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joker2  作者: ねきつ×あまひら。
6/9

5章

『よお、抄夜。生きてる?』

 ケータイから名莉海君の声がきこえる。

 いつもの名莉海君より、少し声が低く感じるのは僕だけだろうか。

「………生きてるけど…。」

『今どこ?』

「え…………。」

 いっていいのか?

 僕は名莉海君に教えてしまっていいのか?

 名莉海君は……僕を、怪盗チームを殺しにかかってくるんじゃないのか?

 …………あぁ、もう。

「………コンビニ。」

『ふーん、コンビニ。何か買ってんの?ナイフとか?やめとけよ、コンビニとかのナイフ、斬れにくいぜ。』

「そうなんだ。知らなかったよ。」

 ナイフはコンビニに売ってたっけ。売ってたとしても僕には必要ないものだけどさ。

『諏訪、死んだだろ?お前がやったの?』

「いいや、僕は。……僕はなにも…してない。」

『あ、違うんだ。へー。あのさ、今からそこ行っていい?話したいことがあるんだけど。なるべく俺と抄夜だけで。』

「話したいこと?僕と名莉海君だけで?死色は?」

『死色は……いない。今はね。』

「…………ふうん…………。」

 死色はどこにいるんだろう。

 死色が単独行動を出来るとは思えないから誰かと一緒にいるのかな。

 もしくは名莉海が嘘つき。

「僕、一人でいいの?」

『ああ。一人の方がいい。……いいのか?』

「いや、駄目だけど。心底駄目だけど……。話なら。……かな。」

『………話だけ。』

 声音が少し、ほんの少し、変わった。

 困っているのか。戸惑っているのか。

 最悪の事態は考えておいた方が僕のためか。そうなったら僕は逃げる。……ゲームをリタイアする。

 ゲームマスターなんか殺せばいいじゃん。

「えっと……じゃあ……ミスド。ミスタードーナッツの前に来て。今から行くから。」

『……わかった。俺も今から行く。………じゃ。』

「………うん。」

 ケータイが無機質なつーつーという音を出す。

 通話が途切れた。

「はーぁ、どうしよう。本当に。」

 僕は、空を仰ぎ見る。

 本当に話だけだといいんだけど………任務だもんな向こうは。僕が友達と思ってるだけかもしれないし、名莉海君が普通に殺しに来るかもしれない。

 そしたら、僕はまた、繰り返すかもしれない。

 両親のように、僕は。

 僕は。

「…………。」

 やだなぁ。

 全くもってやだなぁ。

 戦いとかなんだよそれ。殺しあいですか。僕は何のためにそんなことしてるんですか。

 タカラモノってなんだよ。

 すごいものなのかな。

 殺し屋がよってくるってことは殺すものなんでしょ?斧か剣か弓かはたまたデスノートか。

 どれであっても僕には関係ないもの。

 紅咲が依頼された?だからなに?僕は紅咲に絶対従わなくちゃいけないの?

 まず、僕には現場不在証明(アリバイ)がある。

 紅咲がなにかしたからってなにかあるのか?僕になにか影響するのか?

 と。

「……。」

 うぃいんとコンビニエンスなコンビニから三人が出てくる。

 不明朗はくるくる回りながら出てくる。(怖いよ。)

「ただいまかな。しょーやん。」

「……うん。」

「………。」

「あぁ!そうだ!」

 僕はわざとらしく手を打つ。

「やっべー!僕、用事をおもいだしちゃったぜぃ!」

「………。」

「………。」

 雪さんと封磨君から疑惑の目が向けられている気がする。気のせいかな。

「だから、僕、一回帰るね!……………えへ?」

「……………。」

「………………。」

「…………。」

「……………。」

「…………。」

「だ、だからさ!先に行っててね!」

「……あぁ、なるほど。」

「そうかな…。」

 なんか、理解された!?

「しょーやん、包帯渡しとくかな。」

 封磨君は、僕にコンビニの袋を渡す。

 僕はありがたく受けとる。

「…………ごめん。」

「いいや。ぼくとしたらそこで一回ぐらいしょーやんが死んでくれたら嬉しいかな。」

「いやいや、家で死ぬなんて何事だよ。みたいな?」

「………。」

「うー。」

「気をつけてってだけ言っておくかな。」

「はい……。」

「それと、円ちゃんと黒は貸しておくかな。」

「ありがとうございます。封磨様。」

「………じゃ、ぼくらは行くから。かな。」

「お気をつけて。」

「しょーやんには言われたくないかな。」

「まあ、ね。」


◇◆◇


 封磨君と不明朗と雪さんと別れて、ミスタードーナッツに向かった。

 円の上で包帯を巻いたりして。(封磨君に怒られそう。)

