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春風  作者: 睦月
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第2話

「お待たせ~」


そう言って扉を開けたらやはりそこには寺井さんが立っていた。


「・・・・では、参りましょう」


うん?着替えて来たのに何も言わないなんて男として失格ですよ?


「似合いますか?」


すでに先に進もうとしている寺井さんに声をかけたら、声を掛けられると思っていなかったのか、かけた言葉に驚いたのか、少し肩が揺れるのがわかった。


「・・・はい。とてもよくお似合いです」


まぁ、無難な答えだな。と思いつつもこんな高級な服がとりあえず似合っていると言われたことに安心して寺井さんの後を追った。




★☆★



「失礼します。会長、里奈様をお連れ致しました」


そう言って寺井さんに促されては言った部屋は私がさっきまでいた部屋よりも広く、サイドには大きな本棚にこれでもかって言うくらいの本が綺麗に並べられていた。

中央にはいかにも高級です!っていう皮張りのソファーにテーブルが置かれ、その奥にはこれまたいかにもって感じな重厚な机があった。

そして、その机に向かって何かをしているのが、きっと寺井さんの言う会長なんだろう。


「・・・・そこに座っていろ」


低く鋭い声が聞こえた。

思わず寺井さんを振り返るが、そこにいたはずの彼はもう姿かたちも残っていなかった。


「・・・しつれいします・・・・」


部屋の雰囲気と机で何やら書類らしきものとにらめっこをしているおじいさんらしき人の雰囲気が重く、化の泣くような声でそう言って勧められたソファーに座った。


「わっ!」


自分が思っていたよりも深く沈みこむソファーに思わず声が上がった。


「なにこれ。すっっごい気持ちいい」


座り心地抜群のそのソファーに思わず言葉が滑り落ちる。


「・・・・お前は礼儀というものを知らんのか」


その声にハッと顔をあげるといつの間にかすぐそばに会長が来ていた。


「・・・すみません。こんなソファーに座った事がなかったもので・・・」


頭を下げ謝ってみるが、会長は呆れたように一つため息をつくと向かい側のソファーに腰を下ろした。


「時間がないから本題に入ろう。寺井からも聞いていると思うが、今後お前の後見人として私がお前の面倒をみる事になる。・・・・まったく、あかりの奴は何を考えているんだ・・・・」


最後の言葉は私に向かって言った言葉ではないようだったが、なんとなく母さんを馬鹿にされたような気がして腹がたった。


「・・・母さんの事そんな風に言わないで!私が迷惑ならばここを出ていきます!」


深く座っていたソファーから立ちあがると踵を返してこの部屋を出ようと思った。


「・・・たかが17の小娘に何が出来るんだ?ここから出てどこへ行く?お前が住んでいたアパートはもう引き払ったぞ?それに、後見人になる手続きももう終っている。未成年のお前を一人で生活させるなど、私の沽券にかかわる。みっともない真似をするな。今後、お前は私の孫として生活をするのだ。一人で生活するよりもやることはこれからいろいろある。時間を無駄にするな」


目の前に座っているおじいさんに言われた言葉に私は唖然とする。


「・・・時間の無駄?・・・・みっともない真似?・・・誰も後見人になってくれなんて頼んでないわ!嫌ならそんな事しなければいいじゃない!!こっちだって勝手にそんな事されたら迷惑以外のなにものでもないわ!!」


思わず売り言葉に買い言葉でそう怒鳴ってしまった。

だけど、目の前のお爺さんはそんなこと気にも留めない様子で私の言葉を聞いていた。


「・・・教育をしなければいけないことが多くあるようだな」


そう言いながらため息をつくとともに席を立って机の上にあった電話に手を掛けていた。


「・・・寺井。娘を連れてさっそくはじめろ。時間がない」


そう言うとすぐに受話器を置き、こちらに向き直った。

その視線に思わずまた臨制体制に入ってしまった私に会長はあっさりと私に言い放った。


「お前はもうすでに春野 里奈だ。この先は春野グループの後継者としてふるまってもらう。教育もそれなりに受けてもらう。明日からは私立春野清和学園に通え」


そう言ったと同時に扉からノックの音が聞こえ、そこから寺井さんの姿が現れた。


「お嬢様。どうぞこちらへ。明日からの準備がございますのでどうぞお部屋にお戻り下さい」


有無を言わさない状態で寺井さんに席を立たされ扉へと連れて行かれる。


「ま、まって!!私は、転校なんてしません!!」


扉を出る寸前に放った言葉は、会長の失笑であしらわれ目の前で扉が閉められた。

側に残った寺井さんから告げられた言葉は更に私を落としていくものだった。


「・・・すでに、手続きもすんでおります。今までの学校へ行かれたところでお嬢様の席は残っておりません」


目まぐるしく変わっていく私の周りに私自身がついていけず、そのあとどうやって部屋まで帰ったか覚えていなかった。



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