6章
◇◆◆
無事海神中学校に侵入した僕らは、なるべく先生達に見つからないように、という作戦を立てて進んだ。
もう一般の生徒に見つかるのは仕方が無い。
「屋上行こうぜ屋上、もぐもぐ。」
何個目だかのメロンパンを頬張り不明朗は言った。
「屋上にいるのかな。」
「いるね。確実に。あーあ、面倒面倒、なんで暇つぶしとはいえ、関わっちゃったかなあ。」
あいつの嫌な気配が屋上からする。僕はため息をつきつつ、愚痴をこぼした。
「セツさんは暇つぶしで参加……ってことはタカラモノには興味ないの?」
「まあね。大体、僕自分が武器みたいなものだし。」
超能力があれば別に。
「あれ?歌乾?」
と、突然声をかけられる。振り向くとそこには学校の先生らしき人が。
「げっ。かな。」
「作戦失敗はやっ。」
守る気もなかった僕だったが、こんなに早く失敗するとは思わなんだ。
「ん?何だその人達は……。」
「え、えーと……かな。」
うろたえる封磨君が、僕をちらりと見る。これはどういう振りだろう。あれかな?誤魔化せってことだろうか。
「すみません、先生。僕が封磨君に頼み事をしたんです。」
「はあ……頼み事、ですか。」
先生は怪訝そうに首を竦める。僕は不明朗を指差した。もうこの際、全員関係しているので名前を使っても怒られないだろう。
「そこの……そこの子が海神中学を見学したいって言ったんですよ。それで、海神といえば封磨君がいるなー、頼んじゃえ。みたいな感じで今に至るんです。」
「彼は……ええと?」
「海神に転校したいと。」
「もぐっ!!?」
「…………かな。」
かな、と封磨君が呟いた。
まあ予想外だったろう。……僕も予想外だ。口から出まかせって怖いなあ。昔から嘘は吐きまくってたけど。
舌先三寸口八丁って感じ?いや、そんなことないか。
「なるほど。そういうことですか。ではまあ、どうぞごゆっくり。」
「どうも。」
会釈を交わし、先生は遠ざかった。
よし、勝った。
「無理やりかな……。」
「転校とかしないよ……。」
「まあいいじゃん。」
不明朗は中学生じゃないけど、転校するのをやめたとか適当に言えるし、結構いい嘘じゃないかと思う。
嘘にいいも悪いもあるのか?
自問自答してても仕方ない。
「屋上……行くかな。」
「無事に着けるといいけどね。」
「あなたが言う資格あまりないかな……。」
「そう?」
確かにこのゲームを掻き回してしっちゃかめっちゃかにしているのは僕のような気もするが。
……そういえば僕の語りは基本ほのぼのしてるような。どうしてだろうね?あまりにも何もないから、そうなっちゃうんだろう。
順風満帆すぎて。
「でも、戦ったからそういうわけでもないかな。」と、封磨君。
「え、いつ?」
「………………。」
「……ほら、操蝶士の。もぐ。」
「……操蝶士…………あ?ああ、あー、あったあった。そうだったね。すっかり忘れてた。」
「恐ろしいやつかな。」
恐ろしいって言われてもね。忘れちゃうもんは忘れちゃうから、仕方ないよ。
結局、超能力が最強だと思う。
いわゆるチートだし。何でもアリだし。出来ないこともあるけど、戦闘としてはかなり有利だと思う。
超能力の中にも強い弱いあるから、その話としては別だけど。
屋上への階段を上る。
私立とは言え、屋上は立ち入り禁止になっていて、鍵がかかっているだろうけど……そんなことは何の障害にもならない。
ということは障害はまったく―――
「どうも皆さん。」
ない、わけではないらしい。
屋上へ出る扉の前に仁王立ちしている少女。僕の嫌いな少女。
「知り合いかな……。」
「さあ、知らないね。」
封磨君の言葉を否定する。
「私は諸行愁です。うれいたんです。」
「諸行……かな。」