 ミスタードーナッツの前にはもう名莉海君が来てきて、少しだけ僕は身構える。

 名莉海とふと目が合う。

「よっ。」

「おひさ。」

 死色はいない。

 死色がどこかにかくれられるたちだとは思えないから、本当にいないんだと思う。

「って、何事だよ!抄夜!」

「え?ん?あ。ペット?」

「ペット?」

「そうそう、実家の犬と兎。」

「へぇーってそんなわけないじゃねーかよってね!」

 乗りつっこみだ。

「いやいや、そんなことあるんだって。こっちが円ちゃんで、こっちが黒ちゃん。」

「いやいや、そんなでかい犬とナイフくわえた兎なんてみたことねーよ!」

「いやいや、見たことないだけだって。」

「いやいや、そんなことないってね。」

 ふう、と一息つく。

「閑話休題。場所変える?」

「じゃあ、歩きながら話そうぜ。」

「うん。」

 名莉海君はそういって先に歩く。

 海神とは反対の方向。

 ……まぁ、警察だったらタカラモノから怪盗を離すのは当たり前か。

「なぁ、抄夜。」

「うん?」

「怪盗チームを裏切る気はない?」

「……うん?」


◇◆◆


「ねえねえ、封磨君。」

 抄夜君と別れた僕らは、海神中学校に向かうということになった。

「なに、かな。」

 なんか、封磨君にすごい警戒されてる気がする。何でだろう。

「僕、何歳に見える?」

「何でそんなこと聞くのかな。」

「18歳!」

 と、不明朗が叫んだ。

「………………封磨君は?」

「ん……17歳くらいかな、かなかな。」

 僕は凹みました。べっこべこです。

「何でそんな……くそ……」

「ど、どうしたのかな?もしかしてもっと若いのかな?」

「封磨君なら本当の年齢くらい知ってるんじゃないかと思ってたんだ僕……不明朗はともかく……くそ、お前らなんかいつか殺してやるこの野郎……末代まで呪ってやる……未来にテレポートして末代の時に呪った上に恥ずかしい物とか盗ってきて晒してやる……RCS2から全国に晒してやる……。」

 ひっ、と封磨君が言った。

 不明朗がメロンパンを頬張りながら、

「じゃあ何歳なの?セツはさー。」

 と言った。

「10歳。」

「えっ!?」

「嘘かな。」

「……嘘かよ。」

「嘘だよ。」

 10歳って。さすがにそこまで若くないっていうか、皆の予想より歳上なんだけどなあ。何が原因なのかな、顔?

