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小説  私

作者: hentai be-sisuto



 目の前に、黒い髪の子供が居る。

「君は神霊を信じるか?」

「信じない」

俺は答える。子供が言う。

「信じたいくせに。」

「信じたいと、信じるは別だ」

子供は言う。

「信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。」

 白痴のように、空笑いしながら、繰り返し続ける子供。俺は探究者。


 俺は目を覚ました。

 目の前に、黒い髪の子供が居る。

「君は神霊を信じるか?」

「信じない」

俺が答えると、子供がまたもや言う。

「信じたいくせに」

「信じたいと、信じるは別だ」

律儀に俺は同じく答える。子供は言う。

「信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。」

 同じように、気違いじみて、からからと笑いながら、子供が繰り返す。俺は被害者。


 俺は目を覚ました。

 目の前に、黒い髪の子供が居る。

「君は神霊を信じるか?」

「信じない」

俺は繰り返す。子供は――。

苛立ち。


ループ。


 俺は目を覚ました。

 目の前に黒い髪の子供が居る。

「君は神霊を信じるか?」

「信じる」

子供はぎょろっと目を回し、むき出しにした。歯茎の出るほど大きな口を開け、にたにたと繰り返す。

「嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。」

 逃避。


 俺は目を覚ました。

 目の前に黒い髪の子供が居る。

「君は神霊を信じるか?」

「信じる」

またも子供はぎょろっと目を回し、むき出しにした。歯茎の出るほど大きな口を開け、にたにたと繰り返す。

「嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。」

 俺は俺を搔く。


ループ。


 現れる度、子供は、だんだんと、ただれていった。まず皮膚が赤くなってきた。そしてところどころはがれて、赤い肉が見えるようになってきた。


ループ。


黒い髪の子供は、ただれて行った。瞼がはがれて、ぶら下がった。耳が真っ黒だった。目は赤かった。腕は、肩からまだらにただれていって、ほとんどがはがれた。爪は半分、落ちていた。足は腕よりひどかった。片膝の皿が丸出しに、肉と皮がびらんとはがれていた。片足の甲は骨が肉を破っているように、でていた。頬は、穴があき、歯茎は赤黒く、歯が舌の上や下、歯と頬のあいだに、転がっていそうで、歯並びは、ただれた歯茎でそっぽを向いたものばかりであった。髪は皮ごとはがれて、白い骨がうっすらと浮かんでいて、はがれた頭皮の裏が黒髪の中に赤く浮き立っている。出血はどこにもなかった。ただ、赤黒い皮膚と、赤い肉、白い脂肪だった。残っている子供の玉肌が一層、不気味だった。

