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二匹の魚

ワニある7月の夜、私はいつも通り、風呂に入る

「準備」

をした。

まずシャワーで浴槽の内側を軽く洗う。

それからお湯をはるわけだが、

湯沸かし器がついていないから、水道の蛇口を捻ってまず水を出す。

それからゆっくりとお湯の方の蛇口を回してお湯を出していく。

蛇口から出るお湯が丁度いい温度になったら浴槽にふたをして、そのまま放置する。

しばらくして、もうそろそろかな、と思ったらお湯を留めにいく。

私はよく、テレビに夢中になってお湯を留めに行くのを忘れて、

気が付けば、浴槽からお湯がだぶだぶと溢れていた、なんてことがよくあった。

その日も私は水の蛇口とお湯の蛇口を捻って、熱すぎず、ぬるすぎない丁度良い温度のお湯を作り出し、

浴槽にふたをしてその場を離れた。

20分ぐらいたったころだ。

そろそろいいかな、と思い、お風呂のお湯をとめに向かった。

お湯は丁度良いくらいに溜まっていた。

右手をそっとお湯につけた。

うん、良い温度だ。

私は風呂に入ることにした。

服を脱いで裸になって、勢いよく風呂のドアを開ける。

シャワーで体を一通り洗い終え、湯につかることにする。

そこまではいつもと変わらなかった。

そこからがいつもと大きく違った。

浴槽の中に、何か小さな動くものがある。

「・・・・?」

何だ?と私は水面に顔を近付けた。

それは浴槽の中を泳ぎ周っていた。

魚、だった。

「・・・・・・っ!!!!」

私は驚きのあまり、喉が硬直して声も出なかった。

その場に尻餅をつく。

足ががくがくと震え、全身に鳥肌がたった。

何故魚が??

何故?なぜ?ナゼ?

私の頭は混乱状態だった。

パニックに陥っていた。

以前風呂場で、ゴキ●リに遭遇した時もこんな感じだった。

私は必死になって風呂場からはいずり出た。

バスタオルで体を隠してその場にへたりこんだ。

魚。

誰かのいたずらだろうか?

いや、この家には私一人しかいない。

父と母とおばあちゃんと6歳下の弟は新潟で楽しく暮らしている。

福岡で一人暮らしのこの私の家には、当たり前だが私一人しかいないのだ。

もしかして誰かが不法侵入して、

人ん家の風呂の浴槽に魚を逃がしたというのか?!

有り得ない。

絶対に有り得ない。

そんな事を考えているうちに、

私の頭は冷静さと落ち着きを取り戻した。

見間違いかもしれないじゃないか。

うん。そうだ。きっと見間違いだ。

水面に映る自分の影が魚に見えたんだ。

絶対そうだ。

私は大きく息を吐くと、拳にぎゅっと力を入れた。

ずっとこうしている訳にはいかない。

さっきのは見間違いだろうから、

魚なんて本当はいないのだから、

お湯が覚めないうちにお風呂に入らなくてはならない。

私はゆっくりと立ち上がった。

お風呂のドアをそっと足のつまさきで蹴って開ける。

浴槽のふたは半開きのままだった。

おもいきって中を覗く。

見間違い、ではなかった。

魚が、泳いでいた。

20センチぐらいの鈍くて青い銀色をした魚が二匹。

浴槽の中を泳いでいた。

よく見ると、海草らしきものも漂っていた。

何故?

私はおもいきって湯船に手を右手をつけてみた。

冷たい。

お湯を入れていたはずなのに、冷たい。

まさかと思って、湯船につけた右手の人差し指を舐めてみる。

しょっぱい。

お湯を入れていたはずなのに、しょっぱい。

お湯が海水に変わっている。

その中で魚が泳いでいる。

お風呂の中が小さな海になっていた。

それでも今度はパニックに陥ることはなかった。

お風呂のお湯が海水になってその中で魚が泳ぎ、海草が漂っている。

それは事実なのだ。・・・信じたくないが。

自分の首に爪を立てて、引っかいた。

痛かった。夢じゃあない。。

私は取りあえず着替えをすませて網を探した。

網は押し入れの隅にあった。

ほこりをかぶったビニールを手際よくとると風呂場に向かった。

「はぁ」

大きなため息が一つ出た。

「つかれた・・・・。」

私は6畳の畳の部屋に布団をしいてその上にダイブした。

固い布団は私を受け止めて、枕からジャリっとした感触が伝わった。

「はぁ」

またため息が出た。

時計の針は午後11時過ぎを指していた。


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