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1:黄金の大地

青い空も白い雲も輝く太陽も。

黒い空も煌く星も黄金の月も。

吹き荒れる風、突き刺さる雨、凍て付く雪、鳴り響く雷。

咲き乱れる桜や草原を駆け巡る馬、風に舞う鳥の歌、流れる川のせせらぎ、雄大な山脈の姿。

それらはもう、失われたり偽物だったり忘れ去られていたり、ただ記録の中にあるだけだったりする。

ここは、そういう世界だった。

それでも全てが偽物ではない。例えば夜空。それは紛れもなく本物だ。

だが、例え本物だったとしても、それはもはや過去に人類が見ていたものではない。全ては地球に置き去りにしてきた過去の思い出でしかない。

この月面世界の空は、擬似的な青空と月が無い夜空だ。月面から眺める夜空も確かに綺麗だし目前に在る人類の故郷、地球は青く美しい。

「いつかは、見たいよな」

月から見る地球が美しいのなら、地球から見る月もきっと美しいのだろう。

「あ、見て!」

そんな夜空に向けて一隻の宇宙船が飛び立つ。

地球奪還のために。戦場を目指して勇者の船は暗い空に光の尾をなびかせていく。

「僕たちが大人になる頃も、まだ終わらないのかな」

地球は今、人類を含めた原生生物の星ではない。

有機物と無機物の全てが金属化していく銀化現象と、それから発生する銀体という金属生命体により地球は侵食され人類は月へと追いやられた。

しかし、皮肉にもその銀化物質を研究した結果から人類は飛躍的な科学分野の前進を果たした。

不幸中の幸い、銀化現象の侵食速度は非常に遅かった。研究のための時間は十分得られたのだ。

月面での生存を可能にするバイオスフィアもまた、銀化物質を元にしたからこそ、建造自体は短期間かつ確実なそれの完成に至ったのだ。

そうして人類が月面を新たな領地として生まれた純粋な月面人類は、もう既に第三世代にもなっていた。

「戦いが終わらないのなら」

地球の完全奪還を最終目標とするこの戦いの終わりを、予測できる者などいない。

一年後か十年後か百年後か。

それこそ、戦いは人類の敗北に終わるかもしれないし、千年の後に勝利を掴むかもしれない。

もしかしたら、奇跡的に明日終わるかもしれない。

そう、誰もが分からない。

「なら、俺たちが終わらせてやる」

地球を見つめる少年の瞳は強く輝く。

確たる根拠がない筈の言葉に彼の仲間たちは疑いなく頷いて、同じように地球を見る。

「シン」「皆となら絶対行けるよね」

気弱そうな黒髪の少年が、眼鏡のズレを直しながら頷く。

「リータ」「…やってやるわ…」

淡々とした口調ながら強い覚悟を持って、色白の肌と薄い青髪が全体的に儚い印象の少女が答えた。

「白燕」「あいあい、まかせて!全部ぶっとばすよ」

濃い紫がかった艶やかな長い黒髪をツインテールにした少女は、拳を突き出して戯けたように親指を立てて見せた。

「オランジェ」「いいですわね、地球から月を見る…素晴らしいですわ」

柔らかで豊かな金髪を揺らしながら、少女はふわりと笑う。

「ネロ」「行こうぜ、地球」

短く立てた金髪がやんちゃな印象の少年が、力強く両手の拳を打ち付けあう。

「チェルシー」「うん!」

赤茶色の髪の少女は、その手を伸ばして彼の名を呼ぶ。「朔良」と。

手をつないだ少年、朔良は少し恥ずかしそうにしながら

「決まりだ!」

と、宣言する。

それは、未来への誓い、絆の確認、そして幼さ故の過信、勘違い。

その道は遥かで厳しく暗く、痛くて悲しい。血は流れるだろうし、命は尽きるかもしれない。

大人が聞けば、鼻で笑うか怒りを覚えるか。単に相手にされないかもしれない。

七人は手を繋ぎあっていた。「大丈夫、皆となら」誰かが言った。

例え無知で無謀でも、それでもやっぱり彼らの覚悟は本物で、その絆は確固としたものだった。


青と白と銀色の惑星、地球。


彼らが目指すべき大地に、また一隻の船が旅立つ。

「いつか、あれに乗るんだ」

次第に小さくなる船を、彼らは黄金の大地でいつまでも見送っていた。



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