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おかしげな日常

そしてその悲劇は終わらなかった。

次の日も風呂の湯は海水に変わった。

今度はたつのおとしごがふよふよと水中を漂っていた。

私は隣の部屋の乃木さんにまた水槽をもらいにいって、

乃木さんは以前カブトムシを飼育していた時に使っていた水槽をくれた。

二度あることは三度ある。

その次の日も風呂の湯は海水に変わった。

今度は珊瑚礁のかけらが沈んでいた。

私はそれを一つ一つ拾い集めた。

三度あることは何度でもある。

風呂の湯は毎日、毎日、海水に変わった。

ある時は鰆が泳いでいてまたある時は、タコが浮いていた。

湯船に石油がどろどろと浮いている日もあった。

その日のニュースでタンカーが太平洋沖で挫傷したと報道された。

ビンや汚いごみ、腐った木がぷかぷかと浮いている日もあった。

ビンに書かれた文字はミミズのようにくねっていて読めなかった。

どうやら私の家の風呂の浴槽は、

1日に一回、海と繋がるらしい。

どう考えたって他の理由は思い付かなかった。

8月の観光シーズンには

浴槽に浮き輪が浮いている日もあった。

9月には一つのビンが流れ着いた。

中には英語で書かれた紙が入っていた。

「SOS 

Long、145°W

Lat、18°N

Help

Help

Aristotle-II」

その日のニュースでアメリカの船舶、アリストテレス二号が嵐に合い遭難し、

機器の破損により遭難信号その他無線がつながらない状態にある

と伝えられた。

もしやと思い私は海上保安庁に匿名で

「アリストテレス二号、西経145度、北緯18度」

送ってみた。

後日、その船舶は無事救助されたらしい。

10月になって鮭の死体が浮いていた。

さすがに気持ち悪かったが、

使命を全うした彼らを敬って土に返した。

この辺りから、私の家の風呂は川とも繋がるようになったみたいだ。

11月には、数匹のピラニアが浴槽に現れた。

アマゾン川と繋がったらしい。

さすがにこれは飼うことはできなかった。

ごめん、ピラニア。

私はそういって塩素のきつい漂白剤と合成洗剤を大量に湯船に入れた。

12月には氷が現れた。

どうやら極寒のオホーツク海と繋がって、

流氷がきてしまったらしい。

熱湯を注ぎこんで溶かしたが、

その月の光熱費が先月に比べ倍近くかかった。

そんな間にも私の家の風呂はしっかりと海にリンクして、

海の幸を浴槽に送り続けた。

私は何度も乃木さんに水槽を借りにいき、

私の六畳の部屋は海産物の詰まった水槽で埋め尽くされた。

新潟の父と母が来たら、さぞかし驚くだろう。

かといってどうすることもできない。

しばらくは忙しいから、そういって誤魔化すことにした。


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