、二人はずれていた歩幅を徐々に合わせていった。――合わせなければならない状況に対応できる。それが守護者の素質である。
「あぁ!?本物もクソもあるかよ!つかあんた――同じ高校だよな!?意味がわからん!」
鏡子の頭に残してきた泉――が引っかかっている。自分は彼女を守ろうとしたのに離れている。軽率すぎたか、でも……叩くは頭だ。この騒ぎの一番上を叩けばそれが彼女を守ることになるはず。それに今の彼女の傍にはアスティンがいる。大丈夫だ。戦う術を持つ自分が前に出ることは理に適っている。
「数週間前に編入致しました安倍鏡子と申します!以後っ、お見知りおきを!」
数週間前――?と湊は眉を顰めた。三年に昇級する前の春休みが終わった頃か。
「3年生になるまで京都の高校にいました!見てのとおり、鏡子は、かの陰陽師安倍晴明の――力をそのまま、いいえその上を遥かに凌ぐ力を持つ、現役陰陽師で――」
鏡子は飛び上った。その動きに、立ち塞がる騎士たちは一斉に腰を落とす。指に挟んだ護符は天空――それは、十二神将が一つ。
鏡子はそのまま空を蹴る様に――――騎士たちの間へ飛び込んだ。湊はあんぐりと口をあけた。
「無茶すぎるだろ!!」
咄嗟に手を伸ばしたその先に、立つ影は二つだけ。海を割った道の様に騎士たちは左右に飛ばされ、絶命していた。その先に、鏡子はいた。呆気に取られる湊を余所に、曲げた膝を伸ばして立ち上がり、くるりと振り返り煤けた札で九字を切る如く空を切る。
「六家が連なる陰陽師家が一つで総本山――安倍家次期当主安倍鏡子!日本を揺るがす怪異は鏡子が許しません――さあ、頭を潰しに参りましょう」
「…………安倍……安倍晴明……えっ!あの、あの安倍晴明か!?まじかよすげぇ!しかも今の気配――十二天将か!?」
「十二神将を感じられるのです!?」
「あっ、ま、まあな?んで、天空は……」
湊は目を逸らすのを誤魔化すために、鏡子が呼んだ天空を探すフリをした。鏡子は顎に手をつけると、騎士たちが開けた道を半分まで歩く。
「それが……呼び掛けには答えてくれるのですが、姿を現さないのです。こちらへ落ちた時も、何度も呼んだのに……」
「……そうか。まー、しゃーないよな……。待たせて悪ぃ、進むぞ――――」
湊が倒れた騎士たちの海に入ったその瞬間、一人の騎士が手を伸ばした。血濡れた手は、湊の足を掴みもう片方の腕に剣を――――、
「お気を付けください」
風の民に、折られる始末。
「お……の、れ……うら……ぎり……ものッ……!」
踏みつけられた頭に力を入れながら、首筋に切っ先を突き付けられながらも――シリウスの騎士は怨嗟の声をあげる。対して風の民は、その様を嘲笑う様に見下している。そう、後ろに控える者達も同様に。
「先に裏切ったのはどちらだッ!!」
「へい……かの……邪魔を……するな……!」
「…………何だと?」
「へいかは……民を……王に……ふさわ」
「――エリーシア様以外に、相応しい者などいないッ!!」
「……行くぞ。エリー……エリス達に追いつかれたくはない」
新しい血の海がまた広がる。シリウスの旗に赤を上乗せして、まんざらでもなさそうに笑う風の民達。むしろ、ふつふつと湧き上がる恍惚に溺れているようにも見えた。
おのれ、裏切り者。――先に裏切ったのはどちらだ。
陛下を殺すな。
陛下は――民を――王に――ふさわしい? ――エリーシア以外に、相応しい者などいない……。
「エリーシア……今の上山さんの身体に居る誰かは、それ?」
鏡子は無意識のうちに呟く。その呟きに湊が僅かに声を漏らした。それを鏡子は見逃さない。
「佐倉湊――。鏡子は、その境界が如何に危険なものか理解しているのです。我々陰陽師はその境界を弱き人々が間違って超えぬよう、怪異がその境界を破らぬよう努めるのが役目……。それに、上山さんも含まれている」
湊は先へ行く。その後に鏡子が行く。
「鏡子は、それをわかっている。けれど――けれど上山さんは、それをわかっていませんよ」
湊は立ち止まり、ゆっくりと鏡子を振り返った。
揺れる瞳。その混ざりあった瞳に、鏡子は目を細めた。