心当たりがあるのだろうか?そういえば同じ学校かな。
「さて、そこの屑。間違えました。雪さん。」
「誰?」
僕は屑じゃないし、雪じゃないよ。
なんちゃって。
「……雪でもゆっきーでもスノウでもセツでも屑でもカスでも馬鹿でもアホでも屍でも何でもいいですが。」
最後の方悪口ですよね、完全に。
「あなたはこの先に参加しないで頂きたいですねえ。」
「何故。」
何故って、と愁はシニカルに笑う。
「あなた、ここまで色々ぶち壊しておいて、何故、ですか。」
「僕は暇なんだよ。愁たん。」
暇すぎて暇すぎて。こんなくだらないゲームに参加するくらいには、暇で。
「うえっ。気持ち悪いっ、愁たんとか、気持ち悪いです。あなた達の組織潰しますよ。」
「いや、それは無理だよ愁たん。」
「は?」
「だって僕、あなたの主人に組織のこと抜きでって言われたもん。」
愁は呆然としている。一番の僕の弱味(?)を使って何か脅すつもりだったんだろうけど、残念ながら失敗に終わった。
ざまーみろ。
「何してやがんだあの屑。です。とにかくセツさん。テレポートをしないという約束も守らないあなたに無意味かもしれませんが、無駄かもしれませんが。」
自分の主人を散々に言った後、僕に指を突きつけて言う。
「今あなたに縛りをつけました。このくらいのハンデがあってもあなたは楽しいはずです。」
「縛りぃ?」
不明朗が緊張感なしに言った。
「使える能力はご自分で確かめてください。以上です。」
それだけ好き勝手してから、愁は消えた。否、どこかへ飛んだ。
「でもセツさんなら解けるんじゃ……かな。」
僕は封磨君の言葉に首を振る。
「あいにく、僕とあいつの超能力は正反対でね。僕にはこの縛りは解けない。」
僕が有利になれば向こうは不利に。向こうが有利になれば僕が不利に。天秤のような超能力の強さの関係。
でも、本気で戦えば相打ちだろうな。
「じゃあ……どうするのかな。」
「このまま屋上へ行こう。いいか?不明朗。」
「うんうん。いいよいいよ。」
さて。
面白くなってきた。
◇◆◇
「………名莉海君、どうして…。」
名莉海君はなにもしゃべらずに弓を僕に向けて放つ。
会話はさせてくれないらしい。
それは、悲しい。
「………」
名莉海君が放った弓は円がなんだかんだ言ってよけるけれど、名莉海君はブレがなく即座に次の矢を放つ。
きっと……名莉海君は僕を殺すつもりはない。絶対にない。
考えればわかるはずなのに。
………タロットカードにノーマルの人間がかなうはずもないのに。
名莉海君は僕を止める。
止めるということは名莉海君は時間を稼げばいい。殺さなくなっていい、隙をつくらなければいい。
生憎、僕にはワープの類いは出来ない。
「……黒……」僕は頭の上にいる黒に話しかける。「名莉海を止めれる?殺さないで。」
黒は、僕の頭からかけ降りて耳を揺らす。
「出来る?」
黒は、名莉海君の方に走っていく。
返事はないが出来るらしい。
名莉海君が放つ矢を出来る限り避けながら(たまに、かする。…よこ側からの弓は避けきれていない。)口に加えていたナイフを名莉海君の方に投げる。
それを名莉海君がキャッチをする。
「………?」
名莉海君は不思議そうな顔をしてからすぐにナイフを弓に当てて、黒にナイフをうつ。
黒はその場から高く兎飛びをして、回転しながら名莉海君にぶつかりに行く。
まさかの名莉海君は黒をキャッチした。
「…………。」
「……………。」
「………は?」
名莉海君と僕は揃って首を傾げた。
いやいやいや、黒はなにがしたかったの?
黒、動かないんだけど。
「えっと……抄夜?」
「えっ?」
「兎、なに………?」
「えー、と………わかんない。」
回って名莉海君を蹴るつもりだったのかな?