 童顔なのかなあ……。

「実際は何歳なのかな。」

「23だよ屑。」

「ご、ごめんなのかな!」

 思いっきり笑顔で言ったら完全にビビられてる。ちょっと楽しい。

「えーっ!23歳!?大人じゃんっ!不明朗びっくりぃ!」

「殺すぞ不明朗。」

「すんまっせーんっ。」

「えーい。」

 光球攻撃ーっ。

「危なっ!」

「顔がマジなのかな……。」

 光球は当たるはずもなく、通りすがりの人が振り向くだけだった。

 また関係ない人を殺すところだった。当たらなくて良かった(棒読み)。

「ていうか封磨君。まだ着かないの?」

 僕は封磨君に尋ねる。先程から大分歩いたものだけど、まだ着かないのだろうか。

 封磨君は、海神中学校の生徒なので、僕らの案内をしてくれている。

「もうすぐかな。ていうか、僕は海神中学校の生徒だなんて一言も言ってないかな。」

「ああ、ごめん。」

 お互い読心出来るから、少し厄介。

 もうすぐか。それにしたって嫌な予感がするなあ。

「嫌な予感って何かな。」

「ん。なーんか、黒い影が見えるなあ。最近予知してなかったから、ぼんやりしてる。」

「つっかえねー超能力だな、もぐもぐ。」

「不明朗、後でメロンパン好きなだけ買ってあげるから黙っててくれる?」

「まじーっ!?黙るっ!ぼく黙るぅ!」

 よし、静かになった。

 メロンパン好きなだけ……いくらになるだろうか。組織から経費出るかな。

「黒い影って何かな。悪いものかな。」

「さあ……。」

 どうなのだろうと言おうとした時。


ぼんやり、だけれどさっきより鮮明に光景が見えた。


黒い影と、赤い瞳と、


タロットカードが炎に呑まれる。


「どうしたのかな!」

「あ、え?うん。いや、えーっと、大丈夫?」

「こっちが聞きたいのかな!」

「いや、ちょっとね……。目眩が。」

 うーん、よくわからないな。

 しかしまあ、赤い瞳と言えばあいつしかいない。この件に絡んでるのは知っていたけど、直接抄夜君と遊ぶんじゃないだろうな。

 ずるいぞ、僕も遊びたい。

 だってそろそろゲームにも飽きてきたもん。思ったより殺人できてないしー。

「ねえ封磨君殺していい?」

「だめかな!」

「ねえ封磨君、殺していい?」

「区切りをつけてもだめかな!!」

「ちぇっ。」

 つまんねーの。いいじゃん一回くらい。

「あ、あそこかな。」

 メロンパンを頬張っている不明朗を一瞥し、封磨君は二十メートルくらい先にある校門を指差す。

 その校門の前に、ひとつの影。

「あれは……。」

「……封磨君、さがって。」

「え。あ、はい……かな……。」

 僕は海神の校門に近づく。近づくに連れ、それが知り合いだということが分かった。

「しーちゃん?」

 呼びかけるとびくっと体が反応し、僕の方を見る。

「う、う、うぎゃ。」

「すとーっぷ。」

 叫ぼうとしたしーちゃん、いや、死色を止める。

「何してるの?」

「え、えっとぉ。しーちゃんは、でしでしでしね!わだつみに……行けってぇ名莉海くんが、言ったんでしけどぉ。最近名莉海くん冷たいでしから……げんめつぅ?ぜんめつぅ?されちゃうのは、い、嫌で、がんばっ……。」

 おいおいおいおい、泣くんじゃないだろうな?泣くなよ?

「がんばったんでしけどぉぉうううぇぇえ!!!まよっちゃったでしぃぃいいっ!」

 大泣きだよ!

 ……ってちょっと待て。

「うぇぇえええ!」

「しーちゃ……。」

「うううわぁぁぁああっ!」

「し……。死色!!」

「わぁっ!!?」

「海神中学校ここだぞ。」

「………………でし。」

 死色は後ろの校門を見上げる。

 そして首を傾げた。

「ここでしか。」

「……馬鹿か?」

 死色はこくんと頷いた。肯定したこいつ。

「じゃ、行ってきますで。」

「待て。」

 僕は死色を止める。ふえ?と疑問そうに僕を振り返った。僕は笑顔で言った。

「先に行かせてくれる?」

「あ、はいでしでし。……ってなんででしかー!!」

「何か?」

「…………なんでもないでしぃ……。」

 死色はすごすごと校門からどいた。何で僕、こんなに色んな人に怖がられてるのだろうか。ほとんど何もしてないのに。

「封磨君、不明朗、もういいよ、行こう。」

「か、かなかな。」

 封磨君達と共に僕達は海神中学校に入って行った。

「怖すぎるでしよぉ……名莉海くぅん……。」


◇◆◇


「裏切…る?」

 怪盗チームを裏切る?

 雪さんに、封磨君。それに真下と、もしかしたら不明朗を裏切る?

「いや、僕は……いいけど。」

「いいのかよってね!」

「うん。……でも、なんで?」

 名莉海君は少しだけ困ったような顔をする。

「タカラモノ――」

「タカラモノ?」

 警察チームの気が変わってタカラモノをとろうとしているとか?いや、もう警察チームには名莉海君と死色しかいない。

 そういえばタカラモノは誰がどうやったら警察チームの人がもらえるんだろう。

「なにか知ってるか?」

「なにも知らないよ。知りたくないからね。」

「呪いの宝玉。」

「ん?」

「タカラモノは呪いの宝玉なんだよ。」

 呪いの宝玉?

 えっとぉ、封印をといちゃだめなのかな………?