醜悪。


「信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じたいくせに。信じ――」

俺は子供の首を掴んで、締め上げた。

目が覚めた。

俺は子供の頬を拳殴った。

目が覚めた。

俺は馬乗りになった。

目が覚めた。

俺は足を払った。

目が覚めた。

俺は頭を垂直に蹴り飛ばした。

目が覚めた。

俺は胸を突いた。

目が覚めた。

俺は腕を掴んで振り回した。

目が覚めた。

俺は髪を引きちぎった。

目が覚めた

俺は目を貫いた。

目が覚めた。

俺は口を裂こうとした。

目が覚めた。

俺は鼻面をぶん殴った。

目が覚めた。

俺は指を引っこ抜いた。

目が覚めた。

俺はゲロを吐いた。

目が覚めた。

俺はかきむしって死んだ。

目が覚めた。

俺は首をおった。

目が覚めた。

俺は真っ二つにおりまげた。

目が覚めた。

俺は耳を引っ張った。

目が覚めた。

俺は頭にチョップをした。

目が覚めた。

俺は胸板を殴った。

目が覚めた。

俺は笑った。

目が覚めた。

俺は泣いた。

目が覚めた。

俺は叫んだ。

目が覚めた。

俺は息をとめた。

目が覚めた。

俺は頭を殴った。

目が覚めた。

俺は狂乱した。

目が覚めた。

俺は途方に暮れた。

目が覚めた。

俺は頭をうちつけようとした。場所が無い。

目が覚めた。

俺は足がふるえた。

目が覚めた。

俺は顔をゆがめた。

目が覚めた。

俺は嗚咽した。

目が覚めた。

俺は叫んだ狂った破った散った泣いた号泣した憤怒した枯れた腐った喘いだ喜んだ乾いた笑った考えた怒鳴ったひれ伏した屈服した哭泣した哀願した馴染んだ息を吸った錆びた呑んだ暴れた突っ伏した倒れた踊った記憶した落ちついた乱れた言った落ちた鼻をたらした号泣したほほ笑んだ餓えたしゃがんだ怯えた眼を見開いた手を振った搔いたもがいた転がった懇願した祈った怯えた笑った手をたたいた感じたイッた泣いた凌辱した犯された褒めた卑下した恨んだ見たうたれた叫んだ黙った折れた曲がった縮んだ嘔吐いたなぶられたさらされたさまよった踏まれた干された見上げたつぶれた……。


目が覚めた。


 浅い呼吸、激しい動機、おぞましいほどの乾いた思考、終わらない世界、全て等価値の世界、不可知のあまた、鉄の箱の猫、真空のカエル、湖の真ん中の蟻、大気圏の犬、鎖のバッタ、ミキサーの中の牛、遮断機の亀、笑う子供、笑う大人、笑う老人。みんなが笑う。

価値とは?


俺はある時、どうかした。

意識が戻った時、俺は子供がふと哀れに思えた。その時、子供は、全ての皮膚がはがれおち、黒い肉も部分部分こそげ落ち、白い骨がむき出しになっていた。けれどなぜか、瞼と鼻と耳と唇が、子供の皮膚を持っていた。

俺は、相も変わらず問答をしようとする子供を不意に抱きしめた。

俺は俺が気違いだと確信した!

触れた瞬間おぞましさが身を駆け抜け、戦慄の鳥肌、背筋を突きぬけた長い縫い針。

頭皮が、首の裏が、子供の服が、腕が、黒い肉の感触が、きしむ骨の感触が、肌の脂が、体液の粘りが、この地蔵の業が俺を襲った。狂気、悩乱、無音の絶叫。これは存在してはいけない。何のためにあるのだ。本当の最悪だ。

だが俺は抱きしめていた。手が離れない。体が動かない。あまりにも。

すると子供が腐敗したまだらの片手をあげて、俺の腕をすがるように握った。俺の腕の皮膚と肉がはがれおちた。子供は一瞬泣く気色を見せた。また掴もうとした。はがれた。子供は素早くある手を動かす。ぼろぼろのはがれた爪をたてて書きむしるように動かす。俺の腕の肉と肌が、ぼろぼろとはがれおちる。ぼろぼろぼろぼろと、ありえない量が落ちていく。子供は、顎をあげ、俺を見あげ、さらに天を見て、目をむいて、けたけたと笑いだし、掻き毟り続ける。俺の服をむしり始めた。

俺はとっさに、突き飛ばした。腕はどうなっていたか分からない。おぞましさに、慄いた。鳥肌が全身を駆け巡って、俺は子供にとどめをさした。


ある時、俺は目を覚ました。

目の前に、黒い髪の子供がいる。爛れ切った、崩れた黒いトマト。

「君は神霊を信じるか?」

「……」

俺は黙っている。子供はまた繰り返す。

「君は神霊を信じるか?」

「……」

俺は黙っている。子供は繰り返す。

「君は神霊を信じるか?」

俺は黙っている。子供は――。

――。

俺は唐突に、問いかける腐りきった子供を優しく抱きしめた。無限の白い空間で、その時の心地では、腐った子供の感触がする、それだけだった。それ以上でも、それ以下でも、それ以外でもなかった。そうだった。

子供は俺の腕をかいた。無限に腕をひっかき、肉はこぼれ、骨も削れ、俺の服は破れ、胴体は無くなり、肩も腰も無くなったようだった。


俺は目を覚ました。

目の前に、黒い髪の赤い美しい少女がいる。

「あなたはXめますか?」

俺はXめないと答える。

「あなたは×を信じますか?」

俺は正気に、信じる、と答えた。


全てが許された。


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