「……殺していい?これ…。」
「僕のじゃないから……駄目かなぁ……?」
「じゃ、殺す。さよならぐっばい。」
名莉海君は黒の耳をつかんで、どこからか出したナイフで首から切り落とした。
僕に見せつけるように。
「うぇえ、汚れたじゃねーかよってね。小動物の癖に血液まみれじゃねーか。」
名莉海君は狂ったように薄く嗤った。
そっかあ、名莉海君は殺し屋じゃないか。殺して当然だよな。
黒の首を名莉海君は僕に向かって投げる。
「………。」
黒の死体は消えてなくなった。死んだとかじゃなくて……封磨君の所に帰っただけだといいんだけど。
「リタイアはいつでもいいぜ?抄夜。」
「さあ……?」
脅しか?
目の前で黒を殺して僕に見せつけているのか?
「名莉海君、リタイアするよ。」
僕は言ってみた。
名莉海君は警戒したように怪訝そうな顔をして僕をみる。
「なぁーんちゃって。」
僕はポケットからタロットカードを取り出す。
「リタイアするのは……名莉海君、君だよ。」
僕はタロットカードの才能がありすぎるみたいだけど、殺さない程度にカードを使うのは難しい。つまり、制限が下手なんだ。
だから出来れば使いたくないけど。
でも、時間がない。
僕だって頑張ればタロットカードぐらい制御できる。
「Emperor―――Justice(宇宙の心理)だよ、名莉海君。ねぇ名莉海君、死んで。いいよ。そんな気分だから。」
名莉海君は少しだけ体が浮く。
Justiceの固定能力、無重力。
無論、酸素もなくなるし結構な圧力がかかる。
「………っ」
「なにいってるかわかんないよ。ちゃんと話してくれないと。あぁ、無理なのか。無重力だもんね。」
あぁ、もう。
こういうのは嫌いだ。本当に嫌いだ。
無重力は僕は僕で力を使う。だから時間がたてば勝手に消える。
だから、殺りすぎることはない。
名莉海君を殺しすぎることはない。
「まず、10秒で手をうとう。ワン、トゥ、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト、ナイン――テン。」
ぱちんと指を鳴らす。
名莉海君は浮いたままだが話すことぐらいは出来る、はず。
「諦める?名莉海君。」
「……んなわけねーだろ。」
「あっそ。次、十秒。」
ごめん名莉海君。
そういうところが好きだよ。
◇◆◆
屋上に出て、壁の近くに立ち、諸行雫だと思われる人影から身を隠す。
「寒っ。」
不明朗が薄着なだけだろうけど、屋上は風が吹いていてそれなりに(叫ぶ程ではないけれど)寒かった。
あいつ死神と言われてるんだったっけ?まったく厨二病な名前だな。
……スノウとかも人の事言えないのかもしれない。
「うーん……」
このまま近づいても大丈夫だろうけど……タカラモノとやらを渡してくれるかは疑問だよなあ。
さっきの予知も気になるし。あいつと戦うことになったらどっちが勝つか……。
「戦う気なのかな……。」
「ん?いや、戦いたくない。」
そろそろ封磨君とのこれも閉じた方がいいか。ずっと読心されるのは気分が悪い。
―――僕が読む側だっつーのに。
「……あ?」
「何かな!?」
びびりすぎだよ封磨君。
「…………あーなるほど。」
あいつ……愁たんの縛りか……読心できない。これはつまらないことをしてくれたな。攻撃とかは出来るだろうけど。
テレポートは制限、いや、絶対出来ない。
既に約束破ってるから出来たらおかしい。
「な、何考えてるのかなっ。」
「読心出来ない?」
「ででできないっかなっ。」
「ふーん。」
言いつつ、よく攻撃で使う光球を出してみる。
淡い緑の光が手に宿る。どうやらこれは出来るみたいだ。炎も出せるといいなあ。
「……封磨君。」
「何かな。」
「燃やしていい?」
「っ!?」
「冗談だよ。」
「冗談に聞こえないかな!」