「色殺でも少し有名な武器でな………望めばどんな武器にも変形する。って俺はきいた。」

「それを名莉海君が欲しいの?」

「いや、俺はいらない。」

「じゃあなんで……………」

「呪い。使ったものは呪われれる。」

「………ふうん。」

 そんなものをみんな狙ってたのか。

 ぼくには到底必要じゃないな。いっそ今から帰ってもいいかもしれない。

 ゲームオーバー。

「触ったら終わりだからさ。」

「へぇ、触ったら。か。」

 じゃあ、大変な代物だなぁ。

 タカラモノはどうやって保存してるんだろう。

「死色が海神に向かったから、封磨と雪だかセツをどうにか止められると思うし。後、狩人も止められると思う。」

「ふうん。」

 なら、よかったなのかな。

 死色が人を止める能力を持ってるかどうか疑問だけど。

「それで、終わりだ。帰ろうってね。」

「うん。」

 終わりか。

 今回は怪我をしただけだったなぁ。怪我損だよ。怪我損。

「つまんなかったなぁ……。」

「まだおわってないよ。名莉海君。」

「そうだけどさ。所で、雪いるじゃん。」

「うん。」

「滅茶苦茶強いし、滅茶苦茶怖いよ。あの人。死色もマジで怖がってる。」

「へぇ、そうなんだ。死色がねぇ……。」

 死色が怖がるってことは、すごく怖いんだろうな。

 雪さんが怖い人には見えないけどな。僕は。

 でも、封磨君も怖がってたような気がする。それは、真下を殺したからかもしれないけど。

「僕には雪さんが怖いとか思わなかったけど。」

「は?」

「怖い人なのかなぁ。」

「……まあ、人によるんじゃないか?」

「そうだね。人によって態度違うだろうし。……あの人何歳なんだろう。」

「さぁ?」

「20歳ぐらいかな。」

「まさか。」

「じゃー、うーん18歳?………あ。そういえばね。」

「なに?」

「不明朗の年齢。事件起きたのが3、4年前じゃん。その時、20歳ってニュースに出てた気がするんだよ。」

「え?ということは23歳とか?」

 僕は縦に首をふる。

 不明朗が23歳なら昔起きたあの事件も不明朗がやったと思える。あの事件は残酷すぎて、子供が出来るようなものじゃない。

「へぇ……。」

 あれ。

 あぁ、名莉海君は不明朗みてないのか。

 あの、メロンパン狂を見たことないというのか!

「じゃあさ」と名莉海君はいう「雪も案外23歳とかだったり。」

「まさか!」

「だよねぇ。」

 といって名莉海君はくふふと子供っぽく笑う。

「所でさ、名莉海君。」

「ん?なに?抄夜。」

「電話してきたとき、偶然だったとは思えないぐらい僕が一人の時に電話がきたんだけど。」

「ん?」

「偶然?」

「いや、紅―――」

 と、二人のケータイが鳴った。

 同時に。


◆◇◆


「抄夜さん。名莉海さん。紅咲空です。」

 双眼鏡片手にパソコンに向かって話しかける。

『あれ。話し方が………』

「あちらのほうがお好みですか?あれは、中途半端な救世術です。いくらでも、なに役でも出来ますよ。私。」

『ふうん。』

 双眼鏡で白陽陰名莉海と粗蕋抄夜を目で追いながら見る。

「実に楽しそうですね。イライラしてきます。抄夜さん。名莉海さん。……なに、和解しそうになってるんですか。ゲームオーバー及び、ゲームリタイアは許しませんよ。私、ゲームマスターに連絡入れましたから。そんなことしましたら、ゲームマスターがきちゃいますよ?」

 嘘だ。連絡なんて入れてない。

 諸行愁は今、諸行雫のほうにいるはずだ。

『いや、ゲームオーバーとかじゃねーよ。ってね。警察と怪盗が協力するだけってね。』

 心の奥で舌打ちをする。

 うるせぇ黙っとけ。

 こっちは仕事なんだよ。

「それがルール違反なんですよ。わかってます?」

『いや、わかんねー。』

「殺しますよ?名莉海。」

『やれるものならどうぞ。』

 絶対殺してやる。と心に誓ってから、粗蕋抄夜に話題を変えることにした。

 なんせ、時間がない。

 口喧嘩なんて夫婦でやるものだ。

 関係ない。白陽陰名莉海を煽っても意味ない。ならば、粗蕋抄夜だ。

「しょーや、さん。」

『……なに?』

「約束、努々忘れないでくださいね。」

『……証拠がないし。』

「あります。」

『へ?』

「なにをいってるんですか?私が証拠を探してないわけがないじゃないですか。抄夜さん。あります。ありますよ?」

 舌先三寸。

 証拠なんてない。

 証拠なんてものはすべて消されている。なかったことにされている。

「約束。努々忘れないでくださいね?」

『…………。』

 黙った。勝った。

 ここからは私のペースに持ち込むだけ。

 双眼鏡で見る方向を変え、海神中学を覗き見る。

「タカラモノ。」

『タカラモノ?』

「知ってますかぁ?ふふっタカラモノってすごく有名なんですよ。ねぇ名莉海さん?」

『あぁ………。』

「私、間違って情報流しちゃったんですよぉ。海神に集まってくるでしょうね。たくさん。……あ。封磨さんたちと出会った人がいますね、あれはぁ生徒じゃありませんねぇ。さーて誰でしょう。殺し屋さんでしょうか。桑原桑原。」