「奥にグリームニルの者の気配があります」
「後退も迂回もしない――エリーシア陛下の御旗の下に、それは許されない、そうだろ!」
「――はっ!我らが道を開きます!」
二人の間を後ろの民が駆けて行く。民と言えど、それは兵士にも近く。その者達の多くは、エリーシア時代の王宮の兵士達であった。
奥の気配に鏡子は再び目を細め、口を開く。
「……佐倉湊」
「よくて相打ちだろうな」
「佐倉湊!」
「あんたは、泉の正体に勘付いてるし、同じ高校の生徒だからな。流石に死んでくれ、とは言えねぇし、させねぇよ」
湊は笑う。緑が混ざり、紫が混ざり、黒が混ざるその中で。
鏡子は足を一歩、後ろに下げた。奥で声が上がる。胸の中で確かな意志が声をあげる。――私が行く、と。だが、それを湊は認めなかった。
「見殺しとは良い趣味ですわね!――お放しください!鏡子は、あの人達に道を開いてもらわなくとも進める!」
「……――人の子が、この世界に足を踏み入れるな」
鏡子は目を見開いた。
「佐倉湊とて、鏡子と同じ……。……わかりました。鏡子は此処に残り、佐倉湊と行動を共にします。だから、その手を離しなさい」
「はいはい。かしこまりました」
ぱっ、と湊が離した手を鏡子は胸元に引き寄せた。そして、ゆっくりと彼らが消え、もう音が消えた奥を見つめる。
「泉には、何も知ってほしくねぇんだ」
「……何故?」
「……逢魔が時に魅入られた子はどうなる?」
「怪異に魅入られ、そのまま姿を消すでしょう」
「だからだ。……知れば、惹かれるだろう。知れば、声が聞こえるだろ?――知れば、わかってしまう……!何も知らなければ、それは真っ白なんだ。それは、違う存在なんだ。縛られる必要がない、そもそも、理由を知らなければそこに責任はついてきやしない……!」
鏡子は息を呑んだ。その狂気に、逢魔が時が混じる。
「既に上山さんは、その手を引かれています。上山さんの目も、開かれています。……知らないということは、とても恐ろしいことにすり替わることを知らないわけではありませんよね」
湊は困った様に頭を掻いた。少しの間を置いた後、「知ってるさ」と頷いた。
「安倍鏡子っていったっけ?あんた、実花みたいなこと言うのな」
「……実花?ああ、他者修正機関に成り代わられていたあの子……。上山さんも、佐倉湊も、安藤実花も他者修正機関によって処理される予定でした。それを上山さんが現れたことにより、一時的に止められている……――上山さんは、安藤実花を、探していました……」
鏡子は息を浅く吸って、湊を再び見る。鏡子が言葉を紡ぐたび、湊の顔は暗くなっていく。
血の香りを運ぶ風が、冷たい。
「上山さんは、その身に穢れを宿しても諦めようとしていなかったのです。あの子は、何も諦めていないのです――安藤実花を初めてとした、全てを」
胸の前で組んでいた手を、離した。そして静かに鏡子は湊に問いかけた。
「佐倉湊。安藤実花は、此処にいるのですね」
「いる。今から奪い返しに行くんだ」
力強い返答だった。奥を見据えたその瞳に従い、鏡子も奥を見据える。
止まっていた足が進んだ。だからその足についていく。
「日常を奪い返すため、平穏を奪い返すため――俺は今ここにいる。余計なもんはいらねぇ、それが戻れば日常は取り戻す前に壊れてしまう!まだ間に合うんだ、間に合う……間に合うはずだ……!」
血が濃く臭う方へ。生暖かい身体が詰みあがった方へ。
一際眩く、一際――負の多い領域へ。鏡子の顔が瞬時に険しさを増した。
「――そうは思えど、あの子はもう戻れませんよ」
その呟きは盛大に開かれたドアの音に上塗りされた。
確かな意志を宿した混濁した瞳が、まっすぐと――玉座を見上げる。あの頃のような光は無く、あの頃の様な華やかさは無く、あの頃のような面影を僅かに残した謁見の間に二人は飛び入った。
「……ほう。何処か、知っている気配がある」
その奥に、その女は居た。金色を散りばめた舞踏場の様な美しかっただろう空間の奥であり、此の全てを見下せる至高の椅子に女は座らずに二人を見下ろしていた。
「シリウスッ!!」
「…………ふふっ」
例えるなら、鈴?
