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黒衣の集団

 死ぬ……。


 息を呑んで周りを見たけれど、他の二人は未だに談笑を続けている。どうやら先程の声が聞こえたのは私だけのようだった。それに安堵する……のはおかしな話か?実際、安堵している……私だ。


 頭を抱えたいけど抱えれないから眉を寄せる。

 ――わかっている。私が過去ここにいるからといって、現在あっちが止まっているわけではないということ。明らかに此処も彼方も動いているはず。……引き離された私の身体はどうなっているのか、鏡子ちゃんはどうなっているのか、そもそもあの後下界は無事なのか?


「あぁああ……答えが出ない……出るはずもない……!」


 だから考えたくなかった。憶測は常に最悪の結果を優先的に示すから、あえて退けていたのに。そうやって目の前に付きつけられたら嫌でも胸がざわついてしまう。

 この器に入れられて、挙句の果て城にいる。――そうなってしまった以上、下手な行動は取れない。もし取るとするなら、この世界で途方もない位強い人達を敵に回すことになる。アンスが無い以上、出来る限り戦いに持ち込むのは得策ではない――というか、それこそが死だろう。


 このままでは、みんな……死ぬ……――。


「エリス……」


 必ず帰るから、その時まで……お願い。皆を、―――。


「すみません」


「――はい?」


 噛み締めた力加減を誤ってしまった。自分自身への苛立ちを表さない為に、鎮める為に一度深く息を吐く。


「もう……遅いので、私帰りますね」


 くるりと翻して駆け出した。静かな廊下に私の足音が響く。壁に掛けられた照明は、炎が揺らめている様に全てを綺麗には照らし出せない。何処か不気味な雰囲気が支配する廊下の中心で私は徐々に走る速度を落として行き――……肩を揺らすことも無いまま、足を止めた。


 そのまま、後ろを振り向く。誰かの気配を感じた気が……したんだけど。気のせい……?


 息を呑んで一歩後ろへ下がった。炎の揺らめきのように照らす範囲を僅かに変える明かりのおかげで、何処からか風が吹いていることを確認……しても今のこの状況には何の意味もないね!


「クるしい……」


「……」


 踵を返そうとした足を止めた。そして静かに振り返る。奥へ行くにつれ闇が深くなる構造に変わりはない。なら、さっきのは恐らく幻聴。ちょっと怖いな、なんて思ったから現れた何とか現象。ほら、人間って点が三つあればそれだけで人の顔と認識するらしいじゃん。だから、まあ、多分、それ。


 よし、早く部屋に戻ろう。


「――ヘレル」


 声がした。私は勢いよく振り返った。


「――げ」


 その甲斐もあって私は無事に――幽霊を目撃することに成功する。奥の曲がり角に、誰か……居る。ずっと目を凝らしても何故かソレは消えない。嫌だなぁ、と苦笑しながら私は首を振って……近づくことにした。段々と近づくにつれ、其れがどういう形なのかわかるようになってきた。まず、人……背は……私より高くて……髪がなが、


「おい何をしている、探した――……?おい、……おい?」


「くわばらくわばらア――――――――――――――――――――!?」


 ごごごごごごごごごごごごめんなさいごめんなさいごめんなさい神様仏さま誰か様後生です後生です命、命だけは―――――――――!?あうっ。


「痛くないけど凄く痛い音がしたぁ……」


「……はあ、大丈夫か?」


「…………スワード?」


 阿呆のごとく壁の際に頭をぶつけて腰を抜かす私を見下ろして、難しい表情をあれからずっと崩していないスワードが手を差し伸べる。ぶつけた頭を摩りながら彼を見上げて何もしない私に、スワードの眉間の皺が更に寄った。あ、と思った時にはスワードの口は開かれて――、


「いらんなら早く立て」


 少しの苛立ち……を含んだ声色と共に取られた手に引き挙げられて私は立ちあがった。スワードに比べれば随分と小さな体の私はすんなりと力に引っ張られて立ち上がる。その時に先程まで誰か居た様な気がする場所へ視線を移した。こっそりと。なのにスワードは、フード越しの私の目でもまるで見えているかの様に、そちらを向く。

 しかし――いや、当然誰もいない。私の安堵の様な僅かに震えてしまった吐息に、スワードは此方へ向きなおした。そして何も言わずに私の手を離さないまま、歩き始める。


「えっ、えっ?あの、何処に行くんですか?」


 男の人の歩幅に子供の歩幅はついていけない!初めの数歩でバランスを崩しそうになるけれど、必死に立て直していたら歩くペースが急に緩やかになった。また息を吐いてちらりとスワードの顔を様子見る。合った視線に……フード越しだから多分あってないけど!少しドキリとしてしまったり。


 あぁこんな時になにしてんの私の馬鹿馬鹿!