そうかなあ。僕大体無表情らしいから(僕が好きな雫が言ってた。)冗談に聞こえないのかな。
「あ、黒かな。」
と、そんなくだらないことを考えていると、封磨君の目の前に唐突にうさぎ……うさぎ?が現れた。
「はあ……白陽陰名莉海に消されたから戻って来たらしいかな。しょーやん何してるかな。」
名莉海君と抄夜君会ったんだ。どうせ喧嘩とかして名莉海君が黒とかいううさぎをぶった切って、最終的には抄夜君がタロットカードとか使って、でも体力持たなくて最終的に和解とかしてるんだろうなあ。
「……って待てよ?」
ここで僕はやばいことに気がつく。
テレポートが出来ない=抄夜君(?)を助けに行けない。
予知で赤いのはあいつ、諸行雫なのはわかった。その対象が抄夜君だったら。
―――間に合わない。
「封磨君。」
「何かな……。」
「あと不明朗。」
「人をおまけみたいにっ!」
おまけだよお前なんか。
「僕一旦別行動する。」
「「えっ。」」
「後はよろしくっ!」
二人の制止も聞かず、僕は屋上から飛び降りた。浮遊出来ることは、実は実験済みなんだ。さっき一ミリくらい浮いてたから。
地面付近で少し浮き、無事に着地。
僕は抄夜君がいるであろう場所へ向かった。
◇◆◇
「ねぇ、名莉海君……諦めてよ。……名莉海君……リタイアしてよ。」
「…………。」
「沼ってるよ………泥沼だよ。ね、諦めてよ。………ね?」
「……。」
僕は指を鳴らす。
「十秒。……諦めてください。」
「……はぁ?無理っていってんだろ。抄夜。お前が諦めろよ。」
「……次……二十秒。」
何回目だろう。
僕より名莉海君の方が疲れてない気がするのは気のせいだろうか。気丈に振る舞ってるだけなのかな。
「なーりうみくん。諦め……ましょー、抄夜君、今日の、お願い……です。」
名莉海君は苦しそうどころか薄く笑みを浮かべている。
「あぁ………そうか。名莉海君なら……わかってるのか。……これぐらい。」
僕の体力がなくなれば、つまり名莉海君は僕を止めれたということになるのか。
それまで名莉海君が耐えなくても共倒れでもいいのか。
責任から所謂さよならぐっばいを出来れば僕は倒れたっていいんだけど。責任?ごめん、倒れてた。だから間に合わなかったわ。ごめんごめん。まー僕には関係ないよね、倒れてたんだから。
「うーん……悪くないよね。それでも。全然悪……くない。」
なら、一気に強いタロットカードを使えばいいのか、いいや、名莉海君が死んじまう。
じゃあ、これで共倒れぐらいがちょうどいいのか。
僕が名莉海君を振り切って行こうと思いましたが間に合いませんでした。残念無念。
「二十秒。」
ぱちんと指を鳴らす。
「名莉海君……諦めま――――――」
僕が名莉海君に話しかけようとしたら、ぐわっと名莉海君の左手が伸びてきて僕の口を塞いだ。
「………。」
それに続いて、もとから持っていたのであろう弓の矢を僕の首もとにあてる。
諏訪さんと同じように。
あぁ、体力的に制限がうまくいかなくなってきていて、名莉海君は動けるようになってしまったのか。
名莉海君はそれを狙って。
「抄夜。よく聞けよ?」
「……?」
「お前は俺には勝てない。勝てる答えが見えない。」
「………?」
答えが見えない?
そりゃぁ、名莉海君の能力かなんかかな?未来が見えるみたいな。
……雫君は、そうなんだっけ。
「それによく考えてみろよ、抄夜。空の言うことに嘘があるとか思わねえか?」
「………」
話せないのに質問されても困る。抄夜君困る。
「一般中学に殺し屋なんてそんなに集まってくるわけねーだろうが。死色ですら弁えてるんだぜ?そういうの。」
「……?」
「狙ってるやつらは大量にいるが、んなふざけた真似をしてるやつはそうそういねーよ。だって、俺らはあくまで仕事。ふざけた真似なんかしてたら依頼がなくなるってね。」
「……むー。」
紅咲がいっていたのが嘘だと?