可愛らしい、とも形容できる。いいや、可愛らしいとしか言えないのにこんなにも身体を緊張させる声色は、何だ?
女は掲げていた大きな荷物を下に放り投げた。それは赤黒い軌道を抱いて、鏡子と湊の前に落ちて来た。――歪な音だった。歪な気配を産んだ。害のある漂いは、この場の黒い塊を更に増やしていく、
「穢れ……!」
「ちげぇよ。――同胞だ」
「っ……」
首を折られ絶命したのか。
今や濁った緑色の瞳が未だ穢れていない雫を零している。
「要らないモノと、貴様が捨てたのだろう」
鏡子は、唇を噛み締めながら標的を見据えた。しかし、あまりの出来事に一瞬頭が白くなった。思わず隣を見れば、そこには憎悪の塊が牙を剥き唸っていた。
「これは……あれは、あれは、安藤実花ではありませんかっ!」
一歩、女が階段を降りる。心を潰す鉛の様な気配の重さに、鏡子は息を詰まらせた。
――何、これ。こんな、こんなモノ、今まで、感じた事ない……!
清浄な気配とは、清廉な気配は、――例えるなら純白の羽。ふわふわして、それでいて気持ちよくて。いつまでも、いついつまでも傍で包まれていたい。アスティン様、それはあなたのような。
不浄の気配とは、醜悪なる気配とは――例えるなら、泥沼だ。見るからに穢れで、心を黒に侵していく。此方の事情など鑑みずに、ただ触れるままに溺れさせて行く。それは、この世界に溢れていて。
上山泉は荒れた海の様だった。しかし、この女は。
「あの時は、あの時は大変お世話になりました――貴様があの怪異共の頭ですわね!安藤実花……盲点でした。貴様は、被害者では無く……加害者であったと!」
女は――安藤実花は、目を見開きながら心地よさそうに笑う。血に濡れた絹の様な衣を濡らして、頬に化粧の様に血を散りばめて。
「――違う。あいつは、実花じゃねぇ……。あいつは、桀悪の簒奪者……シリウス=シャンカラだ!」
「シリウス=シャンカラ……!?どこをどう見ても安藤実花、そのものです!」
また一歩、女が階段を降りる。
心臓が激しく動いている。安藤実花の放つ気が、無意識に怖れを抱かせる。瞳を逸らしてはいけない――殺される。無闇に動いてはいけない――殺される!
しかし、女は動かなくなった。
湊と鏡子は相手の動きを伺っていた。その呼吸の浅さは、衣擦れすら聞き逃さないため。その視線の鋭さは、相手の軌道を見逃さないため。なのに女は動かない。
何故だ、何だ、どうして動かない!湊の心に焦りを生み出す。だがここで此方から動くわけにはいかない。相手はシリウス=シャンカラ。そして、王位を戴いた……この世界に二つも無い剣。盾を制するは剣。剣を制するは盾。女王の最後の砦――。
何が最後だ。引導を渡したのはあんただろ、シリウス。
荒れる。荒れる。心をなだめることなく、その炎を煽る風だ。凪いだことなど無い。安らいだことなどない。常に怒りは、この心に。常に風は渦巻いて心を揺らす。
荒れる、荒れる。――俺は怒りで生まれた。
「――言うことはないのか」
「……あぁ?」
怒気を含んだ風が唸る。鏡子は隣を一瞥した。
「……もういい。目障りだ、消えろ」
鏡子は一瞬、何が起きたかわからなかった。ただ、風圧に晒された眼球が生理的に閉じられただけだ。そんな、何十秒をかけていない。そんな、そんなことしない。なのに、この身は。この頭は入り口の扉にぶつかる寸前で、自力で立て直すことに成功した。
「ぐううううっ――――!」
「……――リアラ?」
「ち、げぇえええええよっ!!」
咆哮と共に湊は実花を押し返す。その手に持つ長身の剣を半月を描く様に一振りし、敵を定めた。
鏡子は吹き飛ばされた自分の位置と湊が居る位置――元々彼女が居たはずの場所だ――を交互に見、掌を握った。
「……朱雀、青龍、白虎、玄武。答えなくても鏡子は全然気にしません。全力で力を回してください」
頭の中に四神の声は響いてこない。不安はある。だが、安倍鏡子は次期当主。誰よりも強い!たとえこの身に十二神将の力を纏えなくても、鏡子は強い!
