血
その日は二週間に一度のクロコの身長測定の日だった。
クロコは随分大きく成長していた。
クロコのしっぽから頭の先まで、
メジャーをピンと伸ばして測る。
「68、4cm。」
随分大きくなったねクロコ。
私は笑顔でそうクロコに話かけたが、
いつもなら
「ああ。餌がいいからな」
とか答えてくれるクロコが今日は違った。
様子がおかしかった。
「どうしたの?クロコ、気分でも悪い?」
風邪でもひいたかな?
私はクロコの額をさすろうと手を伸ばした。
その瞬間、クロコの尻尾が急に私の脇腹に勢いよくヒットした。
目にもとまらぬその早さに私は一瞬何が起こったのか分からなかった。
が、直後、脇腹に激痛が走った。
中身が出てきそうなぐらい痛かった。
そして目に赤いものが見えた。
それは床に垂れて、広がっていく。血だった。
遅れて右手が裂けるように痛んだ。
クロコが私の右手に噛み付いていた。
その時のクロコの目はまさに野生の“その目”だった。
そう、クロコは野生のワニなのだ。
生き物本来が持つ反射という反応。
何を今更、気付いてるんだろ。
私は今まで分かっていたつもりでいた。
クロコは野生のワニ。
私は世間のヒト。
違うんだ。
違うんだ。
そんなこと、初めから知っていたつもりで今までを過ごしてきた自分がひどく愚かな存在に思えた。
クロコはまだ私の手に噛みついたままだ。
血はさらに出血している。
痛い。痛い。痛い。
クロコは私の血をどう感じているのだろう?
私の血は美味しいのか?
それからのことは覚えていない。