真っ赤な嘘?戯れ言?戯言?虚言?讒言?空言?
名莉海君が僕を惑わすために言っているのではないのか?ザ、フール名莉海君なのか?
「あれ、だ。あれ。調べてみろよ。あんだろ、そういうカード。」
あれ、名莉海君。
The Hermit(探究)知ってるのか?
確か、名莉海君の前では使ったことないはず…………あ、あぁ。ある。
あのとき名莉海君が少しでも見ていたならわかるか。うん、名莉海君頭いいっぽいし。
「………」
ポケットからカードケースを取り出してタロットカードをすべて取り出す。
つまり、なにがあってもいくらでもカードが使える。なにが、あっても。
「……信じてるからな。」
と、名莉海君は言って手を引いた。
どうして手を引いたんだろう?口が塞がれていると使えないとか思ったのか?いや、名莉海君の前で無言のまま使ったことは何度かある。たしか。
ということは、信用の証ってやつ?
んなもん、困る。
そんな信用なんかされても困る。
そんな、信用みたいな物を普通に裏切って封磨君を殺したのはこの僕なんだから。
「………。」
僕は、ものすごく悩んで(そんなに悩んでないかもしれない。一瞬と言っても過言ではない。)The Hermit以外のカードをカードケースにしまった。
「……っ!?」
名莉海君は少しだけ高い位置から落ちる。
流石、殺し屋。転びはしなかった。けど、軽くぐらつく。
「………てい。」
と、僕は言って名莉海君を軽く押す。名莉海君は二、三歩下がって後ろに倒れた。
「しょーや?」
「はははっ。The Hermit。」
カード軽くあげてThe Hermitを使う。
流れてくるイメージ。
やっぱり名莉海君は間違ったことは言わないなぁ。
「あれは、嘘だね。名莉海君。」
「ん。」
「また、喧嘩しよーね?」
「やだよ。」
名莉海君はため息をついた。
◇◇◇
抄夜と和解した俺達は、これからすることを考えることにした。
俺は、抄夜を海神には絶対行かせないし、かといって死色が海神で頑張るわけないし。もう辞めちまうか。
―――任務放棄と依頼者に伝えようか。
俺にはまだまだレベルが足りなかった。手に余る。ぐっばいべいびーさようならってね。
よし、いける。
「わけねーよな……。」
「え?」
隣にいた抄夜が首を傾げる。
「いや、任務放棄しようと思ったけど、無理だなって話。」
「無理なの?っていうか、名莉海君は誰に依頼されてるの?」
……言っていいのか?
抄夜に害があるわけでもないけど、果たしてどうなのか。
「陽陰さんっていう……人というかどちらかというとバケモンみてーな人なんだけどさ……。」
言っちゃった。
まあいいよね。
「バケモン……。」
「しつこいんだよ……あの人。すっげえしつこいんだよ。嘘ついたらバレるし本当のこと言ったら疑われるし振り回されまくっててさ。」
「ふ、ふーん……。」
抄夜が若干引いている。俺だってあの人にはドン引きだ。
会うたび抱きついてくるあの人。でかい胸が当たる。やめろ、まじでやめろ。
「てことは、その陽陰……さん?に頼まれて今の任務をやってるの?」
「そういうことだってね。」
「じゃ、その人がタカラモノ……呪いの宝石だっけ?が欲しいの?」
「呪いの宝玉な。そうなんだよ、あの人、危険な物集めるの好きなんだよ。呪われてますとか、触ったらダメですとか、捨てたらダメですとか。」
「それでそのくせダメなことするんでしょ?」
「そうなんだよもー!」
大迷惑だよ!主に俺に大迷惑だよ!子供かあんたは!