「死ぬが良い――ミストレスの名に於いて。愚か者が」
鏡子は駆け出した。実花の腰が僅かに落ちるその隙に駆け出す!「朱雀!」一つの護符を投げれば、それは火を纏い、「青龍!」一つの護符を投げれば、それは水を纏い、「白虎!」一つの護符を投げれば、それは風を纏い、「――玄武!」一つ護符を投げれば、それは黒曜の砂になって鏡子に降り注ぐように消え――、鏡子の駆ける速度が一気に上がった。
実花はその気配に視線を奥へずらし、眉を顰めた。その瞬間、鏡子を視界から消す様に湊が現れる。煩わしい、オマエも、オマエも――!実花はぼやけた視界の中で的確に湊の剣を地に縫い付けた。風だ、風の匂いがする。やはりリアラか?違う。目の前の男は愚者だ。わからない。ああ、殺さないと。意味がない。わからない。
「一の戯、緋の夜!」
湊の姿が消し飛んだ。持ち主が消えた事により、長剣が地面に転がり――消えた。シリウスは瞬時に目だけで周囲を見た。
「見えた」
左手で空中の壁に力を入れ、反動で後方へ飛び移る。その際に、指を一つ鳴らした。
幾重にも現れた水球が、熱源を殺した音を鳴らす。先程までの場所に焦げた爪痕が生々しく臭いを放つ。
「二の戯、天昇!」
シリウスは直ぐに自らの足元を見た。
「――ふ、」
そしてすぐに、護符を踏み潰した。
「――え?」
風を纏い目の前に誘われた愚者の女の一瞬の静止に微笑んで、その身体に剣を差し込んだ。そのはずなのに、この手に肉を切り裂いた感触が無い。確かにこの愚者の身体を貫いてやったのに。
「――見えたのはこっちだシリウス!青龍、聞こえてんなら力を貸せ!昔の事なんて今更考えんな!判断を間違えれば、鏡子が死ぬぜ、いいのか!?」
湊がシリウスに飛びかかる。その少女の黒目の中に、ただ怒りに満ちだ自分を見出しながら斬りかかる。殺そうと思っている。思っているんだ。なのにシリウスは、笑う。鮮血の報復が赤々と輝き、漆黒に笑う。まるで湊を嘲笑うかのように。
意図を感じ取った湊は頬を引き攣らせ、激昂した。畳みかけろ畳みかけろ殺せ殺せ殺せ――!
頭の中をただ赤い怒りが支配する。夢の中で何度もみた光景に支配される。
そして、目の前の男を殺せる喜びに打ち震える自分が緑眼を開いた。
「しっ、ねぇえぇぇぇぇぇえええぇええええええ――――!」
左から踏み込み、剣を斜め下から切り込む!好機だ、この一瞬でいい、この一瞬が欲しかった!胸が震える。殺せる、このまま、殺せる!自らの瞳の奥に宿る竜の女が打ち震えた。それを湊も感じた。早く染まれ、赤に染まれ、あんたはそうやってエリーシアを殺したんだから。同じ目に合うのは、あんたも望むだろ!?