 嘘。嘘八百だ。

 歌乾封磨とかの三人組にあったのは海神の生徒ではないが私の知り合い。あの人。

『………』

「さっすが、情報が早いですね。沢山死んじゃいますね。いやー、ミスった、ミスった。」

 あれぐらいならセツに片付けられると思うが。

「一般人が沢山死んじゃいますね。たっくさん。」

 それもないと思うがどれぐらい情報が流れたかによって少しばかり死ぬかもしれない。

「抄夜さん。」

『………。』

 粗蕋抄夜は答えない。

「抄夜さん。抄夜さんのせいで死んじゃいますね。抄夜さん。抄夜さんのせいで関係ない人が死んじゃいますね。抄夜さん。抄夜さんのせいですよ?抄夜さんがいるからいけないんです。抄夜さん。たくさんたっくさん関係ない一般人の方々が死んでしまいますね。ねぇ?抄夜さん。」

『…………うぅ…』

 畳み掛ける。

「抄夜さん。抄夜さんのせいで何人死んだんでしょうね。抄夜さん。抄夜さんのせいです。一般人が、沢山、たくさん、たっくさん、死にます。抄夜さん。」

 ぶちっとケータイの通話が、きれる。

 抄夜がきったのだろう。

「ふふ。」

 私は優しいので白陽陰名莉海の方の通信もきる。

 これで、いいかな。

「がんばってね!おにーちゃん、おねーちゃん!空、おうえんしてる!」


◇◆◇


「名莉海君……。」

 電話をきって、ポケットに入れる。

「僕、行かなきゃ……。」

 円をポンポンと二回叩く。

 円ちゃんなら封磨君のところまで走っていってくれるはず。

「おい、本気かよ。」

「本気だよ。僕は行かなくちゃいけないんだ。」

「抄夜のせいじゃないし、それにお前が行ってもどうにもならねぇよ。」

「………確かにどうにもならないかもしれないけど。やっぱり…僕の性だから、行かなくちゃいけない。」

 そう、全部僕が悪いんだ。

 今もあれも、全部僕の……性。

「……向こうには死色も雪も、封磨だっている。それでも心配なら俺が行く。」

「………心配とか……そういうのじゃなくて……」

 何て言えばいいんだろ。

 適切な言葉が見つからない。

 名莉海君はきっと僕を止め続けるんだろう。それならなにか名莉海君を説得できるような言葉があればいいんだけど………。

「名莉海君はさ、死色が死んだら悲しい?」

「は?そりゃ……まぁ……。」

「僕もねぇ、悲しいよ。名莉海君。それが普通なのかな?でもねぇ、僕が死んで悲しむ人はいないんだ。」

 なんたって僕が殺しちゃったからね。皆、皆皆。

「いるよ。お前が死んで悲しむ人。」

「へえ?誰?」

 そんな人いるんだ。なら、是非ともききたいな。

「俺。」

「へ?………あー……えっと?名莉海君は………悲しいの?僕が死んだら?……え?」

「当たり前だろ。……友達なんだから。」

「…………ありがとう。」

 友達………か。今じゃなかったら純粋に喜んでたんだろうけど。

 でも――――

 僕はそんな人まで……殺してしまったんだよ。名莉海君。

「俺が海神に行く。抄夜はゲーム降りろ。ハンカチ寄越せ。」

「やだよ。そんなことしたら…………。」

「そんなことしたら?お前に何が出来る。戦うか?出来ねえだろ。大人しくリタイアしろよ。」

「無理…………だよ。確かに僕にはなにも出来ないけど………。でも、僕は行かなくちゃいけないんだ。」

「…………そうかよ。」

 そういって名莉海君は引き下がった。

 ―――ように思えたけど。

 名莉海君はいつの間にか、弓を取り出している。

「名莉海君……?」

 僕のすぐ横を矢が掠める。

「そんなに行きたいなら、俺を倒せ。殺さなくていい。俺が負けだと認めれば、海神に行ってもいい。」

「……そんな」

「それくらいの覚悟がないなら、絶対行かせねえ。」

 名莉海君はそういって、もう一度弓をうった。

 円が反応して少し避ける。

「………。」

 名莉海君の顔は本気だ。

 僕は―――名莉海君と戦わなくてはいけないのか?

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