「で、断るわけにはいかないんだよね。」
「……うん。」
「じゃ海神に」
「行かせねえよ。」
また戦うかこの野郎。今度は手加減しねえぞ。タロットカード使わせねえぞ。
「じゃあどうする?」
「どうしようなあ……。」
完全に行き詰まった。
選択肢としては、海神に(俺だけ)行く。あとは陽陰さんに怒られる覚悟で任務放棄。あとは……?
「名莉海くぅぅううっん!!」
「うわ、死色!?」
飛びつこうとした死色を避ける。死色はそのまま地面に頭からスライディングした。
「あー……。」
「だ、大丈夫なの?死色。」
「星がぁ見えるでしぃい。くるりんくるりんんん。」
大丈夫じゃなさそうだなあ。ま、いいや。
「ばったんきゅうう!!」
「あ。」
死んだ。というか意識飛んだ?
海神にたどり着けなかったか……。まあ、もとより期待はしてなかったけど。抄夜と話すのに二人になりたかっただけで。
「…………。」
あーあ。
「……あのなー?抄夜。」
「うん?」
「俺とさ、死色って元々敵だったんだよね。白陽陰殺陣と黒闇陽殺戮衆っていうとこの。」
敵だったのは……一昨年の話か。もうそんな前なんだな。
「戦ってる最中にさー、これは無理だわ敵わねーわって俺が思ってさ。ちょっとした最後の悪足掻きっていうのか?したんだよ。かわいいだのなんだの、言ったわけ。」
「う、うーん?何でかわいいとか言ったの?悪足掻きで。」
そこはスルーでお願いしたい。
俺だってそこら辺の心境は忘れちまったし。
「そんでまあ、うん。死色がさあ、めっちゃ反応面白かったわけよ。」
俺は死色の頭をぺしぺし叩いて、当時の反応を思い出して笑う。あれは傑作だった。
「まあ、面白そうだよね……。こんだけ狂ってるし。」
「流れで嘘の告白したんだわ。」
「は?」
「流れで嘘の」
「え、いや、え?何?嘘の?流れで?」
抄夜が慌てている。疑問に思いすぎだろ……。
「嘘の。すぐ否定してさ、動揺したところを攻撃して切り抜けようとしたんだよ。だけどさあ、否定した瞬間こいつ雰囲気変わりやがって。こりゃ無理だわーってなった。」
「うん。死色怒ったら大気圏から落っこちてきそうだもんね。」
「いや、意味わかんねえけど……。そんでま、否定の否定をした。それからそのまま、今に至るわけ。」
「ふうん。ノロケかと思った。……っていうか、名莉海君そしたら死色のこと好きじゃないの?」
好きじゃないの?
その言葉に俺は考える。嫌いなわけは、ない。
「……好きだな。」
「…………。」
「うん、好きだ。俺は死色が好き。」
「やっぱりノロケなんじゃん、あーやだやだ。甘い甘いっ。」
「そうだなあ、はは。」
いつの間にか、嘘じゃなくなってたんだなあ。大事なものが、いつの間にかたくさん増えて。
不器用な俺には、守りきれない。
「同じくらい抄夜も大事だよ。意味違うけどってね。」
「…………。」
え、無視?
「本当だよ?」
「……………どーも。」
まあ、この話は置いておいて。
本当にこれからどうしよう。抄夜はたぶん、リタイアは出来ない。
「やぁっほーぉ。」
「えっ雪さん?」
「まだ死んでなかったか。よかったよかった。」
雪……。まさか邪魔しに?
もしそうだとしたら、例え無理でも雪を倒すしか……。
「おい、雪。もし俺の邪魔をするつもりなら……。」
言いかけた言葉を雪は遮った。
「違うよ、僕は抄夜君を助けに来ただけ。名莉海君の邪魔をするつもりはない。」
「……どういうことだ?」
「それは―――」
言った雪の言葉に被せて、聞いたことのない声が聞こえた。
「それはこういうことだよ。」
そいつは黒い髪で赤い瞳をした少年。
「こんにちは。名莉海君、スノウ、そして……粗蕋抄夜。」