――やった。やった。エリーシア様。エリーシア様を弑した剣を今、リアラが折りますね。
「―――――――お待ちください!」
「―――――――っ!?」
瞳に飛び込んできた鏡子に、無心の剣は無理やり軌道を逸らされた。呼吸が乱れる。意識が乱れる。手が震える。二つの心が相反しあう。
「お待ちください!」
「何してんだ!離れろ!」
「退きません!」
あろうことか、鏡子がシリウスに背を向け、湊の前に立ち塞がっているではないか。
構えが震える。剣先がぶれる。早く早く、と声が湊を急かしている。
「こ、声が聞こえました!安藤実花を斬れば、安藤実花が斬られる!安藤実花が死ねば、安藤実花が死ぬと!」
「――――――退けッ!!!!」
「退きません!鏡子は、退けません!!」
後ろの女が顔を擡げた。黒い瞳が、赤く光る。そしてゆるりと掲げられた剣は、
「そこを退け――――っ!がっ、鏡子ォッ!邪魔を、するなぁっ!!」
身体をぶつけて飛ばしたのに、鏡子は湊にしがみ付く。人間とは思えない力に、女とは思えない力にお互いがお互いを抑え込もうとする。
湊は赤い剣を受け止めた。鏡子は次の反撃を食い止めた。シリウスはその様から一歩引いた思考で、息を吐いた。
「鏡子の式神は!嘘を言いません!聞こえたのですっ!そこの怪異の、その身体は!安藤実花だから!」
「邪魔だ!離せ!」
「佐倉湊っ!貴方は、貴方は、何を殺したいのです!怪異ですか!?脅威ですか!?それとも――安藤実花ですか!?」
「ああああぁああああああっ!テメェも殺されてぇのかッ!!」
エリーシア様。ごめんなさい、もう少しだけ、もう少しだけご辛抱下さい。
「答えてくださいませ!佐倉湊は――何を、殺したいのですっ!」
リアラが、このリアラが、次を捧げても――仇を討ちとう御座います。
「シリウス、シリウス、シリウスぅぅぅうううううううううううう!!」
あなたの竜は、この怒りを……必ずや晴らして見せます。――エリーシア様……。
「裁きの時だ、愚者が。聖地を穢した事――その死で償え」
実花は、一歩後方へ飛び退いた。追おうとした湊を鏡子が抑え込む。湊の爪は鏡子の肌を裂き、その暴れ方は少女を打っていく。
実花は、剣に手を這わせ祈る。頭に祈りなど浮かんでくるはずもなく、何も思うことはなく。ただ黒く染まった空に、思い描ける色は何もない。――そうだ、この二人の魔力も役に立つだろう。眠らない為に利用しなければ。
瞳を黒から赤へ塗り替える。赤とは王権そのもので、至高そのもの。唯一にして絶対の力。だから、"絶対"に貫く。息を吸って、――止めば。何も考えずともこの切っ先は血を求める。
「――っ!?」
この、気配は。
この、声色は。
この、……様は。
エリー………。………………?
シリウスの一撃は、何者かによって阻まれた。地面に衝撃だけを残して、全ての術式を壊す。その場に溢れた負素を吸い上げて、彼に正気を渡す。押さえつけるために力んでいた彼女の中で、彼らが震える。
その代わりに、少女を纏った男には最大の殺意を送り込んで。
「――帰ってきたわ、シリウス!喜んで、くれるでしょう!?」
押しこんだ。簡単にシリウスは後方へよろめく。
「上山……さん」
黒髪の愚者は――上山泉の姿を纏った彼女は二人を一瞥すると、すぐにシリウスを見据えた。手には最後の剣であるアンスを持って、身体を最後の盾として二人を陰に隠す。
「…………」
床に剣を引きずられたシリウスを真っ直ぐに見つめていた。
シリウスはゆっくりと首を擡げ、傾げた。そして後方に――アスティンの姿を発見すると「嗚呼、」と呟きそのまま剣を床に突き立てた。
エリスが一番に反応し、その次にアスティンが鏡子と湊を引き寄せた。そして――、
「……聞こえるか、答えるな。――集え!」
彼らを取り囲む様に、魔力の波が襲い掛かる。青く揺らめく陽炎は騎士の形をしている。
彼らこそが円卓の騎士。王の私兵であり、この世界の王の武力であり、暴力。
シリウスが剣を引き抜いた。複数の騎士が剣を鞘から引き抜いた。
エリーシアは、ただ真っ直ぐにシリウスを見てアンスを向けた。
「裁きの時よ、シリウス」
守りたいから、殺したい湊。守りたいから、殺すこともやぶさかではない鏡子。殺されたから、殺したいエリーシア。そして、守る為に殺すシリウス……です。
うう、明日はある意味決戦の日です。全て終わってガハハ笑う自分を想像して寝ます……。ふおおおおお。