「部屋に戻る。……あまり城内をうろつくな」


「――……はい」


 握られた手の温度が冷えて来た。――夜の所為?……かもね。



 

 **


「……これを飲め」


「……は、はい……」


 渡されたグラスに仄かに桜色に色づいた液体が揺れる。何だこれ……と思いながら見上げてもスワードは向かいの椅子に座ったままこちらを観察しているだけだ。ふむむ、あんまり見られたくないんだけど……。


 口に含んだ液体は、やはり味などしない。暖かいのか冷たいのかさえわからずに私は首を傾げながら残った量をどうすればいいか口をつけたままスワードを見た。スワードは無言でグラスを傾ける動作をする。……仕方ない。私はそのまま一気にグラスを傾けた。


「ぷは。あの、これって一体な――くっ!?」


 一瞬視界が歪んだ。指が勝手に震えてグラスを落とす。何度か瞬きをした――おかしい、する度に視界がどんどん歪んでいく。咄嗟に立ち上がったと私は思っているけど、本当に立ち上がってる!?


「ややややはりりりりりりりむむむむりりりりり」


「あ、あ、ぐっ、あっ、はっ……!?」


 聴覚も異常をきたしている。ぐらりと身体が重心を失ったように揺れている。辛うじて椅子にしがみつくも、何かしゃべっているであろうスワードの言葉が聞き取れない。

 あ、ああ。視界の色が、景色が、ぶれている。緑、赤、青、紫、さまざまな色の線が見える。


「なにを……何をのませ、……たっ……!」


 スワードが恐らく立ち上がった。私は咄嗟に右手を伸ばす。確かに伸ばしているのだ。なのに、掴んだ手は――、違う誰かの手を取っていた。






「うふふっ――ええ、仰せの儘に王よ」


 ――私に手を取られた黒衣の女は、その手をするりと持ち替えて私の掌に口付けを落とした。驚きに開いた口からは、息だけが漏れていく。視界は既に正常だった――いや、元から正常であったかの様に知らない女が言葉を続けていく。私は息を呑んだ。とにかくこの私をこの女に勘付かれるわけにはいかないと思った。


「主上、速やかに軽やかに彼らを死の淵へ誘おう――我が身を焦がす業火と共に。故に、心安らかにおられよ」


 ふいに現れた黒衣の男。深く頭を下げ、忌避すべき色を隠そうともしない。


「主よ、私はあなたのその憂いが憎らしい。ならばこそ、その根源を――死へ」


「陛下、やっぱり善よりぼくらの方がお利口でしょう?遠慮なく呼び起こしてよ」


「あぁ嬉しや。恍惚なる闇は美しき心そのもの。王よ、始りは混沌より。始りは我等より。其れは、私達――」


「王よ、其れが望みならば。我ら――」


 計7人の黒衣の男女は私をぐるりと取り囲むとその見えない顔で笑う。


「王の闇を歓迎する」


 合わさった声は美しき夜の調べ。

 甘い声と温もりは確かに此処に――あったのだ。


「"ありがとう――ヘレル"」


「全ては混沌から出でるもの――それならば、また王も混沌より。この<傲慢ヘレル>……何時までも其の、影に」









「ヘレルだと?」


 目の前に白い男の人。机の上には赤い液体の小瓶。その横にはクッキーと、紅茶。空は暗いね。ええと、ええと――――、


「おい、ヘレルと言ったか!今!何を見たんだ!愚者ナール、あんたはその目で今何が見えた!?」


 ふは、ははは揺れる、揺れる揺れる視界がががあまり揺らさないで、で、で……。


「――今の、何……!?」


 薄暗い地下の様な陰湿な部屋から一変したことを今理解した。スワードからは自我が戻った様に見えたのか、ほ、と息を吐いて私の身体から手を離す。

 私は、さっきまで掴まれていた右手を見た。


「何を見た?何が見えた?――隠そうとするな。あんたの命はいま俺が握っているんだ」


 脅しか……。

 私は右手を握り締めて息を吸った。そして姿勢を正し、逃げるつもりなんてないと姿に現す。


「その前に、私に……何を呑ませたんですか」


 床に散らばったガラスの破片と、私が飲みきれなかった液体。カーペットに染みて、もう元の色をしていない。


「……あんたは、何も知らなくていい」


「なのに話せと言うんですか……?」


 お互いが睨み合う。喉に残る残滓に、私は生唾を飲んで流した。


「エリーシアの魔力だ。無色がエリーシアの色に反応し、その色に染められている。愚者ナール、あんたが俺に飲まされたのは陛下の魔力に染まった、ただの水だ」


「ただの水なわけない。飲んだ瞬間、身体がおかしくなりました。これがただの水だなんて、馬鹿にしないでください……!」


 実の所、私は随分ショックを受けているらしい。まあそれは――スワードに毒を盛られたようなものだし。喋れば声が上ずりそう。でも、泣くという概念が備わっていない身体に、声帯に、そのような現象は表れてないだろう。


「説明はした。次はあんただ!」


 机が悲鳴をあげた。男の人が持てる力全てで机を叩いた。

 私は、純粋に怯えた。


「……視界が、ぐちゃぐちゃになって……音も、聞こえなくて……そしたら急に――女の人が前に居たんです」


 縮こまった身体と、床に向けた私の視線。飛び散ったグラスに私が幾重にも反射している。


「女の人だけじゃない。男の人もいました。……男女入り交ざってて……何人いたかは、あまり見えませんでした。薄暗くて……顔も見えなかった」


 割れたグラスの破片は七つ。


「でも彼らは――私に、頭を下げて行ったんです。"王"と……」


更新長らく遅れて申し訳ありませんでしたー!親知らずを抜いて、あばばばばってなってるから……これが言い訳です(馬鹿)

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