第3話
気付くと目の前には、これから先お世話になるだろう制服を纏った私が立っていた。
「サイズはよろしいみたいですね」
横でうんうんと頷くメイドの恰好をした本物のメイドさん。
いや、もう本当、いまどきこんなメイドさんが実際にいたことに驚きです。
「お嬢様、急ぎませんと学校に遅れてしまいます」
ぼーっと鏡を見つめていた私にメイドさんが声をかける。
「あっ!は、はい」
目の前に移る自分の姿はいままでの恰好とは全く違う。
今日から新しい学校へと通う。紺のブレザーに胸元には学園のエンブレム。タイはブルーと紺のチェック。同じ模様のスカート。それだけならどこにでもあるような高校の制服なのだろうが、この着心地はなんなんだろう。
高いものって本当に肌触りでわかるのか!!
肌で実感するってこういうことなのか!!
一体、この制服だけでいくらくらいするんだろう。
これからはお金の心配はいらないはずなのに、どうしてもいままで気にしてきた癖は抜けない。
「お嬢様、下に車を待たせておりますので、どうぞお急ぎください」
鏡と向きあい自分に葛藤していたところでメイドさんから声がかかった。
「く、車?・・・歩いて学校まで行きますよ?」
メイドさんの言葉に驚きながら、そう申し出た。
「いけません!春野グループの孫娘となれば、いつどこでどんな危険があるかわかりません。おひとりで歩くなどもってのほかですわ!!」
すごい剣幕で反対された・・・・。
「・・・わ、わかりました」
メイドさんのその表情に反対する余地がない事を悟り、大人しく言うことを聞いた。
そして、言われるがまま、玄関を(玄関っていってもいいのか!?っていうくらいひろいホールだった!!)出るとそこには見たこともないような高級車が止まっていた。
「・・・・ま、まさか・・・これに乗れっていうんじゃ・・・・」
学校へいくだけなのに、この長い胴体の車はなんなんだ!?
こんなので学校へ行ったら目立ちすぎる!!
っていうか、ない。ないないないない!!
「おまちしておりました。どうぞ、お嬢様」
・・・・・長い胴体の運転席から下りて来た運転手さんらしき人が長い胴体の扉をあけ私を見てそう言った。
や、やはり、これに乗って学校に行くのか・・・。
もはや、どうにでもなれって気持ちで私はその車に乗り込んだ。
◆◆◆◆
・・・・・どうやら、普通だったらしい。
目の前に広がる光景に私は目ん玉が飛び出る思いだ。
「では、いってらっしゃいませ」
長い胴体の車ではないにしろ、黒い車・シルバーの車・赤の車。
・・・車の名前?なにそれ?おいしいの?・・・・ごほんっ!!
学校に着いたかと思うと、車専用の入口がありそこにならぶ車の列。
なにこれ?
漫画ですか?
そこから、下りてくるお嬢様おぼっちゃまは、さも当然んかのごとく車からおりて学校へ入っていく。
「里奈お嬢様。どうぞ、お気をつけていってらっしゃいませ」
ぼーっとその様子を見ていると、運転手さんがしびれをきらして開いている扉から声をかけてきた。
「あ・・・?あ!は、はい!!い、いってきます!」
あわてて車から飛び出したものの、これからどうすればいいいのやら。
運転手さんにそれを聞こうと振り返ると胴体の長い車はスーッと動き出していた。
「!!まって!運転手さん!!」
叫んだところで、車にそれが聞こえるはずもなく・・・。
大声を出したことによって、車から下りているお嬢様やおぼっちゃま方の視線の的になってしまった。
私は恥ずかしくなってすぐさまその場を立ち去ろうととりあえず学校内へと入って行った。
「・・・・一体、どこに行けば・・・・」
しょぼしょぼ歩いていく私の姿を見ていた奴らがいたなんてこの時はまったく気付かなかった。
「ふーん・・・・。あれが春野グループの孫娘ね」
「・・・頭悪そうですね」
「えー?可愛いじゃん。俺は全然オッケーだけど?」
「・・・・・・」
「もうっ!!ここにこんなに可愛い私がいるのにどうしてあんなのに興味があるのよ!!」
建物の影に隠れていても目立っている5人の男女。
「・・・・とにかく、少し観察してみる必要があるみたいだな」
ぽつりとつぶやいた男に他の4人は無言で頷く。
少しでもそこに5人がとどまると人目を引きすぐに人だかりになる。
誰にも見つからないうちに5人はばらばらに建物に入っていく。